自動車分野の未来予測

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図1  自動車分野の未来予測イメージ

エネルギーの変換期

 2020年代に入り、日本の7大商社が相次いで海外の再生可能エネルギーに手を伸ばしている。世界的な再生可能エネルギー電力とグリーン水素の需要拡大に、企業として将来的な成長を見込み敏感に反応したものである。先進国を中心に一次エネルギーから二次エネルギーへの変換期が訪れている。

 2021年1月、住友商事はオーストラリア・クイーンズランド州グラッドストンで計画中の水素製造・販売プロジェクトで、水素製造プラントの基本設計(250-300トン/年)を日揮グローバルに委託する。
 オーストラリア政府は、2019年に策定した「国家水素戦略」で2030年には世界に伍する水素国家になるビジョンを打ち出している。太陽光発電の電力を使い、水電解により水素を製造、現地で販売し、地産地消型の水素コミュニティの構築を検討している。

 2021年9月、丸紅はオマーン国の国営石油会社OQ SAOCのグループ会社、グローバル産業ガス会社Linde plcのグループ会社、アラブ首長国連邦ドバイ首長国のエンジニアリング会社Dutco Groupの傘下会社と、グリーン水素・グリーンアンモニアの共同開発契約を調印した。
 オマーン国南部サラーラ地域で、再生可能エネルギー由来の電力を利用したグリーン水素・グリーンアンモニア製造に係る技術面・商務面の事業化調査の枠組みを定めるのが狙いである。

 2022年1月、丸紅は南オーストラリア州における安価な再生可能エネルギー由来水素(グリーン水素)の製造、水素吸蔵合金を使用したインドネシアへの水素輸送、および燃料電池を用いた水素の利活用に関する実証事業を開始した。

 2022年4月、三菱商事が欧州で製造時にCO2を出さないグリーン水素の供給に乗り出す。三菱商事子会社で欧州の再生可能エネルギー事業を進めるエネコが、英国のシェル、ノルウェーのエネルギー大手エクイノール、ドイツのRWEなどで作る共同事業会社に10%出資する。
 2030年までに、オランダ沖合を中心とした欧州海域に大規模洋上風力発電所(出力:約400万kW)を建設し、水電解によりグリーン水素を製造する。2030年に40万トン/年、2040年に100万トン/年に拡大する計画で、総投資額は3000億円超、三菱商事はこのうち数百億円規模を投じる。

 2022年10月、三菱商事を中心とする企業連合は秋田県沖での洋上風力発電の余剰電力を利用して、水電解による水素製造システム(グリーン水素)の実証事業を計画していると公表した。製造した水素を輸送・貯蔵し、港湾内や市街地で活用する計画である。
 三菱商事を中心とする企業連合は、秋田県の「能代市・三種町・男鹿市沖」と「由利本荘市沖」の2海域で洋上風力発電計画を進めている。2026年に着工し、「能代市・三種町・男鹿市沖」では2028年に運転開始、「由利本荘市沖」では2030年に運転開始する。

 2022年4月、三井物産はインドで再生可能エネルギーによる電力事業に参画すると発表した。現地のリニューパワーとの合弁会社に49%出資し、風力発電所(出力:30万kW×3か所)、太陽光発電所(出力:40万kW)、蓄電設備を整備し、夜間も含めて40万kWの電力の安定供給をおこなう。
 2023年8月の稼働を目指し、発電所建設などの総事業費は13.5億ドルである。同時にフランスの水素製造会社ライフに1000万ユーロを投資し、グリーン水素を共同生産する実証プラントを2022年度中にフランス西部に建設する。水素製造設備は洋上風力発電の根元に設置し、送電線には接続しない。

 2022年9月、三井物産は西オーストラリア州ピルバラ地域のグリーン水素製造事業(YURIプロジェクト)に参画すると公表した。同事業ではオーストラリアYURI Operationsが、2024年を目指して太陽光発電(出力:18MW)で水分解するグリーン水素製造プラント(容量:10MW)を建設する。
 製造したグリーン水素は、ノルウェーの窒素系肥料メーカーYara Internationalの100%子会社Yara Pilbara Fertiliser(YPF)のアンモニア製造設備に供給する。総事業費のうち4750万豪ドルを再生可能エネルギー庁、200万豪ドルを西オーストラリア州政府から補助金として受給する。

 2022年10月、伊藤忠商事はフランスの電力会社EDF(Électricité de France)、シンガポールの発電会社トゥアスパワー(Tuas Power)と、再生可能エネルギー由来のグリーン水素・アンモニア分野での協業に関する基本合意書(MOU)を締結した。
 EDFは再生可能エネルギー水素の世界的な供給者を目指し、トゥアスパワーはシンガポールで現在主力のLNG火力発電からグリーン水素混焼への切り替えを推進し、伊藤忠商事はグリーンアンモニアのグローバルなサプライチェーン構築に取り組む計画である。 

 そのほか、伊藤忠商事はアンモニア燃料船の開発や船用アンモニア燃料の国際バリューチェーンの構築、南アフリカでのグリーン・アンモニア・サプライチェーンの事業化調査、カナダでのブルーアンモニア製造販売事業プロジェクトなども推進している。

 2022年1月、双日は環境省プロジェクトで、オーストラリア・クイーンズランド州で太陽光発電によるグリーン水素製造、パラオ共和国(島嶼国)への輸送、小型燃料電池および小型燃料電池船による利活用の実証事業(2021~2023年度)を、CS Energy、大日本コンサルタントと開始する。
 CS Energyがグリーン水素の製造・供給を行い、大日本コンサルタントが島嶼国での水素の用途・需要見通しの調査、協力事業者のブラザー工業が燃料電池の実証を行う。パラオ共和国は2025年までに発電量の45%を再生可能エネルギーにシフトさせる計画である。 

次世代自動車の電化トレンド

 次世代自動車の鍵を握るのは、低環境負荷を実現するための燃料の供給である。BEVでもFCEVでも同じである。その根底にあるのは再生可能エネルギーで発電した電力、その電力を使って製造したグリーン水素であることはいうまでもない。既に、欧米先進国はその方向に舵を切っている。

 現状の経済的理由から「化石燃料を使う火力発電で発電した電力」「化石燃料を改質して得られた水素」を使う限り、環境負荷の低減という目的は達成されない。すなわち、地球環境問題への対策としてBEVやFCEVを使う意味はないのである。

 経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2021」によると、2019年における国内の電力供給比率は、火力発電75.7%、原子力6.2%、水力7.8%、再生可能エネルギー10.3%である。まずは、火力発電偏重からの脱却が必要である。この10年間、政府の甘い見通しが、日本の現状を招いている。

 現在、2017年頃に欧州を中心に動き出したEVシフトが、自動車の最大市場である中国を巻き込み急速に進み始めている。過渡期の利用であるHEVを経て、世界の次世代自動車のメガトレンドはBEVに向かっている。これには搭載される蓄電池の性能向上と充電インフラの整備拡充が大きく影響している。

 一方、従来から大型・長距離移動に有利とされてきたFCEVであるが、水素ステーションの整備遅れが明らかであり、少なくとも2030年頃まではFCEVの市場拡大は困難である。これは再生可能エネルギー電力を使って製造する「グリーン水素」の供給の実現時期を考えれば明らかである。

 また、グリーン水素は明らかに再生可能エネルギーで発電した電力よりも割高となるため、低コスト化が必須の課題である。そのため、搭載される蓄電池の性能向上が進めば、EVバスやEVトラックの実現の可能性が高まり、FCバスやFCトラックの出番はなくなる。

バイオ燃料車と水素エンジン車

 国際エネルギー機関(IAE)によればエンジン車のピークは2030年前後で、ピークを過ぎてもすぐに消滅することはない。特に、電化の遅れている発展途上国などでは、従来の内燃機関の延長線上でバイオ燃料の利用や水素エンジンにより、CO2排出量の抑制を進める需要が高まる可能性がある。

自動車向けバイオ燃料の製造

 自動車向けバイオ燃料の製造・利用は、米国やブラジルが先行している。最近になり、日本でも企業主体で検討が開始され、2022年7月に、「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」がENEOS、スズキ、SUBARU、ダイハツ工業、トヨタ自動車、豊田通商の6社により設立された。

図2 次世代グリーンCO2燃料技術研究組合の研究領域

 同組合では、2050年カーボンニュートラル実現のため、バイオマスの利用、生産時の水素・酸素・CO2を循環させて効率的に自動車用バイオエタノール燃料を製造するための技術研究を推進する。そのため、①~④の研究領域を対象とする。

① エタノールの効率的な生産システムの研究 
② 副生酸素とCO2の回収・活用の研究
③ 燃料活用を含めたシステム全体の効率的な運用方法の研究 
④ 効率的な原料作物栽培方法の研究

 カーボンニュートラ燃料の最大の課題は、低コスト化と需要に応じた供給量の確保にある。ENEOSは単独でもNEDO支援を受けて「合成燃料の製造技術開発」を進めており、2024~2028年の間に生産量18000kL/年クラスのパイロットプラントを稼働し、2040年ごろまでの自立商用化を目指している。

バイオ燃料車の開発

 2022年6月、自動車メーカー各社が、富士スピードウェイで開催された24時間の「スーパー耐久シリーズ2022」で、カーボンニュートラ(CN)燃料に対応したエンジン開発を進めると発表した。

 トヨタ自動車は、水素エンジン搭載の「ORC ROOKIE GR86 CNF Concept」で耐久レースに参戦した。燃料はアイルランドP1 Racing Fuels製で、再生可能エネルギー電力による合成燃料(e-fuel)と、第二世代バイオメタノールをガソリンに変換したMTG(Methanol to Gasoline)のブレンドである。

 SUBARUは、水素エンジンを搭載したトヨタGR86の兄弟車である「Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」で耐久レースに参戦した。燃料は、GR86と同じe-fuelとMTGのブレンドである。

 日産自動車は、ファレディーZの新型車「Nissan Z Racing Concept」(230号車)がレースに参戦した。使用燃料はアイルランドP1 Racing Fuels製のe-fuelである。

 マツダは、ディーゼル車「MAZDA2 Bio concept」で耐久レースに参戦した。ユーグレナが供給する100%バイオディーゼル燃料「サステオ」を使用した。2022年発売の新型SUV「CX-60」から搭載する直列6気筒ディーゼルエンジンは、B5バイオディーゼル燃料対応である。

サステオは、ユーグレナ油脂(約10%)と廃食油(約90%)をブレンド後、不純物を除去する前処理、低分子化するための水熱処理を施す。その後、C10~C20に精製するため水素化処理を施す。得られた精製植物油(HVO:Hydrotreated Vegetable Oil)を、蒸留処理でナフサ成分を分離することで製造される。現在の価格は約1万円/Lであるが、2025年に25万kL/年の商業プラントを稼働させて250円/Lを目指す。2022年6月からユーグレナと中川物産が名古屋市の名港潮見給油所で、サステオを20%混合した軽油の一般販売を300円/Lで行っている。

水素エンジン車

 ところで、水素を燃料とする水素エンジンは、FCEVと同様に原理的にはCO2を排出しない。一方で、既存のレシプロエンジンの改良で対応するため、FCEVより安価となる可能性がある。

 2022年6月に、トヨタ自動車は水素をエンジンで燃焼させて走る「水素エンジン車」の市販を目指す方針を発表した。2021年から耐久レースに参戦して技術実証を続けており、FCEV用水素タンクの搭載ではガソリン車よりも走行距離が短いため、液体水素燃料の搭載を検討している。

 米国自動車部品大手ボルグワーナーは、e-Fuelやアンモニアの他に水素対応エンジンの開発を進めている。圧縮天然ガス(CNG)車向け燃料噴射装置を改良して水素インジェクターの最適化を行い、空気過剰率(λ)=2以上の希薄燃焼で、高負荷運転でもNOxが大幅に低減できることを示している。

 2022年6月に、欧州委員会(EC)の欧州グリーンディールの包括法案「Fit for 55 Package」の中の「乗用車および小型商用車のCO2排出基準の改正案」(実質2035年に内燃機関搭載車の新車販売禁止)が、EC閣僚理事会で支持された。
 ECはe-fuelを含むCN燃料やPHEV技術の進捗を考慮し、2026年の法案見直しが確認された。欧州自動車工業会(ACEA)、欧州自動車部品工業会(CLEPA)、ドイツ自動車工業会(VDA)などからの、再生可能エネルギー電力による合成燃料(e-fuel)などの再評価の動きも出てきてる。

 2022年8月、従来のエンジン部品業界で、生き残りに向けた動きが出ている。2022年7月、リケンと日本ピストンリングが、2023年をめどに共同持ち株会社「リケンNPR」を設立する。経営統合で規模を確保し、残存者利益を狙える競争力や体力を維持するのが狙いである。
 リケンは、新潟県の柏崎事業所で水素エンジンの実機評価を2022年5月に開始している。

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