次世代自動車:2010年代の開発

 1990年代以降、次世代自動車は従来の燃費向上対策から、温暖化ガス対策(CO2排出量削減)が開発の主テーマとなる。バイオ燃料は高価格で需要に見合う供給量が確保できず、今後も大きな伸びは期待できない。そこでインフラ整備を充実させて電力や水素を燃料とするEV、FCEVの開発を加速した。

 また、自動車の燃費向上を目指した構造材料の軽量化は継続的に進められた。すなわち、車体材料である炭素鋼の高張力鋼化による薄板化、軽量なアルミニウム合金炭素繊維強化複合材料(CFRP)の部分的な適用であるが、これを可能としたのは薄板の接合技術異種材料の接合・接着技術である。

次世代自動車の開発動向

燃費向上から低環境負荷へ

  図1には、次世代自動車に向けた使用燃料と構造材料の開発の流れを示す。

図1 自動車の低環境負荷を実現する使用燃料と構造材料の変革

 温暖化ガス対策(CO2排出量削減)が開発の主テーマとなることで、次世代自動車の開発はガソリンエンジン車を基軸としたハイブリッド車(HEV)から、2000年代以降は電気自動車(BEV)燃料電池車(FCEV)の開発に移行した。

 ただし、その根底にあるのは再生可能エネルギーで発電した電力、その電力を使って製造したグリーン水素である。経済的理由によりに火力発電で発電した電力や化石燃料を改質して得られた水素を使う限り、低環境負荷の最終目的は達成されない

 ここで分岐点となったのは次世代自動車の形式選択で、電気自動車(BEV)なのか?燃料電池車(FCEV)なのか?の判断であった。日本が先行するFCEVを欧米中がBEVで追い上げる状況が続いたが、インフラ整備で先行したBEVが蓄電池の性能向上で走行距離を伸ばし、BEV優位へと移行する。

 大きな出口を失った燃料電池車(FCEV)は、その技術の適用先として長距離トラック、バス、電車、船舶、航空機など、新たな出口を目指して模索が始まった。

次世代自動車の占める割合

 国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)が世界の乗用車販売台数に占める次世代自動車の割合を予測した。2012年の少々古いデータではあるが、2050年までの長期予測である。

 ガソリン車やディーゼル車などのエンジンで走行する車の販売は2020年をピークとし、その後は2050年に向けて漸減傾向を示し、ガソリンHV(Hybrid Vehicle)とディーゼルHV、ガソリンPHV(Plug-in Hybrid Vehicle)とディーゼルPHVが市場を牽引する。

 2040年には、ガソリン車とディーゼル車、ガソリンHVとディーゼルHVの販売合計が、EV(Electric Vehicle)、ガソリンPHVとディーゼルPHV、FCV(Fuel Cell Vehicle)の販売合計と同等となり、2040年以降は次世代自動車の需要が順調に拡大する。

 EV、ガソリンPHVとディーゼルPHVは2020年以降に、FCVは2035年以降に顕著な増加傾向を示すとしている。2025年の車種別割合は、エンジン車+HV+PHVが95.6%、EVが4.4%であり、2035年にはエンジン車+HV+PHVが84.4%、BVが11.2%、FCVが4.4%の割合になると予測している。

 先進国ではEVやFCVへの移行が加速されるが、開発途上国ではエンジン車、HV、PHVの需要は当面の間は増加傾向を示す。ここで注意すべき点として、2050年においてもガソリン車+ガソリンHV+ガソリンPHVが50%を超える割合で存在すると予測している点である。

図2 世界の車種別自動車販売台数の将来予測
出典: IEA:ETP(Energy Technology Perspectives)2012

 また、2022年1月、英国調査会社のLMCオートモーティブによれば、世界の乗用車販売台数に占める次世代自動車の割合を予測している。

 乗用車の世界販売台数は、2021年にエンジン車が6750万台とBEVの15倍の規模であるが、2033年にはBEVが4698万台に拡大してエンジン車を2割上回ると予測している。BEVの市場規模は12年間で10倍に拡大する計算になる。しかし、2033年にはFCEV(Fuel Cell Electric Vehicle)の影は薄い

 一方で、新型コロナの影響で世界全体の乗用車の販売台数は低迷しているが、2022年1月の季節調整済み年率換算販売では8,400万台/年に改善されるとしている。また、2033年時点でガソリン/ディーゼル車+HEV+PHEVは60%程度存在すると予測している。

図3 世界の乗用車販売台数に占める車種別構成比の予測(2022年1月)
出典:英調査会社LMC Automotive Ltd、

駆動システムの発展の流れ

 現行のガソリンや軽油を燃料として走るエンジン車の駆動システムは、タンクに貯めた燃料をエンジンに供給し、駆動したエンジンで車軸を回転させて走行する。この内燃式のレシプロ・エンジン自体は複雑な構造であるが、駆動システムとしては単純である。

図4 低環境負荷/燃費変革に向けた自動車の発展 出典:TEPCO

ハイブリッド車(HEV)とは

 エンジンのみで駆動するエンジン車の燃費改善を目的に開発されたのがハイブリッド車であり、HV(Hybrid Vehicle)あるいはHEV(Hybrid Electric Vehicle)の略称で呼ばれている。

 HEVではエンジンを使って発電し、その電気を大型蓄電池に貯め、モーターで車軸を回転させて走行する。一般にシステム電圧は200V以上の高電圧が採用されている。

 HEVでは2つの動力源であるエンジンとモーターの使い方により、 (a)シリーズ方式、(b)シリーズ・パラレル(スプリット)方式、(c)パラレル方式の3種類に分類される。

図5 ハイブリッド車の分類とその構成

シリーズ方式は、エンジンで発電した電力を蓄電池に蓄え、その電力でモーターを駆動させる。エンジンは発電にのみ使われ、車の駆動はモーターのみのため、走行感覚は電気自動車BEVと変わらない。充電に必要な時だけエンジンを使うため、エンジン車よりも低燃費である。
 日産自動車のノートやセレナなどの「e-POWER」に採用されている。
シリーズ・パラレル方式スプリット方式とも呼ばれ、エンジンのほかに走行用モーターと発電用モーターを搭載している。発進時や低速時はモーターのみで走行し、高負荷時や高速走行時にはエンジンも始動させる。パラレル方式よりもエンジン駆動を抑制することができるため低燃費である。
 トヨタ自動車のプリウスや本田技研工業のフィットに採用されている。
パラレル方式は、エンジン駆動が主体のシステムで、発進時や低速時などに補助的にモーターを駆動させて燃料の消費を抑える。蓄電池に電気がなくなるとモーターが発電機として充電を開始するため、動力源はエンジンのみとなる。構造が簡単でシステム重量が軽く、低コストである。
 本田技研工業フリードの「SPORT HYBRID i-DCD」や、スバル XVの「e-BOXER」などに採用されている。

 最近はHEVの低コスト化をめざし、パラレル方式を発展させてエンジンを主体とし、モーターを完全に補助とするマイルドハイブリッド車が商品化されている。そのため、従来のハイブリッド車はストロングハイブリッド車(あるいはフルハイブリッド車)とも呼ばれている。

 ストロングハイブリッド車は、エンジンのみあるいはモーターのみでの駆動が可能であるが、マイルドハイブリッド車はモーターのみでの駆動はできない。このマイルドハイブリッド車は使用するモーターにより、交流モーター方式と直流モーター方式に分類される。

交流モーター式は従来のハイブリッド車と同じシステム構成で、走行に使用するモーターにハイブリッド用の小型蓄電池と発電用の交流モーターが搭載され、システム電圧は100~200V以上である。蓄電池とモーター間には交流変換器とモーター制御用のインバータが必要である。
直流モーター式は直流電流で駆動するためのインバータが不要で、システム電圧も12Vと低圧で、電装品用の鉛蓄電池とハイブリッド用の小型蓄電池の両方を活用するシステムである。
 スズキ「ワゴンR」、「スペーシア」や「ハスラー」、三菱自動車「eKワゴン」「eKスペース」、日産自動車「デイズ」「ルークス」などに採用されている。

 また、欧州を中心にシステム電圧を48Vとし、ハイブリッド用の中型蓄電池を搭載した48Vマイルドハイブリッド車が商品化され、メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲン(アウディ)、BMWなどが採用を進めている。

プラグインハイブリッド車(PHEV)

 プラグインハイブリッド車は、外部からも充電が可能で蓄電池容量を大きくしたHEVである。PHV(Plug-in Hybrid Vehicle)あるいはPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)の略称で呼ばれる。

 充電のためにエンジンを動かす必要がなく、エンジン駆動を抑制できるため低燃費である。走行時には外部からの電力を積極的に利用し、数十km程度の短距離走行は BEV 走行を行い、長距離になれば HEV 走行に移行する方式が一般的である。
 トヨタ自動車のRAV4 PHV、プリウスPHVや、三菱のアウトランダーPHEV、エクリプスクロスPHEVなどに採用されている。

 最近では、BEVの航続距離を伸ばす目的でレンジエクステンダーBEVが開発されているが、システム構成はシリーズ方式のハイブリッド車である。レンジエクステンダーBEVは大型蓄電池を搭載しており、エンジンは補助的に使われている。

 以上、ハイブリッド車はエンジン車から電気自動車(BEV)あるいは燃料電池自動車(FCEV)への過渡的な“つなぎ”の役割りを目的に実用化が進められてきた。しかし、予想以上に地球環境問題の深刻さが増しており、現状では究極の環境車に向けた開発に力点が移行している。

電気自動車(EV、BEV)とは

 電気自動車は、排気ガスを出さない低環境車として開発が進められてきた。蓄電池に貯めた電気でモーターを駆動し、車軸を回転させて走行する。EV(Electric Vehicle)と略称で呼ばれているが、ハイブリッド車も含めて電気を動力にして動く車両の総称として使われる場合がある。

 広義の電気自動車(EV)の分類については、広義の電気自動車(EV)には、電気のみで走る狭義の電気自動車であるBEV(Battery Electric Vehicle)に加え、電気でも走るハイブリッド車(HEV)、燃料電池車(FCEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)も含まれる。

図6  広義の電気自動車(EV)の分類

 広義の電気自動車(EV)に共通するのはモーターを搭載していることである。減速時に生じるエネルギーを利用してモーターが発電(回生ブレーキ)し、蓄電池に充電できるために燃費が改善できる。BEVはHEVやPHEVに比べて駆動システムが単純である。

 当初、BEVは航続距離が短い点が指摘されていたが、現在は蓄電池性能が向上したことでエンジン車と遜色はない。一般にBEV は乗用車タイプで 蓄電池容量:20 kWh程度であるが,HEV の代表車種であるプリウスは1.3 kWh 程度である。ただし、充電に時間を要する問題は残されている。

 補助金の対象となっている代表的なBEVの諸特性と価格を比較する。2009年に2車種であったBEVも、2020年には輸入車を中心に12車種となり、乗用車からバンまで幅広い用途で販売されている。また、自宅で充電可能なPHEVも増加し、BEVとPHEV合わせて37車種が補助金対象になっている。

表1 補助金の対象となっている代表的なBEV
出典:次世代自動車振興センター2020年6月)

燃料電池車(FCEV)とは

 燃料電池車も、排気ガスを出さない低環境車として開発が進められてきた。搭載された水素タンクから水素燃料の供給を受け、空気中の酸素と反応させる燃料電池により発電し、蓄電池に貯めた電力でモーターを駆動して車軸を回転させる。

 FCV(Fuel Cell Vehicle)あるいはFCEV(Fuel Cell Electric Vehicle)の略称で呼ばれている。以下ではFCEVの略称を用いる。FCEVは、BEVに水素タンクと燃料電池を搭載した車であり、走行中に排出するのは水(水蒸気)のみであり、CO2は排出しない。補助金対象の代表的なFCEVの諸特性と価格を比較する。

表2  補助金の対象となっている代表的なFCEV
出典:次世代自動車振興センター(2020年6月)

次世代技術「CASE」とは?

 インターネットに接続する「Connected」、自動運転の「Autonomous」、カーシェアサービスなどの「Shared & Service」、電動化の「Electric」の4つの頭文字から作られた造語「CASE(ケース)」は次世代車を表す言葉として活用されている。

2010年代のFCEVとBEVの開発競争

 FCEV開発を進めるにあたり、トヨタ自動車が試算した各種自動車のエネルギーの総合効率の比較を示す。総合効率を計算するためには、燃料井から車の走行までを通じて考える必要があるとし、いずれも使用燃料を化石燃料(原油、天然ガス)由来として計算している。
・大仲英巳、燃料電池自動車開発における最近の進歩と将来展望、Spring8グリーンエネルギー研究会(2009.12.4)

図1 優れた燃料電池自動車の総合効率(トヨタ自動車試算)

■原油を採掘、輸送、精製してガソリンを製造し、サービスステーションに送り、車のタンクに供給するまでの燃料効率は84%である。原油の持つエネルギーの16%が途中のプロセスで失われる。また、ガソリン車の代表的な運転モード時の車両効率は23%で、掛け算して総合効率は19%となる。
■プリウスに代表されるハイブリッド車(ガソリンHEV)の場合は、燃料効率は同じ84%であるが、車両効率が40%と高いため、総合効率は34%に改善される。
■一方、電気自動車の場合は車両効率が85%と高いが、火力発電により得られた電力を使用する場合には燃料効率39%と低いため、総合効率は33%とハイブリッド車と同程度にとどまる。
■トヨタ自動車の燃料電池車「FCHV-adv」では、車両効率が59%と低いが、化石燃料の改質により得られた水素を使用する場合の燃料効率が67%であり、総合効率が40%と優れているとしている。
 すなわち、FCEVの総合効率は、BEV、HEVの約1.2倍で、ガソリン車の2.1倍と高い値を示す。

 以上のように、主に火力発電所の電気を利用するBEVに比べて、化石燃料の改質水素を直接利用するFCEVは排ガスがクリーンで、総合効率がガソリン車の2.1倍と高い。また、FCEVへの水素充填に要する時間は3~5分程度と、ガソリン車の充填と同程度である。

 そのため、次世代エコカーの大本命として世界中でFCEVの開発競争が激化し、日米欧韓の自動車メーカーが2015年以降にFCEVの発売に踏み切ると共に、普及に不可欠な水素ステーションなどのインフラ整備計画が発表された。繰り返すが、化石燃料を使用することを前提とした判断であった。

 しなしながら、2020年代にはEVシフトが本格化する。これは欧州を中心に脱石炭火力発電が進み、EVシフトの先には風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーが拡大するとの見方が浸透してきたためである。すなわち、化石燃料をベースにしたFCEVの総合効率のシナリオが崩れたのである。

 忘れてはならないのは、環境対策を考えた本質的なEV普及のためには充電スタンドの整備は2番手であり、その前に電力需要の増加に対応する低炭素電力の供給が可能な社会システムの整備が必要なのである。

FCEVの商品化と国際連携

 2002年12月に、本田技研工業とトヨタ自動車が世界初の燃料電池車(FCEV)の市販車を発売して以来、FCEVの開発は日本が世界をリードした。

図2 本田技研工業のFCEV一号機「ホンダFCX」
図3 トヨタ自動車のFCEV一号機「トヨタFCHV」

 当初は製造コストが1億円超/台と現実離れした価格であったが、国際連携により低コスト化の加速と開発費の削減が進められた。日本メーカーを中心に3グループの編成が進められたが、その後、韓国の現代自動車がFCEVの市販車を出したことで、図4に示す4グループにFCEV開発は集約された。

 このように、日米欧韓の大手自動車メーカーが戦略的技術提携を結ぶことにより、2010年代の前半においてFCEV開発は世界的な広がりを見せた。

図4 日本・韓国を中心に進む燃料電池自動車の国際連携

トヨタ自動車

 2013年1月、ドイツBMWとFCEVの共同開発で合意し、開発期間の短縮とコスト低減を目指すことを公表した。

 2015年1月、FCEV関連の特許約5680件の無償実施を表明した。他の自動車メーカーや水素インフラ企業に特許の利用を促し、FCEVの普及に弾みをつけるのが狙いであった。水素ステーション関連の約70件は無期限、残りは2020年末まで無償で提供する。

 2014年12月には、FCEV「MIRAI(ミライ)」の国内販売を実現した。最高出力:113kWのFCスタック、ニッケル水素電池、高圧水素タンク(70MPa、122.4L×2本)を搭載し、価格:723.6万円である。MIRAIは3分間の水素充填で、航続距離:650km、燃費:10円/kmであった。

 2019年4月、中国の北京汽車集団とFCEVでの提携を発表した。燃料電池システムや水素タンクなどを商用車を手掛ける傘下の北汽福田汽車に販売し、清華大学系の北京億華通科技が持つFCEVの制御システムと組み合わせて商品化する。他の中国商用車メーカーにもFCEVの部品外販を進める方針を示した。

 2020年12月、新型MIRAIを発売した。最高出力:114kWのFCスタック、約20%拡大した高圧水素タンク(134MPa、141L×3本)を搭載し、航続距離:850km、価格:710万円~805万円で補助金により約570万円から購入できる。しかし、2020年までのFCEV販売累計は、約11000台に留まる。

 2021年10月、北京億華通科技と共に華豊燃料電池において、新型MIRAIに搭載した燃料電池システムをベースに商用車向けの燃料電池システム「TLパワー100」(出力:101kW、3万時間の耐久性)の製造・販売を中国で開始した。

本田技研工業

 2013年7月に米国ゼネラル・モーターズ(GM)とFCEVの技術提携を発表し、GMの豊富な特許を生かし、相互に補完する形で基幹システムの共同開発を加速した。

 2016年3月に量産型のFCEV「CLARITY FUEL CELL(クラリティフューエルセル)」を発売した。最高出力:103kWのFCスタック、高圧水素タンク(70MPa、141L)、リチウムイオン電池を搭載し、航続距離:約750km、価格:766万円である。 

日産自動車・ルノー連合

 連合とドイツダイムラーはFCEVの共同開発を進めており、2013年1月に米国フォード・モーターが合流し、開発費低減とFCスタックや水素タンクなどの部品規格を共通化し、コスト削減計画を発表した。

 また、2016年6月には、バイオエタノールを燃料に使うSOFC「e-バイオフューエルセル」を開発したと発表している。BEVに併用することで、連続走行距離を現状の280kmから800km程度に延ばすことが可能で、車両価格は現行BEV並みに抑えた。

 2019年10月、メルセデス・ベンツのSUV「Mercedes-Benz GLC」をベースに、プラグイン型燃料電池車「GLC F-CELL」を発表した。従来より30%小型化して白金使用量を90%低減した固体高分子型燃料電池を開発し、リチウムイオン電池(容量:9kWh)を搭載している。

韓国現代自動車

 2018年3月、SUVタイプの新型FCEV「NEXO(ネクソ)」を発売し、欧米などでの販売を発表した。最高出力:95kWのFCスタック、高圧水素タンク(70MPa、52.2L×3本)、リチウムイオン電池を搭載し、航続距離:約820km、価格:776.83万円である。ドイツ・アウディとFCEV開発で提携した。

FCEVからBEVへの転換期

 2018年頃から、FCEVの開発と生産の中止、BEVへのシフトの発表が相次いでいる。

トヨタ自動車

 FCEVを次世代車の開発の軸に据えていたが、2016年12月にEV事業企画室を設置して本格的なBEV開発に着手することを公表した。その後、トヨタ自動車は国内外の企業との提携を積極的に進め、次世代車に向けた「全方位戦略」を強調するようになる。

 2021年12月の「バッテリーEV戦略に関する説明会」では、BEVのフルラインナップの紹介と共に投資強化の説明が行われた。2022~2030年までの9年間でBEV関連に4兆円の投資を行い、HEVとFCEVの4兆円と合わせて計8兆円規模の投資を行い、電池関連の新規投資も2兆円に増額する。 

本田技研工業

 2018年7月、PHEV車の「CLARITY PHV」を発売し、販売の軸足をFCEVからPHEVへと移すと発表

 2019年7月、次期FCEVモデルについて、2020年としていた市場投入を2~3年延期すると発表した。水素ステーション整備が不十分で、FCEVの2020年時点での本格普及は難しいと判断した結果である。

 2021年4月、温室効果ガスの排出削減に向け、世界で販売する自動車のすべてを2040年までにBEVあるいはFCEVにする目標を発表し、HEVは販売しない方針である。

 2021年6月、FCEVの生産を年内で中止することを表明している。ただし、BEVに注力しながらも、米国GMとも協力してFCEVの開発は継続し、新車種投入も検討するとした。

日産自動車・ルノー連合

 2018年6月、世界的なEVシフトの流れを受け、ダイムラーやフォード・モーターと共同開発するFCEV商用化の凍結を表明している。

韓国現代自動車

  2021年9月、今後発売する商用車をすべてBEVとFCEVにすると発表したが、3か月後の同年12月には市場が期待できないとのことから、FCEV開発を中断している。

燃料電池バイク

 燃料電池二輪車(FCバイク/スクーター)は各社ともに実証試験に留まり、市販には至っていない。

本田技研工業

 2004年8月、軽量・コンパクトな固体高分子型燃料電池(PEFC)を採用した燃料電池システム「Honda FC STACK」と、高圧水素タンクを搭載したFCバイクを開発している。

ヤマハ発動機

 2006年10月、固体高分子型燃料電池(PEFC)と高圧水素タンクを搭載したFCバイク「FC-AQEL」(エフシーアクエル)を開発している。

スズキ

 スズキは、空冷式固体高分子型燃料電池(出力:1.6kW)と高圧水素タンク(圧力:70MPa)を搭載した「バーグマン フューエルセル スクーター」を開発し、2009年から英国ラフバラ、2011年から北九州市で実証試験を行い、2017年3月に型式認定を取得して公道走行を開始している。

川崎重工業

 2022年9月、川崎重工業傘下で二輪車事業を手がけるカワサキモータースは、研究開発中の二輪車用水素エンジンを搭載した北米向けオフロード四輪車を「ENEOS スーパー耐久シリーズ 2022」内で一般公開した。 

 エンジンはカワサキの大型バイク「Ninja H2」をベースに、水素燃料をシリンダーに直接噴射する仕様へ改良している。トヨタ自動車のほか、ヤマハ発動機、スズキ、ホンダ、デンソーの技術協力を得ており、実際に二輪車にエンジンを搭載する時期など今後の開発予定は明らかにしていない。

燃料電池バス

 国内のFCバス普及台数は、2021年3月末で合計104台(内都営バス70台)である。

トヨタ自動車

 2011年、トヨタ自動車と日野自動車が、燃料電池(FC)ハイブリッドバスの開発を発表した。PEFC(出力:90kW×2台)、高圧水素タンク(圧力:35MPa)、ニッケル水素電池を搭載するハイブリッドシステムである。日野自動車は、東京都の支援を受け2015年に都営バによる実証試験を行っている。

 2017年2月、トヨタ自動車がMIRAIに搭載するトヨタフューエルセルシステム(TFCS)を採用した「トヨタFCバス」を、東京都交通局に1億円で納車している。PEFC(出力:114kW×2台)と高圧水素タンク(70MPa、600L×10本)を搭載し、航続距離:200kmであった。

 2018年3月には、図5に示すFCバス「SORA」型式認証を取得し、販売を開始した

図5 トヨタ自動車の燃料電池バス「SORA」

 2018年9月には、京浜急行バスがFCバス「SORA」の導入を決め、2019年春からお台場地区(東京都港区、品川区、江東区)で運行を開始している。蓄電池も搭載しており外部への電力供給も可能であり、非常時には最高出力:9kW、供給電力量:235kWhである。 

燃料電池トラック

 燃料電池トラック(FCトラック)は三菱ふそうトラック・バスいすゞ自動車日野自動車の大手3社が、FCEVで先行するトヨタ自動車、本田技研工業との共同開発などを進めているが、2022年時点では実証試験に留まっている。

三菱ふそうトラック・バス

 2019年10月、三菱ふそうトラック・バスは東京モーターショーで小型FCトラック「Vision F-CELL」を公開し、翌2020年には小変更を加えたコンセプトモデル「eキャンター F-CELL」を発表した。

いすゞ自動車

 2020年1月、本田技術研究所とFCトラックの共同研究契約を締結した。2022年秋にはFCトラック(25トン)を公道で試験走行させる計画で、水素充填時間:約3分/回程度、航続距離:約600km、高速道路など首都圏で長距離を走行した場合の安全性を確認する。

 水素ステーションの整備など、条件がそろった段階で量産し、早ければ2030年の実用化を目指す。商用車であれば走行ルートが決まり水素ステーションの設置が容易としている。

トヨタ自動車関連

 2020年3月には日野自動車と大型FCトラックの共同開発と走行実証に取り組むと発表した。「日野プロフィア」(FR1AWHG、25トン)をベースに、新型MIRAIのFCスタック(2基)、大容量水素貯蔵タンク(圧力:70MPa)を搭載し、フル充填時の航続距離:600kmを目指す。

 2020年10月にはアサヒグループホールディングス、西濃運輸、NEXT Logistics Japan(NLJ)、ヤマト運輸、トヨタ自動車、日野自動車の6社が、開発した大型FCトラックの走行実証を2022年春頃から行うことで合意している。

 また、2021年8月には、セブン‐イレブン・ジャパン、ローソン、ファミリーマートが、店舗への配送車両について、新型「小型FCトラック」を導入して実証実験を行うことを発表した。

 2022年7月、小型FCトラックを日野自動車、いすゞ自動車と2023年1月を目指して共同開発すると発表した。小型トラックはスーパーやコンビニなどの物流に使われ、長時間・長距離の走行性能が求められる一方、短時間での燃料補給が必要なため、FCEVが有効としている。

水素ステーションの設置状況

 当初、FCEVへの燃料補給方法は、水素ステーションから直接水素を補給する直接水素型と、メタノールやガソリン燃料から車載の燃料改質器によりで水素を取り出す車上改質型の2形式が検討されたが、現在は環境負荷低減から直接水素型が主流となっている。

 また、FCEVでの水素の貯蔵・車載方法は、高圧水素タンク方式、水素吸蔵合金方式、液体水素タンク方式が検討されたが、2001年4月に自動車への水素タンク積載が解禁され、水素吸蔵合金方式から高圧水素タンク方式が主流となっている。

 図6に、現在の水素ステーション構成例を示す。ステーション内に水素製造装置を有し、都市ガス、LPG、ナフサなどから水素を製造するオンサイト型と、外部で製造された水素を圧縮水素、液体水素(-253℃)の形で、カードル、トレーラーでステーションまで輸送するオフサイト型に分けられる。

図6 水素ステーション(オンサイト型、オフサイト型)の構成例
出典:水素供給・利用技術研究組合

 2014年12月、JX日鉱日石エネルギーは、既存のガソリンスタンドに水素、電気も含めて燃料を供給するオフサイト型マルチステーションを神奈川県海老名市に開設した。同社根岸製油所で製造した水素を専用トレーラーで輸送し、蓄圧器(ボンベ)(充填圧力:70MPa)で貯蔵する。
 従来から、市街地にガソリンスタンド併設型で70MPaの設備は設置できなかったが、2012年11月に「一般高圧ガス保安基準」が改正されて可能となった。圧力容器の設計基準や使用可能鋼材の制約の見直しなども行われ、欧米なみ整備費(欧米:1~2億円、日本:5~6億円)への低減が進められている。

 再生可能エネルギーによるオンサイト型水素ステーションの設置も進められており、2014年12月に本田技研工業は北九州市、岩谷産業と共同で、パッケージ型のスマート水素ステーション(SHS)を、北九州市エコタウンセンターに設置している。
 太陽光発電システムの電力で圧縮機が不要な自社製高圧水電解システム(充填圧力:35MPa)を採用し、高圧タンクから充填ノズルまでの主要構成部品をパッケージ化して設置工期と面積を大幅に削減し、2017年10月までに全国15カ所に整備、2018年から充填圧力:70MPaの設置を進めている。

 2015年2月、豊田通商、岩谷産業、太陽日酸が、新会社の「合同会社日本移動式水素ステーションサービス」を設立した。三井住友ファイナンス&リースが岩谷産業と太陽日酸から移動式水素ステーションを買い上げて運営会社にリースする。豊田通商はステーション設置場所の確保などを手掛ける。
 オフサイト型の移動式水素ステーションは、トレーラーに充填用の水素タンクを積み込んでいる。小スペースにも置けるため、公共施設や商業施設の駐車場などに止めて水素を供給する。

 2015年3月、三菱化工機は福岡市中部水処理センターに汚泥の発酵で発生したバイオガスを改質し、オンサイト型水素ステーション(充填圧力:82MPa、水素製造能力:3300Nm3/日)を設置した。九州大学、豊田通商と協力し、膜分離設備を組み合わせて消化ガスから高品質の水素を精製する。

 2019年3月には、東邦ガスは中部国際空港に、2006年度建設の実証用水素ステーションを建て替え、FCバスの充填基準に適合したセントレア水素ステーションを設置した。空港内を中心に知多半島周辺への水素供給が目的で、オンサイト型で充填圧力は70MPa、供給能力は300Nm/hである。

 2019年3月には、JERAが水素事業への参入を発表した。東京電力フュエル&パワー、JXTGエネルギーと共同で、大井火力発電所の一角に都市ガスを改質して水素を製造するオンサイト型の東京大井水素ステーション(水素供給能力:14400Nm3/日)を設置した。
 2020年8月からENEOS水素サプライ&サービスとして稼働しており、東京五輪・パラリンピック2020で導入したFCバス100台への水素供給拠拠点である。

 2019年12月、東芝エネルギーシステムズと敦賀市は太陽光発電の電力により水素を製造し、FCEVに充填できるシステム「H2One ST Unit」を市内に導入し、オンサイト型水素ステーションを開設した。
 2020年11月には、自立型エネルギー供給システムであるワンコンテナ型「H2One」を増設し、太陽光発電由来の水素供給に加えて、水素タンクから必要な時に燃料電池で電力供給を行う「H2Oneマルチステーション」1号機を開設した。

電気自動車の開発動向

 1970 年以降、電気自動車(BEV)には2 回のブームがあったと言われている。1970 年代には米国の排ガス規制への対応の一環としてBEVに関わる取組みが活発化した。
 1990 年代には米国カリフォルニア州でゼロ・エミッション・ビークル(ZEV)法が導入された結果、カリフォルニア州で販売される車の10%をZEVにするため、日米の自動車メーカーによる BEV 開発が活発化した。・荻野法一、電気自動車・燃料電池車の最新動向と将来展望、紙パ技協誌、63-6、(2009)636-640.

 しかし、1997年10月、トヨタ自動車が世界初の量産ハイブリッド車(HEV)PRIUS」を発表したことで、2000年代における大手自動車メーカーの開発はHEVおよびFCEV に移行し、BEVブームは急速に縮小した。

 加えて、2011年3月、東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故のために国内原子力発電所が停止し、電力不足と再稼働の不透明性がBEVブームに水を差した。

 その結果、BEVには航続距離(100~200km)や充電時間(0.5~8h)から限界が見え、FCEVの航続距離(500~600km)や充電時間(3~5分)の優位性が喧伝された。BEVの航続距離を伸ばすには電池容量を増やす必要があり、大幅なコスト増と共に車体重量が増加する課題に直面していた。

 ところが、2017年夏以降に欧米中などでの自動車排ガス規制が急速に厳しさを増し、ガソリンエンジンを併用するHEVをエコカーと認めない動きが国際的に強まる。その結果、再び欧州・中国を中心に「EVシフト」が加速されることになる。

三菱自動車と日産自動車

 以上のような状況の下で、図7のように2009 年7 月に三菱自動車は「i-MiEV(アイミーブ)」、2010 年12 月には日産自動車が「LEAF(リーフ)」を市場投入し、国内BEV市場をリードする。
 2011 年1 月、三菱自動車は軽商用BEV「MINICAB-MiEV」を市場投入し、2011 年 7 月には「i-MiEV」を大幅改良し、短距離用途に特化したグレード Mでは電池容量を抑えて低コスト化を進めた。

図7 三菱自動車の「三菱I-MiEV」(左)と日産自動車の「日産リーフ」

 一方で、国内自動車メーカーはプラグインハイブリッド車(PHEV)のラインアップを進める。
 2013 年1月、三菱自動車は「アウトランダーPHEV」の市販を開始した。アウトランダーPHEV はレンジエクステンダーBEV(航続距離を伸ばすためにBEVにエンジンを搭載)に近いPHEVである。

 2017年10月には日産自動車が「新型リーフ」を発売し、航続距離を280km(2012年12月初代リーフ)から400kmに伸ばし、価格も3種類のグレードで315~399万円(税込み)とした。急速充電器を使えば、40分で電池容量の80%を充電できる。

国内自動車メーカー

 2012 年1月、トヨタ自動車は「プリウスPHV」を投入した。

 その後、欧米中などでの自動車排ガス規制が急速に厳しさを増したことで、2016年12月にFCEVを次世代車の開発の軸に据えていたトヨタ自動車が、本格的なBEV開発に着手することを公表した。

 本田技研工業は2017年に北米でのBEV販売マツダは2019年に北米でのBEV販売富士重工業も2021年にBEV販売を相次いで発表している。

 2022年7月、トヨタ自動車は商用のBEV軽自動車を、ダイハツ工業、スズキなどと2023年度までの共同開発を発表している。スーパーなどの集配拠点と家庭を結ぶ近距離の物流で使用することを想定している。

ドイツBMW

 海外では2014年にドイツBMW がBEVである「i 3(アイスリー)」(オプションでレンジエクステンダーのガソリンエンジンを搭載)の市販を開始した。航続距離:390kmで、価格:509万円である。

米国GM

 2016年に米国GMがBEV「Chevrolet Bolt EV (シボレー・ボルトEV)」の市販を開始した。航続距離:383kmで、価格:37495ドル(約490万円、税込み)である。

米国テスラ

 2016年3月に予約注文を開始した米国テスラのBEVであるModel 3(モデル3)は、航続距離:354~498kmで、価格:35000ドル(約460万円、税込み)である。

電動バイク(BEバイク)

 電動バイク(BEバイク)は原付扱いとなり、搭載する蓄電池の定格出力から0.6kW未満(50cc原付一種)、0.6kW~1.0kW未満(125cc原付二種)、1.0kW以上(250cc普通二輪免許)に分類される。

 BEバイクは国内大手バイクメーカーのヤマハ発動機が一般向けにYAMAHA E-Vino(図8参照)、本田技研工業がビジネス用電動二輪車「BENLY e」シリーズを法人向けに販売するほか、多くの海外メーカーやスタートアップが様々な機種を販売している。

 一方で、興味深い取り組みがBEバイクで始まっている。
 2022年3月、ENEOSホールディングス本田技研工業・カワサキモータース・スズキ・ヤマハ発動機は、BEバイク普及に向けた合弁会社である(株)Gachaco(ガチャコ)を同年4月に設立した。

 新会社は、駅前やガソリンスタンドに「バッテリー交換ステーション」を設け、充電済みの電池と使用した電池の交換サービスを提供する。首都圏で始め、2022年度は200台分、2023年度には1000台分の需要をまかなえる拠点を整備する。当面は配達業者などの商用BEバイクを対象に始める。

 二輪大手4社は、2021年3月に着脱式バッテリーの仕様統一で合意したが、共通仕様の電池を搭載できるバイクは、現時点で本田技研工業の「ベンリーeシリーズ」など法人向け3車種のみで、首都圏で2000台以上が稼働している。

 本田技研工業は、着脱式の蓄電池システム「ホンダモバイルパワーパック」を開発し、インドで実証試験を進めている。繰返し使用で劣化した蓄電池を回収し、リサイクルする仕組みも作る方針である。2021年における国内バイク販売台数は約37万8000台で、その内BEバイクは数千台に留まっている。

図8 ヤマハ発動器、YAMAHA E-Vino

電動バス(BEバス)

 バスなどの大型車には電動バス(BEバス)よりもFCバスが適しているとして、経済産業省などが2017年に発表した水素基本戦略では「FCバスは2020年度までに100 台程度、2030 年度までに1200台程度の導入」の目標を掲げた。

 しかし、世界市場ではFCバスではなく、電動バス(BEバス)が席巻している。国際エネルギー機関(IEA)によると、2021年に販売されたBEバスは約9万台で中国と欧州が先行導入している。2030年には300万~500万台に増加し、バス全体の16%ほどを占めると予想している。

 国内のBEバス導入補助金は、ハイブリッド車を除くと補助対象8機種のうち7機種が中国製である。

比亜迪(BYD)

 製造・供給で優位に立つのは比亜迪(BYD)などの中国メーカーで、低価格と技術力で圧倒している。2019年3月、国内バス市場には中国の大手EVメーカーである比亜迪(BYD)の日本法人ビーワイディージャパンが、リン酸鉄リチウムイオン電池を搭載した4車種を市場投入している。

 BYDは世界でBEバス5万台以上を普及させ、シェアを拡大している。小型バスJ6(車長:6.99m、最大乗車定員:31名、航続距離≥150km、電池容量:105.6kWh)から、図9に示す大型バスK8(車長:10.5m、最大乗車定員:81名、航続距離:220km、電池容量:287kWh)などである。

 2021年6月には、日野自動車が、BYDから小型BEバスJ6についてOEM供給を受け、小型BEバス「ポンチョ ZEV」の販売を2022年に行うと公表している。自前の開発を待たずに、BEバスを市場投入するだけの需要の高まりを認識したのであろう。

 2021年12月、京都市では京阪バスが市内循環バスに4台のBEバスを導入したが、BYD製である。2022年4月、大阪府でも阪急バスがBYD製のBEバス2台を路線に投入している。日本メーカーはBEバスを量産化できず、自治体などが脱炭素に向けて中国製を選ばざるを得ないのが現状である。 

図9 BYDの大型電気(BEV)バスK8

いすゞ自動車と日野自動車

 2022年2月、2024年に電気自動車(BEV)の大型路線バス生産を始めると発表した。両社が折半出資するジェイ・バス(株)が生産し、いすゞ自動車が車両の開発を担う。いすゞ自動車の大型路線バス「エルガ」、日野自動車の「ブルーリボン」についてBEバスのラインアップを追加する計画である。
 一方で、同日、このBEバスをベースにして、いすゞ自動車と日野自動車は、トヨタ自動車のFCVシステムを活用してFCバスの開発を検討することも発表している。

EVモーターズ・ジャパン

 日本メーカーは北九州市のスタートアップEVモーターズ・ジャパンの小型BEバス「F8 series-4 Mini Bus」(車長:6.99m、乗車定員:29名、航続距離:290km)であるが、中国に製造を委託している。

電動トラック(BEトラック)

三菱ふそうトラック・バス

 2017年、世界で初めて量産された小型BEトラック「eCanter」を世界市場へ向けて発表した。最大積載量:2~3トン、蓄電池容量:81kWhで、急速充電では最大約1.5時間、普通充電では最大約11時間の充電で、航続距離:約100kmである。図10参照。

図10 三菱ふそうの小型EVトラック「eCanter」

HW ELECTRO(株)

 スタートアップ企業のHW ELECTROは、2021年7月に小型商用BEトラックを発売した。最大積載量:0.4~0.65トン、普通充電では「ELEMO(エルモ) 200」(容量:26kWh)は約6時間充電で航続距離:200km、「ELEMO 120」(蓄電池容量:13kWh)は約8時間充電で120kmである。

日野自動車

 2022年6月、超低床・前輪駆動小型BEトラック「日野デュトロ Z(ズィー) EV」を発売した。ウォークスルーバン型では、最大積載量:1トン、蓄電池容量:40kWh、航続距離:150kmである。

 しかし、2022年8月、エンジン性能試験を巡る不正により、日野自動車は商用車の電動化を目指すコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジー(CJPT)から除名され、BEトラック、BEバスなどの実用化が大きく遅れる見通しである。

いすゞ自動車

 2022年からBEトラックの量産車を販売すると発表している。併せて、本田技術研究所と共同研究している大型FCトラックの実証試験を、2022年度に開始する予定も公表している。

スウェーデンのボルボ・トラックス

 Volvo Trucksは、2020年12月に大型EVトラック「VNRエレクトリック」を米国バージニア州で製造・販売を開始している。
 従来、航続距離:最大240kmであったが、改良型では航続距離:最大440kmに延ばしている。改良型は、出力:250kWの蓄電池を搭載し、6蓄電池仕様の充電時間は90分、4蓄電池仕様の場合は60分で、蓄電池容量の80%を充電できる。

米国ニコラ

 米国スタートアップのNikolaが、2021年12月に市販EVトラック「トレ」の第一号車を、南カリフォルニアのトータル・トランスポーテーション・サービスに納入した。蓄電池容量:753kWhで、航続距離:563kmで、フル充電に要する時間は約2時間である。

BEトラックの導入状況

 2021年10月、物流大手のSBSホールディングスが、中国のEVトラック1万台を導入すると発表した。スタートアップのフォロフライ(株)が中国の東風汽車から輸入・販売するBEトラック(最大積載量:1トンクラス)について、航続距離の短いラストワンマイル事業での導入を決定した。

 2022年7月、ヤマト運輸は、日野自動車の小型BEトラック「日野デュトロZEV」(最大積載量:1トン)を500台導入すると発表した。8月から首都圏を中心に順次導入し、ラストワンマイル配送に利用する。ヤマトHDは配送車のEV化を進めており、2030年までに2万台導入する計画。

 EVトラックは中国メーカーも発売しており、佐川急便は、中国の広西汽車集団から小型EVトラックの商用車を7200台導入する。2020年6月からベンチャーのASF(株)と共同で企画開発を進めており、2022年9月から導入を開始、2030年度までに段階的に切り替える計画である。 

電気自動車用充電インフラ

充電設備の種類

 当然のことであるが、BEV普及のためには安心して走行できる充電インフラの整備が不可欠である。表1に示すように、国内の設備は大きく「普通充電設備」「急速充電設備」の2 種類に分類できる。

表1 EV用充電インフラ(普通充電設備、急速充電設備)の種類
出典:経済産業省 EV・PHVプラットフォーム

 普通充電設備は、住宅にも一般に施設されている単相交流の電力を利用して、長時間かけて充電する方式である。この普通充電設備は100Vコンセント200Vコンセントポール型普通充電器(200V)に大別できる。

 単相交流100Vの場合は1時間の充電で約10km程度の走行が可能で、200Vを使用した場合は30分の充電で約10km程度の走行が可能となる。

 ポール型普通充電器は、コンセント型(ケーブル無し)の充電器とケーブル型の充電器の2種類がある。コンセント型充電器では、コンセントの種類により充電できる車種が限られる場合がある。また、ケーブル型のポール型普通充電器では、充電できない車種がある。

 一方、急速充電設備は3相200Vが使用され、出力:50kWの充電器が一般的であり、5分間で約40km程度の走行が可能である。緊急時(バッテリー残量がほとんど無い場合)、業務用で車両を頻繁に利用する場合などの利用が想定され、高圧供給による契約が必要となる場合が多く見られる。

充電インフラの整備事業

 2008 年には経済産業省が「EV・PHV タウン構想」プロジェクトを立ち上げた。これは特定の地域に集中的に充電インフラを整備し、BEV及びPHEVの普及を目指すものであり、全国で18 自治体が選定されており、これまで各地域でインフラ整備が精力的に行われてきた。

 2012 年度補正予算で,「次世代自動車充電インフラ整備事業」として 1005 億円の大型予算が設定され、2014年3月までに普通充電・急速充電合わせて約 11 万基の設置を目指した。この補助制度では充電インフラ整備事業者に対して本体のみではなく、工事費に対しても最大2/3の補助が実施された。

 2014年 5 月には自動車メーカー4社(トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、三菱自動車)が、充電インフラ整備の支援を行うため、日本充電サービス(株)(NCS)を設立した。NCSは様々な条件があるが、政府の2/3の補助の残り部分と運用に係る費用の支援を行った。

 2014年度補正予算で、「次世代自動車インフラ整備促進事業」として300億円の予算が設定され、全国の道の駅へのEV充電器設置が進められた。

 2019年10月には、東京電力HDと中部電力が充電インフラ整備の支援を目的に(株)e-Mobility Powerを設立していたが、2021年4月にはNCSから充電サービス事業などを承継した。

 しかし、2021年2月の時点でのEV充電スタンドの数は、全国で約3万基ほどに留まり、そ内訳は急速充電器が約7,950基、普通充電器が約2万1,700基であった。

 さらに2021年度補正予算で、「クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金」として65億円の予算が設定された。これまで急速充電は、高速道路SA/PA、道の駅、SS、空白区域(15km圏内に充電器なし)が対象であったが、今般から、個人宅以外は、原則、全てのエリアが対象となる。

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