BEVシフトとFCEV:2020年代

 地球温暖化問題に端を発した環境車対応への移行は、2000年前後に各国・各地域でCO2排出量の抑制を目指した規制強化が進められた。日本と米国はHVEを中心に、中国と欧州はBEVとFCEVに、重点を置く方針を表明し、それぞれの国や地域の実情に応じた電動化(EVシフト)目標を設定している。

  1. 環境規制とメーカー動向
    1. 日本
    2. 欧州
    3. 英国
    4. 米国
    5. カナダ
    6. 中国
  2. メーカー別EV販売台数
    1. 2021年のメーカー別EV販売台数
    2. 2022年のメーカー別EV販売台数
  3. メーカーのBEV開発動向
    1. 米国メーカーの動向
    2. 中国メーカーの動向
    3. 韓国メーカーの動向
    4. 欧州メーカーの動向
    5. 日本メーカーの動向
  4. 動き始めたEVの低価格化
    1. EVの価格帯
    2. 自動車メーカーの動向
    3. 低価格EVの課題
  5. EVバスの開発動向
    1. EVバスの普及動向
    2. 主要メーカーの動向
    3. EVバスの導入状況
    4. 結論:EVバスは売れる!
  6. EVトラックの開発動向
    1. EVトラックは売れるのか? 
    2. 国内メーカーの動向
    3. 海外メーカーの動向
  7. EVバイクは普及するのか?
    1. 電動バイク(EVバイク)の業界動向
    2. 国内メーカーの動向
    3. 海外のEVバイク動向
  8. 航続距離と充電時間の課題
    1. BEVの航続距離の延伸
    2. 欧米で進むBEVの充電時間の短縮
    3. 急速充電設備の課題
    4. 急速充電器の普及対策
  9. BEV事業への新規参入と異業種提携
    1. 台湾の鴻海精密工業
    2. 米国アップル
    3. 中国シャオミ
    4. ソニーグループ
    5. ルネサスエレクトロニクス
    6. 中国バイドゥ
    7. 中国ディディ
    8. 西日本鉄道
    9. 丸紅
    10. シャープ
  10. 充電スタンドの開発・設置状況 
    1. 充電器の種類と設置
    2. 充電事業の動き
    3. 充電スタンドの課題
    4. BEVの航続距離が320km超え
    5. 欧米で進む高出力の急速充電スタンド
    6. 国内の急速充電スタンド普及対策
    7. 急速充電スタンドの規格と課題
  11. 燃料電池車の開発動向
    1. 改定された水素基本戦略
    2. 燃料電池車の導入現状
    3. 主要メーカーの開発動向
    4. FCトラックの開発動向
    5. FCトラックの導入実証
    6. FCバスの開発動向 
    7. FCバスの導入状況
  12. 水素エンジン車の開発動向 
    1. 水素エンジンとは?
    2. 水素エンジン車の開発現状
    3. 水素エンジンの開発課題
  13. 水素ステーションの設置状況
    1. 設置目標
    2. 整備の進捗
    3. 2019年以降の設置動向

環境規制とメーカー動向

日本

 2020年9月、米国カリフォルニア州ではガソリン車の新車販売を2035年までに段階的に禁止して、州内で販売する全ての新車をゼロ・エミッション車両(ZEV:Zero Emission Vehicle)とすることを義務付けた。ZEVとはBEVとFCEVであり、過渡レベルの車両TZEVはHEVとPHEVである。
 段階的目標は、2022年はZEV8%、TZEV4%で、2025年にはZEV16%、TZEV6%と増加させて、2035年にはTZEVとされたHEV、PHEVは新車販売を不可、BEVとFCEVのみ新車販売を可能とした。

 また、2020年11月には、中国政府が2021年から新エネルギー車(NEV:New Energy Vehicle)に関するNEV規制を実施し、2035年にガソリン車を廃止、新エネルギー車50%以上、それ以外はHEVなどの環境対応車とする方針を公表している。
 これを受け中国汽車工程学会が示したロードマップでは、2025年に全新車販売台数に占めるNEV(BEV、FCV、PHV)の割合を20%前後、2030年にはNEVの割合を40%、HEVを45%、2035年にはBEVを新車販売の主流にし、新車販売の50%以上をNEV、残り全てをHEVにする方針を示した。

 2021年1月には、日本政府が2035年までに乗用車の新車販売の全てを電動車にし、純ガソリン車を廃止する方針を表明している。この電動車にはHEVが含まれており、2035年以降もHEVの新車販売は可能としている。また、東京都は都内でのガソリン車の新車販売について、乗用車は2030年までに、二輪車は2035年までにゼロにすることを目指すとしている。

 以上の国内外の環境規制強化を受け、国内の自動車メーカーが新たな方針を公表している。

2021年1月に日産自動車は、2030年代早期に世界で販売する全ての新型車をBEV、HEVなどの電動車にする目標を打ち出している。同12月には2030年度までに世界で販売する新車のうちBEVなど電動車の販売比率を5割にし、米国では4割に高めるとした。

2021年4月には、本田技研工業が2030年までに北米で販売する新車の40%をBEV、FCEV、2035年までに北米で販売する新車の80%をBEV、FCEVとする計画を示し、世界で販売する新車の全てを2040年までにBEV、FCEVにする目標を打ち出した。HEVは販売しない方針である。

2021年5月、トヨタ自動車は2030年にHEV、BEV、FCEVなどの電動車を世界で800万台販売し、このうちBEV、FCEVは200万台を目指す新たな電動化の目標を打ち出した。

欧州

 2021年7月には、欧州連合(EU)全体で温暖化ガスの排出量を55%削減することを表明しており、自動車分野の規制については走行中のCO2排出量を2035年までに100%削減し、HEV、PHEVを含めて事実上エンジン車の販売を禁止するとした。
 ノルウェーは2025年でZEVの100%、スウェーデンは2030年でガソリン車とディーゼル車を0%、オランダは2030年にZEVの100%を表明した。また、パリ市は、2030年にガソリン車の市内乗り入れ規制を表明。英国は2035年としていたHEVを除くエンジン車0%の目標を、2030年に前倒しした。

 以上の環境規制強化を受け、EU内の自動車メーカーが新たな方針を公表した。 

2021年7月にはドイツのフォルクスワーゲン(VW)が、2030年までに新車販売の半分以上をBEVとし、2040年にほぼ全てで排ガスを出さないZEVとし、子会社アウディをBEVに特化すると表明した。
〇メルセデス・ベンツを製造するドイツのダイムラーは、2030年までに新車販売をBEVのみにすると公表した。
〇スウェーデンのボルボは2030年までにBEVメーカーになる方針を公表しているが、PHEVなどエンジンを使った発電機能を備えた車種が残る可能性はあるとしている。
〇ドイツのBMWは、2001年に自社ブランド化したMINIをBEVメーカーにし、BMWの車種すべてにBEVの選択肢を設けると公表した。

 2022年10月、欧州連合(EU)の主要機関は、2035年にガソリン車など内燃機関車の販売を事実上禁止で合意した。CO2を排出する乗用車と小型商用車の新車はEU内で売れなくなることが確定した。
 すなわち、2030年には、新車販売される乗用車から出るCO2を2021年比で55%、小型商用車は50%それぞれ減らす。その後に2035年にはいずれも100%にする。HEVやPHEVの販売もできなくなる。その後はEVや水素を使う燃料電池車といったゼロエミッション車のみの販売が認められる。

 2023年3月、EU欧州委員会は、2035年以降も温暖化ガスを排出しない合成燃料を使う場合に限り、ガソリン車など内燃機関車の新車販売を認めると発表した。今後の欧州議会での合意が注目される。ドイツが合成燃料を使う内燃機関車を認めるよう求め、イタリアや東欧などでも賛同する動きがあった。

 2024年8月、EU欧州委員会は、中国製EVの追加関税を決めた。中国政府から多額の補助金を受ける上海汽車集団(36.3%)、浙江吉利(19.3%)、BYD(17.0%)に対し、現在の10%の関税に上乗せされる。補助金の少ないテスラは9%、調査に協力したBMW、ホンダなどで21.3%、非協力企業には36.3%を追加関税する。
 2023年に欧州で販売されたEVの19.5%(約29万台)が中国からの輸入で、売上高110億ユーロ(約1兆9000億円)。上海に工場を持つテスラが全体の28%、湖北省に工場を持つルノーが19%、遼寧省に拠点を持つBMWが6%、欧米その他が5%、上海汽車集団25%、浙江吉利7%、BYD4%、中国その他4%と続く。
 2023年12月、BYDはハンガリー、トルコに組み立て工場を建設すると表明、上海汽車は欧州でEV組立工場の立地選定作業を進めている。浙江吉利が親会社のスウェーデンのボルボ・カーは、SUVなど一部の生産をベルギーに移管し始めた。同4月、奇瑞汽車はスペイン企業と共同でEV製造販売を発表した。
 2024年10月、EU加盟27カ国が中国製EVに対する追加関税案の採決を実施し、賛成多数で成立した。

英国

 2023年9月、2030年としてきた英国内のガソリン車とディーゼル車の新車販売の禁止を2035年に先送りすると表明した。2035年のガソリン車禁止は米カリフォルニア州や原則禁止のEUと並ぶ。日本も2035年に禁止するHEVの販売は認める。温暖化ガス排出を2050年に実質ゼロにする目標は維持した。

 2023年9月、英国政府は、英国内で2500台/年以上を販売する自動車メーカーに対して2024年からBEVなどゼロエミッション車(ZEV)の販売を義務化すると発表した。2024年に22%以上がZEVになるよう義務づけ、2026年に33%、2028年に52%、2030年に80%と引きあげる。
 到達しないメーカーは目標を超過達成した他社からCO2の排出枠を買う。ガソリン車やディーゼル車の比率が高いメーカーの負担増を和らげるため、排出枠の前借りなどの救済措置を設ける。

 英国はEUから離脱した後EUと自由貿易協定(FTA)を結んでおり、自動車については一定割合以上の部品や原材料を英国やEUで調達すれば、輸出入時にかかる関税が免除される。

米国

 2021年8月、米国が2030年までに乗用車・小型トラックの新車販売の50%をZEVとする目標を発表している。すなわち、乗用車と小型トラックをBEV、FCEV、PHEVなどの電動車にする方針を明らかにした。

〇これを受けて、ゼネラル・モーターズ(GM)フォード・モーター、クライスラーの親会社ステランティスも同調し、新車販売に占めるZEVの比率を2030年までに40~50%に引き上げるとした。

〇特に、GMは2025年までに北米のBEVの生産能力を100万台超にし、2030年までに北米の生産能力の50%をBEVに転換すると表明し、さらに2035年には新車のすべてを走行中に排ガスを出さないZEV(BEVとFCEV)とする方針を出した。

 その後、2022年8月、米国カリフォルニア州環境当局は、2035年にガソリンのみで駆動する新車の販売を全面禁止する新たな規制案を決定した。今秋にも正式決定する。
 ZEVの規制値として2026年式は35%、2030年式は68%、2035年式は100%とし、段階的にガソリン車の販売比率を引き下げる。規制値を満たさなかった車メーカーには、未達成分について1台あたり最大2万ドル(約270万円)の罰金が科される。
 新規制案ではBEV、FCEV、PHEV(電池だけで約80km以上走行可)がZEVとして認められた。PHEVを算入する場合には規制が要求するZEV販売台数の20%以下に抑える。また、規制値を満たせない車メーカーが超過して達成した他社からクレジット(排出枠)を購入する仕組みはない。

  2022年8月、バイデン政権下の歳出・歳入法(インフレ抑制法)では、最大7500ドル/台のEV販売補助金の対象を、北米生産車(米国、カナダ、メキシコ)に限るとした。さらに、7500ドルのうち半分の補助を受けるためには、北米で一定割合の車載電池を製造する必要がある。
 米国でのEVの売れ筋は価格が3万〜5万ドル程度であり、補助金を得られるかどうかは価格競争力に直結する。このため、各社が一斉に、EVの完成車工場や電池工場への投資を競うようになった。

 2023年3月、税制優遇の対象が厳格化され、テスラなど米国メーカー3社の車種に限定すると発表。車体の北米での組み立ては前提条件で、電池部品の一定割合が北米で製造(3750ドル控除)され、重要鉱物の一定割合が米国か自由貿易協定の締結国から調達(3750ドル控除)が加算され、総額7500ドル控除される。
 重要鉱物は米国などからの調達割合を2023年の40%から、毎年引き上げ、2027年には80%とする方針。日産自動車リーフ、現代自動車ジェネシスGV70、フォルクスワーゲンID.4も対象外となる。

 2023年12月、バイデン政権はEV購入者への優遇措置で、中国など安全保障上の「懸念国」の企業が生産した車載電池の部品や重要鉱物を使う車種を対象外にすると発表。米財務省によると、安全保障上の懸念がある中国、ロシア、イランなどの企業が生産した電池部品は2024年から、重要鉱物は2025年から適用する。
 懸念国政府が25%以上の株式を保有する企業やグループも除外対象とするため、日本を含む世界の自動車メーカーはサプライチェーン(供給網)の再構築が必要になる。EVの価格上昇を招き、EVシフトの減速の可能性がある。

 2024年3月、バイデン政権は、2032年までの新たな自動車排ガス規制方針を発表。従来は2032年に新車販売の67%がEVになると見込んでいたが、最大56%に引き下げた。新規制は2027~2032年型の中小型車両が対象で、1マイル(約1.6km)当たりのCO2排出量を、2026年時点と比べて2032年にほぼ半減をめざす。
 目標達成に向け、2032年時点の新車販売のうちEVが35~56%、HVが3~13%、PHVが13~36%を占める必要がある。

 2024年8月、米国バイデン政権は、中国製EVの関税を現行の25%から100%に引き上げる制裁を発表。米通商法301条に基づく措置で、旧世代の半導体は25%から50%、車載用LIBは3倍の25%、太陽電池は2倍の50%など、制裁関税強化7分野に及ぶ。安価な中国製から国内産業や雇用を守るのが狙い。

カナダ

 2024年8月、現在、中国産のEVに対し6.1%の関税を課しているが、これに上乗せする形で10月1日から100%の追加関税をかけると発表。EVに加え、一部のハイブリッド車なども100%関税の対象に含める。
 EVなど環境配慮型の乗用車を対象とした優遇制度も運用を見直し、カナダと自由貿易協定(FTA)を締結した国で製造された自動車に優遇対象を絞り、部品や素材も含めた供給網全体を守るとしている。 
 米国は中国製品の迂回輸入などを防ぐため、同じ北米圏のカナダやメキシコに加え、主要7カ国(G7)に対しても協調することを呼びかけている。 

中国

 2010年から中国政府がEVを含む新エネ車(NEV)の販売に対し補助金の支給を開始した。2017年以降、政府は補助金額を年々削減し、2020年、新エネ車の割合を2025年に20%、2030年に40%、2035年に50%とする目標を打ち出しが、2020年を最後に補助金政策の廃止を計画していた。

 しかし、2020年、新型コロナ禍の影響でNEVの販売が低迷したことを受け、政府は補助金政策を延長したが、2022年12月末で10年以上続いた補助金が終了した。

 2024年1月には、2027年までに新車販売に占める新エネ車割合を45%とする目標を新たに打ち出した。加えて、2027年までにガソリン車を段階的に減らす考えも示した。2023年に中国で販売された約3000万台の自動車のうち、新エネ車は32%で、2025年の目標を達成したためである

メーカー別EV販売台数

 2022年の世界の乗用車用プラグイン電気自動車(BEV+PHEV)の販売台数は、前年比55%増の1,020万台に達した。また、世界主要62カ国・地域で販売された2022年の電気自動車(BEV)の販売台数は前年比70%増の726万台で、着実にEVシフトは進んでいる。
 一方、国内では軽自動車を軸にBEVが急増し、2022年のBEV販売台数は前年度比3.1倍の7.72万台に増えた。しかし、BEVが乗用車全体に占める割合は2.1%(前年度は0.72%)に留まり、20%に迫る中国や欧州に比べて、国内でのBEV普及は遅れている。

2021年のメーカー別EV販売台数

 2021年の世界の乗用車用プラグイン電気自動車(BEV+PHEV)の販売台数は、調査会社マークラインズによれば、前年比108%増で650万台に達した。
 また、世界主要62カ国・地域で販売された2021年の電気自動車(BEV)の販売台数前年比49.3%増の448万台であり、メーカー別にシェアを集計した結果を次に示す。

図1 2021年の電気自動車(EV)販売台数をメーカー別に集計

電気自動車(BEV)の販売台数のメーカー別ランキング首位はテスラで、販売台数は93.62万台で、シェアは20.9%である。
〇2位の上海汽車集団(SAIC)は59.6万台で、シェアは13.3%である。
〇3位のフォルクスワーゲングループは45.2万台で、シェア10.1%である。

 特徴的なのは、上位20位以内に中国メーカーが12社(上海汽車、BYD、長城汽車、広州汽車、浙江吉利控股、奇瑞汽車、小鵬汽車、長安汽車、上海蔚来汽車、東風汽車、合衆新能源、威馬汽車)入り、総販売台数184.8万台で、シェア41.3%に達している。

 上位20位以内の米国メーカーは2社(テスラ、フォードモーター)で総販売台数99.1万台、シェア22.1%であるが、これにゼネラル・モーターズ(GM)が上海汽車集団との合弁で販売している分が加算される。

 上位20位以内のドイツメーカーは3社(フォルクスワーゲン、BMW、メルセデス・ベンツ)で総販売台数66.1万台、シェア14.7%である。

 残念ながら、日本は5位の日産・ルノー・三菱自動車連合が総販売台数24.8万台で、シェア5.5%である。27位の本田技研工業と29位のトヨタ自動車の販売台数を加えても27.7万台で、シェア6.2%と低迷している。

2022年のメーカー別EV販売台数

 2022年の世界の乗用車用プラグイン電気自動車(BEV+PHEV)の販売台数は、調査会社マークラインズのデータによると、前年比55%増の1,020万台に達した。
 また、世界主要62カ国・地域で販売された2022年の電気自動車(BEV)の販売台数は前年比70%増の726万台で、メーカー別シェアを次に示す。

図2 2022年の電気自動車(EV)販売台数をメーカー別に集計

電気自動車(BEV)の販売台数のメーカー別ランキング首位はテスラで、販売台数は126.8万台と増加したが、シェアは17.5%と減少した。
〇2位には前年4位の中国BYDが32万台→86.8万台に急増し、シェアは12.0%に達した。上位10位以内の中国メーカーの総販売台数は172.4万台、シェア23.8%である。
〇3位のGMグループ(上海汽車を含む)は70.4万台で、シェア9.7%である。

 日本勢は日産自動車・三菱自動車・仏ルノーの3社連合が、28.3万台(シェア3.9%)で7位に入ったが、26位本田技研工業の2.7万台(0.4%)、27位トヨタ自動車グループの2万台(0.3%)を加えても、総販売台数33万台、シェア4.5%で、BEV市場での出遅れは顕著である

 2022年のガソリン車を含む自動車の世界市場(販売台数:7621万台)のうち、BEVの占める割合は9.5%に達しており、2021年の5.5%と比較して存在感が明確になってきた。
 2022年のBEV販売台数は前年比70%増の726万台であるが、BEVを除くガソリン車などの新車販売は前年比7.4%減の約6895万台であり、世界的に見て着実にEVシフトが進んでいる

 一方、国・地域別でみると、2022年のBEV販売台数は首位の中国で急拡大し約453万台(シェア62.3%)で市場を牽引した。2位のドイツや英国を含む西欧も約153万台(シェア21.1%)と増加したが、3位の米国では約80万台(シェア11.0%)と低調であった。

 ところで、国内では軽自動車を軸にBEVが急増し、2022年度のBEV販売台数は前年度比3.1倍の7.72万台に達した。しかし、BEVが乗用車全体に占める割合は2.1%(前年度は0.72%)に留まり、20%に迫る中国や欧州に比べ、国内でのBEVの普及は明らかに遅れている。

 今回、普通車EV(排気量660cc超)の販売台数は前年度比47%増の3.55万台であったが、軽自動車EVは前年度比48.4倍の4.16万台で、BEV販売に占める割合が3.4%→54%と急増した。
 2022年6月に発売された日産自動車の「サクラ」と三菱自動車の「eKクロスEV」の軽自動車EVは、蓄電池容量:20kWh、航続距離:180kmで、コストを標準タイプで254万円と239.8万円に抑えている。多様な顧客ニーズに合わせたラインアップが重要であることが再認識された。

図3 日産自動車の軽EV「サクラ」

 2023年時点では、燃費効率に優れたハイブリッド車(HV)で先行した日本メーカーが世界で見直されたが、EVでの劣勢は明らかである。マークラインズによると、2022年時点の世界のEV販売台数は、中国メーカーが30%、米国メーカーが20%、欧州メーカーが7%に対し、日本メーカーは2%以下にとどまる。
 米国S&Pグローバルは、世界に占める日本車のシェアは2020年の30%程度から、2030年に26%弱まで下がると見込む。競争力の維持にはEVシフトに伴う自動車市場の構造変化に対応していく必要がある。

 2024年4月、日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会の集計では、2023年度のEV国内販売台数(軽自動車含み、バス・トラック含まず)は、前年度比2%増の7万9198台に達した。過去最高を更新したが、前年度比で209%であった2022年度から伸び率は大幅鈍化し、10月から2四半期連続で前年割れである。
 新商品を積極的に試すアーリーアダプターの購入が一巡し、EVは低温地域では充放電性能が落ちることも、購入が広がらない要因となっている。EVの販売が落ち込む一方で、HVなど手ごろな価格で省エネ性能も高い車種が人気だ。 

 2024年4月、国際エネルギー機関(IEA)は、EVの最新の市場動向の報告書を発表。中国メーカーを中心とした低価格車がEV市場を拡大し、2035年にEVが世界の新車販売の5割超を占めると予測した。2035年は、欧州連合(EU)や米国カリフォルニア州などがHVを含むエンジン車の販売を原則禁止する年である。
 世界の新車販売に占めるEVの比率は2023年の15%から、2030年に40%、2035年に50%超に高まる。累計の販売台数は2023年の4500万台弱から、2030年に2億5000万台、2035年には5億2500万台超に達する見込みとした。ただし、中国から世界各国へのEV輸出が増え、充電インフラの設置拡大の条件付きである。
 地域別では世界最大の自動車市場である中国の伸びが大きい。2030年にはEVが新車の2/3、2035年には85%に達する見通しで、中国では1万ドル(約154万円)の低価格な小型EVの普及が進む。2023年に中国市場で販売されたEVの約6割がエンジン車以下の低価格であった。
 米国でも2024年以降に排ガス規制が厳格化され、中長期的にはEV比率が高まり、2035年に米市場のEV比率は70%以上になると予測する。さらに厳しい環境規制を導入するEUや英国では2035年のEV比率が85%以上と予測している。
 一方、日本のEV比率は2035年も30%にとどまる見通しで、日本政府は2035年までにすべての新車を「電動車」とする目標を掲げるが、電動車にはEVだけでなくガソリンを使うHVも含まれる。 

  IAEは、充電インフラの設置拡大を、2023年時点の公共充電設備は2022年比4割増の400万カ所だったが、2035年のEV販売予測の実現には、充電設備を6倍の2500万カ所に増やす必要があるとしている。

メーカーのBEV開発動向

米国メーカーの動向

テスラモーターズ

 BEV専業メーカーの米国テスラモーターズは、2030年に世界で2000万台のBEV販売を目指し、2012年6月からカリフォルニア州フリーモントにBEVの生産拠点「テスラファクトリー」を稼働させ「モデルS」を生産している。

 中国が2018年6月にEV市場での外資の出資制限を撤廃したため、2019年1月に外資独資の自動車工場第1号であるテスラ上海工場「ギガファクトリー3」の建設を開始した。生産能力50万台/年で、小型車「モデル3」(約550万円)と小型多目的スポーツ車(SUV)「モデルY」(約740万円)を生産する。

 2021年には米国での販売量を越えて、中国が最大の市場となる。2022年3月には、ドイツのベルリン郊外に、3カ所目の拠点となるEV工場「ギガファクトリーベルリン・ブランデンブルク」を開設し、「モデル Y」について50万台/年の生産を欧州市場に向けて開始した。

 2023年8月、上位車種のセダン「モデルS」と多目的スポーツ車(SUV)「モデルX」に航続距離の短い廉価仕様を導入し、米国で発売した。「モデルS」は標準仕様では8万8490ドルで、航続距離:約650km。廉価版「スタンダードレンジ」は7万8490ドルで、航続距離:約515kmとした。
 バッテリーやモーターは標準仕様と同じで最高速度は変わらず、ソフトウエアによって航続距離などを制限している。テスラは2022年頃から主力車種の「モデル3」を中国や米国で値下げしており、競合に比べ割高だった価格設定を見直し、販売台数の拡大を優先する戦略をとっている。

 2024年4月、2024年1〜3月期の世界販売台数は前年同期と比べ9%減の38万6810台と、15四半期ぶりにマイナスとなった。米国と中国で販売が苦戦し、ドイツ工場の火災などで生産停止したことが原因。
 調査会社マークラインズによると、テスラの2月の中国出荷台数は約6万台で前年同月と比べ19%減少した。2023年に改良した「モデル3」で攻勢に出るが、比亜迪(BYD)など現地勢の値下げにさらされて価格競争力を失った。採算確保のため、本年4月には多目的スポーツ車(SUV)「モデルY」を約2%値上げした。
 米国でも「モデル3」の一部改良版の投入を急ぐが、生産準備の遅れが販売減少につながった。2023年11月には新型EV「サイバートラック」の出荷を米国で開始したが、2024年2月末で1000台の販売にとどまる。
 欧州では、ドイツ工場の火災に加え、本年1月に紅海で起きたイエメンの親イラン武装組織フーシによる攻撃により供給網が混乱し、部品不足により「モデルY」の生産停止を余儀なくされた。

ジェネラル・モータース(GM)

 2035年までにガソリン乗用車の販売をやめる目標を掲げ、EVシフトを進めている。2009年に経営破綻してから、中国や南米以外の外国事業を縮小してきたが、米国内から海外市場へとEVによる再参入を目指している。2025年までに世界で30車種のEVを投入し、北米のEV生産能力を年100万台とする。

 2023~24年に米国内で新車ラッシュをかける予定で、シボレーのピックアップトラック「シルバラード」や小型SUV「シボレーエクイノックス」のEVを発売する。自社開発した車載電池「アルティウム」を搭載し、本田技研工業とのEV共同開発で北米生産車の低コスト化を目指している。

 2021年11月には、ミシガン州の本社近郊に初のEV専用工場「ファクトリー・ゼロ」を開設している。燃費性能が悪い大型車「ハマー」をBEVである「ハマーEV」(約1300万円)として復活させ、小型車「シボレー・ボルトEV」(約370万円)などの販売を開始した。

 2022年10月、アジア、欧州など外国市場にEVを一斉に投入すると発表した。2023年に高級車ブランド「キャデラック」のBEV「リリック」(SUV、航続距離:400km)を日本で発売する。開発・生産拠点のある韓国には2025年までに10車種を投入し、中東、南米の市場にも参入する。

 2023年10月、EV需要の伸び悩みのため、ミシガン州オリオンタウンシップ工場での電動ピックアップトラックの生産開始を1年延期すると発表した。同工場におけるEVピックアップ「シボレー・シルバラード」と「GMCシエラ」の生産開始も2024年末から、2025年末にずれ込む見通しである。

 2024年8月、ミシガン州のオリオン工場で計画していたEVピックアップトラックへの投資を2年延期し、2026年半ばにすると発表。延期表明は2023年に続き2度目。2022年に「2025年までにEVの世界生産で100万台を目指す」として、投資を先行したが、2024年のEV販売台数見通しは20万〜25万台にとどまる。
 バイデン政権は2年前に成立したインフレ抑制法(IRA)で北米産のEVへの税優遇を決め、電池の域内調達も促したが、米国が輸入する電池の約7割は依然として中国製の状況である。

 2024年9月、EVやFCVの開発・生産などで韓国現代自動車と将来的に提携を検討すると発表した。テスラや中国勢に対抗する狙いがある。GMは本田技研工業と2020年にEVの共同開発で合意したが、低価格帯EVの共同開発を中止している。

 2024年10月、EV事業の再構築を発表。短期的には北米のガソリン車を軸に収益を稼ぐ戦略だが、長期的には世界で売れる小型EVに経営資源を投入し、2025年はシボレーのEVを増産し、小型車「ボルト」でガソリン車並みの3万ドル以下のEVを発売するほか、SUV「エクイノックス」や「ブレイザー」でも新型EVを投入する。 
 電池戦略では、リン酸鉄リチウムイオン(LFP)を含む低コスト電池の調達を増やし、新たに自前で電池セルの開発拠点を稼働する。2025年1月には現代自動車を含めた提携戦略の詳細を公表する。

フォード・モーター

 フォード・モーターは2026年までにBEV生産を200万台をめざしている。欧州市場で2024年までにBEV乗用車3モデルとBEV商用車4モデルを投入し、2026年から60万台/年以上のBEV販売を目指す。2030年には欧州で販売するのはBEVのみとし、商用車も2/3をBEVかPHEVにすると表明した。

 技術提携しているフォルクスワーゲンのBEV専用プラットフォームを活用して生産を進めており、米国内でマスタングのBEV「マスタング・マッハE」に続き、電動ピックアップトラック「F-150ライトニング」を発表した。ただし、BEVの生産比率は1%と低いのが現状である。

 2024年1月、EV需要が想定を下回る中で、電動ピックアップトラック「F-150ライトニング」の生産を縮小すると発表した。ミシガン州ディアボーンのEV生産工場での生産を4月1日から1シフトに削減する。

2024年4月、北米で展開するガソリン車の全車種でHVを導入する方針を発表。北米ではEV需要が鈍化傾向で低価格のHVが堅調に推移し、バイデン政権の排ガス規制案も当初に比べ緩和されたため、戦略を修正した。カナダ東部オンタリオ州の工場で生産する3列シートの新型EVの発売は、2027年とし2年間延期する。

 2024年8月、大型EVの自社開発を見直し、今後のEV投資を小型車中心に切り替えると発表。大型EVは中国企業を含む新たなパートナーを増やす方針。カナダのオンタリオ州の工場で計画していたEVの大型多目的スポーツ車(SUV)への投資は見送り、同じ工場でガソリン車のピックアップトラックに投資する。
 長距離移動が多い米国は大型車が主役で、充電網が不足する中、ガソリン車やハイブリッド車(HV)の方が圧倒的に人気がある。EVは小型車でも航続距離:300マイル(約480km)が消費者に選ばれる条件になる。EVは電池がコストの3〜4割を占め、大型車ほど、電池も大きくなり利益を圧迫する。

中国メーカーの動向

上海汽車

 2021年に59万6000台を販売した上海汽車集団はBEV比率が21%で、自社で大衆ブランド「栄威」などのBEVを販売する。
 一方、米国GM・上汽通用五菱汽車との合弁会社で安価(約50万円)な「武陵宏光MINI EV」を開発し、42万4138台(総販売量の71.2%)を販売する。ブレーキの簡素化や、汎用の半導体を活用するなど機能を絞り低価格を実現し、中国の地方都市を中心に売れている。

比亜迪(BYD)

 2020年7月、BEV比率が43%の比亜迪(BYD)は新型セダン「漢(Han)」(約400万円)を販売している。インテリジェント運転支援システム「DiPilot」を搭載し、自社開発リン酸鉄リチウムイオン電池(LFP:LiFePO4)「ブレードバッテリー」を採用するなど高機能車が人気である。

 BYDは2015年に日本市場にEVバスを投入し以来、高いシェアを有しており、2022年5月には新形車両(航続距離:大型270km、小型220km)を開発している。

 2022年8月、BYDはEV専用プラットフォームの最新世代「e-Platform 3.0」を採用し、ボディータイプの異なる3車種の乗用車を2023年から順次に発売する。日本仕様の標準グレードは、車両寸法:全長4290×全幅1770×全高1550mm、蓄電池容量:44.9kWh(LFP蓄電池)、航続距離:386kmである。

 2023年1月、ミドルサイズe-SUV「ATTO 3(アットスリー)」を価格:440万円(税込)で国内発売を開始した。独自開発のブレードバッテリーを搭載したEV専用のプラットフォーム「e-Platform 3.0」を採用、LFP容量:58.56kWh、電動機出力:150kW/310Nm、航続距離:485kmである。
 2023年中頃には、e-Compact「DOLPHIN」、2023年下半期にe-Sedan「SEAL」を日本で販売する予定としている。

2023年9月、5ドアハッチバックタイプの小型EV「DOLPHIN(ドルフィン)」の日本での販売を開始、EV専用のプラットフォーム「e-Platform 3.0」を採用し、LFP容量:44.9/58.56kWh、電動機出力:70kW/180Nm、航続距離:400/476kmである。価格:363/420万円(税込)である。

 その他、アフリカで中国製の商用BEVの輸入が増加し、東風汽車のピックアップトラックEVはガーナで、BYDのEVバンはジンバブエやケニアで販売されている。欧州でも中国製BEVへの信頼感が徐々に高まっている。商用BEVは走行ルートと充電拠点を固定化しやすメリットがある。

 2024年4月、2024年1~3月期のEV販売台数は前年同期比13%増の30万114台だったが、伸び率は2023年1~3月期(84.8%増)から大きく鈍化した。2023年10~12月期(52万6409台)からも43%減少したが、無理な営業を重ねた反動で落ち込んだとの見方もある。
 金融引き締めや景気減速の影響で、世界的にEV販売が失速している。多くの地域で充電網の整備が十分に進んでおらず、冬場の性能低下なども消費者から敬遠される一因となっている。

2024年5月、新型PHV2車種を9.98万元(約220万円)から発売すると発表。投入するのはセダン「秦L」と「海豹06」で、主力ブランドの「王朝」、「海洋」からそれぞれ投入する。BYD独自のPHV技術「DM-i」を刷新して搭載し、EVモードでの航続距離は、最短で80km、最長で120kmのタイプを用意した。
 ガソリンを動力に走行する場合、燃費性能を従来の約26km/Lから約34km/Lに高め、フル充電かつガソリンも満タンにしたときの航続距離は2100kmに達する。  

長城汽車

 BEV比率が11%の長城汽車は2021年6月にタイ工場を稼働し、生産車のすべてをHEVなどの電動車とし、2023年頃からBEVを製造する方針である。2022年3月には、小型EV「オラ・グッドキャット」(安価モデルで約300万円)の販売を開始している。

広西汽車集団

 2022年9月、広西汽車集団系が日本のEV設計企業ASFと組み、2023年に価格:約150万円の軽自動車バン(積載重量:350kg)のリース販売を公表した。商用軽EVより2割程度安い。傘下の五菱新能源が生産し、CATL製蓄電池を搭載して航続距離:230kmである。
 ASFが日本での販売窓口となり、国内の物流企業への販売を行う。また、日本ロードサービス(JRS)と提携し、国内200カ所以上のサービス拠点で保守・整備を請け負う。

韓国メーカーの動向

 2022年10月、韓国の現代自動車は、米国ジョージア州ブライアン郡で初のEV専用工場に着工した。55億ドルを投資して2025年上半期に稼働し、30万台/年のEVを生産する。蓄電池工場を併設する方針も示した。自ブランドの他、高級車ブランド「ジェネシス」、グループ企業起亜のEV生産も行う。
 米国はEV普及促進のため、米国産の新車EV購入に最大7500ドルの税控除を決めた。蓄電池も北米産でなければ満額の控除を受けられないため、現代自動車も電池調達先の確保を進めている。

 2023年4月、現代自動車グループは、2030年までに韓国内のEV関連産業に24兆ウォン(約2兆4200億円)を投資する計画を発表した。「Hyundai」「Kia」「Genesis」の3ブランド全体で、世界のトップ3のEVメーカーになるという目標を掲げる。
 2030年までにEVのラインアップを31車種に拡大する予し、2030年のEVの年間生産台数は、韓国内で151万台、世界では364万台まで大幅に拡大する計画だ。 

 2022年5月、現代自動車は日本市場への再参入を発表した。日本政府が環境規制の強化やZEVの購入を後押しする政策を打ち出しており、環境車に大きな需要が望めるためとしている。2001年に日本の乗用車市場に参入したが、販売が振るわず2009年に撤退した経緯がある。
 投入するBEV「IONIQ 5」は、479万円(税込み)からで、蓄電池容量:58kWhと72.6kWhで、基本グレードの電動機最高出力:125kW、航続距離:618km(72.6kWhの場合)である。FCEV「NEXO」は、776万8300円(税込み)で、水素の充填時間は約5分で、航続距離:約820kmである。

図1 現代自動車のEV「IONIQ 5」
全長4635×全幅1890×全高1645mmで、ホイールベースは3000mm。ステーションワゴン

 2023年8月、韓国の現代自動車と起亜は、EV発火リスクを理由に米国で91000台強をリコールすると発表した。対象車両の所有者には修理が完了するまで、屋外の建物から離れた場所に駐車するよう求めた。対象車両は2023~24年型車両で、現代自動車が約52000台、起亜が約40000万台である。
 アイドリングストップ用オイルポンプ部品の電子制御装置に損傷した電気部品が含まれている可能性があり、ポンプが過熱する恐れがある。起亜は関連する事象6件の報告を受けているが、事故や負傷者は発生していない。現代自動車には4件の報告が寄せられている。

 2024年9月、EV購入顧客に対する無償点検サービスを始めた。購入から最大で8年間は年1回の点検を無料で受けられる。韓国で相次いだEVの火災による消費者の不安を払拭する。
 9月以降に同社EVを新規購入した顧客に、バッテリーなど15種類を無償で点検する。購入5年以内あるいは走行距離10万km以内の車両は、35万ウォン(約3万7000円)相当の部品交換ができる。EV専用タイヤ2本の無償提供や、購入価格の55%を売却時に保証する下取り制度も導入した。

 2024年11月、現代自動車の日本法人は、2025年春に小型EV「インスター」を日本で発売する。価格は輸入車のEVでは最安水準の300万円台で、全幅:約1.6mと軽自動車より少し大きめで、航続距離:350km以上。
 現在、最も安いEVはBYD「ドルフィン」の通常モデル(363万円)で、欧州ではドルフィンより安く販売している。
同11月、日本で価格競争はしないとしてきたBYDは、ドルフィン限定モデルを299万円で発売した。日本ではサイズの近い日産自動車「サクラ」(250万円)が競合となるが、航続距離:180kmである。

欧州メーカーの動向

フォルクスワーゲン(VW)

 2021年に45万2000台を販売したVWであるが、全生産車に占めるBEV比率は5%と低い。既に、小型BEVの「e-ゴルフ」「Passat」「Passat Variant」(480~550万円)を販売している。

 2022年にBEVの世界戦略車「ID.4」、2024年に「ワーゲンバス」のBEV版「ID.BUZZ」、2026年には新型の多目的スポーツ車(SUV)を生産する計画を公表し、メキシコの2工場はBEV組立工場と電気モーターなどのBEV部品工場に刷新する。

 2022年3月、2030年までに北米向けに71億ドルを投資し、市場拡大を目指すと発表した。現在、北米では蓄電池を韓国SKイノベーションから調達しているが、北米でのBEVや部品生産を拡大し、2030年に北米での新車販売に占めるEV比率55%を目指す。
 そのためガソリン車の品ぞろえを段階的に減らし、2030年代初めに全ての販売を中止し、2030年に25車種以上のBEVを北米市場でそろえる計画である。

 2023年7月、中国のEVメーカー小鵬汽車への7億ドルの出資を発表した。中国市場に投入するVWブランドのEV2車種を共同開発し、2026年に販売する計画。主力市場であった中国での低迷を新興メーカーと提携して強化するのが狙い。

 2024年1月、人工知能(AI)「Chat(チャット)GPT」を市販車に搭載すると発表。音声認識のAIを開発する米国セレンスと組み、車内温度や目的地検索などを自動で答える。2023年発売の新型EV(電気自動車)セダン「ID.7」や新型SUVの「ティグアン」など8車種で、2024年4〜6月期から標準装備する。

 2024年6月、EVの米国新興リビアン・オートモーティブに、2026年までに最大50億ドル(約8000億円)を投資すると発表。今年12月以降に10億ドルを出資するほか、両社折半出資で合弁会社を設立し、EV用ソフトウェアの共同開発を進める。
 テスラやBYDなどの中国メーカーに比べ、欧州メーカーはEV開発の遅れが指摘されており、開発を加速させる狙いである。米国では、EV市場減速の影響を受けた新興メーカーの経営破綻が相次いでおり、リビアンも赤字が続いており、財務基盤を強化し苦境を乗り切る。

 2024年9月、独国内での工場閉鎖の検討を表明した。。乗用車、商用車、車部品など独国内の工場約10カ所が対象で、国内グループ従業員30万人のうち数千人単位の削減も検討する。  
  ディーゼルゲート後の2018年、2022年までに電動化に300億ユーロ(4兆9000億円)を投資するとし、2019年にグループ横断のソフトウエア開発会社、2022年にEV用蓄電池会社を設立。2026年までの5年間で、車載基本ソフト(OS)などデジタル対応を含む投資計画は890億ユーロとVWの投資全体の6割弱を占めた。
 誤算は世界的なEV販売の失速である。欧州では補助金の打ち切りが相次ぎ、主要31カ国のEV新車販売数は、2024年7月に前年同月比で5.9%減少。VWの世界販売の35%を占める中国では、2001年に50%超のシェアが、2023年には14%まで低下した。
 そのためEVシフトの戦略修正を急ぎ、2023年7月、中国EV新興の小鵬汽車に出資し、EV車体のほかに搭載システムも共同開発とし、2024年6月に米国EV新興リヴィアン・オートモーティブに出資し、ソフトウエアの自社開発を事実上断念した。しかし、EV販売が伸び悩むなか、先行投資は膨らみ続けた。
 そのため、コスト削減が優先課題となり、2023年12月に100億ユーロのコストを2026年までに削減し、営業利益率を6.5%に引き上げる方針を打ち出した。目標達成にはさらに40〜50億ユーロの上積みが必要となり、独国内工場の閉鎖方針の表明となった。

BMWグループ

 2021年7月、2030年までにバリューチェーン全体でCO2の排出量を1/3に削減すると宣言。保有するBEVは「i3」「MINI」で、2025年までは成長率50%の販売台数増、累計の目標数は200万台、2025年以降2030年まで成長率20%と設定し、2030年のグローバルでの販売の50%をBEVとする。

 既に発表済みのBMW「iX」のBEVモデルとなる「iX3」を2021年に国内販売、「i4」も2022年には国内販売が開始される。2023年までに、「7シリーズ」、「5シリーズ」、「MINIクロスオーバー」、「X1」のBEVモデルの発売計画がある。搭載する蓄電池は外部調達でまかなうとしてる。
 グループにはMINIなどBEV専業ブランドになることを表明している会社もある。

 2022年11月、BMWはハンガリーに建設中のBEV工場への投資額を20億ユーロ以上に引き上げ、敷地内に5億ユーロ規模の高電圧蓄電池組立工場を建設すると発表した。これまではデブレツェン工場に10億ユーロ以上を投じるとしていた。2025年の操業開始、最大15万台/年の製造を予定している。 

メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)グループ

 2022年4月には、2030年までに乗用車1台あたりのCO2排出量を2020年比で半分以下とする新目標を公表した。既に、2039年にガソリン車の販売終了などでCO2排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル計画を掲げており、今回の発表で具体的なロードマップを示した。

 2022年7月には、新型BEV「EQB」の発売を公表している。最大7人乗りのSUVで、航続距離:最大520km、大容量蓄電池:66.5kWhを搭載し、価格:788万円である。

 2022年9月には、新型BEV「EQS」「EQE」の国内販売を公表している。最上級SUVの「EQS」は航続距離:最大700km、大容量蓄電池:107.8kWh、価格1578万円から、上級SUVの「EQE」は航続距離:最大620km、大容量蓄電池:90.6、107.8kWh、価格:1248万円からである。

 これまでに乗用車で5車種のBEVを発売しており、2025年には販売する新車の半分をBEVかPHEVとし、2030年には全てBEVにする計画である。蓄電池も現用リチウムイオン電池のエネルギー密度を2倍に高めたリン酸鉄リチウム(LFP)電池の採用や、2028年までの全固体電池の量産化を目指す。

 EV関連の投資は2030年までに400億ユーロ(5兆4400億円)に上る。工場の屋根に太陽光発電パネルを設置するほか、風力発電設備の建設も計画しており、現在は5割前後の再生可能エネルギー利用率を、2030年までに7割に高める。
 また、工場利用だけでなく、欧州全域に約30万カ所あるEV充電設備でも再生可能エネルギー由来の電気を使えるようにし、ライフサイクル全体でのCO2排出削減を狙う。

 2024年3月、2023年から続くEVの減速で、2030年までに「市場が許す限り」新車販売の全てをEVにする計画を撤回した。2030年代もPHEVなどエンジン搭載車を販売する。各地域の排ガス規制に対応するため、新しいエンジンも開発している。

ステランティス

 2030年までに世界で500万台のBEV販売を目指している。

 2022年6月には、フランスのグループPSAとイタリアのフィアット・クライスラー・オートモービルズが折半出資で誕生したステランティスが、小型BEV「フィアット500e」の日本での販売を発表している。蓄電池容量:42kWhで、航続距離:最大335km、価格:450~495万円である。

 2024年2月、EVの基本骨格(PF:プラットフォーム)について、EVへの採用を主軸に据えながら、エンジン車やハイブリッド車(HEV)にも展開できるEV優先PFであることを積極的に明らかにした。

ボルボ・カー

 2022年11月、スウェーデンVolvo Cars(ボルボ)は2030年までにEV専業メーカーとなる計画を掲げており、内燃機関の開発・製造からの完全撤退を発表した。また、大型SUV(多目的スポーツ車)型のBEV「EX90」(LIB容量:111kWh、航続距離:590km)を、2023年に米国で生産を開始する。

2024年9月、中国メーカーが親会社のボルボ・カーは、2030年までに全新車のEV化目標の撤回を発表した。新たに設定した目標では、2030年までに新車販売台数の9割以上をEVかプラグインハイブリッド車(PHV)とし、最大1割をハイブリッド車(HV)とする。

フォードが新型EVの開発中止、HVに注力へ…アメリカなどで需要伸び悩む

ボルボの店舗
ボルボの店舗

 ボルボは4日に発表した声明で、充電ステーションの整備の遅れや各国政府のEV購入補助金の打ち切り、中国製EVに対する米欧の追加関税措置などの影響で、今後のEV販売の見通しが不透明になったことを撤回の理由に挙げた。

ルノー

 2023年11月、自動車大手で初めてEV事業を分社化し、今回、新会社「アンペア」の事業戦略を発表した。今後、成長が見込めるEV分野を切り分けて上場し、資金調達を容易として、研究開発に集中投資する狙い。2024年上半期の上場を予定しており、先行する米国テスラや中国勢に対抗する。
 アンペアでは従来EVに比べてコストを4割抑え、ガソリン車と同等まで販売価格を引き下げる。フランスに生産拠点を置き、2031年までに投入する7車種には、2万ユーロ(約330万円)未満の安価な小型EVも含む。100万台/年程度を販売し、250億ユーロ以上の売り上げを見込む。開発は米国グーグルと連携する。

 ルノーが過半を出資するが、企業連合を組む日産自動車は最大6億ユーロ(約980億円)、三菱自動車は最大2億ユーロ(約330億円)をアンペアに出資する。生産したEVは2社に供給する方針で、米国半導体大手のクアルコムも出資を検討している。

 2024年1月、EV新会社「アンペア」の新規株式公開(IPO)の中止を発表した。株式市場の状況が最適ではなく、ルノーはアンペアが2025年に損益分岐点に達するまで開発資金を提供し続けるとした。

日本メーカーの動向

 現時点でEVシフトは世界的なトレンドであるが、BEV市場での日本勢の存在感は薄い。2021年に24万8000台を販売した日産自動車・ルノー・三菱自動車連合でもBEV比率が3%と低く、本田技研工業は1万5000台を販売しBEV比率が0.3%、トヨタ自動車は1万4000台を販売しBEV比率が0.1%である。

 経済産業省が究極のクリーンエネルギーとして水素を重視する姿勢を鮮明にし、水素の運搬やFCEV開発で日本の技術の優位性を生かせるとして普及策拡大や予算増額などを進めているが、FCEVへの過度な傾倒はガラパゴス化を危惧する声が高まっている。

日産自動車

 2020年1月、新型BEV「リーフe+(イープラス)」を発売した。蓄電池容量を既存モデルの40kWhから60kWhに増やし、航続距離を322kmから458kmと42%も伸ばした。モーターの最高出力は110kWから160kWへ45%引き上げ、価格は416万2320円と472万9320円(2グレード)である。

 また、2022~2026年の5年間で電動化に約2兆円を投じ、2026年度に電動車(HEV+BEV)割合を44%以上、2030年までにBEV15車種を含む計23種類の電動車を発売し、販売車種に占める電動車割合を全世界で55%以上に高める方針を表明した。

 2022年5月、スポーツ用多目的車(SUV)「アリア」を発売した。アリアB6(WD)は価格:539万円、最高出力:160kW、航続距離:最高470kmで、テスラのモデルY(RWD)の643万円、220kW、507kmメルセデス・ベンツのEQA250の733万円、140kW、423kmと遜色のないレベル。

 2022年5月、軽自動車タイプのBEVの発売を日産自動車と三菱自動車が表明している。日産自動車「サクラ」三菱自動車「eKクロスEV」は、航続距離:最大180km、価格:230~290万円台(国からの補助金:最大55万円)と低コストである。

 2023年2月、ルノーグループ、日産自動車、三菱自動車は、アライアンスをより高いレベルに引き上げるべく3領域の取り組みについて公表した。
 ①中南米、インド、欧州における新型車・EV投入など協業の推進、②ルノーグループのEV&ソフトウエア子会社Ampere(アンペア)に日産は10%を下回る出資とし、全固体電池や自動運転などの協力、③ルノーと日産の資本見直しにより、15%の相互保有に変更する。

 2023年9月、2030年に欧州での新車販売をすべてBEVにすると表明した。今後、投入する新型車も原則BEVのみとする方針である。これまでは2026年度までに、欧州では新車の98%を電動車にする目標を掲げ、電動車にはHEVも含めていた。
 また、日産自動車はリーフとアリアのBEV2車種を北米に投入しており、インフレ抑制法の対象になることを見込み、ミシシッピ州の工場を改修し2026年以降に新たにBEV4車種を生産する。

 2023年11月、英国でのEV生産に20億ポンドの追加投資を発表。2021年に表明した投資と合わせ累計30億ポンド(約5600億円)となる。欧州の生産拠点である北部サンダーランド工場では、EV「リーフ」、多目的スポーツ車(SUV)の小型車「ジューク」と中型車「キャシュカイ」を生産しており、各車種で新型EVを生産する。
 また、英国では中国企業傘下のAESCグループと連携し、2拠点の巨大電池工場「ギガファクトリー」を持つが、今後のEV需要拡大に合わせ3拠点目を新設する。アンペアは日産向けにEV「マイクラ」(日本名マーチ)を生産するが、SUVなどの中型EVは自社開発で棲み分けをはかる。

 2024年3月、本田技研工業とEV関連事業での協業を発表。中核部品イーアクスルなどを共同調達したり、車台を共通で開発し、生産コストの削減を進める。既に、三菱自動車とは軽自動車をベースに電動車開発を進めている。また、韓国のSKオンからの蓄電池供給、米国テネシー州での蓄電池生産も進める。
 世界の自動車大手はEV用蓄電池の自前工場などに巨費を投じ、莫大な減価償却費や原材料価格の高騰が利益を圧迫している。一方で、世界最大の中国市場を中心に製品価格が下落しており、部品調達を共通化するなどして規模を拡大し、コスト競争力を高める必要がある。

 2024年3月、2026年度までの中期経営計画を発表。今後3年間で発売する新型車30車種のうち、16車種を電動車に設定。EVを8車種、PHVとHVを4車種ずつとした。これにより、全車種数に占めるEVの比率を2割(2023年度は9%)に引き上げる。また、HVとPHVも2割(同13%)となる見込みである。
 販売台数は100万台上積みし、約450万台を目標とした。米国を中心に北中南米で33万台、欧州などで30万台、中国で20万台、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)で9万台程度増加。蓄電池開発に4000億円を投じ、EVの生産コストを3割削減し、2030年度にはガソリン車と同等の価格を実現するとした。

  三菱自動車

 2022年3月、2030年に世界販売に占める電動車の割合を50%にする目標を掲げる三菱自動車は、2024年からタイ工場(年産能力:約40万台)で生産する乗用車をすべて電動車にすると発表した。
 ガソリン車が中心の東南アジアでも電動化が加速してきており、乗用車はPHEVやBEVのみを市場投入し、商用車を除きガソリン車の販売を停止する。すなわち、商用車のピックアップトラックはディーゼル車の製造を続け、タイから輸出する乗用車の一部にガソリン車を残す可能性はある。

 2022年11月、ワンボックスタイプの軽商用EV「ミニキャブEV」の一般販売の再開を発表。2011年に「ミニキャブ・ミーブ」を発売し、2021年3月に終了したが、物流業界や自治体からの需要が増えたためとしている。
 総電力量16kWhの駆動用蓄電池と小型・軽量・高効率なモーターなど「アイ・ミーブ」のEVシステムを搭載し、航続距離:最大180km、価格は243~248万円(税込)である。また、先進運転支援システム「e-Assist」を標準搭載し、予防安全性能を強化した

図2 三菱自動車のミニキャブ・ミーブ CD 16.0kWh 2シーター

 2023年3月、2035年に世界販売に占める電動車の比率を100%の水準に引き上げる目標を発表した。2030年度までに1.4~1.8兆円を投資し、2027年度までにBEV4車種を含む9車種の電動車を投入する。従来の2030年に電動車の比率を50%とする目標は変えず、欧州でのEV投入も計画する。

 2023年10月、ルノーグループのEV&ソフトウエア子会社「アンペア」に最大2億ユーロを投資すると発表した。アンペアからBEVのOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受け、欧州などで自社ブランドとして販売する予定である。 

本田技研工業

 2021年6月、GMと共同開発した大型SUVタイプのBEV「プロローグ」を2024年に北米で販売すると発表した。また、2022年4月には量販価格帯(3万ドル以下)のBEVを共同開発し、2027年以降に世界で発売する計画を示した。
 GMが開発したリチウムイオン電池「アルティウム」を使い、車台や生産設備の共通化も進める方針で、これまでの北米限定から、国内や中国、欧州などに販売エリアを拡大していく方針を示した。

 2022年4月、今後10年間でBEVを含めた電動化やソフトウェアなどに5兆円を投じ、2024年に商用の軽EVを発売するなど2030年までにBEV30車種を投入、200万台/年以上のBEV生産を目指すとした。また、2035年に中国で全ての新車をBEV、2040年には世界全ての新車をBEVかFCEVにする。

 2022年4月、中国で新しいEVブランド「e:N」シリーズの第1弾であるSUVの「e:NS1」を東風ホンダ(東風汽車の合弁)で発売した。また、同5月にはSUV「e:NP1」の予約受け付けを、広汽ホンダ(広汽汽車の合弁)で開始した。
 「e:NS1」にはCATL製3元系リチウムイオン電池を搭載しており、航続距離は510km、価格は17.5万~21.8万元(350万~436万円)である。新世代コネクテッド技術「Honda CONNECT3.0」、安全運転を支援するドライバーモニタリングカメラ、デジタルコックピットなどが導入されている。

 2022年10月、米国オハイオ州でEV生産の中核拠点を7億ドルで整備すると発表した。ガソリン車などを生産している既存3工場の設備を、2026年に北米での生産を予定するEV向けに改修する。

 2022年12月、商用軽自動車タイプのEV「N-VAN e:」を2024年春の発売を発表した。現行の商用軽ガソリン車「N-VAN」をベースとし、価格はガソリン車と同水準の100万円台の設定、1充電からの航続距離は200kmを目標にする。

 2023年4月、国内で2024年に軽自動車の商用車、2025年に軽「N-VNE」をベースにしたモデルに加え、2026年にSUVを含む2車種の計4車種のEV発売計画を発表した。また、北米では2025年に中大型モデル、中国では2027年までに10車種を投入して2035年までに全ての新車をEVに切り替える。
 同時に、車載半導体の安定調達で台湾積体電路製造(TSMC)と協業したこともを発表した。2025年度以降に調達する半導体を車載システムに導入し、将来は先端品の開発も視野に入れる。また、韓国のポスコとも提携し、電池のリサイクルや素材調達、電磁鋼板などの安定調達ににつなげる。

 2023年8月、2024年に販売する新型EVの多目的スポーツ車(SUV)「ZDX」の標準タイプと、高出力の「TypeS」を公開。価格は6万ドル(約870万円)と7万ドル(約1020万円)からで、航続距離:約482km。高級ブランド「アキュラ」で初のEVとなる。
 米国GMとの共同開発車で、車載電池「アルティウム」(容量:102kWh)を搭載する。米国グーグルの車載コネクテッドサービスも標準搭載する。

図3 本田技研工業の新形EV「ZDX」

 2023年9月、GMと共同開発し北米初となる量産BEV「プロローグ」を、2024年初めに米国とカナダで発売する。スポーツ用多目的車(SUV)タイプで、蓄電池と基礎部分はGM製で、GMの工場で生産する。航続距離:480kmで、充電規格は米国方式を採用し、2025年以降はテスラ方式にも対応する。
 日本での販売予定はなく、価格は4万ドル台後半からで、購入時に最大7500ドルの税額控除を受けられるインフレ抑制法の対象になることを見込む

 2023年10月、GMと進める量販価格帯のEV共同開発の中止を発表する。コストを抑え2027年以降に世界で販売する予定だったが、両社が独自に手がける方が合理的と判断した。2024年に「プロローグ」を北米で販売する計画やは変わらず、高級車や無人タクシーを含む連携は継続する。 

2024年1月、2026年以降に世界で販売する新EVを2車種(4~5人乗りでセダンに似た「サルーン」と、6~7人乗りでミニバンに似た「スペース ハブ」)を発表。新たなEVブランド「0(ゼロ)シリーズ」として展開する。ゼロシリーズは薄い蓄電池を採用して車高を低く抑え、航続距離:482km以上をめざす。
 また、ハンドル操作を無線通信でタイヤに伝える「ステアバイワイヤ」を搭載する。将来的には高速道路や一般道で利用できる自動運転技術の搭載をめざす。

 2024年3月、日産自動車とEV分野での包括的な協業の覚書を締結する。EVの中核部品であるイーアクスルの共通化や共同調達、車台の共同開発などを進め、規模の拡大によりコスト競争力を高める。EVの車台の設計や開発の共通化、電池の共同調達やHVなど電動車の共同開発にも広がる可能性がある。

 2024年5月、2021~2030年度の10年間で、EVやソフトウェアの開発などに10兆円の投資を発表。2022年に発表した5兆円の投資額を倍増させ、EVに搭載するソフトの開発を加速させ、生産の効率化を図り、機能や価格面で中国や米国のEVメーカーに対抗する。
 内訳は、蓄電池コストを20%以上削減をめざす設備導入に2兆円、ソフト開発2兆円では自動運転技術のほかEV全体の機能を管理する独自の基本ソフト(OS)の開発を急ぐ。新型車の開発関連などは6兆円とし、2040年までに全ての新車をEVかFCVとする目標は維持した。

 2024年7月、日産自動車との連合に三菱自動車が合流する。2024年3月期の本田技研工業の世界販売は407万台、日産自動車は344万台で国内2位、3位の規模があり、三菱自動車の81万台が上乗せされ約833万台を抱えるグループとなる。EVや車載ソフトの競争力を高めるための規模拡大策である。
 2023年のEVの世界販売台数は日産自動車が14万台、本田技研工業も1.9万台にとどまるが、テスラは180万台、比亜迪(BYD)は157万台と大きな差が出ており、一方で、トヨタ自動車は、乗用車ではダイハツ工業とスズキ、SUBARU(スバル)、マツダと提携を結び、4社で合計1600万台規模になる。

 2024年10月、 2026年から世界販売を予定する新型EV「0(ゼロ)シリーズ」で、生産コストの削減と航続距離の伸長(482km)をめざして主要部品の大幅な小型・軽量化や部品数削減を進めている。
 新型EVでは、電力を制御するインバーターを従来より約40%小型化し、一体成型で大型鋳造部品を作るメガキャストを採用(圧力:6000トン級)、車載電池の外枠部分の部品を削減して約6%の薄型化などで、車体全体で100kgの軽量化を実現した。また、全固体電池の開発は、予定通り2020年代後半の量産をめざす。

 2024年10月、 同社初の軽EV「N-VAN e:」の販売を開始。1人乗りの配達向けは243万9800円から、4人乗りの「L4」も269万9400円からで、宅配会社など商用向けは約100万円の補助金が国から支給される。エンジン軽商用車は120~200万円が主流で、最低価格は先行する三菱自動車の「ミニキャブ・ミーブ」に対抗した。
  また、電池容量の高い三元系蓄電池で、競合よりも50km長い航続距離:245kmを実現した。最寄りの物流拠点から顧客の玄関先までを配送する「ラストワンマイル」としては十分使える。   

トヨタ自動車

 2022年3月、2030年までに研究開発や設備投資に4兆円を投じ、2030年までに小型車から大型SUVまで30車種を発売し、BEVの世界販売目標を350万台/年(うちレクサス100万台/年)とした。加えて、急速充電器も2025年をめどに全国のトヨタ販売店に設置する方針を示した。
 また、BEV専用プラットフォーム(車台)「e-TNGA」をベースに初の量産型BEV「bZ4X」を発売すると発表した。リース専用車(定額課金方式)で、航続距離:559km、メーカー保証:10年・20万kmまで無償で蓄電池修理、蓄電池容量が新車時の70%以下の場合は無償で蓄電池交換としている。
 その後、「bZ4X」を2023年11月から一般販売に切り替えた。装備と機能を厳選して価格を抑えたグレードを新たに設けた。価格は550万〜650万円とし、車外の気温が低い環境での急速充電時間を最大30%短縮、消費電力の抑制と空調制御の最適化で航続距離を伸ばした。 

 2022年6月に発売したbZ4Xは、急旋回などでタイヤが外れる恐れがあると、発売から約1か月後に生産・販売を一時停止していた。10月から国内販売を再開するにあたり、利用者拡大のために申込金を従来の半額(38.5万円)とするなど大幅値下げを行った。

 2020年に発売した小型スポーツ用多目的車(SUV)「UX300e」に続き、2022年4月には、高級ブランドのレクサスで初のBEV「RZ」を発表した。航続距離:450kmである。2035年には全レクサスをBEVにする方針を示している。

 2022年7月、商用のBEV軽自動車を、ダイハツ工業、スズキなどと2023年度までに共同開発することを発表した。スーパーなどの集配拠点と家庭を結ぶ近距離の物流での使用を想定している。

 2022年10月、セダンタイプBEVの「TOYOTA bZ3」を発表した。BYDとの合弁会社BYD TOYOTA EV TECHNOLOGY カンパニーと一汽トヨタ自動車が共同開発し、一汽トヨタが生産・販売する。元町工場ではSUBARU「ソルテラ」の車両も合わせて、日本、欧州、北米、アジア向けを生産する。
 BYDのリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)を使用し、最長航続距離は600kmを超える。電池の耐久性には10年後でも90%の電池容量を維持することを開発目標としている。

 2022年10月、ロイターによりトヨタ自動車がEV事業の戦略修正を検討が伝えられた。プラットフォーム「e-TNGA」も見直しの対象に含め、2030年までにEV30車種を揃える従来計画の一部を一端中止した。想定以上の速度でEV市場が拡大し、より競争力のある車両を開発する必要があるとの判断。

 2023年4月に就任する佐藤社長が「EVファースト」を宣言し、世界でのEV重点投資が始まった。西欧で2030年までに新車販売におけるEV比率を50%にし、2035年には新車をすべてBEVやFCEVなどゼロエミッション車(ZEV)にする方針。

2023年2月、2025年にも米国ケンタッキー州主力工場の生産設備を改修し、ガソリン車と一緒にEVを製造、2025年にノースカロライナ州に電池工場も新設する。SUVを2025年中に約1万台/月、2026年以降は20万台/年規模、インドなどでも製造し、2026年に世界で100万台/年まで生産台数を拡大する。 

 2023年6月、2025年に米国ノースカロライナ州で稼働させるEV向け電池工場に21億ドル(約2900億円)の追加投資を発表。投資総額は59億ドルに達する。また、同年からケンタッキー州の工場でEVの生産を始める。2026年にEVの世界販売を150万台/年とする目標を掲げている。

 2023年9月、BEV販売は2022年2.4万台であり、2023年は約15万台に増産し、2024年は19万台、米国で建設中の電池専用工場が稼働する2025年には「トヨタ・レクサス」ブランドのBEV生産台数を60万台規模と3倍にする計画を公表した。2026年に150万台の販売を掲げている。
 BEV量産は現在の元町工場のほか、将来は高岡工場(愛知県)、レクサスを生産する宮田工場(福岡県)でも本格化する。明知工場や下山工場(愛知県)でも電池生産ラインを設け、子会社のプライムプラネットエナジー&ソリューションズも増産、中国のCATLやBYDからも供給を受ける。
 また、2026年発売のレクサスから次世代EV専用車台を投入し、製造しはギガキャストも採用して、工程、投資額、準備期間の全てを従来比の半分にして収益性を高める。2030年に350万台の販売と掲げており、うち170万台を新車台を使った車種とする。

 2023年12月、欧州法人「トヨタ・モーター・ヨーロッパ」は、2026年までに欧州市場で販売する乗用車と小型商用車の2割にあたる年間25万台をEVにすると発表した。乗用車は販売済みの「bZ4X」を含め、2024年にSUV、2025年にクロスオーバー車を追加投入し、合計6車種とする。並行してHEV、ガソリン車の開発も継続する。
 ステランテス、ルノー、日産自動車は、2030年までに欧州で販売する全ての新車をEV、フォルクスワーゲンも、2030年までに販売する新車の8割をEVにする目標を掲げており、他メーカーと一線を画した。

 2024年1月、EV需要に減速感が見受けられる中で、豊田章男会長は「東京オートサロン2024」で、「CNの選択肢はEVだけではない。現実的な手段としてエンジンにはまだ役割がある」と語った。同時にエンジン開発の新規プロジェクトを立ち上げることを明かした。

 2024年4月、米国インディアナ州の工場でのEV生産を発表。投資額は14億ドル(約2100億円)で、2026年から3列シートの多目的スポーツ車(SUV)の生産開始をめざす。蓄電池はノースカロライナ州に建設中の電池工場で生産し、パックに組み立てる生産ラインをインディアナ州の工場に新設する。
 2023年に、米国ケンタッキー州の工場でもEV生産計画を公表し、2工場目であるが、開始時期は2025年から2026年にずれ込む可能性もある。

  2024年5月、燃費効率と小型化を追求した新型エンジン開発を進めると発表。PHVやHVなどの電動車での搭載を想定し、合成燃料やバイオ燃料の使用もめざす。同排気量の従来品と比較して体積と高さを10%低減し、低排気量(1.5L、2.0L)の直列4気筒のエンジン2種類を開発する。
 トヨタ自動車は、出光興産やENEOSなどといカーボンニュートラル燃料を導入する検討を開始したと発表しており、2030年ごろの導入を目指して製造手法などで連携を深める計画としている。

スズキ自動車

 2022年3月、インド西部グジャラート州の乗用車工場隣接地にBEVと車載用蓄電池の新工場建設を発表した。約1500億円を投じて2025年から順次に開設し、インド市場への軽EV投入を計画している。世界販売の半分を占める屋台骨のインドからBEVの本格展開を始め、出遅れを巻き返す。 

 2022年8月、インドで、トヨタ自動車と共同開発するEVを2025年までに発売する。地場のタタ自動車はEVの増産に向け、米フォード・モーターの現地工場の取得を決めている。

 2023年1月、2030年度までにEVなど電動車開発に2兆円(うち5000億円は電池関連)を投資すると発表した。資本提携するトヨタ自動車との協業を深めながら、EVでの出遅れの挽回を狙う。
 主力市場インドでは、2024年度からSUVや軽EVを6車種投入し、2030年度までにEV比率を15%に高める。2025年までに西部グジャラート州でEV工場、2026年までに蓄電池工場を稼働させる。
 日本では小型SUVや軽EVを6車種投入する。2023年度中にトヨタやダイハツと共同開発した商用の軽EV発売に加えて、乗用車のラインナップを強化する。欧州でも5車種を発売する。日本では新車販売の2割、欧州では8割をEVにする。二輪車では8車種を発売し、EV販売比率を25%まで高める。

 2023年10月、韓国のLGエネルギーソリューション(LGES)とリチウムイオン電池の供給契約を締結。LGESが約30億ドル(約4500億円)を投じ、米国ミシガン州の同社工場にトヨタ専用の電池生産ライン(20GW/年)を新設する。2025年に稼働を始める。

 2024年9月、 2026年のEVの世界生産台数を100万台程度に縮小する。公表していた150万台より3割引き下げる計算となる。世界生産台数全体は2025年1020万台弱、2026年1070万台程度とし、そのうちEVは2025年が40万台強で、2026年にかけてさらに2倍以上へ増やす。
 トヨタ自動車のEV販売実績は2023年が約10万台、2024年が1〜7月で約8万台にとどまり、大幅な引き上げ計画ではあるが、従来見込んでいたペースよりは遅れる。一方で、PHVの生産は拡大する方針である。PHVもEVと同様に大容量の電池を搭載するため、EVが減速してPHVが伸長しても電池投資は回収できる。

 ダイハツ工業 

 2021年12月、2025年までに軽EVを国や自治体の補助金を活用して実質負担額100万円台で販売すると発表した。トヨタと連携しバッテリーなどの調達コストを抑え、2030年までに全ての国内新車販売をハイブリッド車(HV)を含む電動車にする。
 ダイハツは同年11月に、軽より車体の大きい小型車「ロッキー」のHVモデルを投入した。軽自動車でもEVに先がけて数年以内にHVを投入する。ロッキー用に開発したHVシステムを活用する。

 2023年5月、スズキ自動車、ダイハツ工業、トヨタ自動車は、3社で共同開発してきたバッテリEVシステムを搭載した商用軽バンのプロトタイプを公開した。航続距離は200km程度を見込み、車両はダイハツで生産が行なわれ、スズキ、ダイハツ、トヨタが、それぞれ2023年度内に販売予定としている。
 その企画には、CJPT(Commercial Japan Partnership Technologies)も参画して、効率的なラストワンマイル輸送に最適な仕様を追求し、配送業などのユーザーのニーズに応える車両を目指している。

図4 G7サミット展示イベントで公開された商用軽バン

マツダ

 2022年11月、2030年に向けて1兆5千億円を投資すると発表した。EV比率を従来(2021年6月公表)の25%から、25~40%と上方修正した。また、中国企業傘下のエンビジョンAESCグループと車載電池の調達契約も結び、2028~2030年に車載電池の生産に投資し、安定調達する。
 現状ではEV2車種の販売のみだが、開発を強化し2020年代後半にラインアップを拡充する。2025~2027年に中国でEVを投入し、世界にも拡大する。2027年頃には北米での生産も視野に入れる。

 2023年10月、2025年に米国で新型BEVを発売すると発表。既存の車体を使い、ガソリン車、BEV、PHEVなどを同一ラインで生産できるよう改修した防府工場で生産して輸出する。
 現在、世界で販売するBEVは日本と欧州で販売を続けている小型SUV「MX-30」と、中国で展開する「CX-30」の2車種で、2022年の世界販売台数は計約7500台で、全販売台数の1%に満たない。米国では、2021年に「MX-30」を発売したが、販売が伸びず終了しており、その代替となる。

 2024年2月、2018年に解散したロータリーエンジン開発グループを再立ち上げし、ロータリー技術の向上を目指す。電動車との相性が良いことや、水素や合成燃料(e-fuel)、液化石油ガス(LPG)、圧縮天然ガス(CNG)などのマルチ燃料に対応できるため、その可能性が再注目されている。
 2023年11月には、ロータリーを発電機として搭載するPHEV「MX-30 Rotary-EV」を発売している。

 2024年3月、パナソニックホールディングス(HD)子会社のパナソニックエナジーと、EV向け電池供給で合意した。2025年以降のEVに円筒形リチウムイオン電池を搭載する。国内でEVは1車種のみであるが、2030年には世界販売の25〜40%をEVにする計画で、2027年にはEV専用車台を使うモデルを投入する。
 既に、AESCグループやプライムプラネットエナジー&ソリューションズ(PPES)とも電池供給で連携している。

SUBARU

 2022年5月、BEV工場を新設すると発表した。スバル初の量産BEV「ソルテラ」を共同開発したトヨタ自動車の元町工場に生産委託するなどでEVシフトが遅れていたが、2025年を目途に群馬県矢島工場にBEV組立ラインを併設、2027年以降に大泉工場内にBEV生産建屋の建設を目指す。

 2022年12月、世界の新車市場でのPHEV販売が不振なため開発を中止し、電動車の品ぞろえをBEVとHEVに絞ると発表した。経営資源をBEVに集中し、今後5年間で約2500億円を投じる。トヨタ技術を利用した新型HEVを2020年代半ばに計画し、BEVが普及するまでのつなぎ役と位置付ける。

 2023年5月、BEVの国内生産能力を2028年以降40万台にすると発表。蓄電池はトヨタ自動車との連携を通じてグローバルで調達する。ガソリン車との混流生産を行い柔軟な生産体制を目指す。
 2026年までに矢島工場の生産能力を20万台、大泉工場内のBEV専用ラインでも20万台に生産能力を増強する。2022年に発売したソルテラを含めSUVタイプのBEV4車種を、今後は自社で生産する。また、BEVの世界販売は2026年に20万台を目指し、米国での生産を今後検討していく。

 2023年8月、米国で2027年にもBEVの生産を始めると発表した。自社生産のほか、トヨタ自動車への生産委託も検討しており、2030年までに合計1.5兆円を電動化へ投資する。2028年までに米国内で40万台のBEV販売を目指す。2030年までに世界販売台数120万台とし、EV比率は50%を目指す。
 蓄電池も米国内など生産地点に近いところから調達する。トヨタ自動車とのアライアンスを活用する方針だが、提携をしたパナソニックエナジーも調達先の候補になる。EVの車種も、これまでは2026年末までに多目的スポーツ車(SUV)4車種であったが、2028年末までにさらに4車種を投入する。

動き始めたEVの低価格化

 右肩上がりに拡大してきたEV市場であるが、2023年11月、米国で、EV平均価格が2割低下し、EV各社の業績の悪化が報じられた。欧州でも、EV需要の下振れが懸念されており、今後のEV市場の伸びが鈍化するとの見方から、欧米の自動車メーカーで急速に設備投資の抑制などが始まっている。

 すなわち、2023年10月、ゼネラル・モーターズ(GM)は、2024年半ばまでに40万台を生産する目標を撤回した。また、フォード・モーターも計120億ドルとなる投資の実施を延期する方針を示した。

 一方、2023年10月、フォルクスワーゲン(VW)は、ドイツ東部ザクセン州の2工場で約2週間のEV減産を行い、11月には、中東欧で稼働を予定していた蓄電池のメガファクトリーの建設を延期し、EV主力工場ツヴィッカウの生産ラインの一つを3シフトから2シフトに減らすことを発表した。

 EV市場の減速は、充電網の不足長い充電時間EV価格の高さが原因と考えられるが、欧州では補助金の給付や税制優遇などのインセンティブが段階的に打ち切られたことが大きな影響を与えている。加えて、国内では電気料金の高騰で充電サービスの値上げが相次いでおり、新たな課題である。

EVの価格帯

 現在のEV価格は、300万円以下で購入できる軽EVや超小型EV、400万~600万円前後の大衆車、600万~800万円前後の高級車、1000万円以上の超高級車の4つの価格帯に分類できる。

 EVのボリュームゾーンは、400万~600万円台の大衆車である。このクラスのガソリン車の価格は、100万~300万円である。EVの新車購入時には国・地方自治体による補助金などの優遇制度があるが、EVの価格はガソリン車の2~3倍と割高である。この高価格が一般消費者へのEV普及の妨げとなっている。

 航続距離と充電時間に一応の目途が立ったことで、400万~600万円台の大衆車を対象とした、低価格EVで躍進を続ける中国の比亜迪(BYD)や、2022年に日本市場に再参入した韓国の現代自動車、2022年頃から価格最適化を始めた米国テスラモーターズの動向が注目される。

 一方、一部の中国EVメーカーが先行していたが、国内でも軽EVに注目が集まり、2022年度のEV販売台数は前年度比3.1倍の7.72万台に達した。普通EV(排気量660cc超)の販売台数は前年度比47%増の3.55万台であったが、軽EVは前年度比48.4倍の4.16万台で、EV販売に占める割合が3.4%から54%へと急増した。

 すなわち、2022年6月に発売された日産自動車の「サクラ」と三菱自動車の「eKクロスEV」の軽EVは、蓄電池容量を下げて価格を230万~290万円台(国からの補助金:最大55万円)に抑えたことで販売台数が急進した。多様な顧客ニーズに合わせたラインアップが重要であることが再認識された。

 価格帯100万~200万円の軽自動車は、国内で一定のニーズがあった。代替となるEVが商品化されていなかったことが、「サクラ」の販売台数急進の原因である。しかし、一般消費者は燃料費・メンテなども含めてガソリン車並みの低価格をさらに期待している。
 国内のEVが乗用車全体に占める割合は2.1%(前年度は0.72%)に留まっており、20%に迫る中国や欧州に比べ、EV普及は明らかに遅れているのが現状である。

図1 主要なEVの価格帯  出典:東京電力エナジーパートナー

自動車メーカーの動向

 米国・中国・韓国の大手EVメーカーは、ボリュームゾーンである大衆車の低価格化を推進しており、今後の競争激化が予測される。一方、国内では軽EVに注目が集まり、自動車メーカーは配送業のラストワンマイル向け商用軽EVの商品化を推進しており、2024年には各社の軽EVが出揃う状況にある。

大衆車EVの低価格化

米国テスラモーターズ

 2023年8月、上位車種のセダン「モデルS」と多目的スポーツ車(SUV)「モデルX」に、航続距離の短い廉価仕様を導入して米国で発売した。「モデルS」は標準仕様では8万8490ドル(約1330万円)、航続距離:約650km。廉価版「スタンダードレンジ」は7万8490ドル(約1180万円)で、航続距離:約515kmである。
 バッテリーやモーターは標準仕様と同じで最高速度は変わらず、ソフトウエアで航続距離などを制限している。2022年頃から主力車種の「モデル3」スタンダードレンジ(RWD)の価格設定を420万~580万円で見直しており、競合に比べ割高だった価格設定を下げ、販売台数の拡大を優先している。

 一方、「モデル2」とも呼ばれている”25000ドル(約375万円)EV”については、ベルリン郊外の工場で生産する可能性を示しているものの、発売は2025年以降となる。

中国の比亜迪(BYD)

 世界シェア3位の車載用蓄電池メーカーであるBYDは、安価なリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)を改良したブレードバッテリーを開発し、低価格EVを実現させている。

 2023年1月、ミドルサイズe-SUV「ATTO 3(アットスリー)」を、440万円(税込)で国内発売を開始した。ブレードバッテリー(LFP容量:58.56kWh)を搭載したEV専用プラットフォーム「e-Platform 3.0」を採用し、電動機出力:150kW/310Nm、航続距離:485kmである。

 2023年9月、5ドアハッチバックタイプの小型EV「DOLPHIN(ドルフィン)」の日本販売を開始、EV専用のプラットフォーム「e-Platform 3.0」を採用し、LFP容量:44.9/58.56kWh、電動機出力:70kW/180Nm、航続距離:400/476kmである。価格:363/420万円(税込)。2023年下半期にe-Sedan「SEAL」の日本販売を予定。

図2 BYDの「 DOLPHIN Long Range(ドルフィン ロングレンジ)」 出典:BYD
韓国の現代自動車

 2022年5月、EV販売台数で世界第3位の現代自動車は、日本市場への再参入を発表した。日本が環境規制強化やZEV購入を後押しする政策を表明したためである。2001年に日本の乗用車市場に参入したが、販売が振るわず2009年に撤退した経緯がある。

 投入したクロスオーバーSUV型「IONIQ 5」は、479万円(税込)からで、蓄電池容量:58kWhで、電動機最高出力:125kW、航続距離:498kmである。コンパクトSUV型「KONA」は399.3万円(税込)からで、蓄電池容量:48.6kWhで、電動機最高出力:33kW、航続距離:456kmである。

図3 現代自動車の「KONA Casual(コナ・カジュアル) 出典:現代自動車
フランスのルノー

 現在欧州市場で一番安価なEVは、ルノーのサブブランドであるダチア「スプリング」で蓄電池容量:26.8kWh、航続距離:230km、価格は20,800ユーロ(約345万円)である。フランス政府のエコロジー補助金5,000ユーロが適応されて実際は15,800ユーロ(約260万円)となる。
 ダチアスプリングは、中国で生産される全長3.7m強のスモールEVで、2021年春に欧州に導入された。安価で機能的なSUVスタイルでEV販売台数トップ10に入るが、安全性には不安がある。

 2023年11月、自動車大手で初めてEV事業を分社化し、今回、新会社「Ampere(アンペア)」の事業戦略を発表した。成長が見込めるEV分野を切り分けて上場し、資金調達を容易として研究開発に集中投資する狙い。2024年上半期の上場を予定しており、先行する米国テスラや中国勢に対抗する。

 フランスに生産拠点を置き、2024年に「セニック」「“5”(サンク)」、2025年にSUV「“4”(キャトル)」、2026年に2万ユーロ(約330万円)以下の安価な小型EV「トゥインゴ」を発売し、2027~28年に、現在のガソリン車と変わらない価格の新型EVを実現する。開発は米国グーグルやクアルコムと連携する。

 ルノーが過半、日産自動車は最大6億ユーロ(約980億円)、三菱自動車は最大2億ユーロ(約330億円)をアンペアに出資し、3社連合が進めるEV開発を加速させる。日産自動車の欧州向け次期EVの小型車「マイクラ」(日本名マーチ)は生産をアンペアが行う。また、三菱自動車も欧州市場向けEVのOEM供給を受ける。
 ルノーは、2万ユーロ(330万円)未満の小型EVを、2026年までに発売すると発表している。

図4 安価な小型EV「トゥインゴE-TECHエレクトリック」(2026年発売)
出典:スマートモビリティーJP
フランスのステランティス

 2024年春、傘下のシトロエンは「e-C3」の発売を発表している。既にインドで発売されてるが、欧州モデルは44kWhのLFP(リン酸鉄リチウムイオン)蓄電池を搭載し、航続距離:320kmで、価格は2.33万ユーロ(約385万円)で、スロヴァキアの工場で生産する予定。
 現状、35,000ユーロ(約580万円)以上するプジョーe-208/e-2008やフィアット500e、オペルモッカEVと比べても格段に安い設定設定である。

 また、2020年に発売されたフィアット「500e」は、2023年にSUV版「600e」が追加された。 フィアットはパンダの後継車といわれるEVを、2024年7月に発表する予定。

ドイツのフォルクスワーゲン

 2023年10月、ドイツ東部ザクセン州の2工場で約2週間のEV減産を行い、11月には、中東欧で稼働を予定していた蓄電池のメガファクトリーの建設を延期し、EV主力工場ツヴィッカウの生産ラインの一つを3シフトから2シフトに減らすことを発表した。
 フォルクスワーゲンが計画する25,000ユーロ(約415万円)のEV「ID.2」は、2026年導入の予定である。

 2024年5月、2万ユーロ(約340万円)のEVを2029年に欧州市場へ投入すると発表。安価な中国メーカーの対抗する。価格を抑えるため、原材料や部品の現地調達を進める。 

軽EVの商品化

中国の上海汽車集団

 2021年に59.6万台を販売した上海汽車集団はEV比率が21%で、自社で大衆ブランド「栄威」などのEVを販売している。一方で、米国GM・上汽通用五菱汽車との合弁会社で安価(約50万円)な「武陵宏光MINI EV」を開発し、42.4万台(総販売量の71.2%)を販売する。
 ブレーキの簡素化、汎用半導体の活用など機能削減で低価格を実現、中国の地方都市を中心に販売。

ASFと中国の広西汽車集団

 2022年9月、広西汽車集団系が日本のEV設計企業ASFと組み、2023年に商用軽EVバン(積載重量:350kg)のリース販売を公表。ASFが設計・開発した電動機1基の後輪駆動車で、CATL製のリン酸鉄リチウムイオン(LFP)蓄電池を搭載し、航続距離:244kmである。傘下の柳州五菱新能源汽車が生産する。
 日本での販売窓口はASFで、国内の物流企業へ販売する。また、日本ロードサービス(JRS)と提携し、国内200カ所以上のサービス拠点で保守・整備を請け負う。

 2023年5月、ASFが販売する商用軽EVバン「ASF 2.0」について、コスモ石油マーケティングは「コスモMyカーリース」での取り扱いを始めた。日本の補助金を適用すると150万円以下と低価格で、リース形式で販売する。自動ブレーキなど各種の予防安全機能も搭載している。
 現在、佐川急便とマツキヨココカラ&カンパニーが合計で約40台を導入している。佐川急便は現在運用しているガソリン車の商用軽(約7200台)を、すべて新型車に入れ替える計画である。

図5 商用軽バン電気自動車「ASF2.0」 出典:AFS
日産自動車

 2022年6月、日産自動車と三菱自動車が、軽EVの発売を発表した。日産自動車「サクラ」三菱自動車「eKクロスEV」は、蓄電池容量:20kWhを抑えて、航続距離:最大180km、価格:230~290万円台(国からの補助金は最大55万円)と低価格を実現した。

 2023年4月、国内メーカーのEV販売台数の順位は、2022年6月発売の日産自動車「サクラ」がトップで約3.3万台で、2位は「リーフ」で約1.3万台で、3位は三菱自動車「eKクロスEV」で約7700台が売れた。多様な顧客ニーズに合わせたラインアップが重要であることが再認識された。

図6 日産自動車の軽EV「サクラ」
三菱自動車

 2022年11月、ワンボックスタイプの商用軽EV「ミニキャブ・ミーブ」の一般販売の再開を発表した。2011年に発売後、2021年3月に終了したが、物流業界や自治体からの需要が増えたためとしている。
 駆動用蓄電池(容量:16kWh)と、小型・軽量・高効率な電動機など実績のある「アイ・ミーブ」のEVシステムを搭載し、航続距離:133km、価格は243.1万~245.3万円(税込)である。

図7 三菱自動車の「ミニキャブ・ミーブ」 CD 16.0kWh 2シーター
本田技研工業

 2023年10月、GMと進める量販価格帯のEV共同開発の中止を発表した。価格を抑えたEVを、2027年以降に世界で販売する予定だったが、両社が独自に手がける方が合理的と判断した。2024年に「プロローグ」を北米で販売する計画は変わらず、高級車や無人タクシーを含む連携は継続する。 

 2023年10月、ヤマト運輸と本田技研工業は、交換式電池による商用軽EV「MEV-VAN Concept(エムイーブイバン コンセプト)」による集配業務の実証実験を始めた。群馬県内に1台を導入し、順次増やす。モバイルパワーパック8本を搭載し、日中に太陽光で発電した電力を充電する。
 交換式電池は充電式に比べてインフラ整備が容易で、充電に伴う車両の待機時間の削減や電力使用ピークの緩和が可能となり、集配効率を高めることができる。2024年春に発売予定の「N-VAN e:」は秋に延期され、最大積載重量:300kg、航続距離:210km以上、価格はガソリン車と同水準の100万円台をめざしている。

 交換式電池の搭載例:
■2022年10月、本田技研工業は、EVバイク向けに手動の電池交換ステーション「Honda Power Pack Exchanger e:」(全幅960×全高1820×奥行758mm)の販売を開始した。電池シェアリング事業のガチャコに納品され、1台目が東京都庁傍の西新宿第四駐車場で稼働を開始した。
建機メーカーのコマツと共同開発した電動小型ショベルに交換式電池が搭載されている。コマツは小規模な土木・建築工事や配管工事などでのニーズを見込んでいる。
交換式電池は中国やインドなど新興国で普及している。中国の新興EV大手、上海蔚来汽車(NIO)は充電設備の設置と並行し、電池を交換する拠点を増やしている。

図8 交換式電池による軽商用EV「MEV-VAN Concept」 
出典:ヤマト運輸

 2024年6月、軽自動車タイプの商用電気自動車(EV)「N-VAN e:」を、同年10月10日に発売する。同社の商用軽「N-VAN」(ガソリン車)をベースに開発した車両である。蓄電池容量:29.6kWh、航続距離:245kmである。 新型車は、電池の冷却・加温システムを搭載し、電池の性能低下を抑制する。
 乗用軽と同じ4席の「e: L4」と「e: FUN」、1席(運転席のみ)の「e: G」、2席(運転席と運転席側の後席)の「e: L2」の4種類が用意され、販売価格は4席タイプで269万9400~291万9400円(消費税込)。1席タイプと2席タイプはリース販売のみとした。 

スズキ自動車

 2023年1月、2030年度までにEVなど電動車開発に2兆円(うち5000億円は電池関連)を投資すると発表した。資本提携するトヨタ自動車との協業を深めながら、EVでの出遅れの挽回を狙う。
 主力市場インドでは、2024年度からSUVや軽EVを6車種投入し、2030年度までにEV比率を15%に高める。2025年までに西部グジャラート州でEV工場、2026年までに蓄電池工場を稼働させる。
 日本では小型SUVや軽EVを6車種投入する。2023年度中にトヨタやダイハツと共同開発した商用の軽EV発売に加えて、乗用車のラインナップを強化する。欧州でも5車種を発売する。日本では新車販売の2割、欧州では8割をEVにする。二輪車では8車種を発売し、EV販売比率を25%まで高める。

ダイハツ工業

 2023年5月、スズキ自動車、ダイハツ工業、トヨタ自動車は、3社で共同開発してきた蓄電池EVシステムを搭載した商用軽EVバンのプロトタイプを公開した。航続距離は200km程度を見込み、車両はダイハツ工業で生産が行なわれ、各社が、それぞれ2023年度内に販売を予定する。
 その企画には、CJPT(Commercial Japan Partnership Technologies)も参画して、効率的なラストワンマイル輸送に最適な仕様を追求し、配送業などのユーザーのニーズに応える車両を目指している。 
 しかし、2023年12月に発覚したダイハツ工業の認定試験不正による生産停止により、2024年1月、発売延期が発表された。

図9 G7サミット展示イベントで公開された商用軽EVバン
HW ELECTRO

 スタートアップ企業のHW ELECTROは、2021年7月に小型商用EVトラック「ELEMO(エレモ)」を発売した。米国に本拠を置く中国系自動車メーカーの杭州容大智造科技のEVをベースに開発した。
 最大積載量:0.4~0.65トンの「ELEMO(エルモ)200」(蓄電池容量:26kWh)は、普通充電で満充電まで約8時間、航続距離:200km、ボックスタイプで347.6万円(税込)である。

 また、最大積載量:350kgの「ELEMO-K(エルモ・ケー)」(蓄電池容量:13kWh)は満充電まで約6時間、航続距離:120km、両側スライドドアタイプで249.7万円(税込)である。
 現在、航続距離を200kmまで伸ばし、価格を200万円程度(税別)に抑えた新型商用軽EV「PUZZLE(パズル)」のコンセプト車を、「ジャパンモビリティショー2023」で公開。2025年春までの発売を目指す。

図10 HW ELECTROの小型EVトラック
ボックスタイプ「ELEMO 200」
フォロフライ

 2024年5月、2021年創業のフォロフライは積載量が1.5トンと2.5トンのEVトラック「F2」の開発を発表。航続距離は1.5トンモデルで250km、補助金利用でエンジン車に近い低価格とし、2025年の量産開始をめざす。
 これまで中国など海外メーカーの車台をベースに、日本での規制や用途に対応したに積載量が約1トンの「F1」5車種を発売してきた。スーパーやコンビニエンスストアの拠点間の商品配送や工事関連など幅広い用途での活用を見込んでいる。

低価格EVの課題

 2023年10月、欧州連合(EU)は中国製EVが国からの補助金で価格を抑え、欧州市場での競争をゆがめているとみて、中国製のEVに対して正式に調査を始めた。EU規則では、外国からの補助金を受けた輸入品によりEUの産業が不公正な競争にさらされ、損害を受けたと認定されれば関税上乗せなどの措置をとる。

 欧州委員会は、調査はEUと世界貿易機関(WTO)の規則に沿って行われ、中国政府やメーカーも意見や証拠を出すことができるとしているが、中国側は強く反発している。

 EU調査の背景には、中国製EVの輸入台数の爆発的な増加があげられる。2022年に中国はEU最大の自動車輸入国となり、2018年比で輸入金額は約24倍、台数は約4倍に伸びた。2022年に中国からEUへ輸出されたEVは約37.1万台で、2020年の約4.6倍になり、輸出金額は約83億ユーロに達している。

図11 2018~2022年のEUの中国からの乗用車の輸入台数および輸入額
出典:欧州自動車工業会

 中国の自動車関連投資は、吉利汽車によるボルボの子会社化など企業買収が主であったが、近年は拡大する欧州EV市場を重要市場と位置付け、EVバリューチェーン全体で展開している。EV価格の1/3を占める蓄電池では、寧徳時代新能源科技(CATL)や蜂巣能源科技(SVOLT)などの欧州進出が進んでいる。

 現在、中国は米国でのEV関連投資の難しさから、今後も欧州での事業拡大を進めるとみられ。貿易摩擦はさらに激化する可能性が高い。一方、欧州EVメーカーも、EV価格の1/3を占めるとされる蓄電池に関して、原材料を含めて世界的な蓄電池サプライチェーンの優位性を持つ中国とは離反できない難しさがある。

■高級車を対象にして、高価格EV路線を継続してきたる欧州のEVメーカーにも責任がある。回避するには、フランス・ルノーの「アンペア」のような大きな方針転換が必要である。中国への過度の依存は、政治的理由による調達中断のリスクを伴う。日本のEVメーカーにも同じことがいえる。
■一方、低価格の軽EV開発に関しては、蓄電池を握る中国に一日いちじつちょうがある。対抗するために、スズキ自動車・ダイハツ工業・トヨタ自動車が進めた共同開発は有効である。さらに、開発した蓄電池EVシステムを中国に依存する国内企業に提供し、多様な顧客ニーズに対応できないか。
■本田技研工業の進める交換式電池は、電池交換ステーション込みで開発を進める必要がある。経済的に成立させるためには、ある程度のEV台数を整える必要がある。個別企業に任せるのではなく、国や地方自治体が積極的に関与して、EV化率(2022年時点で2.1%)を上げる必要がある。

EVバスの開発動向

 バスなどの大型商用車には電動バス(EVバス)よりも燃料電池バス(FCバス)が適しているとして、経済産業省などが2017年に発表した水素基本戦略では「FCバスは2020年度までに100 台程度、2030 年度までに1200台程度の導入」の目標を掲げた。しかし、EVバスの国内台数は2023年3月末時点で252台である。

 しかし、世界市場はFCバスではなく、電動バス(EVバス)が席巻している。国際エネルギー機関(IEA)によると、2021年に販売されたEVバスは約9万台で中国と欧州が先行している。2030年には300万~500万台に増加し、バス全体の16%ほどを占めると予想している。

EVバスの普及動向

二つの失敗

 バスなどの大型商用車には電動バス(EVバス)よりも燃料電池バス(FCバス)が適しているとして、経済産業省などが2017年に発表した水素基本戦略では「FCバスは2020年度までに100 台程度、2030 年度までに1200台程度の導入」の目標を掲げた。『未来予測の第一の失敗である。』

 しかし、世界市場はFCバスではなく、電動バス(EVバス)が席巻している。国際エネルギー機関(IEA)によると、2021年に販売されたEVバスは約9万台で中国と欧州が先行している。2030年には300万~500万台に増加し、バス全体の16%ほどを占めると予想している。

 日本自動車輸送技術協会による2023年度の国内のEVバス導入補助金は、ハイブリッド車を除くと補助対象15機種のうち10機種が中国製EVバスである。日本製はEVモーターズジャパンの5機種(但し、中国で製造)で、トヨタ・日野・いすゞ自動車はハイブリッド車が対象に登録されているのみ。

 トヨタ・日野・いすゞ自動車がEVバス導入補助金の対象機種を登録できず、生産量が限られる新興のEVモーターズジャパンのみに頼っている状況では、国産EVバスの普及は望めない。その結果、国内では中国製EVバスを選ばざるを得ない状況が続いている。『未来予測の第二の失敗である。』

国土交通省のやる気は?

 現在、国土交通省自動車局の示す「電動バス導入ガイドライン」は、2018年12月に作成された内容のままで、「地域交通グリーン化事業を平成23年度に創設以降、これまで計30台の導入支援を実施」と胸を張っているだけで、本当にEVバスを普及させる気があるのか疑問である。

 そのため、2023年5月にジャパンバスネットは国土交通省の「電動バス導入ガイドライン」により、国内で導入されているEVバスには、次のようなものがあると紹介している。

表1 国内で導入されている代表的なEVバス(2018年時点での状況

 日野ポンチョEVは、2011年に日野自動車が製造したEVバスで、現在も国内の路線バスなどで稼働している。日野ポンチョEVの導入事例として、東京都羽村市(2011年導入)や東京都港区(2017年導入)のコミュニティバスがあげられる。

 また、中型路線バスのいすゞエルガミオは宮城県気仙沼市(2013年東日本旅客鉄道が導入)、大型路線バスはいすゞエルガ(改)は三重県伊勢市(2013年三重交通が導入)で、EVバスに改造されて国内路線を運行している。『過去を振り返ることは重要な場合もあるが、今はその時ではない。』

 2020年代に入り、中国メーカーのEVバスが低価格を武器にシェアを急速に伸ばしている。中国BYDの小型BEバス「J6」は1950万円、大型BEバス「K8」は3850万円で、国内のディーゼルバスと同等の価格であるが、国土交通省によると国内メーカーのEVバスは6000万円~1億円である。
 また、中国メーカーはEVバスの導入時に必要な充電ステーションの設置や、車両のメンテナンスなどをパッケージ化し、ワンストップでのサービスを提供している。

 自動車検査登録情報協会によると、2023年3月時点の国内の電気バスの保有台数は252台にとどまる。バス運行事業者で作る日本バス協会は、2030年にEVバス1万台の導入目標に掲げているが、市場の大半は中国BYDなどの海外勢が押さえている。

主要メーカーの動向

比亜迪(BYD)

 製造・供給で優位に立つのは比亜迪(BYD)などの中国メーカーで、低価格と技術力で圧倒している。2019年3月、国内バス市場に中国の大手EVメーカーであるBYDの日本法人BYDジャパンが、安価なリン酸鉄リチウムイオン電池を搭載した4車種を市場投入した。

 BYDは世界でEVバス5万台以上を普及させ、シェア拡大中である。小型バス「J6」(全長:6.99m、乗車定員:31名、航続距離≥150km、電池容量:105.6kWh)から、大型バス「K8」(全長:10.5m、乗車定員:81名、航続距離:220km、電池容量:287kWh)まで4車種をラインアップしている。

 2021年12月、京都市では京阪バスが市内循環バスに4台のBYD製EVバスを導入した。2022年4月、大阪府でも阪急バスが2台のBYD製EVバスを導入した。大手日本メーカーはEVバスを量産化できず、自治体などが脱炭素化に向けて中国製を選ばざるを得ない状況が続いている。 

図1 BYDの大型EVバス「K8」

 2023年2月、日本で販売するBYD製EVバスの部品に六価クロムを使用していると発表。運行中などに人体や環境への影響はないとし、乗客らのさらなる安全や安心のため、2023年末に発売を予定するEVバスの「J6」と「K8」の新型モデルでは、六価クロムの使用をやめると発表した。

 2023年11月、日本市場向けに開発した9mサイズの中型EVバス「J7」を発表。2024年1月から予約、2025年秋に納車を開始する。2030年までに小中大型で累計4000台のEVバス販売を目指す。ブレードバッテリを搭載することで、高い安全性、車室内空間拡大によるフルフラット化、高い航続距離性能を実現した。

 「J7」の特徴は、全長8.99m、全幅2.3m、全高3.255mで、定員:最大61人。リン酸鉄リチウムイオンバッテリ(蓄電池容量:192.5kWh)を搭載し、航続距離:約250km。充電方式はCHAdeMO(≦90kW)に対応し充電時間:約2.5時間。2023年末から「J6」「K8」にもブレードバッテリ搭載の新型車が納入予定

現代自動車

 2023年12月、韓国の現代自動車が、2024年後半にも、日本で電気バスを発売する方針であることが公表された。韓国で2023年に発売した全長9m級の中型バス「エレクシティタウン」の販売を予定している。

 2024年7月、日本で中型EVバス「エレクシティタウン」を2024年末に発売すると発表。路線バスでの利用を想定する。鹿児島でバス事業を展開する岩崎産業に5台納入し、価格は4700万〜5000万円の予定。
 充電規格を日本で主流の「CHAdeMO」に変え、右ハンドルにし、全長:約9mで、90kWの2基同時充電に対応し、航続距離:約230km。非常時にEVから電力を供給する「ビークル・ツー・ホーム(V2H)」にも対応し、災害の多い日本のニーズに応えた。現代自動車は韓国で累計3000台以上のEVバスの販売実績がある。 

いすゞ自動車と日野自動車

 2021年6月、日野自動車はBYDから小型EVバス「J6」についてOEM供給を受け、小型EVバス「ポンチョ Z EV」の販売を2022年に行うと公表した。自前の開発を待たずに、BEバスを市場投入するだけの需要の高まりを認識したのであろう。

図2 日野自動車の小型EVバス「ポンチョ Z EV」

 2022年2月、いすゞ・日野自動車は大型EVバスの生産を2024年に始めると発表。いすゞ自動車が車両開発、両社が折半出資するジェイ・バスが生産する。いすゞ自動車の大型路線バス「エルガ」、日野自動車の「ブルーリボン」についてEVバスのラインアップを進める計画である。
 一方で、同日、このBEバスをベースにして、いすゞ自動車と日野自動車は、トヨタ自動車のFCVシステムを活用したFCバスの開発を検討することも発表した。

 2022年3月、いすゞ・日野・トヨタ自動車は、3社で立ち上げたCommercial Japan Partnership Technologiesとも連携し、EVバスのラインアップを拡充し、車両コストの低減に取り組むと発表。

 2023年2月、日野自動車が小型EVバス「ポンチョ Z EV」の発売を凍結した。OEM供給する中国BYDが、六価クロムを使用していたとの報道が原因である。
 六価クロムめっきは防錆ぼうせいの目的で鋼板の表面処理に使われるが、毒性が強いため日本自動車工業会(JAMA)は2008年から使用を禁止してきた。欧州連合(EU)のRoHS(特定有害物質の使用制限)指令でも電気・電子機器への使用が禁じられている。

 2024年5月、いすゞ自動車は、都市型モデルの路線バス「エルガEV」を発売。航続距離:360km(30km/h走行時)、乗車定員:70人、車内後部の段差をなくして床はフルフラットで、高齢者などにも優しい設計にした。
 LIBは屋根上と車体後部床下の2カ所に配置した。全国のバス事業者向けに150台/年の販売を目指す。東京地区の希望小売価格は6578万円。郊外型の「エルガEV」も近く発売する。

 2024年8月、いすゞ自動車は2030年までに、EVバスの生産能力を現在の200台/年から500~1000台/年に引き上げる。2025年の大阪・関西万博で性能をアピールし、2026年には約30~40人乗りの中型も投入する方針で、いすゞ自動車と日野自動車の合弁会社「ジェイ・バス」が製造する。
 希望小売価格は約6600万円(税込)で、国内シェア約8割の中国BYDより2000万円程度高い。補助金なども活用できるが、量産によるコスト削減で巻き返しを図るとしている。

図3 いすゞ自動車が発売したEV路線バス「エルガEV」 出典:いすゞ自動車

 2024年10月、日野自動車は、路線EVバス「日野ブルーリボン Z EV」を発売した。車内後部まで段差をなくして床を平面にし、高電圧バッテリーパックは屋根上と最後部の座席下に設置した。モデルは都市型で航続距離は360km、乗車定員は70人で、価格は非公表である。

図4 EV路線バス「日野ブルーリボン Z EV」 出典:日野自動車

EVモーターズ・ジャパン

 2019年4月、北九州市で創業したスタートアップのEVモーターズ・ジャパンは小型EVバス「F8 series-4 Mini Bus」(全長:6.99m、定員:29名、航続距離:290km、基準価格:780.0万円)を2021年春に発売した。しかし、製造は中国企業に委託している。

 2020年夏に大型EV路線バス「F8 series2-City Bus」(全長:8.8m/10.5m、定員:48人 /78人、航続距離:280km/280km、基準価格:1537.1/1322.6万円)、同年冬には大型EV観光バス「F8 series-6 Coach」(8.8m、35人、280km、1525.4万円)をラインアップした。

 2022年10月、EVバス組み立て工場を北九州市に建設すると発表した。40億円程度を投資して2023年1月に着工し、年末までの稼働を目指す。現在は中国企業に製造委託し、完成車を輸入しているが、日本向けに国内での組み立てを目指す。
 生産能力は2023年は数台、2024年中に200台規模に引き上げ、2025年以降に1500台に高める。

 2023年1月、伊予鉄バスへ、国内企業が開発・製造を実施した初の大型EV路線バスを納車した。松山市駅~川内・さくらの湯 間を運行する。同年2月、那覇バスへ大型EV路線バスを納車した。

 2023年8月、関西電力はEVモーターズ・ジャパンと販売代理店契約を結んだと発表。関西電力グループが手掛ける車両整備やリース事業、充電効率化システムの知見を生かし、2022年には、関電グループが出資して資本業務提携を結んでいる。

図5 2022年夏に発売された大型EV路線バス(F8 series2-City Bus)

 2024年10月、2025年春に北九州の組立工場で生産を開始し、新型EVバス3車種を日本で発売する。国内生産の第1弾はEV大型バス(約5000万円)で、その後、EVマイクロバス(約3000万円)、EV乗り合いバス(1500~1600万円)も北九州市の組立工場で造る。
 EVマイクロバスは、全長:5990mm(高床:乗り降りのステップ付き)と、全長:6990mm(高床と低床:ノンステップ式)の3タイプである。いずれも電動アクスルを後輪軸に搭載する後輪駆動車である。

EVバスの導入状況

 2022年7月、Osaka Metro は、2022~2024年度にかけてEVバス100台(大型65台、小型35台)を導入し、2025年大阪・関西万博会場内外の輸送を目指すとともに、万博閉幕後の市内での路線バス・オンデマンドバスに活用すると発表。
 また、EVバスの円滑な運行と効率的な充電を両立させるため、2022~2030年度まで間で運行管理システム(FMS)を開発し、車両への充電を制御する電力管理システム(EMS)と連動させる。導入する100台のうち10台程度を自動運転化し、レベル4相当での運行を目指すとしている。

 2022年10月、機械商社アルテックはトルコのカルサン製EVバス「e-JEST」を輸入し、日本での需要調査を開始した。全長:6m未満、定員:22人の低床型の小型バスで、BMW製の蓄電池やモーターを搭載し、航続距離:210kmで、ブレーキアシストシステムなど7種類の安全機能を備える。
 自治体などの需要を想定し、点検・整備でJRバス関東と連携する。e-JESTは欧州の小型EVバス市場で2021年に5割のシェアで2年連続首位、約20カ国で450台以上を販売している。

 2023年2月、BYDジャパンが国内に納入したEVバスは100台に達し、BYDの六価クロム問題は導入企業に少なからず影響を与えた。大型BEバス「K8」を2台導入する西武バスは、一時路線への投入を見合わせ、小型BEバス「J6」を4台導入した京阪バスは詳細の確認に追われた。

 2023年3月、京王グループの西東京バスは、BYDの大型EV路線バス「K8」を3台導入すると発表した。東京都内の乗合路線バスでは初の採用である。

 2023年3月、東京都渋谷区が運行するコミュニティバス「ハチ公バス」で、EVモーターズ・ジャパン製のEVバス「F8 series-4 Mini Bus」2台の運行が、渋谷駅から明治神宮・千駄ケ谷などを経て再び渋谷駅に至る神宮のもりルートで開始された。

 2023年8月、全国でEVバスの導入が相次いでいると報じられた。自動車検査登録情報協会によると、国内で稼働するEVバスは2022年3月末時点で約150台であったが、2023年4月末までの直近1年超では100台以上が納車された。背景には脱炭素の動きを受けた政府や自治体の補助金がある。
 政府は2022年度まで、EVバス導入費用の最大1/3を補助してきた。一般的な大型ディーゼルバスの価格は2500万円程度に対し、中国BYDのEVバスは3850万円で、自治体の補助金も併用すると安く導入できる。また、ディーゼルバスに比べて燃料費も減らせることが普及を促している。

 2023年11月、岡山の両備ホールディングスは、台湾バスメーカーの成運汽車製造有限公司(Master Transportation Bus Manufacturing)とEVバスを日本で独占販売する基本合意書を締結した。両備グループの路線バスにも導入すると共に、2025年までに日本で1000台以上の販売を目指す。
 高速充電が特長で、15分で電池の残量が20%から80%になる。両備HDには整備士を抱える「テクノモビリティーカンパニー」があり、エンジン車を電気自動車に改造するEVコンバージョン事業も手がけており、2024年初頭にモデル車両を輸入して日本仕様に整備する手順を確認する。 

図6 各年度(3月末時点)での国内のEVバスの累計台数
出典:自動車検査登録情報協会、日経推計

 2024年4月、東日本でバスやホテル事業を展開するみちのりホールディングスはBYD製EVバスを使用しているが、2025年度からEVバスにいすゞ自動車製を導入する。運転手の勤怠管理や充電を一体で行うシステムも開発する。いすゞ車両は車内がオールフラットで、高齢者や障害者が乗りやすい仕様である。
 現状、補助金なしの場合の一般的なEVバスの車両価格はディーゼルバスより5割ほど高い。中でも高額なバッテリーは車両自体よりも耐用年数が短く、交換にかかるコストの計上も必要であり、実際にどの程度のコストになるか、車両運行に支障が出ないかの本格的な検証は始まる。

結論:EVバスは売れる!

 EVトラックに関しては、国内でもトラック規制が始まり、EVトラック需要は高まるため間違いなく売れる。実際に、2021年から国内物流大手のEVトラック導入が始まったことからも明らかである。しかし、EVバスはどうであろうか?

 2023年2月、EUの欧州委員会は、トラックやバスといった大型車の新しい排出規制案を公表した。2030年以降に新車販売される大型車はCO2の排出を2019年比で従来の30→45%削減へ、2035年は65%削減、2040年以降は90%削減とする内容で、今後、欧州議会での議論を経て成立を目指す。

 EVバスもEUを中心に規制が強化され、既に、欧米中でのEVバス需要は高まっている。その結果、世界的にはまず都市部を中心にEVバスは普及するであろう。しかし、国内では大手バスメーカーの市場投入が遅れたことで、BEV普及が遅れていると同様にEVバスの普及も遅れる。
 EVバスは都市部の市内循環に始まり、用途に応じて中・長距離運行用のEVバス/充電スタンドの整備が進み、時間をかけてFCEVバス/水素ステーションにまで市場は拡大する。

 2023年1月、日本バス協会は、2030年までに累計1万台のEVバスを業界内で導入する目標を示し、2023年はEVバス元年になると表明した。国土交通省は、2023年度の補助率を導入費用の最大1/2に高めたほか、補助予算も前年度の約10倍にあたる100億円規模(約500台分)に引き上げた。

 自動車検査登録情報協会によると、国内のEVバスは2022年3月末時点で149台にとどまる。現在は中国BYD製が大半を占めるが、EVモーターズ・ジャパンが2023年末に国内組み立て工場を稼働させる計画、2024年度に国産バスメーカーの量産も計画されるなど関心も高まりつつあるとしている。

 最大の課題はEVバス価格である。安価な蓄電池をベースとした低コストの中国製EVバスが導入されて実績を積んでおり、周回遅れの国内メーカーは太刀打ちできずに敗退することが目に見える。政府は法規制と国内産業育成のための支援策を、タイムリーに発動する必要がある。
 普通乗用車と異なりバスの買い替え寿命は20~30年と長い。一度、導入されて都市交通システムに組み込まれた中国製EVバスが実績を積むと強敵となる。 

 ところで、2022年6月から西日本鉄道は、住友商事を通じて台湾のEVバスメーカーのRACエレクトリック・ビークルで既存のディーゼルエンジン・バス1台を電動化して、北九州市で運行した。
 2023年6月には、RACエレクトリック・ビークルの技術指導を受け、西鉄グループの西鉄車体技術が改造した「レトロフィット電気バス」2台が、天神や博多駅周辺などで運行開始した。
 リチウムイオン電池は合計10パック(容量:235kWh)を搭載し、航続距離:140km程度、満充電に6~7時間を要する。改造費:約1800万円/台である。西鉄は2023年度、福岡地区で16台と北九州で4台、計20台のレトロフィット電気バスを導入する計画である。

 通常、新車のディーゼルバスは2500万円ほどで約25年使える。レトロフィット電気バスは約1800万円だが、改造後の使用期間を10年程度と考えるとまだ割高感があるとしている。しかし、ディーゼル車からEVバスへの過渡期においては必要な技術であり、事業性が注目される。

図7 西日本鉄道の既存のバスを改造した「レトロフィット電気バス」

 将来の大型バスは燃料電池バスと考え、2018年3月にトヨタ自動車はFCバス「SORA」を発売した。そのため、国内の大手バスメーカーによるEVバスの量産化が遅れた節がある。「未来予測の失敗である!」
 一方、FCバスは東京オリンピックを目指して東京都で導入が進められたが、高コスト(1億円/ 台)と水素ステーションの設置が地方で遅れたため、普及には至っていないのが現状である。

EVトラックの開発動向

EVトラックは売れるのか? 

 物流大手の脱炭素化に向けたEVトラック採用の動きが活発化し、2022~2023年に主要な国内メーカーが小型EVトラックの市場投入を本格化させている。
 世界で初めて小型EVトラック「eCanter」を発表した三菱ふそうトラック・バスは、全面改良して28型式(海外市場モデルは約80型式)のラインナップを実現、日野自動車は超低床・前輪駆動の小型EVトラック「日野デュトロ Z EV」を発売、いすゞ自動車は小型EVトラック「ELF-EV」を発表した。

物流大手のEVトラック導入

 2021年4月、佐川急便は、中国の広西汽車集団から小型EVトラックを7200台導入すると発表した。2020年6月からベンチャーのASF(株)と共同で企画開発を進めており、2022年9月から導入を開始、価格は130~150万円台、2030年度までに段階的に切り替える計画である。

 2021年10月、物流大手のSBSホールディングスが、中国のEVトラック1万台を導入すると発表した。スタートアップのフォロフライ(株)が中国の東風汽車から輸入・販売するBEトラック(最大積載量:1トン級)について、航続距離の短いラストワンマイル事業での導入を決定した。
 1号車の導入以降、SBSグループはフォロフライに実用化に向けた仕様変更をフィードバックし、2023年5月にプロトタイプが完成して導入が本格化する。フォロフライEVは平均200~220㎞の連続航送を達成し、ファブレス生産方式で車両単価はディーゼル車並み(約380万円)としている。

 2022年7月、ヤマトホールディングスは、日野自動車の小型EVトラック「日野デュトロZEV」(最大積載量:1トン)を500台導入すると発表した。8月から首都圏を中心に順次導入し、ラストワンマイル配送に利用する。ヤマトHDは配送車のEV化を進めており、2030年までに2万台導入する計画。

 2023年9月、ヤマトホールディングスは、三菱ふそうトラック・バスの小型EVトラック「eCanter(eキャンター、最大積載量:2トン)」の新型モデルを約900台導入すると発表した。ヤマト運輸が2024年3月までに全国で順次投入し、航続距離の短いラストワンマイル輸送に活用する。
 従来型に比べて小回りが利くよう改良し、街中での集配に対応しやすくなった。約8時間の通常充電で116km走行できる。荷台には常温・冷蔵・冷凍の3室を備えた。

 2023年10月、ヤマト運輸と本田技研工業は、交換式電池による商用軽EV「MEV-VAN Concept(エムイーブイバン コンセプト)」による集配業務の実証実験を始めた。群馬県内に1台を導入し、順次増やす。モバイルパワーパック8本を搭載し、日中に太陽光で発電した電力を充電した交換式電池を使用する。
 交換式電池は充電器に比べてインフラ整備が容易で、充電に伴う車両の待機時間の削減や電力使用ピークの緩和が可能となり、集配効率を高めることができる。2024年春に発売予定の「N-VAN e:」は、航続距離:210km以上、価格はガソリン車と同水準の100万円台を目指している。

 交換式電池の搭載例:
■2022年10月、本田技研工業は、EVバイク向けに手動の電池交換ステーション「Honda Power Pack Exchanger e:」(全幅960×全高1820×奥行758mm)の販売を開始した。電池シェアリング事業のガチャコに納品され、1台目が東京都庁傍の西新宿第四駐車場で稼働を開始した。
建機メーカーのコマツと共同開発した電動小型ショベルに交換式電池が搭載されている。コマツは小規模な土木・建築工事や配管工事などでのニーズを見込んでいる。
交換式電池は中国やインドなど新興国で普及している。中国の新興EV大手、上海蔚来汽車(NIO)は充電設備の設置と並行し、電池を交換する拠点を増やしている。

図1 交換式電池による軽商用EV「MEV-VAN Concept」 
出典:ヤマト運輸

 以上のように、物流大手の脱炭素化に向けたEVトラック採用の動きが活発化し、2022~2023年には主要な国内メーカーが小型EVトラックの市場投入を本格化させている。

国内メーカーの動向

三菱ふそうトラック・バス

 2017年、世界で初めて量産化された小型EVトラック「eCanter」を世界市場へ向けて発表した。
 2023年3月、全面改良した新型「eCanter」の受注を開始した。中国・寧徳時代新能源科技(CATL)製モジュール式リチウムイオン電池(41kWh)を搭し、ラストワンマイル輸送から長距離輸送まで用途に応じた航続距離が選べ、モーターを後軸に統合した自社開発のeアクスルに特長がある。

 総重量5~8トン級(海外モデルは4~8トン級)の車種を揃え、キャビン(乗員室)幅を標準幅・広幅・拡幅の3種類、ホイールベース(車輪間隔)は2.5m・2.8m・3.4m・3.85m・4.75mの5種類とし、28型式(海外市場モデルは約80型式)をラインナップした。価格は1370~2005万円(税込)。

 ホイールベースの長さに応じて蓄電池モジュールを1 ~ 3 個まで搭載できる。航続距離は電池モジュール1個搭載の標準幅キャブで116km、2個搭載で約236km、3個搭載の広幅キャブと拡幅キャブで324kmである。普通充電と急速充電に対応している。

図2 三菱ふそうトラック・バスの新形の小型EVトラック「eCanter」

 2023年10月、EVトラック向けに米国Ample(アンプル)が開発した電池交換ステーションと、同社の交換用電池モジュールを搭載した小型EVトラック「eCanter(eキャンター)」を「ジャパンモビリティショー2023」で公開。
 現在、ロボットが自動で蓄電池を交換する実証実験を進めており、2023年冬に日本で試験車両の走行を行う予定。電池の交換時間は最短で5分を目指している。一般に小型EVトラックを日本国内で充電する場合、普通充電で10時間前後、急速充電でも1~2時間程度を要する。

 2024年8月、電池交換式のEVトラック「eキャンター」の公道実証実験を8月下旬に京都市内で始める。アンプルが設けた専用ステーションで、ロボットにより5分間で自動的に電池交換し、充電で配送効率が落ちる弱点を補う。ヤマト運輸など2社にトラックを1台ずつ提供し、京都市内の集配業務などで11月末まで試験運用する。

日野自動車

 2022年6月、超低床・前輪駆動の小型EVトラック「日野デュトロ Z(ズィー) EV」を発売した。荷室に直接移動可能なウォークスルーバン型、用途に応じた荷台を架装できるキャブシャシ型がある。
 ウォークスルーバン型では、総重量:3.49トン、最大積載量:1トン、リチウムイオン電池(容量:40kWh)、航続距離:150kmである。普通充電と急速充電(CHAdeMO方式)に対応している。

 しかし、2022年8月、エンジン性能試験を巡る不正により、商用車の電動化を目指すコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジー(CJPT)から除名され、EVトラック、EVバスなどの拡販が大きく遅れる可能性がある。

図3 日野自動車の小型EVトラック「日野デュトロ Z EV」
いすゞ自動車

 2023年3月、小型EVトラック「ELF-EV」の量産を、今年夏から発売すると発表した。韓国LG Energy Solution製リチウムイオン電池(容量:40~100kWh)を搭載し、短距離の宅配などでの使用を想定している。蓄電池の温度管理を自動で行い寒冷地での走行も可能としている。

 普通免許で運転可能な総重量3.5トン車がLIB2個搭載(40kWh)、5トン限定準中型免許で運転可能な総重量5トン車がLIB3個搭載(60kWh)、準中型免許や8トン限定中型免許で運転可能な総重量7.5トン車がLIB5個搭載(100kWh)、普通充電と急速充電にも対応し、航続距離:最大170kmである。

図4 いすゞ自動車の小型EVトラック「ELF-EV」

 2023年5月、トヨタ自動車、いすゞ自動車、スズキ自動車、ダイハツ工業が共同出資するCommercial Japan Partnership Technologies(CJPT)が、東京都で商用EV普及に向けた社会実装を始動すると発表。物流事業者などと協力し、充電・水素充填タイミングと配送計画の最適化を目指す。
 2023年4月に東京都内の配送向け小型FCトラック約190台の導入を皮切りに、2023年度中に商用EV軽バン約70台小型EVトラック約210台、2025年中に大型FCトラック約50台を東京を中心とした幹線物流(関西-関東-東北)向けと、順次に約520台のを導入を進める。

 2023年11月、電池交換式EVトラックの事業化を発表した。EVトラックは充電に10時間程度を要し配送効率が落ちるのを解消するため、3分程度で電池交換が可能な車両を開発し、ロボットによる取り換えインフラも自社で運用する。
 開発した蓄電池交換の「無人ステーション」は、物流企業の配送拠点や給油所に設置することを想定し、小型EVトラック「エルフ」をベースにした車両を開発して、2025年に実証実験を始める。

2024年7月、8月から小型、2026年に中型EVトラックの売り出しを公表。日本から部品を輸出し、米国の協力工場で組み立てる。米国は2027年から自動車排ガス基準を段階的に厳しくする。調査会社P&Sインテリジェンスでは、米国のEVトラック市場は2023年の約7億ドルから、2030年に151億ドルまで急拡大する見通し。
 小型トラックの航続距離は主力車種で109〜209km、価格がエンジントラック(2トン車で600万円程度)の約2倍と高く、リース販売を中心とする予定。S&Pグローバルモビリティによると、米国のトラック市場に占めるEVの比率は中大型で0.5%に満たない。ピックアップトラックなどを含む小型でも6.6%にとどまる。 

 2024年8月、いすゞ自動車と三菱商事は2025年春にタイで、バッテリー交換式EVの実証事業を、両社の現地法人などを含む5社が連携し、2027年末まで実施する。経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業」に採択され、いすゞ自動車が開発した電池交換ステーションEVトラックが用いられる。

HW ELECTRO(株)

 スタートアップ企業のHW ELECTROは、2021年7月に小型商用EVトラック「ELEMO(エレモ)」を発売した。米国に本拠を置く中国系自動車メーカーの杭州容大智造科技のEVをベースに開発した。
 最大積載量:0.4~0.65トンの「ELEMO(エルモ)200」(蓄電池容量:26kWh)は、普通充電で満充電まで約8時間、航続距離:200km、ボックスタイプで347.6万円(税込)である。 
 また、最大積載量:0.35トンの商用軽EV「ELEMO-K(エルモ・ケー)」(蓄電池容量:13kWh)は満充電まで約6時間、航続距離:120km、両側スライドドアタイプで249.7万円(税込)である。
 現在、航続距離を200kmまで伸ばし、価格を200万円程度(税別)に抑えた新型商用軽EV「PUZZLE(パズル)」のコンセプト車を、「ジャパンモビリティショー2023」で公開。2024年末から2025年春の発売を目指す。

図5 HW ELECTROの小型EVトラック
ボックスタイプ「ELEMO 200」
ASF

 2023年5月、スタートアップASFが販売する商用軽EV「ASF 2.0」について、コスモ石油マーケティングは「コスモMyカーリース」での取り扱いを始めた。ASFが設計・開発したモーター1基の後輪駆動車である。生産は中国・広西汽車集団傘下の商用車メーカーである柳州五菱新能源汽車に委託した。
 日本の補助金を適用すると150万円以下と低価格で、リース形式でASFが販売する。モーター、インバーター、減速機は中国製、リチウムイオン電池も寧徳時代新能源科技(CATL)製のリン酸鉄リチウムイオン(LFP)系を選択した。航続距離:243kmである。 自動ブレーキなど各種の予防安全機能も搭載している。

 現在、ASF 2.0は佐川急便とマツキヨココカラ&カンパニーが合計で約40台を導入している。佐川急便は現在運用しているガソリン車の商用軽(約7200台)を、すべて新型車に入れ替える計画である。

中国のEVトラック事情

 2021年、中国の新エネルギー車両(NEV:New Energy Vehicle)販売台数は、前年比で2.5倍の350万台以上に急増し、世界合計の半分以上を占めた。(NEVとはBEV、FCEV、PHEVの3車種)この中でNEV大型トラック販売台数は1万台以上となり、前年比で4倍に成長した。

 急成長の要因は、新エネルギートラクター(トレーラー型牽引トラック)の需要増加と、2022年末でのNEV補助金の終了である。新エネルギートラクターは充電ネットワークだけに頼らず、充電とバッテリー交換の両方が可能なモデルで、運行ルートが一定で長距離運行がない用途で人気が高い。

 2021年のNEV大型トラック部門では、大型EVトラックが92.36%を占め、大型FCEVトラックは7.46%(約800台)、ディーゼルハイブリッド大型トラックは0.18%であった。

 主要メーカーとしては、三一重工(Sany)、鄭州宇通客車(Yutong)、漢馬科技集団(Hanmag Technology)で、それぞれ1000台以上を売り上げ、3社で約40%のシェアを占めた。人気のSany EV550トラクターは蓄電池交換が可能で、航続距離は200km、電費は170 kWh/100 kmである。

 大型EVトラックは大きな駆動力が必要なため、高出力モーターと大容量蓄電池を搭載する必要がある。そのため(エンジン車に比べて)車両の製造コストが高くなり、初期投資が大きい。また、車載電池が大きければ車両の重量が増え、貨物の積載量が減ってしまう。大容量の電池は充電時間も長くなる。車両の積載効率と運用効率が追求される商用車において、大型EVトラックは多くの点で不利と見なされてきた。

だが電池交換式の大型EVトラックなら、用途次第ではEVの長所を活かしつつ、短所をカバーすることが可能だ。と言うのも、電池交換式はトラック本体と電池モジュールを別々に販売できるからだ。

トラック本体には電池が搭載されていないので、ユーザーの導入コストを低減できる。その一方、電池モジュールはリース方式で導入すれば、ランニングコストの電気代は(ディーゼルエンジン用の)軽油代よりも安い。さらに、電池モジュールは短時間で交換できるように設計されているため、充電時間の長さの問題も解決する。

「短距離輸送に(特化して)使う場合、電池交換式の大型EVトラックを導入して5年間運用した時の総コストはディーゼル車を下回る」。大型EVトラックの交換電池サービスを手がける企業の担当者は、そう説明する。

売れないEVトラック問題

 日経クロステックが「導入台数は世界でわずか450台程度、しかも5年間で」と報じた。これは、三菱ふそうトラック・バスが開発した小型EVトラック「eCanter」のリース販売実績で、2017年7月に生産を開始し、2022年9月時点までの数字である。
 EVトラックが売れない理由は容易に推察できる。顧客である物流・輸送会社の利益が減る可能性があるからで、EVトラックはエンジンを搭載する通常のトラックと比べて価格は高く、車両は重くなる。これは搭載する蓄電池の価格と重量によるところが大きいと結論付けている。

 誠に正しい推察である。そのため物流大手は、安価な中国製EVトラックの導入に手を出している。しかし、何のためにEVトラックを開発し、事業化を進めているのか?日本のEVトラックは世界のメーカーに比べて、周回遅れで販売を開始したのである。少し過去を振り返って考えてみよう。 

トラックのCO2排出量規制

 国内でもトラック規制が始まり、EVトラック需要は高まるため間違いなく売れる。実際に、2021年から国内物流大手のEVトラック導入が始まったことからも明らかである。ラストワンマイル輸送でのEVトラック導入に始まり、用途に応じて中・長距離輸送、FCEVトラックにまで市場は拡大する。

 日本はトラック規制が遅れたこともあり、ダイムラー・トラック傘下の三菱ふそうトラック・バスを除けば、EVトラックのラインアップは圧倒的に遅れている。今後、海外トラックメーカーとのEVトラック、FCEVトラックの技術提携や製品輸入が進むであろう。国内トラックメーカーの奮起を期待したい。

欧米でのトラック規制

 欧州(EU)における1990年の運輸部門のCO2排出量はEU全体の15%であったが、2018年には25%に拡大した。トラックやバスなどの大型車の排出量はEU全体の6%を占める。そのため、EUは大型トラックのCO2排出量を2030年までに2019年比で30%削減する方針を示した。
 一方で、米国カリフォルニア州は、2045年までに全てのトラックをBEVあるいはFCEV(燃料電池車)にする規制を導入した。

 2023年2月、EUの欧州委員会は、トラックやバスといった大型車の新しい排出規制案を公表した。2030年以降に新車販売される大型車はCO2の排出を2019年比で従来の30→45%削減へ、2035年は65%削減、2040年以降は90%削減とする内容で、今後、欧州議会での議論を経て成立を目指す。
 都市部を走る市バスは、2030年以降に導入する場合は全てゼロエミッション車にするよう提案された。市内を走るバスのEV化は普及しつつあるが、長距離を走るトラックはFCEV化が主流になるとみられる。メーカーは対応を迫られるが、政府も水素ステーションの整備などを進める必要がある。

 これらの規制に対応して、世界最大の商用自動車メーカーであるダイムラー・トラックは、CO2ニュートラルな輸送の実現を掲げて、2030年までに全セグメントでCO2ニュートラルモデル(EVトラック、FCEVトラック)を提供し、EU30か国での販売率を最大60%とすることを目標としている。
 また、2039年までに欧州、日本、北米の主要3市場で、全ての新型車両の走行時にCO2ニュートラル化を目標とし、2050年までに公道でのCO2ニュートラルな輸送の実現を掲げている。

 また、EUでダイムラーのトラック部門と市場を二分するボルボ・トラックスは、2030年に欧州で販売するトラックの半分をEVトラックに、VW傘下のスカニアは2030年までに販売するトラックの半分をEVトラックにする目標を掲げている。

日本でのトラック規制

 2020年における日本の運輸部門のCO2排出量の割合は、日本全体の17.7%で、うち貨物自動車は運輸部門全体の39.2%を占める。貨物自動車のCO2排出量は、日本全体の6.9%である。そこで、2021年6月に、2020年12月に策定した「グリーン成長戦略」の見直し案が示されて決定された。
 日本のトラック規制は2021年6月に初めて具体的に設定されたが、欧米に比べて圧倒的に遅れた。

 すなわち、トラックやバスの商用車に関し、8トン未満の小型商用車は2030年までに新車販売の20~30%をBEV、HEV、FCEVに置き換えていく目標を新たに設定し、2040年までの段階で、新車の全てを電動車か、合成燃料など脱炭素燃料を用いる車両のいずれかに切り替える方向性を示した。
 また、8トン以上の大型商用車は電動車の開発・利用促進に向け技術実証を進め、2020年代に5000台の先行導入を目指すと明記した。また、水素や合成燃料などの価格低減に向けた技術開発・普及の取り組みの進捗状況を考慮し、2040年時点の電動車の普及目標を2030年までにまとめる方針を示した。
 このほか、2030年までにBEV用の充電スタンドを現状から5倍の15万基FCEV用水素供給設備は6倍の1000基程度まで増設することも明記した。

 これを受け、2022年4月、全日本トラック協会は「トラック運送業界の環境ビジョン2030」を発表。メイン目標「トラック運送業界全体の2030 年のCO2 排出原単位を2005 年度比で31%削減」、サブ目標「総重量8トン以下の車両について2030年における電動車の保有台数を10%とする」を掲げた。

 日本はトラック規制が遅れたこともあり、ダイムラー・トラック傘下の三菱ふそうトラック・バスを除けば、トラックメーカーのEV化は圧倒的に遅れている。今後、海外トラックメーカーとのEVトラック、FCEVトラックの技術提携や製品輸入が進むであろう。

海外メーカーの動向

ドイツのダイムラー・トラック(Daimler Truck Holding )

 ドイツ・シュトゥットガルトに本社を置き、傘下にはドイツのメルセデス・ベンツ・トラック米国フレイトライナー米国ウェスタン・スター・トラックス 、三菱ふそうトラック・バスなどを有する。

 2018年から現在までに8機種の量産型EVトラックを市場投入している。
 2021年に生産開始のメルセデス・ベンツ製の大型EVトラック「eアクトロス300/400」は、容量300kWhの高電圧蓄電池で航続距離300kmの「300」、容量400kWhで航続距離400kmの「400」である。2022年に生産開始の低床キャブ大型EVトラック「eエコニック」も、基本的に同様の仕様である。
 その他、メルセデス・ベンツから航続距離500kmを実現する大型EVトラック「eアクトロス ロングホール(eActros LongHaul)」、中型EVトラックeアテゴ(eAtego)」、三菱ふそうブランドからは小型EVトラックeキャンター(eCanter)」の欧州仕様などが市販されている。

図6 メルセデス・ベンツ製の大型EVトラック「eアクトロス300/400」 

 ダイムラートラックは「デュアルアプローチ」として、EVトラックと共に水素を燃料とするFCEVトッラク開発も進めている。試作FCEVトラック「GenH2」の公道試験も実施し、航続距離1000km以上を目指している。特に、長距離の重量物輸送において期待され、2020年代後半の量産化を計画する。

スウェーデンのボルボ・トラックス(Volvo Trucks)

 EVトラックは、スウェーデン・ヨーテボリにあるトゥーべ工場で製造されている。2023年にはベルギーのゲント工場が続き、蓄電池はゲントに新設された蓄電池組み立て工場から供給される。大型EVトラックを約1000台、EVトラック全体では2600台以上を販売し、欧州市場で急速に伸びている。

 EVトラックは6車種を市場投入している。現在、同社の主力である44トン級の大型トラックの電動化バージョン「FHエレクトリック」「FMエレクトリック」「FMXエレクトリック」「FEエレクトリック」の量産を開始している。最大航続距離は440kmである。
 電気モーターとトランスミッションを統合してコンパクト化したeアクスルを開発しており、より多くの蓄電池の搭載を可能としている。

図7 ボルボ・トラックスの大型EVトラック「FMエレクトリック」

 2020年12月、米国バージニア州ダブリンのニューリバーバレー組立工場での、大型EVトラック「VNRエレクトリック」の製造を発表した。蓄電池(250kW)を搭載し、6蓄電池仕様の充電時間は90分、4蓄電池仕様の場合は60分で蓄電池容量の80%を充電できる。航続距離:最大440kmである。
 車両総重量15トンの1軸ストレートトラック、連結車両総重量33トンの4×2、41トンの6×2の3種類で、電気モーターは定格出力400kW、低速操縦性が高く効率的に加速できるEV用2速変速機を備える。

 ボルボ・トラックスはゼロエミッションに向けて、EVトラックFCEVトラック、そしてバイオガスやグリーン水素、HVO(水素化植物油)で動作するエンジントラックの3つの戦略を持つ。気候変動問題への対応策は、国や地域のインフラによって異なるためとしている。

米国ニコラ(Nikola)

 2015年設立のニコラ(Nikola)コーポレーションは、米国アリゾナ州フェニックスに本社を置き、 2020年9月にはGMと戦略的提携を締結し、燃料電池技術を含めてGMの次世代EVパワートレインの供給を受け、アリゾナ州クーリッジの工場でEVトラックの開発・製造を進めてきた。

 2021年12月、市販EVトラック「Tre(トレ)」の第一号車を、南カリフォルニアの港湾トラック企業、トータル・トランスポーテーション・サービスに納入した。2022年は300〜500台のトレを納入し、2023年も生産量は増加するとしている。
 「トレ」には、リチウムイオン電池(容量:753kWh)を搭載しており、80%充電には2時間を要し、航続距離:563km、最高速度:120km/hである。

 2022年8月、リチウムイオン電池を製造するロメオ・パワーの買収を発表した。

図8 米国ニコラの大型EVトラック「トレ」

 一方、トレの燃料電池バージョンFCEVトラック「Nikola One」も市販する計画で、リチウムイオン電池(容量:320kWh)と燃料電池を搭載し、最長1930kmの連続走行を可能としている。車体重量はディーゼルトラックに比べて約900kgほど軽く、その分、荷物を多く積むことができます。
 燃料電池で蓄電池を自動的に充電するため、燃料電池を停止しても満充電であれば160~320kmを走行できる。蓄電池は、テスラと同様の汎用「18650サイズ」のバッテリーセルを多数連結している。

米国テスラ(Tesla)

 2022年12月、大型EVトラック「Semi(セミ)」の第一弾がペプシコ向けに納入された。セミはテスラのBEVラインアップである乗用車の「モデルS」、「モデルX」、「モデル3」、「モデルY」に続く5番目の車種であり、トレーラーの牽引に用いられるトレーラーヘッドのBEV版ある。
 電動パワートレインには、「モデル3」用がベースのモーターを4個をリアアクスルに独立して搭載し、0~96km/hへの加速は5秒とディーゼルトラックの15秒より大幅に性能を向上。航続距離は483~805kmで、新開発の急速チャージャーを使えば、30分充電でおよそ640km走行できる。

 2023年4月、大型EVトラック「Semi(セミ)」や低価格帯の車種で価格の安いLFP(リン酸鉄)系蓄電池の導入を拡大すると発表した。2022年12月には、ニッケル系蓄電池を搭載し、航続距離800kmの長いセミの販売を開始し、航続距離480kmの車種の市場投入計画を明らかにしている。

 現在、米国内で販売しているモデル3とモデルYの大半はニッケル系蓄電池を搭載しているが、基本計画では航続距離の短い大型トラック「セミ・ライト」に、低コストで発火リスクは小さいが、単位重量当たりのエネルギー容量の引くLFP蓄電池を導入する方針を示した。

図9 米国テスラの大型EVトラック「Semi」

 2023年11月、約4年ぶりの新型車となる「サイバートラック」の出荷を発表した。同社初のEVピックアップトラックで、斬新な合金鋼デザインの外観であるが、量産化が難しい設計となっている。
 航続距離は四輪駆動タイプで340マイル(約540km)からで、推定価格は、最も廉価な後輪駆動タイプで6.99万ドル。四輪駆動タイプは7.999万ドル、最上級タイプは9.999万ドルである。後輪駆動タイプの販売は2025年からで、その他は、2024年の納車になる。
 ライバルのフォード・モーターはすでにピックアップトラックEV「F-150ライトニング」を発売している。

図10 4年振りの新型車となるテスラの「サイバートラック」
出典:日経速報ニュース
中国のEVトラック事情

 2021年、中国の新エネルギー車(NEV)販売台数は、前年比で2.5倍の350万台以上に伸び、世界合計の半分以上を占めた。その中で初めてNEV大型トラックが1万台以上売られ、前年比で4倍に急拡大した。(NEVは、BEV、FCEV、PHEVの3機種を指し、HEVは含まれない。)

 大型トラック部門において、大型EVトラックは92.36%を占め、大型FCEVトラックは7.46%のシェア、ディーゼルハイブリッド大型トラックは0.18%のシェアであった。

 2021年のNEV大型トラック急増の原因は、蓄電池交換式の新エネルギートラクター(トレーラー型牽引トラック)の需要増加2022年末でのNEV補助金の終了である。一定の運行ルートで構築された充電ネットワークだけに頼らず、充電と蓄電池交換の両方が可能なモデルが人気を集めた。

 蓄電池交換式はトラック本体と蓄電池を別々に購入できるため、初期導入コストを低減できる。蓄電池をリース方式で導入すれば、ランニングコストはディーゼルエンジンの軽油費よりも安く、蓄電池交換に要する時間は充電時間に比べて圧倒的に短時間である。

 NEV大型トラック市場の主要メーカーは三一重工(Sany)、鄭州宇通客車(Yutong)、漢馬科技集団(Hanma Technology)で、それぞれ1000台以上を売り上げ、3社合計で約40%のシェアを占めた。人気のSany EV550トラクターは蓄電池交換式で、航続距離200km、電費170 kWh/100 kmである。 

 一方、大型FCEVトラックは、中国が燃料電池車シティ・クラスター計画を2021年に始めたことに起因し、2020年の18台から2021年の約800台まで急増している。また、大型FCEVトラックを製造販売する企業も、2020年の5社から11社に急増している。
 2021年に出てきた南京金龍(Nanjing Kinglong)のは、売り上げの半分を大型FCEVトラックが占め、売られた車両は山東省、河北省、広東省、内モンゴル自治区、湖南省での実験版シティ・クラスター内や北京、上海などを走行している。

結論:EVトラックは売れる

 国内でもトラック規制が始まり、EVトラック需要は高まるため間違いなく売れる。実際に、2021年から国内物流大手のEVトラック導入が始まったことからも明らかである。ラストワンマイル輸送でのEVトラック導入に始まり、用途に応じて中・長距離輸送、FCEVトラックにまで市場は拡大する。

 問題はEVトラックの価格である。安価な蓄電池をベースとした低コストの中国製EVトラックが導入されて実績を積むと、出遅れた国内メーカーは太刀打ちできずに敗退することは目に見えている。政府は法規制とともに、国内産業育成のための支援をタイムリーに発動する必要がある。

 また、欧米メーカーは長距離輸送用のFCEVトラックもスコープに入れて、用途に応じて選択可能なゼロエミッション・トラックのラインアップを進めている。日本はFCEV(乗用車)の開発で先行したが、FCEVトラックは実証試験に留まっている。海外からの技術導入・製品輸入となるのは悔しい。

EVバイクは普及するのか?

電動バイク(EVバイク)の業界動向

EVバイクの現状

 電動バイク(BEバイク)は、搭載する蓄電池の定格出力から0.6kW未満(50cc原付一種)、0.6kW~1.0kW未満(125cc原付二種)、1.0kW以上(400cc普通二輪免許)に分類される。

表1 電動バイクのモーター定格出力による区分

 2021年末時点で、国内で販売されている主要メーカーのEVバイクの機種は多くはない。本田技研工業が「PCX ELECTRIC」(2022年5月生産終了モデル)のリースのみと法人向け「BENLY e」シリーズを販売するほか、ヤマハ発動機が一般向けに「 E-Vino」などを販売している。

 2019年12月に発売されたBENLY e: Ⅰは、重量:125kg、定格出力:0.58kW、航続距離:87km、価格:73.7万円(税込)で、2020年9月に発売されたE-Vinoは、重量:68kg、定格出力:0.58kW、航続距離:32km、31.46万円(税込)で、いずれも原付第一種のEVスクーターである。

 各社の一般バイクのラインナップ全体から見れば、ごくわずかなのが現状である。四輪自動車において、ここ数年で急激にEVシフトが進み始めているのとは対照的である。2021年における国内バイク販売台数は約37.8万台で、その内EVバイクは数千台に留まっている。

 すなわち、EVバイクの実用化には四輪自動車とは異なる難しさがある。これは市販EVバイクの航続距離が50km前後と短いことから読み取れる。一般バイク並みの航続距離を実現するためには大容量蓄電池の搭載が必要であるが、スペース的にも重量的にも二輪車では許容できないのである。

図1 国内大手バイクメーカーが販売するEVバイク
交換式バッテリーの共用化

 2019年4月、本田技研工業・ヤマハ発動機・カワサキモータース・スズキの二輪車4メーカーが「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」を発足し、交換式バッテリーの共用化を進めている。
 各メーカーのEVバイクに搭載するバッテリーを共通の交換式にすれば、残量がなくなった際に交換ステーションなどに設置したフル充電バッテリーと交換することで、航続距離が短いことや充電時間が長いなどの課題を解決できる。

 2021年3月、二輪大手4社は着脱式バッテリーの仕様統一で合意した。しかし、共通仕様の電池を搭載するバイクは、本田技研工業の「ベンリーeシリーズ」など法人向け3車種のみで、首都圏で2000台以上が稼働している。

 2022年4月、ENEOSホールディングス本田技研工業・カワサキモータース・スズキ・ヤマハ発動機は、共通仕様バッテリーを搭載するEVバイクを使ったシェアリングサービスや、EVバイク普及に向けインフラ整備などを行う新会社のGachaco(ガチャコ)を設立した。
 2022年秋をメドに、交換式バッテリー「Honda Mobile Power Packを利用したシェアリングサービスを東京などの大都市圏から開始すると発表した。

 2022年10月、本田技研工業は、EVバイク向けに手動の電池交換ステーション「Honda Power Pack Exchanger e:」(全幅960×全高1820×奥行758mm)の販売を開始した。電池シェアリング事業のガチャコに納品され、1台目が東京都庁傍の西新宿第四駐車場で稼働を開始した。
 本機は3相3線200Vの電源で定格消費電力:6.5kW、1台に12個の着脱式可搬電池「Honda Mobile Power Pack」の同時充電が可能である。災害などの停電で本機への給電が途絶えても、充電済み電池から給電されるので電池の貸し出しは継続できる。交換に要する時間は1分程度である。

 ガチャコは、駅前やガソリンスタンドにバッテリー交換ステーションを設け、充電済み電池と使用済み電池の交換サービスを提供する。首都圏で始め、2022年度は200台分、2023年度に1000台分の拠点を整備し、当面は配達業者などの商用EVバイクを対象に始める。
 2023年5月時点で、東京、埼玉、大阪で合計24カ所のステーションが設置されている。

図2 バッテリー交換ステーションの「Honda Power pack Exchanger e:」

国内メーカーの動向

ヤマハ発動機

 2021年7月、世界で販売する二輪車について、2030年をめどに商品投入を本格化し、2035年までに20%、2050年までに90%を電動化する目標を発表。残りの10%は、ハイブリッド車(HEV)や合成燃料の活用などで対応するとした。また、EVバイクのリース事業を開始する。 

 2022年7月、実証実験用電動スクーター「E01(イーゼロワン)」をリースし、原付第二種クラスのEVバイクの実証実験を国内で開始した。重量:158kg、定格出力:0.98kW、航続距離:104㎞、充電時間:約1時間(急速充電)/約5時間(普通充電)/14時間(ポータブル充電)である。
 これまで125ccクラスのEVバイクは、台湾のベンチャー企業「Gogoro(ゴゴロ)」からのOEMによる「EC-05」を台湾などで販売しているが、ヤマハの自社開発による125ccクラスは初となる。

図2 ヤマハ発動機の実証実験用電動スクーター「E01」 
カワサキモータース

 2021年10月、川崎重工業から分社してカワサキモータースが発足した。事業方針説明会で2025年までにEV/HEVバイク10機種以上を導入し、2035年までに先進国向け主要機種の電動化(BEV/HEV)を完了させ、水素エンジン開発にも取組むことを発表した。
 また、オフロード四輪車は、BEV・HEV四輪車の開発に加え、2025年までに5機種を導入する。

 2022年11月、EVバイク2機種とHEVバイク1機種を発表した。主力モデル「Z」「Ninja」を電動化に対応させた「ネイキッドタイプ(Z)」「フルカウル(Ninja)」である。近距離使用を想定し、交換式バッテリー(最大3.0kWh、約12kg)を2個搭載。2023年の発売を目指している。

図3 カワサキモータースのEVバイク

参考:世界最大規模のモーターサイクル展示会「EICMA:ミラノモーターサイクルショー」(2022年11月)で、カワサキモータースは次世代バイク構想を発表した。
 「フルカウル(Ninja)」「ネイキッドタイプ(Z)」ともに、日本では原付第二種にあたるEUのA1ライセンス(125cc以下かつ最高出力11kW以下)に対応し、取り外して室内で充電可能なリムーバブルバッテリーバック(重量:約12kg)を2個搭載し、蓄電池容量は最大で3.0kWhである。
 同時に、2024年の市販化を目指すHEVバイクのプロトタイプを発表した。ストロングハイブリッド型エンジンを搭載し、モーター走行またはモーター/エンジン併用走行の切り替えができる。
 また、2030年代前半の実用化を目指す水素エンジン搭載バイクを参考展示した。パワーユニットは、『Ninja H2』のスーパーチャージドエンジンをベースに直噴化し、圧縮気体水素を燃料とする研究用エンジンである。今後、液体水素燃料の採用、バイオ燃料対応の内燃機関の開発も進める。

本田技研工業

 2022年9月、本田技研工業は、2030年に世界で販売するバイクの15%を電動車とする目標を発表した。2021年度の電動車比率は0.4%にとどまるが、2025年までに10車種以上のEVバイクを投入し、2026年に5.5%(約100万台)、2030年に15%(約350万台)まで引き上げる。
 バイクは四輪自動車に比べて大型電池を収納できるスペースが限られるため、EV化が難しい。本田技研工業は、充電した電池を交換する方式を採用してきたが、今後は、小型で高出力の全固体電池の導入し、自宅などでも充電できるようにして利便性を高める。

 2023年5月、本田技研工業は、国内で一般向けに量販する電動スクーター「EM1e:(イーエムワン イー)」を8月に発売すると発表。価格は29.92万円(税込)で一般的な原付きバイクの約1.5倍である。自宅でも充電できる交換式バッテリーを搭載し、航続距離:53kmである。

 2023年11月、本田技研工業は、2030年の電動二輪車の年間販売台数目標を、昨年公表した目標の350万台を、30機種で400万台と修正した。コスト低減を加速させ、現行の車体コストから50%削減をし、2021~2025年の5年間で1000億円、2026~2030年の5年間で4000億円、合計約5000億円の投資を計画する。

図4 ホンダ技研工業の「EM1 e」とバッテリー

 2024年8月、電動二輪車をヤマハ発動機にOEM供給すると発表。「EM1 e:」や「BENLY e: Ⅰ」をベースとした電動二輪車を供給する。対象は日本市場で、交換式電池を使い、充電を待たずに使える。
 本田技研工業は新しい排ガス規制への対応がコスト面などで難しいことから、エンジンを積んだ原付1種の生産を2025年5月に終了する。電動二輪車の拡販に向けての一歩である。

 2024年10月、交換式バッテリーを2個載せた電動二輪「CUV e:(シーユーヴィー イー)」をインドネシアで発売する。航続距離:80.7kmで、現地合弁会社「アストラ・ホンダ・モーター(AHM)」が同国で生産・販売し、世界展開も視野に入れる。固定式バッテリーを1個搭載した電動バイク「ICON e:(アイコン イー)」も同時発表した。
 本田技研工業は、2030年までに30モデル以上の電動二輪を発表する目標を掲げている。

スズキ

 2023年1月、小型・中型バイクでは2024年度にバッテリーEVを初投入する。2030年度までに全世界で8車種を発売し、バッテリーEV比率を25%に高める計画を発表。ただし、大型のファンバイクについては、カーボンニュートラル(CN)燃料での対応を検討する。

 2023年4月、バイク部門では第一弾となるEVスクーター「e-BUREGMAN(イーバーグマン)」を公開し、4月~6月にかけて、東京都城南地区内で走らせ実証実験を進めている。
 実証実験が行われるイーバーグマンは、シート下に交換型バッテリーを装備している。最高出力:4.0kW、最大トルク:18Nm、航続距離:約44km、重量:147kgで「バーグマンストリート125EX」に比べて約20kg重い。

図5 実証実験用のスズキ電動スクーター「e-BUREGMAN」
スタートアップ

 2022年4月に開催された「東京モーターサイクルショー2022」では、デザインはイタリア、生産は神奈川県相模原市の自社工場で行うaidea(アイディア、2019年設立)が、配送用電動三輪スクーター「AAカーゴ」を出展し、ドミノ・ピザやDHLで使われているカラー車体に注目が集まった。
 AAカーゴのラインアップは4タイプあり、バッテリー容量が小さい原付第一種の「AAカーゴ α4」は、容量:3.85kWh、航続距離:89km、プラグイン充電は標準装備の充電ケーブルにより200Vコンセントから約3時間で行う。価格は87.78万円(税込)である。

海外のEVバイク動向

EVバイクの輸入

 海外からの輸入EVバイクは、オフロードバイクやスポーツバイクなどが中心である。

 2022年4月に開催された「東京モーターサイクルショー2022」では、海外からの輸入EVバイクの展示が目立っが、オフロードバイクやスポーツバイクなどが中心である。
■中でも注目度の高かったのがBMWモトラッドのEVスクーター「CE04」である。重量:231kg、定格出力:15 kW、航続距離:130km、価格:195万円で、排気量区分は126~250ccである。
イタリアのランブレッタ、台湾のSYMなどを輸入するMOTORRISTS(モータリスト、2020年設立)は、イタリアのファンティックのe-bike、スペインの競技用電動キッズバイクTORROT(トロット)、オリジナルブランドの電動オフロードバイクなどを展示していた。
■福岡市を拠点とするMSソリューションズが立ち上げた電動バイクブランドのXeam(ジーム、2017年設立)は、海外の新興メーカーの電動バイクを輸入販売しており、米国ゼロモーターサイクル、中国のニウ、トロモックス、オーストラリアのスーパーソコなど6ブランドの20車種を一斉展示していた。
■エスターがインポーターとなるEnergica(エネルジカ)はスポーツバイクに特化したブランドで、電動バイクの世界選手権レースでマシンを供給してきたという実績を持つ。安全性を重視した高エネルギーリチウムポリマー(Li-NMC)バッテリーの搭載をPRしている。

図6 東京モーターサイクルショー2022でXeamは6ブランドの20車種を一斉展示

 2023年1月、スポーツアパレルのゴールドウインは、スウェーデンのEVバイクメーカーCAKEと国内独占販売の契約を結んだ。2025年末までに5000台の販売を目指すという。原付第一種免許があれば乗れるモデルなど、10機種を扱う。価格は税込み86.9万円から。

バッテリー交換サービス

 EVバイクメーカーの台湾Gogoro(ゴゴロ)が2015年に始めた電池交換サービスが急速に伸びており、2022年8月に利用者が50万契約に達した。新車販売で2輪車全体に占めるEVバイク比率は2021年で約25%であり、その内の92%超をGogoroのサービス対応車が占める。

 バッテリー交換ステーション「GoStation」は、台湾全体で2423カ所(2022年9月末)あり、電池スロット数は総計約10.5万個に達する。1カ所で120スロット以上の「スーパーGoStation」も増えてきた。2021年6月には台湾・鴻海精密工業と電池パックや電動スクーターの生産で提携している。

図7 2022年9月末時点では、台湾全体で交換ステーション「GoStation」は2423カ所

 2021年10月、ゴゴロは、中国で「換換(Huan Huan)」ブランドでバッテリー交換サービスを始め、EVバイクは2輪車メーカーである中国・大長江集団(DCJ)と電動モビリティーメーカーYadea Technology Group(雅迪)が製造する。
 インド、インドネシア、シンガポール、イスラエルにも電池交換サービスを拡大中としている。 

 一方、本田技研工業は、インドの現地法人が電動三輪タクシー(リキシャ)向けに電池シェアリングサービスを始めており、バッテリー交換ステーションを稼働している。インド向けは、3相4線400V電源に接続し、電池冷却機能は搭載しているが、モニターや通信機能、NFC認証機器は搭載していない。

 また、本田技研工業は、着脱式の蓄電池システム「ホンダ・モバイルパワーパック」を開発しており、インドで実証試験を進めている。繰返し使用で劣化した蓄電池を回収し、リサイクルする仕組みも作る方針としている。

 バッテリー交換サービスは、商用車を中心とし、買い物・通勤などに利用するユーザーに対するEVバイクの普及には一定の役割を果たす。

EVバイク普及の課題

 日本自動車工業会(JAMA)によると、2021年の二輪車販売台数は、前年より13.7%増加して41.6万台である。2015年あたりから販売台数は低迷傾向にあるが、原付第一種(50cc以下)の販売台数が伸びることで40万台をクリアしている。

 排気量別では、原付第一種(50cc以下)が4.3%増の12.8万台、原付第二種(51~125cc)は23.5%増の12.6万台、軽二輪車(126~250cc)は6.1%増の7.9万台、小型二輪車(251cc以上)は24.0%増の8.4万千台で、原付第二種以上(51cc以上)は18.3%増の28.8万台である。 

図8 日本自動車工業会による二輪車販売台数の内訳と推移

 また、JAMAの二輪車市場動向調査報告書(2021年度)では、二輪車の使用実態が調査されている。
 すなわち、スクーターの原付第二種(125cc以下)は「買い物・用足し」「通勤・通学」が多いが、軽二輪(126cc)以上、ビジネス原付第二種(125cc以下)、オンロード(51cc以上)、オフロード(126cc以上)は「ツーリング」が高い。特に、輸入車は「ツーリング」が、95%と特に高い。

 これまでのEVバイクは原付第一種(50cc以下)の代替を狙っていたが、日本市場の要求は原付第二種以上(51cc以上)に移行している。EVバイクの普及に向けては、高性能蓄電池(容量:1.0kW以上)の搭載によるラインアップが必須である。ユーザーが用途に応じて選択できる必要が高まっている。

 国内におけるEVバイク調査では、認知度は高いものの乗車経験はほぼなく、そもそも現車がほとんど存在しない将来の乗り物として捉えられており、実感を持つことができないとの意見がある。環境意識の高まりなどEVバイクの将来性は感じられているので、早急な認知度の向上対策が必要である。

航続距離と充電時間の課題

BEVの航続距離の延伸

 2016年頃から、航続距離が飛躍的に伸びたBEVの市販が始まる。

●2016年3月に予約注文を開始した米国テスラのBEV「Model 3(モデル3)」は、2019年5月に市販が開始された。蓄電池容量:79~82kWhと大容量化し、航続距離:354~498km、価格:35000ドルである。2022年にはロングレンジAWDで航続距離:689kmを公表した。

●2016年9月に販売を開始した米国GMの「Chevrolet Bolt EV(シボレー・ボルト)」は蓄電池容量:60kWh、 航続距離:383km、価格:37495ドルである。

 2020年3月、GMはモジュラー駆動システムと独自開発の蓄電池「Ultium(アルティウム)」を搭載する第3世代のグローバルEVプラットフォームを公開した。ピックアップトラック、SUV、クロスオーバー、乗用車、商用車など幅広い車種に対応する。
 アルティウムの蓄電池容量:50~200kWhで、航続距離:最大644kmである。搭載するEVは直流急速充電(定格電圧:400V、出力:200kW)に対応し、ピックアップトラック向けは直流急速充電(定格電圧:800V、出力:350kW)機能を備えている。

●2022年7月、GMはアルティウムを搭載した電動SUVの「Blazer EV(ブレイザーEV)」を発表している。航続距離:397~515km、価格:45000ドルで、急速充電スタンドで最大190kWの充電を可能とし、10分間の充電で約125kmの航続が可能としている。

●2016年10月に販売を開始したドイツBMWの「i3」は、蓄電池容量:33~42KWh、航続距離:390km、価格:509万円であったが、2022年6月に生産を終了した。

●2022年2月16日、BMWはクーペタイプEV「i4」を発売している。基本グレードの「i4 eDrive40」は、蓄電池容量:83.9kWhと大容量化し、航続距離:590km、価格:750万円である。急速充電スタンドで150kWの充電を可能とし、10分間の急速充電で150km以上の走行を可能としている。

●2017年10月、日産自動車が新型リーフを発売し、蓄電池容量:60kWh、航続距離:280km(2012年12月初代リーフ)から400kmに伸ばし、価格も3種類のグレードで315~399万円(税込み)とした。2021年の新形リーフでは、蓄電池容量が40kWh(航続距離:322km)と60kWh(450km)の2車種が、価格:332.64~499.84万円である。ただし、50kWの急速充電器で10分の充電で50km程度の走行が可能としている。

以上から、重要なことは、BEV普及の目安とされる航続距離320kmを、各社が相次いでクリアしたことである。残された大きな課題は充電時間である。

 一方、2023年1月、米国Texas Instruments(TI:テキサス・インスツルメンツ)は、EVの推定航続距離を高精度に把握できるようにする電池セルモニターと電池パックモニターの新製品を発表した。
 測定誤差による電池切れが発生しないように設定していたマージンを減らした分、航続距離として上乗せできる。いずれも電池管理システム(BMS)に使うデバイスであ、電池の経年劣化やを延伸することが可能になる。量産開始は2023年後半を予定している。 

 ところで、一般のエンジン車が油に要する時間は3~5分であるが、BEVの充電時間は急速充電設備を使っても約15~30分(航続距離は80~160km)程度、普通充電設備(200V)の場合は約4~8時間(航続距離は80~160km)程度を要する。

 現在、EVの蓄電池容量は10~100kWh程度であり、航続距離を伸ばすため蓄電池の大容量化が進められた。しかし、国内の普通充電設備(200V)は交流電源(出力:3〜6kW)、急速充電設備は直流電源(出力:20~50kW)が中心で、大容量蓄電池を満充電す

欧米で進むBEVの充電時間の短縮

 航続距離を伸ばすために、EVに搭載する蓄電池の大容量化が進められている。そのため高出力充電対応のBEVの商品化と急速充電設備の出力増強により、充電時間をエンジン車の給油並みに短くする動きが欧米のEVメーカーなどを中心に始まっている。

●米国では、2016年に設立されたフォルクスワーゲン(VW)の充電サービス会社であるElectrify Americaが出力:150~350kWまでの急速充電設備を備えており、2018年からは高出力急速充電設備(出力:350kW)の設置を始めている。

●2019年、米国テスラは「Model 3」向けに「スーパーチャージャーV3」という独自規格の高出力急速充電設備(出力:250kW)を日本を含む世界各国で3.5万基以上設置している。5分充電で120km、15分充電で275kmの走行可能としている。

●2020年9月、ドイツVW傘下のポルシェは高出力急速充電(出力:270kW)に対応するBEV「Taycan(タイカン)」(RWDモデル、航続距離:489km、蓄電池容量:93.4kWh)を発売。蓄電池電圧を現状の400V程度から800Vに高め、充電時間4.5分で100kmの走行を可能としている。

●2021年2月、韓国現代自動車は高出力急速充電(出力:350kW)に対応したSUVのBEV「IONIQ5(アイオニック5)」(ベースグレード、航続距離:498km、蓄電池容量:58kWh)を欧米などで発売し、2022年5月から日本でも発売。蓄電池電圧:800V対応で、充電時間5分で220kmの走行が可能。

●2021年4月、VW傘下のアウディも高出力高速充電(出力:270kW)対応のBEV「e-tron GT」(航続距離:534km、電池容量:93.4kWh)を投入した。蓄電池電圧:800V対応で、充電時間5分で100kmの走行が可能である。

●2021年12月、2017年に設立したVWグループや現代自動車などが出資するドイツIONITY(アイオニティ)は、高出力高速充電(出力:350kW)を2025年までに欧州内で、現在の約1500基から約7000基に増設する計画を発表している。

 以上のように、欧米メーカーは高コスト化ではあるが、高出力急速充電による充電時間の短縮を目指している。一方で、日本メーカーは中国メーカーの格安BEVに対抗すべく、軽自動車BEVの商品化を加速している。日本車の進むべき方向は「量より質」ではないだろうか?

急速充電設備の課題

 2022年8月現在、電気自動車EVの急速充電には、日本のCHAdeMO(チャデモ)EUと北米のCCS(Combo)中国のGB/Tテスラのスーパーチャージャーの4規格が存在する。日本の急速充電施設はCHAdeMOが多く普及している。

 規格の統一が好ましいが、それぞれの規格にはそれぞれの開発経緯があり、今後、急速に規格の統一が進むことは望めないであろう。

 CHAdeMOは、最大出力の違いにより、「CHAdeMO 1.0(最大出力:50kW)」、「CHAdeMO 1.2(最大出力:200kW)」、「CHAdeMO 2.0(最大出力:400kW)」、「CHAdeMO 3.0(最大出力:900kW)」と4つの規格があり、日本では「CHAdeMO 1.0」が多く普及しているのが現状である。

 国内で50kW以上の高出力急速充施設の設置は(株)e-Mobility Powerが進めており、ようやく2021年から90kW急速充電施設の設置を開始している。いずれ最大出力200kWの「CHAdeMO 1.2」の設置が始まるであろうが、その速度感が大きな課題である。

 一方で、充電速度の短時間化には、高出力の急速充電に対応したBEVの開発が必要であるが、これも国内では遅れているのが現状である。

 2021年11月に、日産自動車が投入したBEV「アリアB6」は、蓄電池容量:65kWh(電池電圧:352V)、航続距離:430km、価格:539万円である。しかし、出力130kWの急速充電に対応する日本仕様にとどまり、急速充電器で約30分の充電時間で375kmの走行が可能としている。

 2022年5月、トヨタ自動車が国内でサブスクリプション(定額課金)サービスでの提供を始めた新型BEV「bZ4X」4WDは、蓄電池容量:71.4kWh(電池電圧:355V)、航続距離:460km、価格:650万円で、日本や英国向けモデルで150kWの急速充電に対応するにとどまる。

 2023年11月、電気料金の上昇に伴い急速充電の料金上昇が報じられた。急速充電プランの多くは、月額料金に充電料金が充電量に応じて加算される。これまでEV需要拡大を優先してきた日産自動車は、3年契約を条件に割安で提供してきた充電プランを8月末で廃止した。
 また、2023年7月、国内の急速充電器を手掛けるイーモビリティパワーも、一部のプランで充電単価を6割超値上げした。イーモビリティパワーや日産のプランで急速充電した場合、月額料金が発生する分、月間の走行距離が短いとガソリン代より高くなる。 

急速充電器の普及対策

 政府は2030年に15万基のEV充電器(普通充電器12万台+急速充電器3万台)の整備を目指して、設置に補助金を出している。今回、200kW超と高出力の急速充電器の普及を目指して、2023年をめどに規制を50kW超と低出力の普通充電器と同じ扱いにする。

 現状、20kW以下のEV充電器の設置に規制はないが、安全面から20kW超では電気絶縁性など一定の要件を満たす必要があり、50kW超では建築物からの距離などの制約がある。200kW超は変電設備となり、屋内では壁や天井を不燃材料で区画し、設備形式によって運営者など特定の人しか扱えない。

 政府は、急速充電の出力を現在の平均40kWから80kWへの引き上げを目指す。ただし、高出力の急速充電器ほどコストがかかり、採算を取るには料金を高くする必要がある。高速道路のサービスエリアなどの設置でも、大半は稼働率が10%に満たないため、充電インフラの持続可能性に課題がある。 

 2023年8月、経済産業省はEV向け充電設備について、2030年までに15万としていた設置目標を倍増させて30万口に引き上げる新指針を定める。政府は2035年までにすべての新車販売をハイブリッド車を含む電動車にする計画で、充電に欠かせないインフラ整備を急ぎ、普及拡大を狙う。
 現在、高速道路のサービスエリアや商業施設などに3万基ほどが設置されている。近年は1基で複数のEVを同時に充電できる設備が拡大しており、新指針では数え方を「基」から「口」に変更する。30万口の内訳は、商業施設やマンションに置く普通充電器を27万口、高速道などでの急速充電器は3万口とする。
 現在は40kW程度が平均的な出力で、充電時間は平均30分程度であるが、高速道に設置する急速充電器は90kW以上にするよう求め、充電時間の短縮化を目指す。

 2023年11月、関西電力は、百貨店やスーパーなど商業施設向けに、EV充電器を設置して運用するサービスを始めると発表。利用者の少ない曜日や時間帯に充電料金を低く設定するなど、商業施設が柔軟に価格を調整できるようにする。
 2024年2月頃からエイチ・ツー・オーリテイリンググループのスーパーや上新電機などの施設でサービスを始め、2024年度末までに1500口の充電器の設置を目指す。

BEV事業への新規参入と異業種提携

 2020年代に入ると、BEVへの新規参入が本格化してきた。ガソリン車の部品点数は約3万点で、BEVは部品点数が4~5割少ないことが、異業種からの参入障壁を下げている。加えて、モーターや蓄電池、半導体が中核部品となり、BEVはソフトで制御されるようになる。
 また、自動運転による新規市場の拡大がIT関連企業などを引きつけている。これにより、従来の自動車の概念を超えた大きな変革を起こす可能性が出てきた。

 一方で、アップルカーは2024年2月末、開発中止が報道された。水平分業への移行を商機と見て、EV関連事業に参入したメーカーも惨敗とも言える状況にある。また、EV新興の米国Fisker(フィスカー)は工場を自前で持たないファブレスのEVメーカーとして注目を集めたが、2024年6月に経営破綻した。

台湾の鴻海精密工業

 2020年10月、台湾の鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry)がBEV開発用のソフトウエア・ハードウエアプラットフォーム(車台)を発表し、2021年には台湾自動車大手・裕隆グループなどとBEVの試作車を発表した。

 その後、BEV製造の業務提携を進め、2022年3月時点で、日本企業約100社を含む約2200社が参加する。図2のように、参加企業は企業連合を組んでBEVの車体や通信基盤を共同開発し、設計情報を共有し、部品規格などを共通化し、鴻海が受託生産するBEV向けに部品やシステムを販売する。

 日本の部品メーカーは日本電産・日本精工・ブリヂストン・デンソー・ジェイテクト・エフ・シー・シーなど、半導体メーカーは東芝、三菱電機、商社や物流関係では住友商事や日本通運などが参加している。鴻海に委託すれば、自前で工場を持たなくても自社ブランドのBEVが販売できる仕組みである。

図1 鴻海精密工業の電気自動車(BEV)の水平分業モデル

 従来、自動車の大手メーカーは多数の部品会社を束ねて産業ピラミッドを構成してきたが、今後、自社はソフトの開発などに専念し、生産は別の企業に任せるデジタル家電と同様の「水平分業」がBEVに関しても広がるとみられる。

 水平分業は研究開発、原料調達、組み立て工程などを、異なる企業が得意分野を生かして協力するビジネスモデルで、1企業が開発・生産のすべてを受け持つ垂直統合に比べて、設備投資の負担や事業リスクが軽減できるとされている。

米国アップル

 米国アップルは、2014年から計画を進めてきたとされるが、これまでBEVの開発を公式には認めていない。しかし、2021年1月にBEV参入に向け、複数の自動車メーカーとの交渉が明らかになり、完全自動運転に対応できるBEVを早ければ2024年にも発売すると報じられた。

 米国ブルームバーグの報道では、ハンドル操作が不要な完全自動運転で、車内で向かい合うように座って移動することが想定されている。タブレット端末「iPad」のようなタッチスクリーンを車内に設置し、アップルの他のサービスと連携することも検討されている。

 2024年2月、EV開発からの撤退が報じられた。遅れている、生成AI(人工知能)に集中する狙いである。

中国シャオミ

 2024年3月、中国スマートフォン大手の小米科技(シャオミ)は、電気自動車(EV)「SU7」の発売を発表。2021年3月にEV参入を発表し、事業会社「小米汽車」を設立して商品化を進めてきた。セダンタイプで航続距離:最長800km超、基本モデルは価格:21万5900元(約450万円)、上位モデル「SU7マックス」は29万9900元である。

ソニーグループ

 2022年1月、ソニーグループはBEVへの本格参入と同時に、SUVタイプの試作車両(VISION-S 02)を発表した。オーストリアの製造業プラットフォーマーであるマグナ・シュタイヤーを通じて駆動部分の技術をアウトソースした試作車両である。
 ソニーは強みであるデザイン・センサー・音響システム・第5世代通信(5G)・エンターテインメントなどの車載システムのほか、次世代型移動サービス「MaaS(マース)」に関するソフト分野に集中するとしている。

ソニー・ホンダモビリティの設立

 2022年3月、本田技研工業とBEV事業での提携を発表し、9月に共同出資会社「ソニー・ホンダモビリティ」を設立し、2025年には開発したBEVを発売する。共同出資会社がBEVの設計や開発、販売を手掛け、生産は本田技研工業に委託する。

 2022年10月、ソニー・ホンダモビリティは、第1弾BEVを2025年内にオンライン販売すると発表した。北米の本田技研工業工場で生産し、2026年春に北米向け、2026年後半から日本にも出荷する。自動運転は一定の条件下で運転操作が不要になる「レベル3」を目指す。

図1 ソニーが発表したSUVタイプの試作車両(VISION-S 02)

AFEELAプロトタイプの発表

 2023年1月、世界最大級のテック展示会「CES 2023」が米国ラスベガスで開催され、ソニー・ホンダモビリティー(SHM)は、新型BEVのプロトタイプ「AFEELA(アフィーラ)」を出展。
 今後、プロトタイプをベースに開発を進め、予定通り2025年前半に先行受注を開始し、同年中に発売する。納車開始は北米で2026年春、日本で2026年後半の予定である。

 2023年10月、アフィーラ・プロトタイプは「ジャパンモビリティショー2023」で、一般公開された。5人乗りのセダン型BEVで、全長:4.895m、全幅:1.9m、全高:1.46m、ホイールベース:3.0m、駆動方式は全輪駆動(AWD)である。また、新たに「共創プログラム」が発表された

 2024年1月、生成AI(人工知能)を使った対話型システムの開発で、米国マイクロソフトと提携すると発表。開発中のEV「AFEELA(アフィーラ)」に搭載する先進運転支援システム(ADAS)にAIを活用する。ただし、運転操作では使用しない。

 2024年2月、ソニー・ホンダモビリティは2020年代後半までにEVを3車種投入する。2025年のセダン型EV「AFEELA」、2027年にセダンの車台を使い多目的スポーツ車(SUV)型、2028年以降に普及価格帯の小型車を発売する。EV市場の低価格競争が強まる中、主力の北米で米テスラに対抗できる車種をそろえる。

図2 2023年1月に発表されたアフィーラ・プロトタイプ 

AFEELA共創プログラム(仮称)の概要
 AFEELAを知性を持ったモビリティとして育て、ユーザーにとって唯一無二の存在、愛着を持てる存在になれるよう、従来のクルマの価値に加えて、新しいモビリティの可能性を追求していく。自社の知見だけに閉じることなく、社外のクリエイターやデベロッパーが、自由にAFEELAの上で動作するアプリケーションやサービスを開発できる環境を提供し、クリエイティビティを表現・共創できる場をデジタル上で用意する。  出典:AFEELA | 公式ウェブサイト (shm-afeela.com)

 具体的な共創アイテムに、①車体のフロント部分のメディアバーディスプレイ、②ダッシュボードのパノラミックスクリーン、③走行中のeモーターサウンドの音源、④独自の付加情報を付けたナビアプリ、⑤自由にアプリケーションやサービスを開発できる環境(Android OS)を示している。

 ソニー・ホンダモビリティーは、将来の完全運転自動化(レベル5)までを見通した新しい移動体空間の提供を目指している。幼いころからアニメ、プレステ、スマホに慣れ親しんできた世代には、魅力的と映るであろう。ただ、移動体ならではの驚くような価値はどこに見出すのか?

 2024年7月、本田技研工業とソニーはEVの車台を共通化すると発表。2026年に北米で発売する車種から導入する。中国勢を中心に世界でEVの低価格化が進み、コスト競争力と開発期間の短縮を進める狙い。
 車台を共通化するのは、本田技研工業の「0(ゼロ)シリーズ」と、ソニー・ホンダモビリティが初めて発売する高級EV「アフィーラ(AFEELA)」。車台は、EVコストの約1割程度を占める。 

 2024年9月、ソニー・ホンダモビリティは、EV「アフィーラ」試作品の2024年モデルを六本木ヒルズで公開した。2025年に米国で受注開始し、2026年春から北米、2026年後半に日本で納車を始める。2023年モデルはカメラがサイドミラーの役割であったが、米国の法律対応のため2024年モデルからカメラに加えてミラーも備える。

 2020年代に入り、BEV市場への新規参入が本格化してきた。ガソリン車の部品点数は約3万点で、BEVは部品点数が4~5割少ないことが、異業種からの参入障壁を下げている。加えて、モーターや蓄電池、半導体が中核部品となり、BEVはソフトで制御されるようになった。
 また、自動運転による新規市場の拡大がIT関連企業を引きつけており、従来の自動車の概念を超えた大変革を起こす可能性が期待される。BEV劣勢の日本メーカーを奮起させるために、テスラを超える驚きのBEV事業が現れることを期待したい。

ルネサスエレクトロニクス

 2022年1月、ルネサスエレクトロニクスはインドのタタ・グループでソフトウエアを手掛けるタタ・エレクシーと、BEV技術の共同開発組織「次世代EVイノベーションセンタ」をベンガルールに設置した。新興市場で二輪車や小型車の電動化が進むため、電源やモーター管理、システム開発に取り組む。

中国バイドゥ

 2021年1月、中国では百度(バイドゥ)は吉利汽車(ジーリー)と合弁会社「百度汽車」を設立し、BEVの製造に乗り出すと発表した。百度は2013年に自動運転技術の研究開発をスタートし、2017年に自動運転技術開発のオープン・プラットフォーム「Apollo(アポロ)」をリリースしている。

 2022年10月、百度と浙江吉利控股集団が共同で立ち上げた集度汽車が、自動運転技術搭載のBEV「ROBO-01」の月探査限定版を発表した。1000台の限定販売、価格は39万9800元(約800万円)で2023年に納入する。米国クアルコムとエヌビディアの半導体を搭載し、高い自動運転性能を実現する。

中国ディディ

 2020年11月、中国配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)は、世界初となる配車サービス専用のBEVを発表した。比亜迪(BYD)と共同開発し、BYDが製造を請け負う。滴滴のアプリを使って配車事業を手掛ける企業やリース会社に提供するのが狙いで、2025年をメドに100万台規模の利用を目指す。

西日本鉄道

 2022年10月、西日本鉄道は、既存のディーゼル車両をEVバスに改造する事業を始めると発表した。住友商事が出資する台湾の大手EVバスメーカーのRACから部品を購入し、まずは自社の車両のEV化に取り組み、2023年4月に国内で改造したEVバス2台を天神や博多を走る路線に導入する。
 2030年までに、自社バスの約20%(500~600台)をEVバス化する計画。改造費用は2700万円/台で、国や自治体から補助金も出る。2022年6月、台湾で改造したEVバスを北九州に導入し、1回の充電で約130km走行でき、CO2排出量をディーゼルバスに比べて約40%削減できたとしている。

 脱炭素社会の実現に向けて、政府は2035年までにすべての乗用車の新車をBEVやHEV、FCEVなどのいわゆる電動車にし、2030年までに新車の20~30%を電動車とする目標を設定している。この普及を加速させるため、充電スタンド・水素ステーションに関しても様々な取り組みを進めている。

丸紅

 2023年1月、東南アジアで企業からEVの調達や保守を一括で請け負う「フリートマネジメント事業」を始めると発表し、シンガポールの交通大手SMRTグループの交通輸送サービス企業と提携した。
 その他、オンデマンド交通や自動運転サービスなどEVを活用した次世代型移動サービス「MaaS(マース)」事業も開発する。丸紅は東南アジアで自動車ローンなどの販売金融やメンテナンスなどを事業化しており、法人向けEV事業にも幅を広げ、東南アジアで自動車関連事業の拡大を目指す。

シャープ

 2024年9月、シャープは、EV事業に参入すると発表。企画や開発を担い、受託生産を手がける親会社の台湾・ 鴻海
ホンハイ
 精密工業グループのプラットフォーム(車台)を活用し、数年以内の参入をめざす。
 試作モデル「LDK+(エルディーケープラス)」は、全長:約5mのワンボックスカーで、後方に大型のディスプレーがついている。後部座席が180度回転し、仕事や映画観賞、子どもの遊び場としても利用できる。太陽電池も搭載する。AIやIoT技術を使い、自宅に駐車している時に、EVと家の電気利用の効率化をめざす。

図3 「LDK+」イメージ(左:外観、右:車内) 出典:シャープ

充電スタンドの開発・設置状況 

 充電器の耐用年数は8年前後が目安であり、多くの充電スタンドは2010年代前半に国の補助金制度を活用して急増したもので、現在は耐用年数を迎えており、充電器設置総数は3万基で頭打ちの状態にある。政府の掲げる「2030年に15万基」の目標には遠く及ばない。
 現在、さらなる充電スタンド増設には国の補助金制度による後押しが不可欠な状況にある。今後、ガソリンスタンドへの併設など、安全対策を含めた法制化も必要である。

充電器の種類と設置

 脱炭素社会の実現に向けて、政府は2035年までに全ての乗用車の新車をBEVやHEV、FCEVなどの電動車にするため、2030年までに新車の20~30%を電動車とする中間目標を設定している。この普及を加速させるため、充電スタンド水素ステーションに関しても様々な取り組みを進めている。

 2021年6月、政府はBEVやPHEV用の充電スタンド数を2030年までに15万基に増やし、FCEV用の水素ステーションの数も1000基に増やすなどの新たな目標を設定する方針を示し、ガソリンスタンド並みに利便性を高めるとした。

 充電器には、自宅など一定時間駐車する場合に使用する普通充電器と、高速道路などで充電する急速充電器がある。
 普通充電器は8~12時間程度の長時間充電を対象とし、低出力で設置費用は100万円程度を要し、急速充電器は30分程度の短時間充電を可能とするため、高出力で設置費用は500万円程度と高めである。

図1 国内のEV用充電器の種類

 商業・宿泊施設など住宅以外の場所に設置され、誰でも使える充電器数は、2023年で約3万基(内、急速充電器は約9000基)に達している。シミュレーション解析では、日本の主な道路の約30kmごとに急速充電器が設置されれば、理論上、電欠は起きず、総数は約6100基とされている。

 充電器は数の上では十分であるが、設置場所が都市部に偏在し、1、2基程度/1カ所の設置が多く、充電時間が長いため、BEVを安心して走らせる環境には至らず、最近では充電待ちも見られる。一方、ガソリンスタンドの数は約2.8万カ所であるが、複数車への短時間での給油が可能である

 一方、充電器の耐用年数は8年前後が目安であり、多くの充電スタンドは2010年代前半に国の補助金制度を活用して急増したもので、現在は耐用年数を迎えており、充電器設置総数は3万基で頭打ちの状態にある。政府の掲げる「2030年に15万基」の目標には遠く及ばない。 

図2 日本における充電器設置基数とEV・PHEVの普及台数の推移

 充電スタンドの設置費用は500万円/基以上、年間維持費は約100万円程度である。充電に時間を要するため採算をとるのは難しいため、さらなる充電スタンド増設には国の補助金制度が不可欠な状況にある。今後、ガソリンスタンドへの併設など、安全対策を含めた法制化も必要である。

 2023年10月、経済産業省は、2030年に向けた充電器の口数を、従来の15万口から倍増し、公共用の急速充電器3万口を含む充電インフラ30万口の整備を目指すと発表した。2024年3月時点で約4万口にとどまる。そのうち急速充電器は1万口ほどである。
 高速道路や道の駅、サービスステーション(SS)、コンビニ、ディーラーなど需要が高い場所では、90kW以上の高出力急速充電器を基本とし、特に需要の多い場所では150kWの急速充電器も設置する。

 2024年4月、EV充電設備が3月末で全国に計40323口となり、昨年度の1年間で約3割急増した。2016年度から耐用年数(8年程度)を迎えた設備の撤去があり、30000口前後でほぼ横ばいであった。
 しかし、政府が2030年までの設置目標を従来の2倍の300000口に引き上げ、充電設備の導入を進めるなどした自動車メーカーを優遇するため、2023年度予算を前年度実績の約3倍となる175億円を確保した。 

 最近は1基で複数のEVを同時充電できるタイプが登場し、数え方が「基」から「口」に見直された。3月末時点で急速充電器は前年比約1100増の10128口、普通充電器は約7000増の30195口となった。
 設置場所別では、集合住宅に約5000口、商業施設に約3000口、ディーラーに約600口が導入された。
 2024年度も老朽設備交換への補助額を増やすなど、予算を360億円に倍増させて拡大を促す。また国土交通省と連携し、不動産会社に新築集合住宅への積極的な設備の導入を要請している。

充電事業の動き

 2020年6月、東京電力HDと中部電力が共同出資するイーモビリティパワー(e-Mobility Power)は、EV充電インフラ整備でコスモエネルギーHDの子会社と提携し、コスモ系列の給油所にEV充電器の設置を進めると発表した。2025年中に1.5万基の設置を目指す。

 2021年6月、ソフトバンク社内ベンチャー発のユビ電(Ubiden)は、WeCharge 電気⾃動⾞充電サービスを開始し、全国のマンションや⼤学、商業施設等への充電器設置を目指すと発表。

 2022年6月、ENEOSは日本電気(NEC)からEV充電サービス事業を継承し、全国約4600基のEV充電設備の運営を開始した。次世代型エネルギー供給・地域サービス事業の育成・強化を目指し、2025年までに急速充電器を1000基以上、2030年までに最大1万基の設置を目指す。

2022年6月、マンションへのEV充電器の導入・運用を進めてきたユアスタンド(Yourstand)はニッパツと組み、機械式立体駐車場の全区画で充電ができるシステムを商品化。ニッパツ子会社製の機械式駐車場は全国に計30万台分あり、モニター設置から市場開拓を開始する。

 2022年6月、ENECHANGE(エネチェンジ)は三菱オートリースと販売契約を結び、2027年までにEV充電器を3万基設置する。コインパーキング運営会社や駐車スペース所有者などに、低コストでEV普通充電器(出力:6kWの倍速充電対応)の設置を進める。
 初期費用0円、利用料9,800円/月など多様な料金プランを用意し、EVドライバー向けに「エネチェンジEV充電」アプリを提供する。専用アプリを利用することで月額費用不要で、いつでも誰でも好きな時に、EVやPHVへの充電を可能とする。

 2022年9月、オリックスはEV充電事業へ参入。EV充電システムを手掛けるユビ電に出資し、リース事業のオリックス自動車と2025年までにEV充電器を取引先の駐車場やマンションなどに5万基設置する。ユビ電製のEV充電器の低コスト化を図り、設置コストを3~6割程度引き下げる。

 2022年9月、JTBグループはテラモーターズと2025年までに国内観光地に5000基のEV充電器を設置する。JTBコミュニケーションデザインは観光地に2000基強のEV充電器を設置しており、スマートフォン・アプリで充電料金をオンライン決済するなど利便性が高い充電器へ置き換える。

 2022年10月、東京都庁傍の西新宿第四駐車場で、電動バイク向け交換式バッテリーのシェアリングサービスが始まった。二輪大手4社とENEOSホールディングスが共同出資するGachaco(ガチャコ)が、都の支援を受けてバッテリー交換機を設置。5000円/月程度で、24時間いつでも交換できる。
 現状は本田技研工業の電動バイク向けであるが、警備や配達などの利用を見込み、今後2年間で都内約70カ所に増やす。都は2035年までに新規販売される二輪車を100%非ガソリン化する目標を掲げる。

2022年10月、パワーエックスは再生可能エネルギーを使うEV充電器を、伊藤忠商事、成田国際空港、森トラストなどと協力し、2023年夏から東京ミッドタウンや成田空港など10カ所に設置する。
 2030年までに全国7000カ所に拡大する。再生エネ事業者と契約して電力を調達して蓄電池にためて急速充電する。240kWで充電すると、車載電池(容量:70kWh)を約18分で満充電できる。

 2022年11月、パワーエックスは伊藤忠商事、スズキなどと提携し、2024年夏から急速充電事業を開始する。岡山県玉野市に蓄電池工場を建設して開発した急速充電器は安価なリン酸鉄リチウムイオン電池を搭載し、蓄電池内で電圧を上げ、一般の急速充電器よりも短時間での充電が可能である。 

 2022年11月、エネチェンジがマンション向け充電事業への参入を発表。6kWの普通EV充電器「チャージ3」を新たに準備し、設置費用・月額費用が不要で、利用者が使った分の料金を負担する。

 2023年2月、ENEOSロボットによる無人電池交換サービスを目指し、スタートアップの米国アンプルの専用ステーションを京都市に設置し、2023年度前半にもMKタクシーや物流会社と協力して各社数台のBEVで実証試験を行う。
 ステーションにBEVが入庫すると通信で車種を特定し、ロボットが充電済みの電池を積み木のように並べて設置する。現状、交換に約10分を要するが、5分に短縮した改良ステーションを設置する。

 2023年3月、静岡県の新東名高速道路の2つのサービスエリアに、国内高速道路で初となる高出力90kW級の急速充電器が中日本高速道路とイーモビリティパワーにより設置された。
 浜松SAの上下線ではそれぞれEV8台を同時充電、駿河湾沼津SAの上下線ではそれぞれEV4台を同時充電できる。浜松SAに設置されたスイス・ABB製の充電器はEV1台に最大出力:150kWで充電でき、同時に2台を最大出力:90kWで充電できる。他の1台はニチコン製充電器である。

 2023年3月、ユビ電2024年より急速充電サービスを開始し、2027年までに全国に100か所の急速充電スポットを展開すると発表。出力:150kWを中心に、それ以上の高出力充電器を設置する計画。

 2023年4月、国内2万基のEV充電器の設置場所を調査した結果、ショッピングモールやコンビニなど小売り・外食の店舗が9272基(46%)あり、新車販売店の7240基(36%)を上回ると報じられた。
 中でもイオンは新規施設に20基程度/1カ所を置き、太陽光発電所から電力を送る。2030年には現在より約2割多い2500基とするほか、EVからの放電にはポイントを付けるなどの試みを進める。 

 2023年9月、中部電力とソフトウエア開発のアークエルテクノロジーズは、BEV、EVトラック・バスの充電コストを安くするシステム「OPCAT(オプキャット)」を共同開発したと発表。
 BEVの運行状況や時間帯別の電気料金をAIが分析し、割安な夜間電力を使い車両1台ごとに電気代を抑える充電充電計画を自動作成する。10月下旬から提供する。

 2024年7月、蓄電池事業を手掛けるパワーエックス、千葉県柏市の「道の駅しょうなん」でEV向けの急速充電器(150kW)を2台設置した。2026年までに全国27カ所の道の駅に急速充電器を設置する計画。10分間で最大150km分の充電が可能で、オープンから数カ月は無料とし、設置費用はが負担した。

 2024年7月、パワーエックスは、大規模集合住宅にEV向けの急速充電器を設置する事業を開始した。マンションの共用部に置き、住民だけが利用できるようにする。まず、森ビル「六本木ヒルズレジデンス」にパワーエックスが費用を負担して出力:150kWを設置した。10分間で航続距離:最大150km分の充電が可能。
 同7月、住友不動産は、2026年以降に分譲する新築マンションに、EV充電器を標準設置すると発表した。

 2024年10月、パワーエックスは、従量課金制のEV充電サービスを11月から始める。充電する時間ではなく充電量に応じて料金を決める。基本料金は45円/kWhからで、出力は最大150kWと急速充電に対応し、最長75分間利用できる。再生可能エネルギー由来の電気供給も可能で、追加料金に応じて再生エネ比率を高める。
 電気はパワーエックスが再生エネ発電所から直接調達する。パワーエックスの充電拠点は現在約25カ所あるが、2024年度内に80カ所、2025年内に300カ所に増設する。

図3 各社のEV用充電器の設置計画など

充電スタンドの課題

 最大の課題は「充電器設置総数は3万基で頭打ちの状態」で、政府の掲げる「2030年に15万基」の目標に遠く及ばない。これは、EV・PHVの累積販売台数が欧米中の諸国に比べて明らかに遅れている点ともリンクする。EV普及と充電器設置は鶏と卵の関係にあり、バランスよく進める必要がある。

 EV普及が遅れている日本では充電器の利用が伸びず、維持費用との採算の面から充電器を撤去する商業施設や自治体が出始めている。(読売新聞、2023年7月25日朝刊)この状況を放置すればEV普及が遅れることは明らかである。政府が補助金等により充電器設置を加速するタイミングに来ている。

 また、これまで普通充電器は滞在時間の長い宿泊施設やショッピングモール等を中心に設置を拡大し、急速充電器は設置が容易なディーラー、コンビニ、必要性の高い道の駅・高速道路等を中心に整備が進められてきた。今後、BEVの航続距離が伸びることで、急速充電器”の役割りが増す

 国際エネルギー機関(IEA)によると、日本の公共充電器数は2.9万基、うち急速充電器は0.8万基である。普通充電器は満充電に8~12時間程度を要するが、急速充電器は満充電に30分程度で済む。

 2023年8月、政府は2030年までの充電設備の設置目標を、従来の2倍の30万口に引き上げる方針を固めた。対象は高速道路のサービスエリアや道の駅、商業施設など公共スペースで、最近は1基で複数のEVを同時に充電できるタイプが登場しており、新目標では数え方を「基」から「口」に見直す
 充電時間の短縮も目指し、現在は急速充電器は50kW未満が6割弱を占めているが、高速道路で90kW以上、それ以外では50kW以上を目安とし、補助金により急速充電器の整備を道路管理者らに促す。また、2025年度をめどに充電した電力量に応じて支払う「従量課金制」の導入を目指す。

表1 各国におけるEV/PHVの累計販売台数と公共用充電器数の状況(2022年実績)

 一方、充電スタンド自体の高機能化も重要な課題である。地球環境問題からBEVに充電される電力は基本的に再生可能エネルギーなど脱炭素化が必須であり、スタンドで充電される電力料金の低コスト化はEVユーザーの最も望むべき方向である。これに類する動きを以下に示す。

 2022年1月、日産自動車はAI技術を使い再生可能エネルギーの安い時間帯にEVを充電する実証実験を、福島県浪江町の商業施設「道の駅なみえ」で開始した。再エネの出力変動対策にEVを蓄電池として利用し、EVの充放電を自立的に行うことで系統電力の安定化を目指す。
 道の駅の電力使用量や再生可能エネルギーの発電量に応じ、リーフ5台の蓄電池残量や使用状況(走行距離、出発時刻など)を考慮して車両に優先順位をつけ、必要なタイミングで充放電する。これによりピーク使用量を下げて電気代を抑える。2025年度をめどに自治体や企業向けの実用化を目指す。

 2022年4月、米国スタートアップのGravity(グラビティー)はAI技術を使い、低電気料金の都市型急速充電ユニット(最大出力:360kW)を開発した。長さ約99cm×幅46cm×奥行き20cmとコンパクトで、オプションにより床、壁、天井へ取り付けられ、ケーブルは液冷却方式を採用している。
 電気料金は充電サイト全体のピーク電力で決まる。開発した充電ユニットは、スマートメーターから建物の電力需要を把握し、各車両の電力需要を考慮して優先順位を付け、各充電器に柔軟に電力を配分してEVに充電し、サイト全体のピーク電力を下げて電気代を抑える

 2022年10月、アークエルテクノロジーズは三菱オートリースの本社ビルでEVスマート充電サービスの実証実験を始めた。建物の電力消費量や太陽電池の発電量の予測、各車両の電気残量や今後の走行計画などの多様なデータを使い、EV1台ごとに充電時間帯や充電量を調整して電気料金を低減する。
 多くのEVが同時に充電を行うとピーク時の電力使用量が増えるが、AI技術を活用することで2020~2021年度に実施した実験では電気料金を25%程度低減できた。充電サービス利用料はEV1台あたり2000円/月程度とし、2022年12月にテクトムと業務提携して2023年春にサービスを開始する。

BEVの航続距離が320km超え

 2016年以降に、EV普及の目安とされていた航続距離:320kmを超える新型EVの市販が本格化した。航続距離はエンジン車との比較で常に問題視されてきたが、この課題を蓄電池の大容量化によりクリアしたことで、次の課題として充電時間の短縮化に注目が集まった。

 一般のエンジン車が給油に要する時間は3~5分である。しかし、EVの充電時間は、急速充電器の場合でも、航続距離:80~160kmを確保するためには約15~30分が必要であり、普通充電器(200V)では約4~8時間を要する。そのため、EVメーカー各社は急速充電に向けて動き出した。 

 2018年頃から、高出力充電対応のEVの商品化と急速充電設備の出力増強により、充電時間をエンジン車の給油並みに短くする動きが欧米のEVメーカーなどを中心に始まった。

  • 2016年9月、米国GMの「Chevrolet Bolt EV(シボレー・ボルト)」が市販を開始した。蓄電池容量:60kWh、 航続距離:383km、価格:37495ドルである。
     2022年7月、電動SUV「Blazer EV(ブレイザーEV)」は、航続距離:397~515km、電池容量:100kWhで、最高190kWの急速充電器による10分充電で125kmの走行を可能とた。
  • 2016年10月、ドイツBMWの「i3」が市販を開始した。蓄電池容量:33~42KWh、航続距離:390km、価格:509万円であったが、2022年6月に生産を終了した。
     2022年2月、BMWはクーペタイプEV「i4 eDrive40」は、蓄電池容量:83.9kWh、航続距離:590kmで、150kWの急速充電による10分充電で150km以上の走行を可能とした。
  • 2017年10月、日産自動車が新型リーフの市販を開始した。蓄電池容量:60kWh、航続距離:2012年12月初代リーフの280kmから400kmに伸ばし、価格は315~399万円である。
     2021年新形リーフは、蓄電池容量:40kWh(航続距離:322km)と60kWh(450km)の2車種を発表。50kWの急速充電による10分充電で50km程度の走行を可能とした。
  • 2016年3月に予約注文を開始した米国テスラのBEV「Model 3」は、2019年5月に市販が始まった。蓄電池容量:79~82kWh、航続距離:354~498km、価格:35000ドルである。
     2022年にはロングレンジAWDで航続距離:689kmを公表した。250kWのスーパーチャージャーで15分充電で最大270kmの走行を可能とした。
図4 各種BEVの蓄電池容量と航続距離の比較

 一方で、2023年1月、米国Texas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)は、EVの航続距離を高精度に把握できる電池セルモニターと電池パックモニターの新製品を発表した。
 測定誤差による電池切れ対策が発生しないよう設定していたマージン分が、航続距離として上乗せできる。いずれも電池管理システム(BMS)に使うデバイスであり、電池の経年劣化や延伸が可能となる。量産開始は2023年後半を予定している。  

欧米で進む高出力の急速充電スタンド

 欧米のEVメーカーを中心に航続距離を伸ばすため、BEVに搭載する蓄電池の大容量化が加速している。そのため高出力充電対応BEVの商品化と急速充電器の出力増強が進められている。

  • 米国では、2016年に設立されたフォルクスワーゲン(VW)の充電サービス会社であるElectrify Americaは出力:150~350kWの急速充電器を保有しており、2018年からは高出力急速充電器(出力:350kW)を中心に設置を進めている。
  • 2019年、米国テスラは、「Model 3」向けに「スーパーチャージャーV3」という独自規格の高出力急速充電器(出力:250kW)を、日本を含む世界各国で3.5万基以上設置している。5分充電で120km、15分充電で275kmの走行可能としている。
  • 2020年9月、VW傘下のポルシェは、高出力急速充電(出力:270kW)対応のBEV「Taycan(タイカン)」(RWDモデル、航続距離:489km、蓄電池容量:93.4kWh)を発売。蓄電池電圧を現状の400V程度から800Vに高め、4.5分充電で100kmの走行を可能としている。
  • 2021年2月、韓国の現代自動車は、高出力急速充電(出力:350kW)対応SUVのBEV「IONIQ5(アイオニック5)」(ベースグレード、航続距離:498km、蓄電池容量:58kWh)を欧米などで発売。蓄電池電圧:800V対応で、5分充電で220kmの走行が可能としている。
  • 2021年4月、VW傘下のアウディは、高出力急速充電(出力:270kW)対応のBEV「e-tron GT」(航続距離:534km、電池容量:93.4kWh)を発売。蓄電池電圧:800V対応で、5分充電で100kmの走行が可能としている。
  • 2021年12月、2017年に設立したVWグループや現代自動車などが出資するドイツIONITY(アイオニティ)は、高出力急速充電(出力:350kW)を2025年までに欧州内で、現在の約1500基から約7000基に増設する計画を発表している。
図5 急速充電器の充電能力と対応する各社のBEV

国内の急速充電スタンド普及対策

 欧米メーカーはBEVが高コストとなるが、航続距離を伸ばし、高出力急速充電による充電時間の短縮で顧客の利便性を追求している。一方、日本メーカーは国内の充電スタンドの仕様に合わせたBEV開発に留まっており、蓄電池容量を減らした低コストの軽自動車BEVを商品化している。
 なお、国内の普通充電設備(200V)は交流・単相電源(出力:3〜6kW)と、急速充電設備は直流電源(出力:20~50kW)が中心に設置されているのが現状である。

  • 2021年11月、日産自動車が投入したBEV「アリアB6」は、蓄電池容量:65kWh(電池電圧:352V)、航続距離:430km、価格:539万円である。出力130kWの急速充電に対応する日本仕様で、急速充電器で約30分充電で375kmの走行が可能としている。
  • 2022年5月、トヨタ自動車が国内でサブスクリプション(定額課金)サービスでの提供を始めた新型4WDのBEV「bZ4X」は、蓄電池容量:71.4kWh(電池電圧:355V)、航続距離:460km、価格:650万円で、日本や英国向けモデルで150kWの急速充電に対応。
  • 2022年5月、軽自動車タイプのBEVの発売を日産自動車と三菱自動車が表明している。日産自動車「サクラ」と三菱自動車「eKクロスEV」は、蓄電池容量:20kWh、航続距離:最大180km、価格:230~290万円台(国からの補助金:最大55万円)と低コストである。

 一方、2023年1月、政府はBEVを数分程度で充電できる高出力急速充電器の普及に乗り出すと発表した。200kW超の高出力急速充電器も一定の安全性は確保できるとし、2023年中に消防庁が関係省令を改正して設置や取り扱いの規制を緩和し、50kW超~200kWの充電器と同等の扱いとする。

 現状、20kW以下のEV充電器の設置に規制はないが、安全面から20kW超は電気絶縁性確保など一定の要件を満たす必要があり、50kW超は建築物からの距離などの制約がある。200kW超は高電圧設備となり、屋内では壁や天井を不燃材料で区画し、設備形式により運営者など特定の人しか扱えない。

 政府は2030年までにEV充電器を15万基とし、このうち3万基を急速充電とする目標を掲げている。規制緩和により高出力急速充電器の設置や運営のコストが下がれば、充電スタンドの設置が増え、BEVの普及が加速される。また、大型蓄電池を搭載するEVトラックやEVバスの普及にも欠かせない

 航続距離が長く、充電時間の短いBEVは非常に魅力的な商品といえる。しかし、搭載する電池容量が増え、新たに高出力急速充電器を揃える必要があり、高価格BEVのトレンドである。
 一方、中国の低価格BEVに始まり、日本では日産サクラの軽BEVが2022年度の販売トップとなった。電池容量を減らして航続距離を犠牲にし、価格を抑えて顧客の支持を得た。
 これまでテスラ、BMW、BYDなど高価格帯を中心にBEVは拡大してきた。しかし、顧客の用途と懐具合は様々である。さらなるBEVの拡大には、顧客のニーズに合わせて高価格帯から低価格帯までのラインアップが不可欠であろう。残念ながら、日本製BEVには選択の余地がない。

 2023年10月、パワーエックスは、蓄電池を併設した出力:最大150kWの国内最速クラスの急速充電器によるEVの公共充電サービスを開始した。東京都港区や品川区の複合施設を皮切りに2023年内に10拠点に設置し、2024年には100拠点まで広げる。
 利用者は専用のスマートフォンのアプリから充電メニューを選択し、事前予約ができる。料金は従量課金制で85円/kWh、5カ所の太陽光発電所から割り当てた100%再生可能エネルギーの場合は105円/kWhである。

 2024年10月、本田技研工業は、EV充電サービスを提供するプラゴと充電インフラの整備で協業する。2030年までに商業施設などに数千口の急速充電器を設置する。スマートフォンのアプリを使えば誰でも充電可能で、アプリ内で充電ステーションの検索や予約、オンライン決済ができるようにする。
 充電プラグを差し込むと、自動で認証、充電、決済までできる「プラグアンドチャージ」機能も共同開発する。米テスラの急速充電器「スーパーチャージャー」で採用されており、日本独自の急速充電規格「チャデモ」での実装を目指す。プラゴは2024年8月時点で約430基の充電器を全国に設置している。 

急速充電スタンドの規格と課題

急速充電規格の現状

 現在、世界のBEV急速充電器には、「日本のCHAdeMO(チャデモ)」、「中国のGB/T」、「EUと北米のCCS(コンボ)」、「テスラのスーパーチャージャー」の4規格が存在する。それぞれコネクタと車側インレットの形式、BEVと急速充電器間の通信方式に特徴がある。 

 2009年、日本のCHAdeMOは、世界で最も早く設置された「CHAdeMO 1.0(最大出力:50kW)」に続き、「CHAdeMO 1.2(200kW)」、「CHAdeMO 2.0(400kW)」、「CHAdeMO 3.0(900kW)」の4規格が揃っている。
 国内で出力50kW以上の高出力急速充電器の設置はe-Mobility Powerが進めており、2021年から90kWの設置を開始しが、未だに「CHAdeMO 1.0」に留まっているのが現状である。

 また、2013年に中国のGB/Tは日本と同じCAN(Controller Area Network)通信、2013~2014年にEUと北米のCCSはPLC(Power Line Communication)通信を採用して設置が始まった。いずれの方式もIEC(国際電気標準会議)標準になっている。
 さらに、CHAdeMOはIEEE(米国電気電子学会)標準、米国のCCS方式はSAE(米国自動車技術者協会)標準にもなっている。

 一方、2012年、独自路線を歩むテスラのスーパーチャージャーもCAN通信を採用して市場展開を進めており、2023年6月にはテスラ規格はSAEで承認された。テスラは、スーパーチャージャーを他社BEVにも開放することを表明済みで、規格名もNACS(北米充電標準規格)に変更している。

 ところで、さらなる高出力化のため、2018年から日本と中国で新たな充電規格「ChaoJi(チャオジ)」の開発が始められたが、実証試験段階にあるため対応するBEVは存在しない。各規格にはそれぞれの開発経緯があるため、今後、急速に規格の統一が進むことはないであろう。

 2020年末での高出力急速充電器の設置状況は、CHAdeMO規格が3.6万基、中国GB/T規格が30万基、CCS規格が欧米で1.3万基、テスラ規格(NACS)のスーパーチャージャーが2.5万基である。しかし、このシェアはゆっくりと変化を始めている。

図6 各国のBEV用急速充電器の比較

BEVメーカーの最新動向

 一般にBEVメーカーは、車側インレットを現地の規格、もしくは充電インフラの普及状況に合わせて柔軟に対応してユーザーに提供している。
 例えば、テスラの中国製モデル3/Yには、中国GB/T規格とテスラ規格の充電口が2つ用意されている。他地域では、オプションのアタッチメントを接続することで、CHAdeMO規格の急速充電器と接続できる。欧州向けテスラ車では、CCS規格の急速充電器にも対応した車両を販売開始している。

 現在、テスラは北米で1.2万基以上のNACS規格の急速充電設備を展開し、シェアは約6割に達しており、2023年5月以降、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、ドイツのメルセデス・ベンツグループの大手が採用を決め、北米の急速充電規格で事実上の標準になった。
 米政府はBEVや電池の自国生産を後押ししており、充電インフラ整備にも補助金を出し2030年までに50万基を設置する目標を掲げている。

 このような状況から、2023年7月、CHAdeMOの普及を後押ししていた日産自動車も、北米向けのBEVにテスラのNACS規格を2025年から採用すると発表した。北米で販売する自社BEV「アリア」にはアダプターを提供してNACS規格と欧州のCCS規格の両方で充電可能とする。

 一方で、2023年7月、BMWグループ、ホンダ、GM、現代自動車、起亜、ステランティス、メルセデス・ベンツグループの7社は北米のBEV向け充電網の整備で提携すると発表した。資金を出し合い年内に合弁会社を立ち上げ、2024年夏から急速充電器の設置を始め、2030年に3万基以上の設置を目指す。
 充電に使う電力は再生可能エネルギー由来と限定し、設置する急速充電器はCCS規格に加えて、テスラのNACS規格の両方に対応する充電器とし、すべてのメーカーのEVに充電網を開放する。

 7社連合は充電インフラを自前で構築して保有・運営する見通しで、合弁会社が取得したBEVの充電データや、車載電池の消耗度合いなどの重要情報は参画メーカーで共有する。充電インフラから得られるデータをBEV開発に反映してきたのは、テスラがBEVで躍進した理由の一つである。

 2023年8月 テスラは、自社の長距離トラック向けの充電設備の整備に関し、米政府に9700万ドル(約140億円)の補助金拠出を申請した。2400万ドルは自前で拠出する。テスラセミのために、大型版急速充電ネットワーク「メガチャージャー」を各地に設置する計画である。
 米国ブルームバーグ通信によると、テキサス州からカリフォルニア州までの輸送路に10拠点近いセミ向けの急速充電ステーションを整備する計画である。

 2023年9月、本田技研工業は、北米で販売するEVの充電方式について、2025年から米国テスラ方式を採用すると発表した。当面は米国方式のCCS1規格で販売するが、専用のアダプターを装着すればテスラ方式で充電できるようにする。テスラ方式はCCS1に比べ充電速度が速いとされる。

 2023年9月、本田技研工業は、ドイツBMWグループ、米国フォード・モーターとEVの電力に関する情報基盤を北米で構築する合弁会社「チャージスケープ」を設立すると発表した。米国・カナダの電力会社と、3社を結ぶ情報網をつくり、2024年初めの稼働を目指す。
 電力会社と自動車会社で共通の情報基盤を持つことで、各地のEVの充電状況を把握し、効率的な充電制御が可能となり、利用者はEVの最適な充電スケジュールを組んだり、電気代を節約できる。電力会社も電力の需給バランスを調整し、安定した電力網の維持が可能となる。
 将来的にはEVを蓄電池として使う「V2G(ビークル・ツー・グリッド)」向けの機能も想定。2022年、スイスで大手カーシェアリング会社と連携し、V2Gの実証実験をしている。欧州の急速充電規格CCSに対応し、双方向充電を可能にした量産車を導入する世界初の取り組みである。

 2023年10月、トヨタ自動車が北米の急速充電規格にテスラのNACS規格を2025年から採用する。 テスラのNACS規格の急速充電器はスマートフォンと連動し、充電プラグを差し込むだけで自動で認証と充電、決済を行う「プラグ・アンド・チャージ」機能が利便性で優れ、出力も高い。
 ケンタッキー州で、2025年から3列シートを備えた多目的スポーツ車(SUV)のBEVを生産する計画で、トヨタ・レクサスブランドの一部BEVをNACS規格に対応させる。販売済みのBEVを持つ顧客にはNACS規格対応のアダプターを提供する。

 2024年1月、ドイツ・ボッシュはVWのソフトウエア子会社カリアドとの共同で、EV自動充電システムの実証実験を開始した。ボッシュは、自動駐車システムの実用化に乗り出し独国内空港の駐車場などで運用しており、車が自動で駐車スペースまで移動し、ロボットが駐車スペースの充電器のケーブルを車に差し込む。

2024年5月、東京電力HDや中部電力などが出資する「e-Mobility Power」は、EV向けの新型急速充電器を東光高岳と共同開発すると発表。日本で主流の「CHAdeMO(チャデモ)規格」に対応し、最大出力:350kWで同時に2台充電でき、10分間充電で約400km走行できる。2025年秋にも設置を始める。
 イーモビリティパワーは全国の商業施設や高速道路などに充電器を設置している。2024年3月末時点で管理する充電器は2万口強で、このうち急速充電器は9000口分ある。

 2024年7月、トヨタ自動車は、北米でEVの充電器網整備に向け、本田技研工業、GM、BMW、現代自動車など日米欧韓の自動車メーカー7社が出資する充電設備会社「アイオナ」に出資すると発表。現在、米国とカナダでEV「bZ4X」などを販売しており、2025年にも米国でEVの現地生産を始める。
 アイオナは2024年後半から北米でEV充電器の設置を始め、2030年までに3万基に増やす計画で、世界の主要な自動車メーカーが出資している。テスラの充電規格「NACS」と、米国や欧州で主流の充電規格「CCS」の2つの方式に対応している。

 今後、北米におけるテスラ車の販売シェアは確実に拡大する。しかし、7社連合が危機感を覚えるのは、テスラのスーパーチャージャーが北米でシェア6割に達していることであろう。充電インフラとBEVを一体化したビジネスモデルは、従来の延長線上では考えられなかった。
 GM、メルセデスベンツなど主要メーカーが、自社EVの標準仕様にテスラ規格を採用する動きが相次いでおり、テスラの優位性がさらに強まる。

燃料電池車の開発動向

 国際エネルギー機関(IEA)によると、2022年の燃料電池車の普及台数は前年比40%増加して世界で7.21万台に達した。国別シェアは首位が韓国で41%で、2位米国(21%)、3位中国(19%)、残念ながら商品化で先行したは日本(11%)は4位で、5位ドイツは日本の約1/3に留まる。
 また、燃料電池車の普及台数の約80%は普通乗用車(FCEV)で、10% がFCトラック、10% 弱がFCバスである。2022年には、FCトラックはFCEVやFCバスを上回るペースで成長し、60%増加する。

改定された水素基本戦略

 2023年6月、日本の水素基本戦略が6年ぶりに改定された

自動車に関する記載内容

 今後は乗用車に加え、より多くの水素需要が見込まれ燃料電池車の利点が発揮されやすい商用車に対する支援を重点化していく。関係者の集まる官民協議会での議論を通じて FC トラック等の生産・導入見通しのロードマップを作成し、導入の道筋を明らかにする。
 バス、タクシー、ハイヤー等の商用車、パトカー等の公用車、水素エンジン車も、今後の水素需要が見込まれる分野で、モビリティ分野における水素需要拡大に向けて官民で取組を進める。

 以上の取組を通じて、2030 年までに乗用車換算で 80 万台程度(水素消費量:8万トン/年程度)の普及を、水素ステーションは、2030 年度までに 1000 基程度の整備目標の確実な実現を目指す。

図1 水素ロードマップ 出典:第六回水素・燃料電池の普及に係る自治体連系会議

燃料電池車の導入現状

国際エネルギー機関(IEA)の報告

 国際エネルギー機関(IEA)によると、2022年の燃料電池車の普及台数は前年比40%増加して世界で7.21万台に達した。国別シェアは首位の韓国が41%で、2位米国(21%)、3位中国(19%)、残念ながら商品化で先行したは日本(11%)は4位で、5位ドイツは日本の約1/3に留まる。
 また、燃料電池車の普及台数の約80%は普通乗用車(FCEV)で、10% がFCトラック、10% 弱がFCバスである。2022年には、FCトラックはFCEVやFCバスを上回るペースで成長し、60%増加する。

韓国の燃料電池車の普及台数は約3万台で、現在は世界の燃料電池車の半分以上を生産し、2022年には1.5万台の燃料電池車が発売され、その2/3は韓国である。背景にはFCEVの生産と販売を支援する政策が影響しており、現代自動車が燃料電池車のトップメーカーとなった。
米国の燃料電池車の普及台数は約1.51万台で、その多くが普通乗用車(FCEV)で、FCバスは 200 台強である。2022年には米国の燃料電池車の普及台数は20%以上増加したが、これは中国の60%増に比べてはるかに少ない。
中国の燃料電池車の普及台数は約1.37万台で、その多くは大型燃料電池車セグメント(FCトラックとFCバス)である。中国には世界のFCトラックの 95%以上と、燃料電池バスの 85%近くが存在する。2022年には200台以上の普通乗用車(FCEV)が加わる。

 一方、水素ステーションは世界で1020基に達しているが、2022年の国別シェアは首位の中国が32%、2位韓国(22%)、3位日本(17%)、4位ドイツ(10%)、5位米国(7%)である。

 水素ステーション1基あたりの燃料電池車数は、水素ステーション普及の目安となる。ドイツが25台/基、中国が43台/基、日本が46台/基、韓国が132台/基、米国は213台/基であり、日本の水素ステーションの普及が他国に比べて遅れているとは言えない。

図2 2022年の燃料電池自動車と水素ステーションの国別シェア
出典::IEA「Global EV Outlook 2023」

国内の状況

 2022年末の国内の燃料電池車の累積台数は7648台に達するも、2020年の目標である4万台の20%と未達に終わり、2025年の20万台達成、2030年の80万台の目標の達成が全く見通せない状況にある。

 一方、水素ステーションは、2020年の目標である160基の設置はクリアしたものの、2025年の320基の設置は厳しく、水素基本戦略で改定された1000基の設置にはほど遠い。

 何故、燃料電池車の累積台数が目標に全く達しなかったのか?この真摯な反省をせずに、政府は高い目標の設定を変えていない。一方で、水素ステーションの設置目標に関しては積み増しを行うのは何故か?『過去を振り返り、再度の未来予測により方向修正すべき時期である。』

図3 国内における燃料電池車の累積台数と燃料電池車/水素ステーション比

主要メーカーの開発動向

トヨタ自動車

 2020年12月、フルモデルチェンジした新型FCEV「MIRAI」の販売を開始した。最高出力:114kWのFCスタック、約20%拡大した高圧水素タンク(134MPa、141L×3本)を搭載し、約30%増となる航続距離:850kmを実現した。価格:710万円~805万円(税込)である。
 エコカー減税や環境性能割、グリーン化特例といった税制面での優遇に加え、CEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金)の対象となり、購入に際しては117.3万円が交付される。

図4 フルモデルチェンジしたトヨタ自動車のFCEV新型「MIRAI Z」

 2021年10月、中国の北京億華通科技と共に華豊燃料電池において、新型MIRAIに搭載した燃料電池システムをベースに商用車向けの燃料電池システム「TLパワー100」(出力:101kW、3万時間の耐久性)の製造・販売を開始した。
 トヨタ自動車は清華大学系で燃料電池システムを開発する北京億華通科技とともに、燃料電池システムの製造・販売を担う華豊燃料電池を立ち上げていた。

 2023年3月、トヨタ自動車中国法人と海馬汽車はFCEV推進に関する戦略的な協力枠組みで合意した。中国の海南島を大規模な試験場として活用し、新型「MIRAI」の技術を使って開発を進める。2023年に200台での実証試験を目指し、2025年には2000台の運用を計画する。

 2023年4月、高級車種「クラウン」の新型セダンで、水素で走るFCEVとHEVを今年秋頃に発売すると発表した。また、冬頃にはPHEVを発売する。乗用車のFCEVは「MIRAI」以外で初となる。 

図5 FCVが設定される新型クラウンの「セダン」

 2024月2月、中国のFC大手北京億華通科技(シノハイテック)と北京市に立ち上げた共同出資会社でFCシステムの生産・販売を行うと発表。100〜200台/月の予定で、現地の商用車メーカーなどに供給する。トラックやバス、鉄道、定置発電機などに向けて外販する戦略で、中国、米国、欧州を重点市場としている。
 第1期で生産工場や検査棟、開発棟などを整備し、最大生産能力1万台/年を確保し、第2期は2026年に着工する。新工場は2021年設立の合弁会社「華豊燃料電池(FCTS)」と2020年設立の「連合燃料電池システム研究開発(FCRD)」が手がける。
 中国では商用車を中心にFCV市場が拡大しつつあり、自動車業界を挙げてFCV普及に取り組んでいる。トヨタ自動車や中国第一汽車、広州汽車集団など6社が商用車用のFCシステムの開発で連携する。

 2024年8月、トヨタ自動車とドイツBMWがFCEVで全面提携する。トヨタ自動車がセル供給のみから、水素タンク・燃料電池などの基幹部品も供給し、コストを抑えてBMWが数年内にFCEV量産車を発売する。両社で欧州の水素充塡インフラも整備する。9月に基本合意書(MOU)を交わし、BMWのメディア説明会で公表する。
 欧州自動車工業会によると、EU域内のBEV向けの公共充電ポイントは2023年末時点で63.2万カ所を超えたが、水素ステーションは欧州全体でも270カ所にとどまる。 

本田技研工業

 2021年4月、世界で販売する自動車のすべてを2040年までにBEVあるいはFCEVにする目標を発表。2021年6月、国内でのFCEVの生産を年内で中止することを表明。ただし、BEVに注力しながらも、米国GMとも協力してFCEVの開発は継続し、新車種投入も検討するとした。

 2022年11月、2024年に米国で「CR-V FCEV」を生産すると発表した。多目的スポーツ車(SUV)「CR-V」をベースにし、オハイオ州のパフォーマンス・マニュファクチャリング・センターで少量生産する。水素供給拠点が十分に整備されていないため、プラグインFCEVである

 2024年1月、米国GMと共同で、FCEV用の新型燃料電池システム(横:約1m、奥行:約0.7m)のミシガン州に設けた合弁会社での量産を開始した。オハイオ州の工場でプラグイン式のスポーツ用多目的車(SUV)「CR-V FCEV」の量産を始め、2024年前半にも日米でを販売する。
 耐久性を従来の2倍にし、低温への耐性も高め、製造コストを1/3に抑えた。燃料電池システムは、当面は2000基/年の生産をめざし、自社だけでなく商用車や建設機械、北米のデータセンター向け定置電源としても外販する方針で、活用例を広げて生産拡大を図り、コスト削減を狙う。

 2024年2月、新型FCEVを2024年夏に日本で発売すると発表。多目的スポーツ車(SUV)「CR-V e:FCEV 」を米国で生産して輸入する。航続距離:600km以上、新たにプラグイン機能を追加し、水素は約3分で満充填できる。トヨタのFCV「ミライ」などの価格は約800万円だが、現時点で価格は非公表。
 電池だけで60km以上走れる。充電残量20%から80%に回復する時間は、普通充電(6kW出力)で2時間程度となる見通し。全国の充電スタンドや自宅で充電でき、災害時など充電口に専用機器を差し込むことで、最大1500Wの出力で給電できる給電口を車体後部の荷室内に設けた。

 2024年6月、米国オハイオ州にあるPerformance Manufacturing Center(PMC)で新型水素燃料電池車「CR-V e:FCEV」の生産を開始したと発表。水素燃料電池システムは、GMとの合弁生産拠点であるミシガン州のFuel Cell System Manufacturingで生産する。
 小型SUVで、搭載するプラグイン電池により最大29マイル(約47km)のEV走行が可能。水素燃料電池システムと組み合わせ、航続距離:270マイル(約435km)である。

 2024年7月、水素の充塡拠点は日本では少ないため、充電できるSUV「CR-V e:FCEV」の国内販売を発表。リース専用で価格は809.49万円からで、航続距離:621km、自宅での6.4kW普通充電に対応して電気だけの走行もできる。普通充電のみでも世界統一試験サイクル(WLTC)モードで61キロメートルの走行ができる。

韓国現代自動車

  2021年9月、今後発売する商用車をすべてBEVとFCEVにすると発表したが、3か月後の同年12月には市場が期待できないため、FCEV開発を中断した。

 2022年5月、日本市場への再参入を発表した。日本政府が環境規制の強化やZEVの購入を後押しする政策を打ち出しており、環境車に大きな需要が見込めるためである。しかし、2001年に日本の乗用車市場に参入したが、販売が振るわず2009年に撤退した経緯がある。
 投入するBEV「IONIQ 5」は479万円(税込)からで、蓄電池容量:58kWhと72.6kWhで、基本グレードの電動機最高出力:125kW、航続距離:618km(72.6kWhの場合)である。FCEV「NEXO」は776.83万円(税込)で、水素の充填時間は約5分で、航続距離:約820kmである。

図6 現代自動車のFCEV「NEXO」
全長4670×全幅1860×全高1640mm、ホイールベースは2790mm

ドイツBMW

 2021年9月、ミュンヘン国際自動車ショーでトヨタ自動車と共同開発した多目的スポーツ車(SUV)「X5」をベースとするFCEV「iX5 Hydrogen」のコンセプトモデルを公開。水素充塡に必要な時間は3~4分で、航続距離:504kmで、CFRP製タンク2基で合計で約6kgの水素を搭載した。

 2022年8月、ミュンヘンの水素コンピテンスセンターで、FCシステムの小規模生産を開始した。2022年末から製造するデモンストレーション車両「iX5 Hydrogen」に搭載する。
 トヨタ自動車供給の第2世代燃料電池システム(出力:125kW)、駆動用電動機はBEV「iX」と共用、新たに開発したリチウムイオン電池(出力:170kW)組み合わせ、駆動システム全体の最高出力は295kWである。2023年春から世界の一部地域の顧客に納車され、2025年に量産を始める。

 2023年7月、実験車両「BMW iX5 Hydrogen」を3台導入し日本での公道走行を開始し、年末まで実証実験を行うと発表。約3分間の水素充填で、約500kmの走行が可能である。BMWグループは、2020年代後半に量産FCEVを市場投入する予定であり、独米でも実証実験を実施している。
 FCEVは、EVの充電環境が身近ではないユーザーや、寒冷地域や酷暑地域でのゼロエミッション車(ZEV)を利用したいユーザーに適し、BEVを補完する役割があるとしている。

図7  ドイツBMWのFCEV「iX5 Hydrogen」

FCトラックの開発動向

三菱ふそうトラック・バス

 2019年10月、東京モーターショーで小型FCトラック「Vision F-CELL」を公開し、2020年に同機体の内外装に小変更を加えたコンセプトモデル「eキャンター F-CELL」を発表した。2020年代後半までにFCトラックの量産を開始する計画。
 「eキャンター F-CELL」は、小型EVトラック「eキャンター」をベースに、リチウムイオン電池(出力:110kW、容量:13.8kWh)と走行用電動機(最高出力:135kW)を共用し、Re-Fire製の燃料電池ユニット(出力:75kW)と70MPa級高圧水素ボンベ3本を搭載し、航続距離:300kmである。

図11 三菱ふそうの小型FCトラック「eCanter-F-CELL」

いすゞ自動車と本田技研工業

 2022年1月、いすゞ自動車と本田技研工業は、25トンの大型FCトラックの公道試験を実施すると発表。航続距離:600kmで、高速道路などで性能を調べる。低コスト化の取り組みは継続し、水素ステーション整備など条件がそろった段階で量産する計画で、早ければ2030年の実用化を目指す。

 2023年5月、本田技研工業は、いすゞ自動車が2027年に導入予定の大型FCトラック向けに、FCシステムを開発・供給すると発表した。

図12 いすゞ自動車が2027年に導入予定の大型FCトラック

 一方、世界最大のトラック市場である中国でも、2023年1月から本田技研工業は東風汽車集団と共同で、湖北省においてFCシステムを搭載した商用トラックの走行実証実験を開始している。

 2024年5月、本田技研工業は、米国で開催された展示会「Advanced Clean Transportation(ACT)Expo」で、クラス8の大型FCトラックのコンセプト車を公開した。ミシガン州ブラウンズタウンにある米国General Motors(GM)との合弁生産拠点であるFuel Cell System Manufacturingで量産する。
 FCシステムはGMと共同開発したもので、性能を向上させ、耐久性を倍増し、コストを2/3に削減した。3基のFCシステム(3基、合計出力:240kW)、高電圧電池(容量:120kWh)、高圧水素タンク(700MPa、水素82kg充填)を搭載し、最高速度:113km/h(推定)、航続距離:約644km(推定)である。

トヨタ自動車と関連企業

 2022年5月、いすゞ自動車、トヨタ自動車、日野自動車と、3社が出資するCommercial Japan Partnership Technologies(CJPT)は、量販型の小型FCトラックの企画・開発を共同で行い、市場導入を進め普及に向けた取り組みを加速すると発表。
 スーパーマーケットやコンビニエンスストアでの物流などを対象に、冷蔵・冷凍機能を備え、1日複数回の配送業務を行うために長時間使用・長距離走行が求められる。一方で、短時間での燃料供給などの条件も満たすにはFC化が有効とし、2023年1月以降の市場導入を目指す。

 しかし、2022年8月、エンジン性能試験を巡る不正により、日野自動車は商用車の電動化を目指すCJPTから除名され、日野自動車の電動化は大きく遅れる見通しである。

図13 CJPTで開発を進める小型FCトラック

 2023年5月、トヨタ自動車、いすゞ自動車、スズキ自動車、ダイハツ工業が出資するCJPTが、東京都で商用電動車普及に向けた社会実装を始動すると発表。物流事業者などと協力し、充電・水素充填タイミングと配送計画の最適化を目指す。
 2023年4月に東京都内の配送向け小型FCトラック約190台の導入を皮切りに、2023年度中に商用EV軽バン約70台、小型EVトラック約210台、2025年中に大型FCトラック約50台を東京を中心とした幹線物流(関西-関東-東北)向けと、順次に約520台の導入を進める。

 2024年5月、日野自動車は、「ジャパントラックショー2024」にトヨタ自動車と共同開発した10トン大型トラック「日野プロフィア Z FCV」を公開。運転席下部にトヨタ製FCスタックを搭載し、駆動系は後輪のシャフトと一体化したアクスルに集約、大容量高圧水素タンクを運転席後部とシャシーの左右に合計6本搭載。車体総重量:25トン、航続距離:約600kmである。
 2023年5月より走行実証が行われ、トヨタ自動車、アサヒグループジャパン、西濃運輸、NEXT Logistics Japan、ヤマト運輸が関東近郊の県を跨いだBtoBの輸送業務で使用している。

 一方、2023年5月、トヨタ・モーター・ノース・アメリカと米国大型トラックメーカーのパッカーは、FCトラックの開発と生産の協業拡大で合意した。
 トヨタ自動車のFCパワートレイン・キットを搭載した「ケンワースT680」(ケンワース・トラック・カンパニー製)と「ピータービルト579」(ピータービルト製)のゼロエミッション・バージョンの開発・商品化で継続的に協力する。最初の顧客への納品は2024年を予定している。

図14 FCトラック「ケンワースT680」(左)と「ピータービルト579」(右)
出典:トヨタ・モーター・ノース・アメリカ

韓国の現代自動車

 2020年6月、大型FCトレーラー「XCIENT Fuel Cell tractor」10台をスイスに向けて出荷した。2020年中に50台を出荷し、2025年までに1600台を出荷する計画を公表。
 燃料電池スタック(出力:95kW×2基)、35MPa級大型水素タンク7基(約30kgの水素)、電動機(最高出力:350kW)を搭載する。水素充填時間:8~20分で、航続距離:約400kmである。輸送ルートは山岳地帯を含み、スイスの水素供給インフラ体制を考慮して開発された。

 スイスでは大型商用車の重量や排気量、走行距離により大型車両通行税(LSVA)が課されるが、燃料電池車には適用されない。そのため、FCトラックの輸送コストはディーゼルエンジン車とほぼ同等。また、スイスは水力発電のシェアが高く、グリーン水素が十分に供給できる。

 2023年5月、北米市場向け大型FCトレーラー「XCIENT Fuel Cell tractor」の量産モデルを米国で公開。クラス8の6×4大型トレーラーで、車両総重量(最大積載量の荷物を積んだ状態の自動車全体の総質量):最大37トンで、航続距離:720km以上である。
 これまで韓国、スイス、ドイツ、イスラエル、ニュージーランドの5カ国で展開し、全車両の合計走行距離は640万kmを超え、燃料電池システムの性能と信頼性、耐久性に関する実績は豊富である。

図15 長距離輸送に適した大型FCトレーラー「XCIENT Fuel Cell tractor」
出典:現代自動車

スウェーデンのボルボ・グループ

 2022年6月、スウェーデンのボルボ・グループ(Aktiebolaget Volvo(通称ABボルボ))は、大型FCトラック(車両総重量:65トン以上)を開発して走行試験を開始。これまでにEVトラック、バイオ燃料トラックを開発し、FCトラックは3番目のカーボンニュートラル・トラックである。
 ABボルボとドイツDaimler Trucksの合弁会社Cellcentric(セルセントリック)が供給する水素燃料電池を2基搭載(合計出力:300kW)、航続距離:最大1000km、水素タンク容量:未発表、水素充填時間:15分未満である。ユーザー企業と実証試験を始め、2020年代後半の市販を目指す。

 2022年9月、ドイツのMAHLE(マーレ)はセルセントリックと、大型商用車向け燃料電池技術分野(主に平膜型加湿器の開発と量産)で協力する。
 平膜型加湿器は、大型商用車向け燃料電池システムのほか、非常用発電機としての定置型燃料電池システムにも使われる。従来は中空膜繊維が使用されていたが、マーレは加湿器内で層状に重ねられた薄い膜を使って効果的に加湿し、燃料電池の高効率化と耐用年数の向上を進める。

米国NKLA(ニコラ)

 2022年8月、ドイツ自動車部品大手のボッシュは、米国サウスカロライナ州の工場を拡張し、大型FCトラック向けの燃料電池スタックを生産すると発表。投資額は2億ドルで、同工場はボッシュにとって米国で初めての燃料電池関連の生産拠点となり、2026年に生産を開始する。
 米国では、複数のメーカーが燃料電池車の開発に取り組んでおり、ニコラはその一つで、ボッシュの技術を用いた大型FCトラックのプロトタイプを開発し、走行試験を実施している。

 2023年7月、ボッシュは、シュトゥットガルトのフォイヤバッハ工場で、燃料電池のパワーモジュールの量産を開始した。パイロット顧客は米国ニコラ・モーターズで、FCトラックに搭載され、米国市場で発売される予定。
 パワーモジュールの生産は中国重慶でも開始し、米国サウスカロライナ州アンダーソンの工場でもスタック製造を計画している。ボッシュは、2030年までに世界中の重量6トン以上の新しいトラック全体の1/5に、燃料電池パワートレインが搭載されると予測している。

 2024年4月、二コラの昨年第4・四半期のFCトラック納車台数は35台で、今年の第1・四半期は40台に達したと発表。3月にはカリフォルニア州とカナダ・アルバータ州にFCトラック向け燃料補給ステーション開設し、水素燃料の生産・流通・販売を管理する「ハイラ(HYLA)」の稼働で、販売台数は今後さらに伸びるとしている。

FCトラックの導入実証

 2023年2月、商用車の技術開発会社コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)は、新型のFCトラックで郡山、いわき両市で各1台を導入して物流実験を行うと発表。2025年度までに両市で計約60台に増やす計画である。
 いすゞ自動車の「エルフ」をベースに、燃料電池や水素タンク(水素充填量:10.5kg)を搭載し、最大積載重量:約3トン、走行距離:約260kmである。実験には小売り大手が参画し、コンビニエンスストアやスーパーへの商品配送や、地場の物流や建設会社による建築資材の運搬を行う。

 2023年5月、アサヒグループとNEXT Logistics Japan西濃運輸ヤマト運輸3陣営が、25トン級大型FCトラックの走行実証を開始すると発表した。実証では車両性能に加え、複数のドライバーで使い勝手や乗り心地も検証する。水素ステーションでの充填を含む運行状況も確認する。
 大型FCトラックは日野自動車「プロフィア」をベースに、「MIRAI」のFCスタックの出力と耐久性を向上し、水素タンクの充填量は50kgで、使用圧力は70MPaで6本搭載する。充填時間は20~30分、航続距離:約600kmである。リチウムイオン電池に蓄えた電力で電動機を駆動する。

アサヒグループとNEXT Logistics Japanは、ビールや清涼飲料水の出荷について、茨城県守谷市→東京都大田区→相模原市→守谷市の輸送を5月から開始。
西濃運輸は、宅配便で扱う荷物について、東京支店(東京都江東区)→小田原支店→相模原支店→東京支店の輸送を6月から開始。
ヤマト運輸は、宅配便で扱う荷物について、羽田クロノゲートベース(東京都大田区)→群馬ベース(群馬県前橋市)→羽田クロノゲートベースの輸送を5月から開始。

図16 アサヒグループ、西濃輸送、ヤマト運輸による大型FCトッラクの走行実証

 2023年10月、日本通運は、積載重量2.95トンのFCトラックを2023年末までに20台導入すると発表。既に、関東甲信越で6台導入しており、今後は水素充塡設備が比較的多い湾岸エリアを中心に拡大する。1回10分の水素充塡で航続距離は260kmである。
 EVトラックも2023年9月末時点で5台保有しており、2024年1月までに11台に増やす予定だ。今、インフラの整備状況や車両性能、使い勝手を確認した上で、EVトラックとFCトラックの向性を検討する。

 2023年11月、日本郵便は、積載量3トンのFCトラック2台を試験導入すると発表。東京都内の一部の郵便局間での輸送に使い、1回当たり5〜10分で10kgの水素を充填でき、航続距離:約260kmである。2023年度中に計5台に増やし、2025年以降には、積載量10トン程度の大型トラックも試験導入する。
 日本郵便はEVや電動バイクを一部で導入しているが、航続距離の短さが課題だった。今回はFCトラック1台の1日当たりの走行距離は80km程度にとどめ、燃料の補給頻度など社会実装に向けた課題を見極める。

図17 日本郵便が導入したFCトラック 出典:日本郵便

 2024年4月、エネルギー関連企業など産官学でつくる大分県エネルギー産業企業会は、FCトラックの実証事業を開始。6月末まで、大分、別府、杵築、日出の4市町で週6日ほど走行させる。商用車開発連合「CJPT」の小型FCトラックを使い、物流会社の東九州デイリーフーヅが食品を巡回配送し、燃費や走行性を確認する。
 トラックは、水素が満タン(10.5kg)で、航続距離:約260kmである。燃料の一部は、ゼネコン大手の大林組が九重町で生産する地熱由来の水素を利用、水素の充塡作業は江藤産業の水素ステーションで実施する。

フランス・ルノー(Renault)

 2024年9月、「IAA Transportation 2024」(2024年9月17~22日)で、新型燃料電池商用バン「Master H2 – Tech Prototype」を発表した。Master H2 – Techは2023年に2つのバージョンが試験導入された。
 今回は、このときのフィードバックを基に、ルノーと米Plug Powerの合弁会社であるフランスHYVIA(ハイビア)の水素技術を導入し、航続距離を従来の500kmから700kmまで延ばした。フランスのBatilly工場の同一ラインで製造し、2025年に発売の予定。

FCバスの開発動向 

トヨタ自動車

 2018年3月、大型FCバス「SORA」の型式認証をFCバスとして国内で初めて取得し、販売を開始。今後、東京オリンピック・パラリンピック2020に向けて、東京都を中心に100台以上のFCバス導入が路線バスとして予定されていることも公表。価格は約1億円/台である。
 屋根上に「MIRAI」のFCスタックを2台分(出力:114kW×2)と、70MPaの高圧水素タンクを「MIRAI」の5台分(10本、容積:600L)を配置し、走行用電動機(出力:113kW×2)、ニッケル水素電池が搭載されている。最高速度:70km/h、航続距離:200kmで、定員:79人である。

図18 トヨタ自動車の大型FCバス「SORA」

 2018年9月、トヨタ自動車と、Toyota Motor Europe(TME)は、ポルトガルでバスを製造・販売するカエタノ・バス(CaetanoBus)に、燃料電池システムを供給すると発表した。
 2020年6月、カエタノ・バスは、2020年度中にもFCバスの実用化を目指すと発表。左ハンドルの試作車はポルトガル、ドイツ、フランスで、右ハンドルは英国とアイルランドで、それぞれ2020年末頃に実証実験を行う予定。

いすゞ自動車と日野自動車

 2022年2月、いすゞ自動車と日野自動車は、合弁会社であるジェイ・バスで2024年度からBEVフルフラット路線バスの生産を開始すると発表。また、BEVフルフラットをベースに、次世代路線バスとしてFCバスの企画・開発に向けた検討の開始をいすゞ自動車、日野自動車、トヨタ自動車で合意した。
 現時点で唯一のFCバスであるトヨタ自動車の「SORA」の後継で、EVバスとFCバスの部品の共通化によるコストの低減を図り、新世代のFCスタックを採用する。「SORA」はジェイ・バス小松事業所で生産される。 

東京R&D

 2022年1月、新潟県は2020年から東京R&D と小型FCバスの開発・製造を進めておりに、完成した小型FCバスを新潟交通が運行したと発表した。日野自動車の「ポンチョ(ロング1ドア、郊外型)」がベースで、定員:26人、最高速度:80km/h、約5分間の水素充填で航続距離:約110kmである。

FCバスの導入状況

 政府は、2030 年までに乗用車換算で 80 万台程度(水素消費量:8万トン/年程度)の普及を、水素ステーションは、2030 年度までに 1000 基程度の整備目標の確実な実現を目指すとしている。
 FCバスに関しては、2021年開催の東京オリンピック・パラリンピック対応もあり、2020年の目標である100台はクリアし、2023年2月時点で124台に達している。しかし、2030年の目標である1200台の見通しは立っていない。

図19 水素ロードマップ 出典:第六回水素・燃料電池の普及に係る自治体連系会議

 2018~2023年、FCバス「SORA」の路線バスとしての導入は、東京都を皮切りに、大阪府、大阪市、名古屋市、横浜市、神戸市、豊田市などに広がり、民間でも、京浜急行バス、宮城交通、神姫バス、京王バス、東急バス、南海バスなどが運行を開始している。
 「SORA」の車両価格の約1億円については、国が約5千万円を補助し、関連の都道府県と市町村の補助金や民間からの寄付などの支援を受けている。導入規模は、東京都を除き1台~数台程度。

 2024年4月、川崎鶴見臨港バスがEVバスを2両導入した。今後、導入台数をさらに増やす予定で、車両はビーワイディージャパンの大型EVバス「K8」。蓄電池:314kWhで、冷房を入れながら航続距離:240km、車内にはUSBポートが付いており、スマートフォンやタブレット端末を充電できる。災害時の電力供給も可能である。

FCバスの課題

 2018年3月、トヨタ自動車が大型FCバス「SORA」の販売を開始し、2021年開催の東京オリンピック・パラリンピックに向けて東京都に納入されて以降、FCバスに関する大きな動きは見られない。

 いすゞ自動車と日野自動車の合弁会社であるジェイ・バスは、次世代のFC路線バスの企画・開発に向けた検討を開始すると発表した。しかし、2022年3月の日野自動車のエンジン不正問題の発覚の影響を受けて開発の遅れが危惧される。

 一方、IEAによれば、中国の燃料電池車の普及台数は約1.37万台である。そのほとんどは大型燃料電池車セグメント(FCトラックとFCバス)である。中国には世界のFCトラックの 95%以上と、FCバスの 85%近くが存在する。
 2012~2013年頃に、北京億華通、福田汽車、宇通客車はカナダのハイドロジェニックスから、金龍客車はカナダのバラードからFCスタックの技術供与を受けて、FCバスを開発している。用途も、路線バス長距離バス通勤バスなどを実用化している。

 最大の課題はFCバス価格である。安価な蓄電池をベースとした低コストの中国製EVバスが導入されている現状を見ると、FCバスに関しても全く同じ構図が見えてくる。政府は法規制と国内産業育成のための支援策をタイムリーに発動する必要がある。
 普通乗用車と異なりバスの買い替え寿命は20~30年と長い。一度、導入されて都市交通システムに組み込まれて中国製FCバスが実績を積むと強敵となる。特に、FCバスが有効とされる長距離バスに関しては、国内メーカーは手付かずの状況にある。 

水素エンジン車の開発動向 

水素エンジンとは?

 2021年5月、トヨタ自動車が、水素エンジンを搭載したカローラスポーツで耐久レースに参戦して以来、水素エンジン車(HICV:Hydrogen Internal Combustion engine Vehicle )の報道が過熱気味である。まずは、水素エンジンのメリットとデメリットについて、明らかにする。

図1 水素エンジンを搭載するトヨタ自動車の試作車「カローラスポーツ」

水素エンジンのメリット

 水素エンジン車の基本構造はガソリンエンジン車と同じで、水素を燃料とする点が異なる。燃料電池を搭載し、水素を燃料として発電してモーターを回す燃料電池車(FCEV)とは全く異なり、既存の部品や技術を大幅に活用できるメリットがある。

 水素をエンジンで燃やすアイデアは以前からあった。水素は燃やしても水しか排出しないため、1970年代に環境に優しい次世代車として開発が進められた。しかし、エンジン効率が悪いため、2000年代に入り高効率の燃料電池車(FCEV)が現れると、急速に開発意欲が薄れ

 その後、FCEVが伸び悩み、2020年代に入ると急速にBEVシフトが進み始め、再度、水素エンジン車が注目されている。「何故、低熱効率の水素エンジンが再び脚光を浴びるのであろうか?」顧客ニーズが多様化している現在、水素エンジン車を全方位戦略の一環とトヨタ自動車は位置付けている。

 FCEVが伸び悩んだ原因は、水素供給インフラ整備の遅れFCEVの低コスト化が進まないことである。水素供給インフラの遅れは、水素エンジン車でも大きな問題である。
 一方、水素エンジン車は既存の部品や技術が応用できるため低コストとなり、ハイブリッド化も組み合わせれば熱効率の点でもFCEVに競合できるという期待である。

水素エンジンのデメリット

 ガソリンに比べて、水素はエネルギー密度が低い。そのため、車載スペースの問題と航続距離をガソリン車並みにするため、高圧水素や液体水素を使う必要に迫られる。ガソリンタンクに比べて高価な水素タンクが必要で、水素供給システムなど周辺部品も高コスト要因となる。

 新型MIRAI(FCEV)の高圧タンク容量を5.6kg→7.34kgに増強してカローラスポーツに搭載されたが、耐久レースではテスト走行の状態で約50kmごとに水素充填のピットインが行われた。新型MIRAIの航続距離は750~850kmであり、はるかにFCEVのほうが高効率である。

 加えて、高温で燃焼が行われる水素エンジンでは、NOの発生バックファイアの対策が不可欠である。バックファイアとは可燃範囲の広い水素と空気の混合気が、吸排気バルブなど高温部品に接触して自着火することである。また、原子状水素が鋼材に侵入して生じる水素脆化の対策も必要である。

 すなわち、水素エンジン車では単に燃料のガソリンを水素に置き換えるだけでなく、そのために幾つかの重要な開発課題が内在している。本当に、「水素エンジン車は低コスト化とFCEVと競合できる熱効率を達成することが可能なのか?」

エンジンの分類

 多くの熱機関の中で、現在、移動体用に実用化されているのは内燃機関であるレシプロエンジンロータリーエンジンガスタービンロケットエンジンである。

図2 熱機関(エンジン)の分類
レシプロエンジン

 自動車用エンジンとして多用されているのがレシプロエンジンで、天然ガスや都市ガスなどを使うガスエンジン、ガソリンを使うガソリンエンジン、重油・軽油などを使うディーゼルエンジンに分類される。水素エンジンはガスエンジンに分類される。

 その作動原理は、吸気・圧縮・燃焼(膨張)・排気というサイクルを繰り返す。ガスエンジンは、シリンダー内部で燃料の爆発(膨張)を発生させ、その圧力でピストンを往復運動させ、その往復運動を回転エネルギーに変える。この基本動作は自動車のガソリンエンジンと全く同じである。

 水素エンジン開発における最大の技術課題は、バックファイア冷却損失による熱効率の低下NOの発生である。これらに関しては、従来から様々な研究開発が行われてきた。

 最近では2018年5月、産業技術総合研究所・川崎重工業などが、噴射した水素燃料を拡散する前に燃焼させる過濃混合気点火燃焼方式(PCC燃焼)と、排出ガスを吸入空気に還流させて燃焼温度を下げる排気再循環(EGR)を組み合わせ、高出力・高熱効率・低NO水素エンジン開発に成功した。

図3 レシプロエンジンの仕組み
ロータリーエンジン

 ロータリーエンジンの作動原理も、吸気・圧縮・燃焼(膨張)・排気という同じサイクルを繰り返す。しかし、その基本動作はレシプロエンジンの往復運動に対して、ロータリーエンジンは回転運動という大きな相違点がある。

 すなわち、吸気孔から吸気室内に空気を吸入し、ローターハウジングに設置されたインジェクターで直接水素を噴射する。その混合気をローター回転で混ぜながら燃焼室に移動し、2本の点火プラグで着火する。燃焼ガスは排気室に移動して排出する。

 水素燃料を噴射する部屋と燃焼する部屋が異なるため、水素を噴射する部屋の壁温が低く、自着火を防げる。すなわち、バックファイアが発生しない。加えて、一般的なレシプロエンジンと比べて仕組みが単純で部品点数が少ないため、小型・軽量化が可能である。

図4 ロータリーエンジンの仕組み
ガスタービン

 ガスタービンは、航空機エンジンや発電用途に多用されている。小型・高出力のため米国の最新鋭戦車「M1 エイブラムス」の動力機関としても採用されており、最近ウクライナ問題で話題になった。

 ガスタービンの作動原理は、吸気・圧縮・燃焼(膨張)・排気という同じサイクルが連続して行われる。しかし、その基本動作はレシプロエンジンの往復運動に対して、ガスタービンは回転運動という大きな相違点がある。

 すなわち、吸気口から吸引された空気は圧縮機で圧縮され、燃焼器内で燃料と混合後に着火し、急激に体積膨張した燃焼ガスが、静翼を通して動翼に吹き付けられてロータを回転させる。高温排ガスは排気口を通じて排気される。

 川崎重工業は、2018年に神戸市内で水素タービンで発電と共に熱供給を行い、病院やスポーツセンターなどに供給する実証実験に成功した。2021年にはドイツのエネルギー会社と水素専焼ガスタービンについて協議を始め、2024年に実証運転を始める計画である。

 現在、水素タービンを巡る開発競争は激しい。ドイツ・シーメンスは中小型の水素専焼ガスタービンの開発を進めており、米国GEは中小型の水素専焼ガスタービンを実用化している。三菱重工業も2025年に中小型水素専焼ガスタービンの商用化を目指している。 

図5 ガスタービン(ジェットエンジン)の仕組み
ロケットエンジン

 参考までに、ロケットエンジンは、使用燃料により液体燃料方式と固体燃料方式に分類される。液体燃料のロケットエンジンは、圧縮状態にある推進剤の燃料と酸化剤を、それぞれのタンクから燃焼室へ送給し、そこで燃焼させて急膨張した高温ガスを、ノズルから噴射することで推力を得る。
 小型ロケットにはタンクに高圧ガスを送り込み押し出して燃焼室に送る方式、大型ロケットではポンプで吸い出して燃焼室に送りこむ方式が採用されている。

図6 大型ロケットに採用されるポンプ方式ロケットエンジンの仕組み

過去を振り返る

 1970年 、武蔵工業大学(現東京都市大学)が、水素燃料でレシプロエンジンを駆動した。1975年、液体水素燃料で米国 SEEDラリーに出場 して2800kmを走破。2009年、日野自動車・岩谷産業の協力で水素エンジンバス(排気量:4728cc)を開発し、ナンバープレートを取得して走行を実現した。

 2006年、マツダはロータリーエンジンの「RX-8ハイドロジェンRE」をリース販売した。デュアルフューエルシステム採用で、水素とガソリンのどちらでも走行できる。 110L 、350気圧の 高圧水素と 61Lガソリンタンクを搭載し、航続距離は水素 100km/ガソリン 549kmであった。
 2009年には、ロータリーエンジンのハイブリッド車「プレマシーハイドロジェンREハイブリッド」をリース販売した。水素ステーションがない時代で、デュアルフューエルシステムを採用した。

図7 マツダのロータリーエンジン車「RX-8ハイドロジェンRE」

 2006年、ドイツBMWは、既存のガソリン用5リッターV型12気筒エンジンを搭載した7シリーズをベースに、レシプロエンジン車「ハイドロジェン7」を100台限定でリース販売した。液体水素8㎏/ガソリン74Lタンクを搭載したデュアルフューエルシステムを採用し、航続距離は200km程度であった。

図8 BMWの液体水素タンクとガソリンタンクを搭載した「Hydrogen 7」
出展:BMW

 2013年4月、アストンマーティンもオーストリアのアルセット・グローバルと共同開発した水素/ガソリンのデュアルフューエル車「ラピードS」で、ニュルブルクリンク24時間レースに出場した。ツイン・ターボの6リッターV型12気筒エンジンがベースである。

 2015年にミュンヘンで起業したスタートアップKEYOUは、既存トラック・バスの水素エンジン化を進めた。2022年9月IAA Transportationで、水素エンジン搭載の18トントラックと12mシティバスを一般公開した。エンジン寿命は最低70万kmとし、航続距離は500km以上であった。
 既存のディーゼルエンジンの一部を、水素用に適合した燃焼室/圧縮機・インジェクター・点火システムを備えたシリンダーヘッドに交換し、ターボチャージャー、燃料供給系統排気ガス再循環エンジン制御システムなどの追加・見直しが行われて、NO問題も解決した。

 2021年、ドイツで事業者団体「水素エンジン連盟」が発足した。 エンジンメーカーのDEUTZ、パワートレインのAVL、トラックのMAN、水素インフラのBP、産業界、大学・研究所から約30団体が加盟し、水素エンジン車の普及・拡大を目指す。

水素エンジン車の開発現状

水素エンジン自動車の開発

 2022年6月、トヨタ自動車は、「水素エンジン車」の市販を目指すと発表した。2021年5月からカローラで耐久レースに参戦して技術実証を続けている。新型Mirai向けの水素タンク(圧縮水素:70MPa)を後部座席と荷室に4本詰め込み、排気系のNOx処理の開発を進めた。
 この水素カローラは、水素タンクや水素をエンジンに導く補機類を新型MIRAIから流用し、エンジンは「GRヤリス」を転用、ただし、デンソー開発の水素インジェクターを取り付けて水素直噴エンジンとし、4WDシステムで4輪を駆動する。

図9 水素エンジン車には新形MIRAIの水素タンクを後部座席と荷室に搭載

 2022年8月、ベルギーのイープルで開催された世界ラリー選手権(WRC)第9戦で、トヨタ自動車が開発中の水素エンジン車「GRヤリス」がデモ走行を実施した。欧州での初披露である。

 2022年9月、フラットフィールド・東京都市大学・トナミ運輸・北酸・早稲田大学アカデミックソリューションは、環境省の2021年度「水素内燃機関活用による重量車等脱炭素化実証事業」を行い、水素エンジン車に改造したトラックでディーゼルエンジン並みの出力を得られたと発表した。
 2022年度後半には富山県で耐久試験を実施し、2026年度の販売を目指して、ベース車両の70%以上の積載量を確保するための車両開発を継続している。

 2023年5月、トヨタ自動車は、富士スピードウェイの24時間耐久レース決勝に液体水素燃料のカローラで参戦し、燃料の搭載量を増やし航続距離を従来の約2倍とした。液体水素タンクは二重真空層構造で、容量は140L、質量は160kgである。
 液体水素(沸点:-253℃)タンクへの補充・保存技術が鍵で、プレ冷却システムや高圧ポンプ、減圧弁、配管、温度調整部、水素液面センサーなど周辺装置も増える。液化すると密度は3倍になり貯蔵スペースも小さくなるが、停止中も極低温を維持するための電力が必要である。
 また、超低温で作動する高圧ポンプには、ガソリン車のようにオイルで摩耗を防げない。そのためポンプの走行寿命を改善する必要がある。2023年7月時点で13時間まで伸ばしたが、、、

図10 レースに参戦した液体水素エンジン車(富士スピードウェイで)
出典: 読売新聞

 2023年5月、Daimler Truck(ダイムラートラック)・トヨタ自動車は、三菱ふそうトラック・バスと日野自動車の統合で基本合意したと発表。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)領域のうち、電動化で規模のメリットを生かすことを目的とした。
 トヨタ自動車は、「商用車の未来を共に作るのが狙いで、両社の統合により商用車の電動化を加速させる。水素モビリティーの普及にも取り組む」と宣言した。

 2024年11月、トヨタ自動車は、気体の水素を燃料とするエンジンに加え、モーターも動力源とするハイブリッド車(HV)を試作した。航続距離を、従来のエンジン車と比べて25%増の約250kmまで伸ばした。HVは商用車「ハイエース」をベースとし、2025年春にもオーストラリアの公道で走行実証する。 

水素エンジンバイクの開発

 2022年9月、カワサキモータースは、開発中の二輪車用水素エンジンを搭載した北米向けオフロード四輪車をENEOSスーパー耐久シリーズ2022で一般公開した。エンジンはカワサキの大型バイク「Ninja H2」をベースに、水素燃料をシリンダーに直接噴射する仕様に改良した。
 エンジン開発はトヨタ自動車、ヤマハ発動機、スズキ、本田技研工業、デンソーの技術協力を得た。

図11 二輪車用水素エンジンを搭載する北米販売のオフロード四輪車
出典:日本経済新聞

 2022年11月、カワサキモータースは、ミラノモーターサイクルショーEICMAで、次世代バイク構想を発表。2030年代前半の実用化を目指す水素エンジン搭載バイクを参考展示した。
 パワーユニットは、Ninja H2のスーパーチャージドエンジンをベースに直噴化し、圧縮気体水素を燃料とする。今後、液体水素燃料の採用、バイオ燃料対応の内燃機関の開発も進める。

図12 カワサキモータースの水素エンジン搭載バイク

 2023年5月、カワサキモータース・スズキ・本田技研工業・ヤマハ発動機は、小型モビリティ用水素エンジンの基礎研究を目指す「水素小型モビリティ・エンジン技術研究組合(HySE: Hydrogen Small mobility & Engine technology)」の設立で、経済産業省の認可を得た。

23年5月にはホンダヤマハ発動機、スズキ、カワサキの国内二輪車4社が「水素小型モビリティ・エンジン研究組合」を設立した。業界全体で水素燃料を用いた小型モビリティの実現を急ぐ。川崎重工業の松田義基執行役員は「エンジンによる鼓動感や加速感を大事にして、一人一人が知らないうちにカーボンニュートラルに貢献する世界を実現したい」と話す。

 水素には燃焼速度の速さに加え、着火領域の広さから燃焼が不安定になりやすく、また、小型モビリティでの利用では燃料搭載スペースが狭いなどの技術的な課題がある。HySEでは、二輪以外にも軽四輪・小型船舶・建設機械・ドローン向けの水素エンジンの基礎研究も実施する。

Hyseにおける基礎研究の分担と体制:
■1.水素エンジンの研究
・水素エンジンのモデルベース開発の研究(Honda)
・機能・性能・信頼性に関する要素研究(スズキ)
・機能・性能・信頼性に関する実機研究(ヤマハ発動機、カワサキモータース)
■2.水素充填システム検討
水素充填系統および水素タンクの小型モビリティ向け要求検討(ヤマハ発動機)
■3.燃料供給系統システム検討
燃料供給システムおよびタンクに付帯する機器、タンクからインジェクタ間に配置する機器の検討(カワサキモータース)
■特別組合員/川崎重工業、トヨタ自動車
 川崎重工業は、技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)の主幹事として有するノウハウでHySEの運営を推進し、トヨタ自動車は、四輪車用大型水素パワーユニットの実験や解析、設計などのノウハウで、HySEの研究成果の最大化を推進する。
■設立時期/2023年6月

 2024年7月、カワサキモータースは、三重県鈴鹿市の「鈴鹿8時間耐久ロードレース」で水素を燃料に使うバイクの走行を初公開。同社は2030年代前半の実用をめざしている。大型二輪「Ninja(ニンジャ)H2SX」をベースに、水素燃料のタンクなどを取り付けた車両を用で、エンジンの音や振動はガソリン車に近い。

水素エンジン発電機の開発

 2022年3月、ヤンマーエネルギーシステム(YES)は、ドイツの2G Energy製100%水素燃料コージェネレーションシステムの日本での取り扱いを開始すると発表。2021年3月に、両社は日本を含むアジア、中東、アフリカ地域における販売契約を締結し、準備を進めてきた。

 2022年夏をめどに、YESの岡山試験センターに本機および水素発生装置(イタリアEnapter製)を設置し、施工やメンテナンス性などの検証を進める。YESは自社製ガスエンジンも、水素燃料に対応できるよう技術開発を進める。

図13 2G energy製100%水素燃料コージェネレーションシステム

 2022年9月、クボタは、開発中の水素エンジンを小型発電機大手デンヨーの水素専焼発電機に搭載すると発表。法令整備や水素供給インフラなど、実用化にはまだハードルがあるため、具体的な量産時期は不明であるが、将来的には農機や建機などにも水素エンジンを活用する。
 現在、可搬式発電機はディーゼルエンジンが主流であるが、クボタは自社製産業用エンジンに改良を加え、排気量3.8L、直列4気筒の過給機付き水素エンジンを開発中である。NOx低減のためEGR(排ガス再循環)システムを備え、回転数は1500rpm、または1800rpmの定点運転である。

 2025年を目標に、デンヨーはクボタの水素エンジンを搭載した発電機の試作品を開発する。可搬式発電機で、工事現場などでの機械用電源として利用を見込む。また、小松製作所などの協力を得て、水素と軽油を燃料としてCO2を5割削減する発電機を、2023年に量産開始する計画もある。

水素エンジンの開発課題

水素インフラ整備の重要性

 水素エンジンの最大の課題は、エンジンそのものの技術的な難しさもあるが、エンジンに供給される水素燃料の製造と供給である。未だ、従来のガソリン並みの供給量と価格の見通しは立っていない。これは燃料電池車(FCEV)の普及がとん挫している原因でもある。

 現状の水素ステーションでは政策上1000~1100円/㎏で水素は販売されており、航続距離で比較するとガソリンの3割増しの価格に抑えられている。将来的には、再生可能エネルギー由来のグリーン水素に置き換える必要があるが、さらに低コスト化の見通しは暗い。

 FCEVの普及がとん挫している現状において、大きな問題となっている水素ステーションの普及は、水素エンジン車の普及に関しても大きな問題となる。さらに、水素ステーションの建設費(約5億円)や維持費は高く、水素製造コストに上乗せされて高価格となる。

 すなわち、水素インフラが整わない現状において、水素エンジン車の開発を進めても、その普及に関してはFCEVと同じようにとん挫する可能性が高い。水素インフラ整備に関する政府の強力な支援が、水素エンジン車の普及に際しても必要である。

水素エンジンの競争相手は?

 「水素エンジン車の競争相手は、同じ水素燃料を使う燃料電池車(FECV)だけであろうか?」

 最近、急速に合成燃料(e-fuel)の話題が広がっている。基本的に、e-fuelを使う場合は現状エンジンでの駆動が可能なため、車体価格は現状維持である。しかし、e-fuelの製造では、水素とCO2を高温・高圧にして反応させるが、収率は6~7割であり、300~700円/Lと高コストになる。

 2000年代に入り、本田技研工業やトヨタ自動車がFCEVを発売した段階で、圧倒的にエネルギー変換効率の高いFCEVに軍配は上がった。しかし、FCEVの普及に伴い車体価格が下がるとの見通しが外れたのである。そこで、水素エンジン車による低コスト化に期待が移った。

 次に、3車種の比較を示す。水素エンジン車は水素タンクなど開発課題が残されており車体価格は未定で「水素エンジン車 ≦ FCEV」とし、水素エンジン車に比べてFCEVでは高純度水素を使うため燃料価格は「水素エンジン車 ≦ 燃料電池車(FCEV)」とした。また、エネルギー効率は無視した。

車体価格:e-fuel車 < 水素エンジン車 ≦ 燃料電池車(FCEV)
燃料価格:水素エンジン車 ≦ 燃料電池車(FCEV)< e-fuel車

 すなわち、水素エンジン車の車体価格が現状のガソリン車並みとなれば水素エンジン車が優位で、e-fuel価格が水素並みとなれば、e-fuel車が優位となる。トヨタ自動車は、e-fuel価格が下がるのを座して待つよりも、積極的に水素エンジン車の車体価格を下げる戦略に出ている。

 しかし、熱効率の低い水素エンジン車が車体価格の低コスト化のみで、FCEVと競合できるのかは疑問である。持続可能な真のカーボンニュートラルを目指すためには、エネルギー効率向上も実現する必要があるが、エネルギー効率に関して燃料電池車の優位性は変わらない。

 水素エンジン車の開発が、従来のガソリンエンジンに関するサプライチェーンの延命が目的であってはいけない。CDから、再びレコード盤に戻るような懐古趣味の市場は限定的である。既に、楽曲はダウンロードの時代に入っているのである。

水素ステーションの設置状況

 日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM)によれば、2020年の設置目標の160カ所はクリアし、2023年3月現在、全国で運用されている水素ステーションの数は179カ所に達した。ただし、2025年の設置目標の320カ所を達成するには、より一層の努力が必要である。

 また、水素ステーションの設置は37都道府県にわたり、稼働中は167カ所である。内訳は首都圏:54カ所、中京圏:51カ所、関西圏:20カ所、九州圏:15カ所、その他:27カ所で、今後も四大都市圏とそれらを結ぶ幹線道路沿いを中心に整備される予定。

設置目標

 2023年6月、日本の水素基本戦略が6年ぶりに改定された

水素ステーションの整備方針

 今後の整備方針は、乗用車のみならず、商用車、港湾、さらには地域の燃料供給拠点など、より多様なニーズに応えるマルチステーション化を図りながら、需給一体型の最適配置を効果的に進める。特に、大規模な水素ステーションの整備に関しては、税制措置等を含め政策リソースを拡充する。

 規制は、引き続き安全の確保を前提とし、検査・試験方法の見直しを含む合理化・適正化を進め、更なる規制見直しを通じて水素ステーションの整備費、運営費の低減に努める。2030 年度までに900基を 1000 基程度の整備目標の確実な実現を目指すと変更した。

図8 水素ロードマップ 出典:第六回水素・燃料電池の普及に係る自治体連系会議

整備の進捗

 日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM)によれば、2020年の設置目標の160カ所はクリアし、2023年3月現在、全国で運用されている水素ステーションの数は179カ所に達した。ただし、2025年の設置目標の320カ所を達成するには、より一層の努力が必要である。
 参考までに、全国の給油所(ガソリンスタンド)数は、2021年3月末時点で2.9万カ所である。

図9 水素ステーションの整備進捗(2023年3月末)  出典:第30回 水素・燃料電池戦略協議会 資料10

 水素ステーションの設置は37都道府県にわたり、稼働中は167カ所である。内訳は首都圏:54カ所、中京圏:51カ所、関西圏:20カ所、九州圏:15カ所、その他:27カ所で、今後も四大都市圏とそれらを結ぶ幹線沿いを中心に整備される予定である。

図10 都道府県の水素ステーションの整備状況(2023年3月末) 出典:第30回 水素・燃料電池戦略協議会 資料10

2019年以降の設置動向

 2019年3月、JERAが水素事業への参入を発表。東京電力フュエル&パワー、JXTGエネルギーと共同で、大井火力発電所の一角に都市ガスを改質して水素を製造するオンサイト型の東京大井水素ステーション(水素供給能力:14400Nm3/日)を設置した。
 2020年8月からENEOS水素サプライ&サービスとして稼働しており、東京五輪・パラリンピック2020で導入したFCバス100台への水素供給拠拠点である。

 2019年12月、東芝エネルギーシステムズと敦賀市は太陽光発電の電力により水素を製造し、FCEVに充填できるシステム「H2One ST Unit」を市内に導入し、オンサイト型水素ステーションを開設。
 2020年11月、自立型エネルギー供給システムであるワンコンテナ型「H2One」を増設し、太陽光発電由来の水素供給に加え、必要に応じて燃料電池で電力供給を行う「H2Oneマルチステーション」1号機を開設した。

 2021年10月、政府はFCEV普及に向け、小型水素ステーションの整備に乗り出すことを表明。既設の水素ステーションは、工場で製造した水素を運び込むオフサイト型が主流であり、充填能力は5~6台/h、整備費は約4億円で補助金を使っても事業者は約1.5億円が必要である。
 そこで2022年度を目途に、設置場所で水電解により水素製造するオンサイト型を想定し、充填能力は1~2台/h、整備費は約1.5億円で補助金を使えば事業者は約0.5億円で済む小型水素ステーションを新たに補助金対象とした。初期費用が下がれば、FCEV台数の少ない地方での設置が進むと想定。

 2022年8月、実証実験が終わり、福岡市は西部ガス、正興電機、豊田通商、西日本プラント工業、三菱化工機と連携し、生活排水の処理過程で発生するバイオガスから水素をつくりFCEVへ供給する水素ステーションの運営と機能強化を発表。水素価格は1210円/kgを予定している。

 2022年9月、伊藤忠商事、伊藤忠エネクス、日本エア・リキードは、福島県のエネクスフリート本宮インターSS隣接地に大型商用車対応の「本宮インターチェンジ水素ステーション」の設置を発表。24時間365日営業で、大型FCトラック向けに洗車、休憩のサービスを提供。2024年前半の開所を予定。

 2023年4月、北海道・札幌宣言が発表された。北海道で脱炭素エネルギー基地を目指し、2030年にFCEVを3000台、FCバス・FCトラック合計約20台の導入を計画。現在、北海道には3カ所に水素ステーションが設置されているが、4カ所以上の水素ステーションの設置を目指す。
 札幌市は「環境首都」づくりに取り組む。2024年夏には総額9億円で大通東5〜6丁目(商業施設「サッポロファクトリー」近隣の282m2)に定置式水素ステーションを設置し、道内初の大型車両向け水素供給拠点とし、水素を活用したモデル街区として整備を進める。
 エア・ウォーターが、充塡能力:約15kg/10分、非常時対応で2レーンを設置。水素調達は北海道曹達から行うが、石狩市で稼働予定の洋上風力発電で製造したグリーン水素の調達も視野に入れる。

 2023年7月、経済産業省はFCバスとFCトラックを早期に普及させる重点地域を2023年度に選定すると公表。水素ステーションの整備で先行する東京圏、愛知県、福島県が有力で、企業への補助、設備や運営に関する規制緩和も検討する。
 政府は、2030年までに小型FCトラック1.2~2.2万台、大型FCトラック5000台の導入を目指す。

 2023年10日、国土交通省は、高速道路で水素ステーションの整備を促すため規制を緩和する。道路法では道路区域とされる駐車場などには、ガソリンスタンドやBEV用充電器に限って設置可能としていたが、水素ステーションを対象に加える。道路法を改正し、2024年4月からの施行を目指す。

 2023年11月、東京都はトラックやバスなど商用FCV向けの大型水素ステーション(ST)を、2030年すぎに都内50カ所に整備する方針を示した。、現在、都内にある大型水素ST(供給能力が500m3/h以上)は、5カ所である。国の制度に加えて10億円を上限に整備費を全額助成し、運営費も手厚く助成する。
 江東区の約1500m2の都有地に大型水素STを2025年度以降に整備する。今後も重点エリアを決めて整備計画を進める。また、FCバスは5000万円/台を上限に導入を支援するし、助成を受ける企業が水素STを整備する場合には2000万円/台を上乗せする。FC小型トラックは上限1300万円/台まで助成する。
 都によると8月末時点で都内にはFCバスが約100台FCトラックが約30台導入されている。2030年頃にはバス約300台、小型トラック約3500台、大型トラック約1000台の規模になると想定している。

 水素ステーションのあり方が、従来の化石燃料の改質による水素供給から再生可能エネルギー電力によるグリーン水素供給へと変わろうとしている。併せて、EV向けの充電スタンドも併設。ならば、法規制による安全対策を見直し、ガソリン供給も可能なマルチステーションはどうか?

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