無人自動運転車の開発現状(Ⅷ)

自動車

 高齢化と人手不足が進む農業分野も、各種農機の自動化・無人化に向けて自動運転技術を生かせる分野と考えられる。一方で、ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現するスマート農業の発展が国策的に進められており、今後の自動運転農機の拡大を期待。

無人バス、無人配送車、自動運転農機

自動運転農機

 高齢化と人手不足が進む農業分野も、各種農機の自動化・無人化に向けて自動運転技術を生かせる分野と考えられる。一方で、ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現するスマート農業の発展が国策的に進められており、今後の自動運転農機の拡大を期待。

 農機の自動運転技術は、オペレーターが登場して運転の一部をアシスト・自動化するレベル1から、あらかじめ定めた農地内を監視のもと無人状態で自動走行するレベル2遠隔操作によって完全に無人で自動走行するレベル3の研究開発が進められている。
 基本的には、GPSや準天頂衛星(QZSS)などによるGNSS(Global Navigation Satellite System/全球測位衛星システム)と、機体に搭載したセンサー類で位置を特定して自動走行する。また、既定の農地内を無駄なく走行するため、マッピング技術を用いる場合も多い。

表3 農林水産省による自動運転農機の分類

海外動向

 農機メーカー世界最大手の米国Deere & Company(ディア・アンド・カンパニー)は、早くから自動操舵システムの開発を進め、2017年には農業ロボット開発を手掛ける米国Blue River Technology、2021年8月にトラクター自律化のBear Flag Roboticsを買収し、自動運転技術の開発を加速した。

 2022年1月の「CES International 2022」でディア・アンド・カンパニーは、完全自律走行型のトラクターを市販向けに量産する計画を発表した。量産されるのは「John Deere 8R」である。
 8Rには運転席が設置されているが、自律走行モードでは運転者は不要で、作業者はスマートフォンなどで運転が可能となり、作動状況を監視できる。6ペアのステレオカメラとAI技術により、周囲360°の障害物までの距離を算出し、1インチ(2.54cm)の精度で自動走行が可能である。

図19 AI技術で運行する完全自立走行型トラクター「John Deere 8R」
出典:Deere & Company

国内動向

 国内における自動運転技術は、農機大手のクボタヤンマー井関農機が開発をリードしている。

 2017年12月、クボタは、業界初の有人監視下で無人自動運転作業ができる先進トラクタ「アグリロボトラクタSL60A」を開発した。2018年6月、「アグリロボコンバインWRH1200A」、2020年1月、「アグリロボ田植機NW8SA」を発売した。いずれもGPS搭載農機である。

 2021年5月、クボタは米国半導体メーカーであるNVIDIAと戦略的パートナーシップを提携し、2021年11月、農機の自動運転技術を開発する米国スタートアップのAgJunction(アグジャンクション)を買収し、無人トラクターなどの開発を加速した。

 2023年6月、クボタは、世界初となる無人自動運転で米や麦の収穫作業が行える「アグリロボコンバインDRH1200A-A」を発売した。現在、発売済の「アグリロボトラクタMR1000AH」、「アグリロボ田植機NW8CA」と合わせて、主要3機種に無人自動運転機をラインアップしている。

図20 クボタのアグリロボのラインアップ 出典:クボタ

 2018年10月、ヤンマー無人自動運転農機「ロボットトラクター YT488A/498A/4104A/5113A」の販売を始めた。GNSS(Global Navigation Satellite System)ユニットを搭載し、タブレット端末での操作や、トラクター2台の協調作業時における随伴・併走する無人トラクターの操作が可能である。

 2018年12月、井関農機有人監視下での遠隔無人自動運転を可能としたGNSSユニット搭載の「ロボットトラクターTJV655R」の販売を始めた。タブレットで作業登録や走行パターン、経路設定などを行えるほか、遠隔で自動走行の開始や停止を行うリモコンも用意されている。

自動運転技術の今後の課題

 将来に向け、自動運転技術は交通事故の削減、ドライバー不足対策などのために必須と考えられる。しかし、難しいのは利用者の自動運転に対する不安を取り除く手順である。無人タクシー無人バスなど、利用者が増えなければ、低コスト化が進まず経済的に成り立たない。

 また、自動運転技術は様々な移動体を用いる新たなサービス・業種に応用される可能性が高い。同様に、難しいのは、利用者のあらたなサービス・業種に対する不安を取り除く方法である。無人パトカー無人ゴミ収集車、無人救急車、無人消防車、無人鉄道、無人渡し船、、、、、。

 自動運転という技術革新が重要なことは当然であるが、一方で社会受容性を高める取り組みも必要である。社会的受容性を高める工夫をしなければ、「無人自動運転技術」は拡大しない。政府は早めに社会的受容性を高める仕掛けを行う必要がある。

 2023年11月、NTTは自動運転事業への参入を発表した。米国スタートアップMay Mobility(メイ・モビリティー)のレベル4自動運転システムの日本での独占販売権を得た。メイ・モビリティーに約100億円を出資し、自治体向けのコミュニティーバスを想定し、タクシーなどに車種を順次広げる計画である。
 トヨタ自動車が車両の生産を行い、2025年以降に自治体や運行事業者に提供する。既に、北米を中心に12都市で35万回以上走行させ、2021年には広島県で自動運転の実証実験に車両を提供した。NTTは開発中の通信基盤「IOWN(アイオン)」を自動運転システムに組み込むことを目指している。

 自動運転事業への参入は、今後も様々な分野で、色々な企業が着手するであろう。新しい技術の実現に向けてトラブル・失敗はつきものである。最初から完成度100%の技術革新などありえない。ある程度の完成度に達したら実装を進め、課題を抽出して改良・改善により実現を目指す必要がある。
 すなわち、改良・改善の過程で認知度を高めて、スムーズに現代社会に溶け込ませる工夫が重要である。マイナンバーカードと同じてつを踏んではならない。

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