燃料電池車用水素ステーションの整備
燃料電池車(FCEV)は技術進歩が進む一方で、インフラ整備、法改正、自動車技術に関する課題など、乗り越えるべき多くの課題を抱えていた。中でも、水素を充填するための水素ステーションの整備と拡大は重要で、2010年代に様々な取り組みが行われたが、いずれも目標未達に終わっている。
2010年、燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)が「FCVと水素ステーションの普及に向けたシナリオ」を示した。この時点で日本の水素ステーションは実験規模の15ヶ所程度で、2015年から一般ユーザーへの普及を開始し、2025年からFCEVと水素ステーション事業が成立するシナリオである。
すなわち、2025年時点でFCEV200万台、水素ステーション1000ヶ所程度を普及させ、これ以降はFCEV・水素ステーション共に経済原理にもとづいて自立的に拡大していくシナリオである。
また、2011年1月、本田技研工業、トヨタ自動車、日産自動車とエネルギー関連10社(JX日鉱日石エネルギー、出光興産、岩谷産業、大阪ガス、コスモ石油、昭和シェル石油、西部ガス、太陽日酸、東京ガス、東邦ガス)でつくる水素供給・利用技術研究組合(HySUT)が共同声明を発表した。
すなわち、自動車メーカーはFCEVの低コスト化を進めて量産車を2015年に4大都市圏を中心に国内市場へ導入し、水素供給事業者は2015年までに100ヵ所程度の水素ステーションを建設する内容である。
2017年1月、世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で、自動車・鉄道車両企業7社とエネルギー企業6社が、トヨタ自動車とエアーリキードを共同議長とした水素協議会(Hydrogen council)を発足させた。
目的はパリ協定の目標である「気温上昇を2℃以下に抑える」ための水素社会の早期実現であり、各企業がFCEVを始めとした水素エネルギーの利用に関する研究開発に積極的に取り組むと共に、各国の政府当局にインフラ整備などで働きかけ水素エネルギー利用を促進するのが狙いである。
- 自動車・鉄道車両企業:トヨタ自動車、本田技研工業、川崎重工業、現代自動車、BMW、ダイムラー、アルストム
- エネルギー企業:フランスのエアーリキード、トタル、エンジー、ドイツのリンデ、英国のアングロサクソン、英蘭のロイヤルダッチシェル
- 2022年8月時点で、ステアリングメンバー51企業、サポーティングメンバー69企業に拡大
2017年5月には、トヨタ自動車、岩谷産業、日本政策投資銀行、日産自動車、本田技研工業、JXTGエネルギー、出光興産、東京ガス、東邦ガス、日本エア・リキード、豊田通商が、FCEVの普及拡大に向けて水素ステーションの本格整備の協業の検討を開始した。
この11社は、2018年2月に日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM)を設立した。水素ステーションは2017年6月時点で首都圏など四大都市圏に集中するものの全国に91ヵ所、FCEVが約2000台である。新会社による拠点整備を進め400ヵ所、FCEVを80万台に拡大する狙いである。
しかし、2017年7月時点でBEV用の充電拠点が約29000基、BEVは2016年に200万台に達しており、その差は歴然であった。
2017年9月、経済産業省はFCEV普及に向け、業界団体の要望に応じて水素ステーションを設置・運営に関する規制を、2018年度までに法令の約20項目について緩和見直しを実施すると発表した。
この規制緩和により水素充填のセルフ式が可能となり、一定の条件を満たせば監督者1人で運営でき、2020年には運営費と整備費を半減させるなど、長期的なFCEV成長を目指しての環境整備である。
東京五輪・パラリンピックを開催する2020年度(実際には、新型コロナの感染拡大で2021年度に延期)に、政府はFCEVが4万台走ると予測し、水素ステーションを160カ所、2025年度には320カ所まで増やす目標を設定していたが、いずれも未達に終わっている。
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