図1には、FCEVの開発を進めるにあたり、トヨタ自動車(株)が試算した各種自動車のエネルギーの総合効率の比較である。総合効率を計算するためには、燃料井から車の走行までを通じて考える必要があるとし、いずれも使用燃料を化石燃料(原油、天然ガス)由来として計算している。
・大仲英巳、燃料電池自動車開発における最近の進歩と将来展望、Spring8グリーンエネルギー研究会(2009.12.4)
原油を採掘、輸送、精製してガソリンを製造し、サービスステーションに送り、車のタンクに供給するまでの燃料効率は84%である。原油の持つエネルギーの16%が途中のプロセスで失われる。また、ガソリン車の代表的な運転モード時の車両効率は23%で、掛け算して得られる総合効率は19%となる。
プリウスに代表されるハイブリッド車(ガソリンHEV)の場合は、燃料効率は同じ84%であるが、車両効率が40%と高いため、総合効率は34%に改善される。
一方、電気自動車の場合は車両効率が85%と高いが、火力発電により得られた電力を使用する場合には燃料効率39%と低いため、総合効率は33%とハイブリッド車と同程度にとどまる。
トヨタ自動車の燃料電池車FCHV-advでは、車両効率が59%と低いが、化石燃料の改質により得られた水素を使用する場合には燃料効率が67%であり総合効率が40%と優れているとしている。
すなわち、FCEVの総合効率は、BEV、HEVの約1.2倍で、ガソリン車の2.1倍と高い値を示す。
以上のように、主に火力発電所の電気を利用するBEVに比べて、化石燃料の改質水素を直接利用するFCEVは排ガスがクリーンで、総合効率がガソリン車の2.1倍と高い。また、FCEVへの水素充填に要する時間は3~5分程度と、ガソリン車の充填と同程度である。
そのため、次世代エコカーの大本命として世界中でFCEVの開発競争が激化し、日米欧韓の自動車メーカーが2015年以降にFCEVの発売に踏み切ると共に、普及に不可欠な水素ステーションなどのインフラ整備計画が発表された。繰り返すが、化石燃料を使用することを前提とした判断であった。
ところで、2020年代にはEVシフトが本格化するが、これは欧州を中心に脱石炭火力発電が進み、EVシフトの先には風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーが拡大するとの見方が浸透してきたためである。すなわち、化石燃料をベースにした計算が崩れたのである。
したがって、環境対策を考えた本質的なEV普及のためには充電スタンドの整備ではなく、その前に電力需要の増加に対応する低炭素電力の供給が可能な社会システムの整備が重要であることを忘れてはならない。
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