リチウム空気電池(LAB)は、エネルギー密度が1000Wh/kg以上と非常に高いことが特徴で、LIBと比べて原材料の調達リスクやコスト面でも優位とされている。しかし、充放電サイクル特性を含めて研究開発段階にあり、実用化までには多くの課題が残されている。
全固体リチウム空気電池には、酸化物系電解電解質や固体ポリマー電解質が検討されており、LIBやLABと比較して液漏れの心配がなく、安全性にも優れている。しかし、研究開発の初期段階にあり、実用化は早くても2030年以降と見られている。
リチウム空気電池の開発動向
リチウム空気電池の仕組み
リチウム空気電池(LAB:Lithium Air Battery)は、正極に空気中から取り込んだ酸素、負極に金属リチウム、電解質として非水系の有機電解質溶液、セパレーターには微多孔フィルムが主に用いられて研究開発が進められている。
LABでは、放電時にリチウムが負極から溶け出し、正極で酸素と反応して超酸化リチウム(LiO2)、あるいは過酸化リチウム(Li2O2)が生成される。充電時は逆に、超酸化リチウム、あるいは過酸化リチウムが分解して酸素を放出し、負極表面でリチウムに戻る。
従来のリチウムイオン電池(150~270Wh/kg)に比べてエネルギー密度が1000Wh/kg以上と非常に高いことが特徴で、原材料の調達リスクやコスト面でも優位とされている。しかし、LABは研究開発段階にあり、実用化までには負極活物質の劣化や液漏れ対策など多くの課題が残されている。
LABの最大の課題は、充放電を繰り返すと正極側と負極側の異なる電解液が混合したり、充電中にリチウムイオンが負極表面に樹枝状組織(デンドライト)として析出・成長し、短絡を生じることである。そのため、セパレーターや負極の耐性を高め、サイクル寿命向上を目指す研究が行われている。
一方、LABは空気中の酸素を正極材料として利用するため、空気中の湿度や汚れが電池性能に悪影響を及ぼす。そのため、活性が落ちにくい貴金属触媒(Pt)を利用したり、フィルターを使って空気中の不純物を取り除くなどの工夫が行われている。
全固体リチウム空気電池の仕組み
リチウム空気電池の電解液を固体電解質に置き換えたものが、全固体リチウム空気電池(All-solid-state Lithium Air Battery)である。液体電解質の課題(樹枝状組織形成、液漏れ、可燃性など)を固体電解質に置き換えることで軽減でき、エネルギー密度をさらに高くできる可能性がある。
全固体リチウム空気電池(全固体LAB)には、酸化物系電解電解質や固体ポリマー電解質が検討されており、従来のLIBと比較して液漏れの心配がなく、安全性にも優れている。しかし、全固体LABも研究開発段階にあり、実用化までには負極活物質の劣化対策によるサイクル寿命の延伸が必須である。
メーカー・研究機関の動向
2020年12月、イオン導電性ポリマーに強みを有するベルギーのSolvay(ソルヴェイ)は、リチウム空気電池の実用化に向けて中国EVメーカーであるGAC Groupと提携し、共同開発を発表した。
2021年6月、ソルヴェイは、LABの研究開発で三菱ケミカルと協力することを発表した。三菱ケミカルはLABの材料開発に向け、量子コンピューターでの基礎研究に取り組んでいる。
2021年12月、物質・材料研究機構 (NIMS) とソフトバンクは、エネルギー密度:500Wh/kg級リチウム空気電池を開発し、室温での充放電反応を確認した。負極に金属リチウム、セパレーターを挟んで正極に多孔質カーボンを使用した。サイクル寿命は明らかにしていない。
2022年5月、東レは、リチウム空気電池用の無孔イオン伝導ポリマー膜の開発に成功したと発表。セパレータに適用することで、充放電サイクル試験において、従来の微多孔フィルムに比べて10倍以上のサイクル寿命を確認している。
リチウムイオンがホッピングで通過可能な新規ポリマーを設計し、リチウム塩を複合化することで3×10-5S/cmと高いイオン伝導性を実現した。ポリマー膜は無孔であるため、異なる電解液の分離性に優れ、リチウムの樹枝状組織の析出・成長の抑制が原理的に可能としている。
2023年2月、NIMS・ソフトバンク・オハラは、酸化物型固体電解質のシート(厚さ:6μm)をLABの正極と負極間に挟み、負極のリチウムを保護して寿命を2倍に延ばした。正極で電解液などと反応して生じた水やCO2が、負極側に移動して負極が劣化するのを固体電解質で防止した。
NIMSはエネルギー密度:500Wh/kgのLABを開発していたが、10回ほどの充放電で容量が8割以下に低下した。保護シートを電極間に挟んだ電池(400Wh/kg)では、負極の劣化が抑えられて20回以上の充放電を繰り返した後でも容量を8割ほど維持できた。
2023年2月、米国イリノイ工科大学・アルゴンヌ国立研究所は、LIBに比べて4倍高いエネルギー密度(1200Wh/kg)の全固体LABを開発したと発表。(「Science」誌に掲載)
リチウム化合物のナノ粒子をポリマーに埋め込んだ複合材料の固体ポリマー電解質を開発し、試験セルでは1000サイクルの充放電に対する安定性を実証した。
2023年5月、山梨大学・早稲田大学は、負極活物質に水素イオンを可逆的に取り込む酸化還元活性な有機化合物を用い、水素イオン伝導性の高分子電解質薄膜を組み合わせ、繰り返し充放電可能な全固体LABを開発した。(ドイツ化学会「Angewandte Chemie International Edition」に掲載)
負極活物質は有機レドックス化合物ジヒドロキシベンゾキノン(およびその重合体)、電解質は高分子薄膜(ナフィオン)、正極は白金触媒を含むガス拡散電極(活物質は酸素)を組み合わせ、全固体LABの原理実証に成功。電解質膜との界面はカーボン粉末とナフィオンを混合した負極構造を採用した。
リチウム空気電池と全固体LABの課題
リチウム空気電池は研究開発段階にあり、実用化には多くの課題が残されている。主な課題は、負極であるリチウムのデンドライトの析出・成長の防止と、正極である空気極側に供給される空気の影響である。加えて、車載用電池としては急速充放電性能や利用温度範囲などを検証する必要がある。
最近になって、国内外の研究機関から全固体リチウム空気電池に関する新たな報告が相次いでおり、リチウム空気電池を通り越して全固体リチウム空気電池の可能性も出てきている。今後、実用化に向けて企業の動きが加速される可能性は高い。
しかし、研究開発状況を見る限り、実用化は早くても2030年以降と見られている。
ポスト・リチウムイオン電池のまとめ
ナトリウムイオン電池(NIB)
ナトリウムイオン電池(NIB)が、現在主流となっているリチウムイオン電池(LIB)に置き換わる可能性はある。ただし、定置式蓄電池や格安BEV向けなど、LIB市場の部分的なNIBへの置き換えであり、ポスト・リチウムイオン電池の本命とはいえない。
その理由は、NIBのエネルギー密度が160~200Wh/kgと、LIB(150~270Wh/kg)やLFP系LIB(160~175Wh/kg)と同等な点にある。自動車メーカーにとって、既に完成しているLIBのサプライチェーンを、NIB向けに再構築するモチベーションとはならない。
全固体ナトリウムイオン電池も、エネルギー密度の大幅向上が示されない限り同様である。
全固体リチウムイオン電池(全固体LIB)
ポスト・リチウムイオン電池本命とされている全固体リチウムイオン電池は、現時点でもエネルギー密度:400~500Wh/kgと高く、液漏れや発火の危険性も極めて低い。また、超急速充電(10分以下)性能や、寒冷地での性能劣化防止などの開発が進められている。
現状の全固体LIBの生産コストは、LIBの4倍ともいわれている。今後、量産効果により低コスト化が進めば、一挙に全固体LIBへの転換が進む可能性が高い。課題は、量産に至るまでの過渡期の製品である。「全固体LIBでないと成立しない魅力ある製品とは何か?」を模索する必要がある。
リチウム硫黄電池(LiSB)と全固体LiSB
リチウム硫黄電池(LiSB)と全固体LiSBは、現在主流のLIBに置き換わることはない。現時点ではエネルギー密度と充放電サイクル特性のいずれも、全固体LIBを凌駕する特性が得られていない。未だ研究開発段階にあり、車載用の実用化は早くても2030年以降との見方が強い。
LiSBの理論エネルギー密度は2500Wh/kgで、LIB(150~270Wh/kg)に比べて極めて高いといわれてきたが、現状は400~500Wh/kgに留まり、全固体LIBと同等である。今後、開発が進みエネルギー密度向上の見通しが明らかとなれば、ポスト・全固体リチウムイオン電池に位置付けられる。
リチウム空気電池(LAB)と全固体LAB
リチウム空気電池は研究開発の初期段階にあり、実用化には多くの課題が残されている。最近、国内外の研究機関から全固体リチウム空気電池に関する新たな報告が相次いでおり、リチウム空気電池を通り越して全固体リチウム空気電池の可能性も出てきている。
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