鉄道の未来予測

鉄道

 ゼロエミッション気動車の実現に向けては、現行の蓄電池性能の観点から、高効率のハイブリッド電動車(HET)を経て、短距離走行向けには蓄電池電動車(PET)の実用化が始まっている。また、長距離走行向けには燃料電池電動車(FCET)の実証試験が始まっている。
 一方で、長距離走行向けには、ディーゼル・エレクトリック気動車に代り、バイオ/合成燃料電動車の実証試験も始まっている。

鉄道の未来予測

図1 鉄道ローカル線の未来予測

 鉄道分野の未来は、リニア新幹線の実現にある。しかし、電化率が60~70%の日本では、脱炭素社会の実現を目指して、JR各社が亜幹線・ローカル線を中心に運用する非電化区間のディーゼル・エレクトリック方式の気動車(電気式気動車)を対象に、CO2排出量の削減進める必要がある。

 ゼロエミッション気動車の実現に向けては、現行の蓄電池性能の観点から、高効率のハイブリッド電動車(HET)を経て、短距離走行向けには蓄電池電動車(PET)の実用化が始まっている。また、長距離走行向けには燃料電池電動車(FCET)の実証試験が始まっている。
 一方で、長距離走行向けには、ディーゼル・エレクトリック気動車に代り、バイオ/合成燃料電動車の実証試験も始まっている。今後、燃料電池電動車(FCET)バイオ/合成燃料電動車は、経済性の観点からの選択が必要であるが、初期投資の不要なバイオ/合成燃料電動車が一歩リードするか。

 現在、鉄道分野においても供給されるエネルギー源が一次エネルギーから二次エネルギーへと移行する過渡期にある。亜幹線・ローカル線の非電化区間において、CO2ゼロを実現するためは、再生可能エネルギー電力水素バイオ燃料合成燃料(e-fuel)の供給が基本となる。

 すなわち、再生可能エネルギーで発電した電力を始めとし、その電力を使って製造したグリーン水素、あるいはバイオマスを原料としたバイオ燃料や、カーボンリサイクルにより製造された合成燃料(e-fuel)である。今後、軽油並みの低コスト化と、十分な供給量の確保が重要である。  

 運輸機器の中で最も電化が進んでいる鉄道分野であるが、多くは化石燃料を使う火力発電で発電した電力が供給されているのが現状である。再生可能エネルギーで発電した電力を使わない限り、真のCO2ゼロの目標は達成されないことはいうまでもない。

電気式気動車の電動化トレンド

 ディーゼルエンジンで発電機を回し、電力のみを使い電動機で走るのが、ディーゼル・エレクトリック方式とも呼ばれる電気式気動車(EDT:Electric Diesel Train)である。
 ハイブリッド電動車(HET:Hybrid Electric Train)は、ディーゼルエンジンで発電機を回転し、得られた電力を蓄電池に貯め、電動機で駆動するシリーズ方式と、ディーゼルエンジンと電動機の両方で直接駆動するパラレル方式に大別される。国内では、パラレル方式は実用化されていない。

 2014年に採用が始まる旅客車両用の蓄電池電動車(BET:Battery Electiric Train)は、電化区間ではパンタグラフを上昇させ、架線から給電を受けて走行しながら、同時に蓄電池への充電を行う。非電化区間ではパンタグラフを降下させ、蓄電池からの電力のみで走行する。
 折り返し駅などで専用の充電設備で急速充電が行われる。蓄電池容量により運行距離が制約されるため、現状では30km程度の路線が上限である。減速時に走行用の電動機が発電機として機能し、発生した回生エネルギーを蓄電池に貯める。

 2018年9月には、ドイツ・ハノーバー近郊の地域鉄道路線で、車両上に燃料電池と水素タンクを搭載した燃料電池鉄道が、世界初の営業運転を開始した。
 ディーゼル・エンジンの代わりに燃料電池を電力供給源とするのが燃料電池電動車(FCET:Fuel Cell Electric Train)であり、国内では実証試験段階にある。ディーゼル・エンジンがなくなるため低騒音化が可能で、メンテナンスの負担軽減が期待できる。 

 2022年2月、JR東日本は燃料電池電動車「FV-E991系」(愛称HYBARI)を公開し、実証試験(南武線川崎~登戸間と南武線支線(浜川崎~尻手間)、鶴見線)を開始すると公表した。2030年までの実用化を目指し、ローカル線の一部で運行しているディーゼル気動車を燃料電池電動車に置き換える。

図2 JR東日本の燃料電池電動車『HYBARI(ヒバリ)』

バイオ燃料電動車

 バイオ燃料電動車は、2023年1月、JR西日本が主にローカル線を走る全ディーゼル車両でバイオ燃料の導入方針を掲げた。また、2023年9月、JR九州がバイオディーゼル燃料を列車に導入するための実証実験を始めると発表した。

 ドロップイン型であれば、従来のディーゼルエンジンがそのまま使用できるため初期投資は不要である。しかし、現在のバイオ燃料価格は軽油の数倍と高価であり、ローカル線の採算が悪化する中で、高コストをどう負担するかが課題である。

 一方、改正地域公共交通活性化再生法が制定され、ローカル線の存廃議論を国土交通省が仲介する「再構築協議会」の設置が始まった。最適な交通について自治体とJRが議論する一方で、運転手不足からバスが減便となる2024年問題もクローズアップされており、行く先は多難である。

 ローカル線のオール電化の可否は低コスト化にある蓄電池電動車の普及にはリチウムイオン電池の高性能化と低コスト化が鍵で、自動車用蓄電池の開発動向を見極めながら進められる。
 また、燃料電池電動車の普及は、低コストで豊富なグリーン水素の供給が前提条件である。
この前提条件が崩れると、”つなぎ”の役割りであるドロップイン型バイオ燃料電動車が、脱炭素の本命となるが、バイオ燃料の低コスト化と供給量の確保が課題である。

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