燃料電池自動車の開発現状

自動車

 国際エネルギー機関(IEA)によると、2022年の燃料電池車の普及台数は前年比40%増加して世界で7.21万台に達した。国別シェアは首位が韓国で41%で、2位米国(21%)、3位中国(19%)、残念ながら商品化で先行したは日本(11%)は4位で、5位ドイツは日本の約1/3に留まる。
 また、燃料電池車の普及台数の約80%は普通乗用車(FCEV)で、10% がFCトラック、10% 弱がFCバスである。2022年には、FCトラックはFCEVやFCバスを上回るペースで成長し、60%増加する。

改定された水素基本戦略

 2023年6月、日本の水素基本戦略が6年ぶりに改定された

自動車に関する記載内容

 今後は乗用車に加え、より多くの水素需要が見込まれ燃料電池車の利点が発揮されやすい商用車に対する支援を重点化していく。関係者の集まる官民協議会での議論を通じて FC トラック等の生産・導入見通しのロードマップを作成し、導入の道筋を明らかにする。
 バス、タクシー、ハイヤー等の商用車、パトカー等の公用車、水素エンジン車も、今後の水素需要が見込まれる分野で、モビリティ分野における水素需要拡大に向けて官民で取組を進める。

 以上の取組を通じて、2030 年までに乗用車換算で 80 万台程度(水素消費量:8万トン/年程度)の普及を、水素ステーションは、2030 年度までに 1000 基程度の整備目標の確実な実現を目指す。

図1 水素ロードマップ 出典:第六回水素・燃料電池の普及に係る自治体連系会議

燃料電池車の導入現状

国際エネルギー機関(IEA)の報告

 国際エネルギー機関(IEA)によると、2022年の燃料電池車の普及台数は前年比40%増加して世界で7.21万台に達した。国別シェアは首位の韓国が41%で、2位米国(21%)、3位中国(19%)、残念ながら商品化で先行したは日本(11%)は4位で、5位ドイツは日本の約1/3に留まる。
 また、燃料電池車の普及台数の約80%は普通乗用車(FCEV)で、10% がFCトラック、10% 弱がFCバスである。2022年には、FCトラックはFCEVやFCバスを上回るペースで成長し、60%増加する。

韓国の燃料電池車の普及台数は約3万台で、現在は世界の燃料電池車の半分以上を生産し、2022年には1.5万台の燃料電池車が発売され、その2/3は韓国である。背景にはFCEVの生産と販売を支援する政策が影響しており、現代自動車が燃料電池車のトップメーカーとなった。
米国の燃料電池車の普及台数は約1.51万台で、その多くが普通乗用車(FCEV)で、FCバスは 200 台強である。2022年には米国の燃料電池車の普及台数は20%以上増加したが、これは中国の60%増に比べてはるかに少ない。
中国の燃料電池車の普及台数は約1.37万台で、その多くは大型燃料電池車セグメント(FCトラックとFCバス)である。中国には世界のFCトラックの 95%以上と、燃料電池バスの 85%近くが存在する。2022年には200台以上の普通乗用車(FCEV)が加わる。

 一方、水素ステーションは世界で1020基に達しているが、2022年の国別シェアは首位の中国が32%、2位韓国(22%)、3位日本(17%)、4位ドイツ(10%)、5位米国(7%)である。

 水素ステーション1基あたりの燃料電池車数は、水素ステーション普及の目安となる。ドイツが25台/基、中国が43台/基、日本が46台/基、韓国が132台/基、米国は213台/基であり、日本の水素ステーションの普及が他国に比べて遅れているとは言えない。

図2 2022年の燃料電池自動車と水素ステーションの国別シェア
出典::IEA「Global EV Outlook 2023」

国内の状況

 2022年末の国内の燃料電池車の累積台数は7648台に達するも、2020年の目標である4万台の20%と未達に終わり、2025年の20万台達成、2030年の80万台の目標の達成が全く見通せない状況にある。

 一方、水素ステーションは、2020年の目標である160基の設置はクリアしたものの、2025年の320基の設置は厳しく、水素基本戦略で改定された1000基の設置にはほど遠い。

 何故、燃料電池車の累積台数が目標に全く達しなかったのか?この真摯な反省をせずに、政府は高い目標の設定を変えていない。一方で、水素ステーションの設置目標に関しては積み増しを行うのは何故か?『過去を振り返り、再度の未来予測により方向修正すべき時期である。』

図3 国内における燃料電池車の累積台数と燃料電池車/水素ステーション比

主要メーカーの開発動向

トヨタ自動車

 2020年12月、フルモデルチェンジした新型FCEV「MIRAI」の販売を開始した。最高出力:114kWのFCスタック、約20%拡大した高圧水素タンク(134MPa、141L×3本)を搭載し、約30%増となる航続距離:850kmを実現した。価格:710万円~805万円(税込)である。
 エコカー減税や環境性能割、グリーン化特例といった税制面での優遇に加え、CEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金)の対象となり、購入に際しては117.3万円が交付される。

図4 フルモデルチェンジしたトヨタ自動車のFCEV新型「MIRAI Z」

 2021年10月、中国の北京億華通科技と共に華豊燃料電池において、新型MIRAIに搭載した燃料電池システムをベースに商用車向けの燃料電池システム「TLパワー100」(出力:101kW、3万時間の耐久性)の製造・販売を開始した。
 トヨタ自動車は清華大学系で燃料電池システムを開発する北京億華通科技とともに、燃料電池システムの製造・販売を担う華豊燃料電池を立ち上げていた。

 2023年3月、トヨタ自動車中国法人と海馬汽車はFCEV推進に関する戦略的な協力枠組みで合意した。中国の海南島を大規模な試験場として活用し、新型「MIRAI」の技術を使って開発を進める。2023年に200台での実証試験を目指し、2025年には2000台の運用を計画する。

 2023年4月、高級車種「クラウン」の新型セダンで、水素で走るFCEVとHEVを今年秋頃に発売すると発表した。また、冬頃にはPHEVを発売する。乗用車のFCEVは「MIRAI」以外で初となる。 

図5 FCVが設定される新型クラウンの「セダン」

本田技研工業

 2021年4月、世界で販売する自動車のすべてを2040年までにBEVあるいはFCEVにする目標を発表。2021年6月、国内でのFCEVの生産を年内で中止することを表明。ただし、BEVに注力しながらも、米国GMとも協力してFCEVの開発は継続し、新車種投入も検討するとした。

 2022年11月、2024年に米国で「CR-V FCEV」を生産すると発表した。多目的スポーツ車(SUV)「CR-V」をベースにし、オハイオ州のパフォーマンス・マニュファクチャリング・センターで少量生産する。水素供給拠点が十分に整備されていないため、プラグインFCEVである

 本田技研工業は、2040年に新車販売の全てをBEVかFCEVにする目標を掲げており、主要市場の北米では、顧客に対しFCEVも選択肢の1つとして示す。

韓国現代自動車

  2021年9月、今後発売する商用車をすべてBEVとFCEVにすると発表したが、3か月後の同年12月には市場が期待できないため、FCEV開発を中断した。

 2022年5月、日本市場への再参入を発表した。日本政府が環境規制の強化やZEVの購入を後押しする政策を打ち出しており、環境車に大きな需要が見込めるためである。しかし、2001年に日本の乗用車市場に参入したが、販売が振るわず2009年に撤退した経緯がある。
 投入するBEV「IONIQ 5」は479万円(税込)からで、蓄電池容量:58kWhと72.6kWhで、基本グレードの電動機最高出力:125kW、航続距離:618km(72.6kWhの場合)である。FCEV「NEXO」は776.83万円(税込)で、水素の充填時間は約5分で、航続距離:約820kmである。

図6 現代自動車のFCEV「NEXO」
全長4670×全幅1860×全高1640mm、ホイールベースは2790mm

ドイツBMW

 2021年9月、ミュンヘン国際自動車ショーでトヨタ自動車と共同開発した多目的スポーツ車(SUV)「X5」をベースとするFCEV「iX5 Hydrogen」のコンセプトモデルを公開。水素充塡に必要な時間は3~4分で、航続距離:504kmで、CFRP製タンク2基で合計で約6kgの水素を搭載した。

 2022年8月、ミュンヘンの水素コンピテンスセンターで、FCシステムの小規模生産を開始した。2022年末から製造するデモンストレーション車両「iX5 Hydrogen」に搭載する。
 トヨタ自動車供給の第2世代燃料電池システム(出力:125kW)、駆動用電動機はBEV「iX」と共用、新たに開発したリチウムイオン電池(出力:170kW)組み合わせ、駆動システム全体の最高出力は295kWである。2023年春から世界の一部地域の顧客に納車され、2025年に量産を始める。

 2023年7月、実験車両「BMW iX5 Hydrogen」を3台導入し日本での公道走行を開始し、年末まで実証実験を行うと発表。約3分間の水素充填で、約500kmの走行が可能である。BMWグループは、2020年代後半に量産FCEVを市場投入する予定であり、独米でも実証実験を実施している。
 FCEVは、EVの充電環境が身近ではないユーザーや、寒冷地域や酷暑地域でのゼロエミッション車(ZEV)を利用したいユーザーに適し、BEVを補完する役割があるとしている。

図7  ドイツBMWのFCEV「iX5 Hydrogen」

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