充電器の耐用年数は8年前後が目安であり、多くの充電スタンドは2010年代前半に国の補助金制度を活用して急増したもので、現在は耐用年数を迎えており、充電器設置総数は3万基で頭打ちの状態にある。政府の掲げる「2030年に15万基」の目標には遠く及ばない。
現在、さらなる充電スタンド増設には国の補助金制度による後押しが不可欠な状況にある。今後、ガソリンスタンドへの併設など、安全対策を含めた法制化も必要である。
充電器の種類と設置
脱炭素社会の実現に向けて、政府は2035年までに全ての乗用車の新車をBEVやHEV、FCEVなどの電動車にするため、2030年までに新車の20~30%を電動車とする中間目標を設定している。この普及を加速させるため、充電スタンドと水素ステーションに関しても様々な取り組みを進めている。
2021年6月、政府はBEVやPHEV用の充電スタンド数を2030年までに15万基に増やし、FCEV用の水素ステーションの数も1000基に増やすなどの新たな目標を設定する方針を示し、ガソリンスタンド並みに利便性を高めるとした。
充電器には、自宅など一定時間駐車する場合に使用する普通充電器と、高速道路などで充電する急速充電器がある。
普通充電器は8~12時間程度の長時間充電を対象とし、低出力で設置費用は100万円程度を要し、急速充電器は30分程度の短時間充電を可能とするため、高出力で設置費用は500万円程度と高めである。
商業・宿泊施設など住宅以外の場所に設置され、誰でも使える充電器数は、2023年で約3万基(内、急速充電器は約9000基)に達している。シミュレーション解析では、日本の主な道路の約30kmごとに急速充電器が設置されれば、理論上、電欠は起きず、総数は約6100基とされている。
充電器は数の上では十分であるが、設置場所が都市部に偏在し、1、2基程度/1カ所の設置が多く、充電時間が長いため、BEVを安心して走らせる環境には至らず、最近では充電待ちも見られる。一方、ガソリンスタンドの数は約2.8万カ所であるが、複数車への短時間での給油が可能である。
一方、充電器の耐用年数は8年前後が目安であり、多くの充電スタンドは2010年代前半に国の補助金制度を活用して急増したもので、現在は耐用年数を迎えており、充電器設置総数は3万基で頭打ちの状態にある。政府の掲げる「2030年に15万基」の目標には遠く及ばない。
充電スタンドの設置費用は500万円/基以上、年間維持費は約100万円程度である。充電に時間を要するため採算をとるのは難しいため、さらなる充電スタンド増設には国の補助金制度が不可欠な状況にある。今後、ガソリンスタンドへの併設など、安全対策を含めた法制化も必要である。
充電事業の動き
2020年6月、東京電力HDと中部電力が共同出資するイーモビリティパワー(e-Mobility Power)は、EV充電インフラ整備でコスモエネルギーHDの子会社と提携し、コスモ系列の給油所にEV充電器の設置を進めると発表した。2025年中に1.5万基の設置を目指す。
2021年6月、ソフトバンク社内ベンチャー発のユビ電(Ubiden)は、WeCharge 電気⾃動⾞充電サービスを開始し、全国のマンションや⼤学、商業施設等への充電器設置を目指すと発表。
2022年6月、ENEOSは日本電気(NEC)からEV充電サービス事業を継承し、全国約4600基のEV充電設備の運営を開始した。次世代型エネルギー供給・地域サービス事業の育成・強化を目指し、2025年までに急速充電器を1000基以上、2030年までに最大1万基の設置を目指す。
2022年6月、マンションへのEV充電器の導入・運用を進めてきたユアスタンド(Yourstand)はニッパツと組み、機械式立体駐車場の全区画で充電ができるシステムを商品化。ニッパツ子会社製の機械式駐車場は全国に計30万台分あり、モニター設置から市場開拓を開始する。
2022年6月、ENECHANGE(エネチェンジ)は三菱オートリースと販売契約を結び、2027年までにEV充電器を3万基設置する。コインパーキング運営会社や駐車スペース所有者などに、低コストでEV普通充電器(出力:6kWの倍速充電対応)の設置を進める。
初期費用0円、利用料9,800円/月など多様な料金プランを用意し、EVドライバー向けに「エネチェンジEV充電」アプリを提供する。専用アプリを利用することで月額費用不要で、いつでも誰でも好きな時に、EVやPHVへの充電を可能とする。
2022年9月、オリックスはEV充電事業へ参入。EV充電システムを手掛けるユビ電に出資し、リース事業のオリックス自動車と2025年までにEV充電器を取引先の駐車場やマンションなどに5万基設置する。ユビ電製のEV充電器の低コスト化を図り、設置コストを3~6割程度引き下げる。
2022年9月、JTBグループはテラモーターズと2025年までに国内観光地に5000基のEV充電器を設置する。JTBコミュニケーションデザインは観光地に2000基強のEV充電器を設置しており、スマートフォン・アプリで充電料金をオンライン決済するなど利便性が高い充電器へ置き換える。
2022年10月、東京都庁傍の西新宿第四駐車場で、電動バイク向け交換式バッテリーのシェアリングサービスが始まった。二輪大手4社とENEOSホールディングスが共同出資するGachaco(ガチャコ)が、都の支援を受けてバッテリー交換機を設置。5000円/月程度で、24時間いつでも交換できる。
現状は本田技研工業の電動バイク向けであるが、警備や配達などの利用を見込み、今後2年間で都内約70カ所に増やす。都は2035年までに新規販売される二輪車を100%非ガソリン化する目標を掲げる。
2022年10月、パワーエックスは再生可能エネルギーを使うEV充電器を、伊藤忠商事、成田国際空港、森トラストなどと協力し、2023年夏から東京ミッドタウンや成田空港など10カ所に設置する。
2030年までに全国7000カ所に拡大する。再生エネ事業者と契約して電力を調達して蓄電池にためて急速充電する。240kWで充電すると、車載電池(容量:70kWh)を約18分で満充電できる。
2022年11月、パワーエックスは伊藤忠商事、スズキなどと提携し、2024年夏から急速充電事業を開始する。岡山県玉野市に蓄電池工場を建設して開発した急速充電器は安価なリン酸鉄リチウムイオン電池を搭載し、蓄電池内で電圧を上げ、一般の急速充電器よりも短時間での充電が可能である。
2022年11月、エネチェンジがマンション向け充電事業への参入を発表。6kWの普通EV充電器「チャージ3」を新たに準備し、設置費用・月額費用が不要で、利用者が使った分の料金を負担する。
2023年2月、ENEOSはロボットによる無人電池交換サービスを目指し、スタートアップの米国アンプルの専用ステーションを京都市に設置し、2023年度前半にもMKタクシーや物流会社と協力して各社数台のBEVで実証試験を行う。
ステーションにBEVが入庫すると通信で車種を特定し、ロボットが充電済みの電池を積み木のように並べて設置する。現状、交換に約10分を要するが、5分に短縮した改良ステーションを設置する。
2023年3月、静岡県の新東名高速道路の2つのサービスエリアに、国内高速道路で初となる高出力90kW級の急速充電器が中日本高速道路とイーモビリティパワーにより設置された。
浜松SAの上下線ではそれぞれEV8台を同時充電、駿河湾沼津SAの上下線ではそれぞれEV4台を同時充電できる。浜松SAに設置されたスイス・ABB製の充電器はEV1台に最大出力:150kWで充電でき、同時に2台を最大出力:90kWで充電できる。他の1台はニチコン製充電器である。
2023年3月、ユビ電は2024年より急速充電サービスを開始し、2027年までに全国に100か所の急速充電スポットを展開すると発表。出力:150kWを中心に、それ以上の高出力充電器を設置する計画。
2023年4月、国内2万基のEV充電器の設置場所を調査した結果、ショッピングモールやコンビニなど小売り・外食の店舗が9272基(46%)あり、新車販売店の7240基(36%)を上回ると報じられた。
中でもイオンは新規施設に20基程度/1カ所を置き、太陽光発電所から電力を送る。2030年には現在より約2割多い2500基とするほか、EVからの放電にはポイントを付けるなどの試みを進める。
充電スタンドの課題
最大の課題は「充電器設置総数は3万基で頭打ちの状態」で、政府の掲げる「2030年に15万基」の目標に遠く及ばない。これは、EV・PHVの累積販売台数が欧米中の諸国に比べて明らかに遅れている点ともリンクする。EV普及と充電器設置は鶏と卵の関係にあり、バランスよく進める必要がある。
EV普及が遅れている日本では充電器の利用が伸びず、維持費用との採算の面から充電器を撤去する商業施設や自治体が出始めている。(読売新聞、2023年7月25日朝刊)この状況を放置すればEV普及が遅れることは明らかである。政府が補助金等により充電器設置を加速するタイミングに来ている。
また、これまで普通充電器は滞在時間の長い宿泊施設やショッピングモール等を中心に設置を拡大し、急速充電器は設置が容易なディーラー、コンビニ、必要性の高い道の駅・高速道路等を中心に整備が進められてきた。今後、BEVの航続距離が伸びることで、”急速充電器”の役割りが増す。
国際エネルギー機関(IEA)によると、日本の公共充電器数は2.9万基、うち急速充電器は0.8万基である。普通充電器は満充電に8~12時間程度を要するが、急速充電器は満充電に30分程度で済む。
2023年8月、政府は2030年までの充電設備の設置目標を、従来の2倍の30万口に引き上げる方針を固めた。対象は高速道路のサービスエリアや道の駅、商業施設など公共スペースで、最近は1基で複数のEVを同時に充電できるタイプが登場しており、新目標では数え方を「基」から「口」に見直す。
充電時間の短縮も目指し、現在は急速充電器は50kW未満が6割弱を占めているが、高速道路で90kW以上、それ以外では50kW以上を目安とし、補助金により急速充電器の整備を道路管理者らに促す。また、2025年度をめどに充電した電力量に応じて支払う「従量課金制」の導入を目指す。
一方、充電スタンド自体の高機能化も重要な課題である。地球環境問題からBEVに充電される電力は基本的に再生可能エネルギーなど脱炭素化が必須であり、スタンドで充電される電力料金の低コスト化はEVユーザーの最も望むべき方向である。これに類する動きを以下に示す。
2022年1月、日産自動車はAI技術を使い再生可能エネルギーの安い時間帯にEVを充電する実証実験を、福島県浪江町の商業施設「道の駅なみえ」で開始した。再エネの出力変動対策にEVを蓄電池として利用し、EVの充放電を自立的に行うことで系統電力の安定化を目指す。
道の駅の電力使用量や再生可能エネルギーの発電量に応じ、リーフ5台の蓄電池残量や使用状況(走行距離、出発時刻など)を考慮して車両に優先順位をつけ、必要なタイミングで充放電する。これによりピーク使用量を下げて電気代を抑える。2025年度をめどに自治体や企業向けの実用化を目指す。
2022年4月、米国スタートアップのGravity(グラビティー)はAI技術を使い、低電気料金の都市型急速充電ユニット(最大出力:360kW)を開発した。長さ約99cm×幅46cm×奥行き20cmとコンパクトで、オプションにより床、壁、天井へ取り付けられ、ケーブルは液冷却方式を採用している。
電気料金は充電サイト全体のピーク電力で決まる。開発した充電ユニットは、スマートメーターから建物の電力需要を把握し、各車両の電力需要を考慮して優先順位を付け、各充電器に柔軟に電力を配分してEVに充電し、サイト全体のピーク電力を下げて電気代を抑える。
2022年10月、アークエルテクノロジーズは三菱オートリースの本社ビルでEVスマート充電サービスの実証実験を始めた。建物の電力消費量や太陽電池の発電量の予測、各車両の電気残量や今後の走行計画などの多様なデータを使い、EV1台ごとに充電時間帯や充電量を調整して電気料金を低減する。
多くのEVが同時に充電を行うとピーク時の電力使用量が増えるが、AI技術を活用することで2020~2021年度に実施した実験では電気料金を25%程度低減できた。充電サービス利用料はEV1台あたり2000円/月程度とし、2022年12月にテクトムと業務提携して2023年春にサービスを開始する。
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