燃料電池トラックの開発状況

自動車

 改定された水素基本戦略では、「今後は乗用車に加え、より多くの水素需要が見込まれ燃料電池車の利点が発揮されやすい商用車に対する支援を重点化していく。官民協議会での議論を通じて FC トラック等の生産・導入見通しのロードマップを作成する。」と方針が示された。

 2020年代に入り、国内外でFCトラックメーカーの動きが活発化しており、国内で物流関連企業を巻き込んだ大規模実証走行が開始されることが背景にある。欧米韓中に先行できるかが鍵である。

主要メーカーの開発動向

三菱ふそうトラック・バス

 2019年10月、東京モーターショーで小型FCトラック「Vision F-CELL」を公開し、2020年に同機体の内外装に小変更を加えたコンセプトモデル「eキャンター F-CELL」を発表した。2020年代後半までにFCトラックの量産を開始する計画。
 「eキャンター F-CELL」は、小型EVトラック「eキャンター」をベースに、リチウムイオン電池(出力:110kW、容量:13.8kWh)と走行用電動機(最高出力:135kW)を共用し、Re-Fire製の燃料電池ユニット(出力:75kW)と70MPa級高圧水素ボンベ3本を搭載し、航続距離:300kmである。

図11 三菱ふそうの小型FCトラック「eCanter-F-CELL」

いすゞ自動車と本田技研工業

 2022年1月、いすゞ自動車と本田技研工業は、25トンの大型FCトラックの公道試験を実施すると発表。航続距離:600kmで、高速道路などで性能を調べる。低コスト化の取り組みは継続し、水素ステーション整備など条件がそろった段階で量産する計画で、早ければ2030年の実用化を目指す。

 2023年5月、本田技研工業は、いすゞ自動車が2027年に導入予定の大型FCトラック向けに、FCシステムを開発・供給すると発表した。

図12 いすゞ自動車が2027年に導入予定の大型FCトラック

 一方、世界最大のトラック市場である中国でも、2023年1月から本田技研工業は東風汽車集団と共同で、湖北省においてFCシステムを搭載した商用トラックの走行実証実験を開始している。

トヨタ自動車と関連企業

 2022年5月、いすゞ自動車、トヨタ自動車、日野自動車と、3社が出資するCommercial Japan Partnership Technologies(CJPT)は、量販型の小型FCトラックの企画・開発を共同で行い、市場導入を進め普及に向けた取り組みを加速すると発表。
 スーパーマーケットやコンビニエンスストアでの物流などを対象に、冷蔵・冷凍機能を備え、1日複数回の配送業務を行うために長時間使用・長距離走行が求められる。一方で、短時間での燃料供給などの条件も満たすにはFC化が有効とし、2023年1月以降の市場導入を目指す。

 しかし、2022年8月、エンジン性能試験を巡る不正により、日野自動車は商用車の電動化を目指すCJPTから除名され、日野自動車の電動化は大きく遅れる見通しである。

図13 CJPTで開発を進める小型FCトラック

 2023年5月、トヨタ自動車、いすゞ自動車、スズキ自動車、ダイハツ工業が出資するCJPTが、東京都で商用電動車普及に向けた社会実装を始動すると発表。物流事業者などと協力し、充電・水素充填タイミングと配送計画の最適化を目指す。
 2023年4月に東京都内の配送向け小型FCトラック約190台の導入を皮切りに、2023年度中に商用EV軽バン約70台、小型EVトラック約210台、2025年中に大型FCトラック約50台を東京を中心とした幹線物流(関西-関東-東北)向けと、順次に約520台の導入を進める。

 一方、2023年5月、トヨタ・モーター・ノース・アメリカと米国大型トラックメーカーのパッカーは、FCトラックの開発と生産の協業拡大で合意した。
 トヨタ自動車のFCパワートレイン・キットを搭載した「ケンワースT680」(ケンワース・トラック・カンパニー製)と「ピータービルト579」(ピータービルト製)のゼロエミッション・バージョンの開発・商品化で継続的に協力する。最初の顧客への納品は2024年を予定している。

図14 FCトラック「ケンワースT680」(左)と「ピータービルト579」(右)
出典:トヨタ・モーター・ノース・アメリカ

韓国の現代自動車

 2020年6月、大型FCトレーラー「XCIENT Fuel Cell tractor」10台をスイスに向けて出荷した。2020年中に50台を出荷し、2025年までに1600台を出荷する計画を公表。
 燃料電池スタック(出力:95kW×2基)、35MPa級大型水素タンク7基(約30kgの水素)、電動機(最高出力:350kW)を搭載する。水素充填時間:8~20分で、航続距離:約400kmである。輸送ルートは山岳地帯を含み、スイスの水素供給インフラ体制を考慮して開発された。

 スイスでは大型商用車の重量や排気量、走行距離により大型車両通行税(LSVA)が課されるが、燃料電池車には適用されない。そのため、FCトラックの輸送コストはディーゼルエンジン車とほぼ同等。また、スイスは水力発電のシェアが高く、グリーン水素が十分に供給できる。

 2023年5月、北米市場向け大型FCトレーラー「XCIENT Fuel Cell tractor」の量産モデルを米国で公開。クラス8の6×4大型トレーラーで、車両総重量(最大積載量の荷物を積んだ状態の自動車全体の総質量):最大37トンで、航続距離:720km以上である。
 これまで韓国、スイス、ドイツ、イスラエル、ニュージーランドの5カ国で展開し、全車両の合計走行距離は640万kmを超え、燃料電池システムの性能と信頼性、耐久性に関する実績は豊富である。

図15 長距離輸送に適した大型FCトレーラー「XCIENT Fuel Cell tractor」
出典:現代自動車

スウェーデンのボルボ・グループ

 2022年6月、スウェーデンのボルボ・グループ(Aktiebolaget Volvo(通称ABボルボ))は、大型FCトラック(車両総重量:65トン以上)を開発して走行試験を開始。これまでにEVトラック、バイオ燃料トラックを開発し、FCトラックは3番目のカーボンニュートラル・トラックである。
 ABボルボとドイツDaimler Trucksの合弁会社Cellcentric(セルセントリック)が供給する水素燃料電池を2基搭載(合計出力:300kW)、航続距離:最大1000km、水素タンク容量:未発表、水素充填時間:15分未満である。ユーザー企業と実証試験を始め、2020年代後半の市販を目指す。

 2022年9月、ドイツのMAHLE(マーレ)はセルセントリックと、大型商用車向け燃料電池技術分野(主に平膜型加湿器の開発と量産)で協力する。
 平膜型加湿器は、大型商用車向け燃料電池システムのほか、非常用発電機としての定置型燃料電池システムにも使われる。従来は中空膜繊維が使用されていたが、マーレは加湿器内で層状に重ねられた薄い膜を使って効果的に加湿し、燃料電池の高効率化と耐用年数の向上を進める。

ドイツ・ボッシュと米国ニコラ

 2022年8月、ドイツ自動車部品大手のボッシュは、米国サウスカロライナ州の工場を拡張し、大型FCトラック向けの燃料電池スタックを生産すると発表。投資額は2億ドルで、同工場はボッシュにとって米国で初めての燃料電池関連の生産拠点となり、2026年に生産を開始する。
 米国では、複数のメーカーが燃料電池車の開発に取り組んでおり、ニコラはその一つで、ボッシュの技術を用いた大型FCトラックのプロトタイプを開発し、走行試験を実施している。

FCトラックの導入実証

 2023年2月、商用車の技術開発会社コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)は、新型のFCトラックで郡山、いわき両市で各1台を導入して物流実験を行うと発表。2025年度までに両市で計約60台に増やす計画である。
 いすゞ自動車の「エルフ」をベースに、燃料電池や水素タンク(水素充填量:10.5kg)を搭載し、最大積載重量:約3トン、走行距離:約260kmである。実験には小売り大手が参画し、コンビニエンスストアやスーパーへの商品配送や、地場の物流や建設会社による建築資材の運搬を行う。

 2023年5月、アサヒグループとNEXT Logistics Japan西濃運輸ヤマト運輸3陣営が、25トン級大型FCトラックの走行実証を開始すると発表した。実証では車両性能に加え、複数のドライバーで使い勝手や乗り心地も検証する。水素ステーションでの充填を含む運行状況も確認する。
 大型FCトラックは日野自動車「プロフィア」をベースに、「MIRAI」のFCスタックの出力と耐久性を向上し、水素タンクの充填量は50kgで、使用圧力は70MPaで6本搭載する。充填時間は20~30分、航続距離:約600kmである。リチウムイオン電池に蓄えた電力で電動機を駆動する。

アサヒグループとNEXT Logistics Japanは、ビールや清涼飲料水の出荷について、茨城県守谷市→東京都大田区→相模原市→守谷市の輸送を5月から開始。
西濃運輸は、宅配便で扱う荷物について、東京支店(東京都江東区)→小田原支店→相模原支店→東京支店の輸送を6月から開始。
ヤマト運輸は、宅配便で扱う荷物について、羽田クロノゲートベース(東京都大田区)→群馬ベース(群馬県前橋市)→羽田クロノゲートベースの輸送を5月から開始。

図16 アサヒグループ、西濃輸送、ヤマト運輸による大型FCトッラクの走行実証

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