鉄道分野の脱炭素化(Ⅴ)

鉄道

 ディーゼル・エンジンの代わりに燃料電池を電力供給源とするのが燃料電池電動車(FCET:Fuel Cell Electric Train)である。燃料電池と燃料タンク、蓄電池、電動機、制御装置で構成され、減速時に発生した回生電力を蓄電池に貯めて再利用する。
 環境対策として都市近郊での導入が進められている蓄電池電動車に対し、亜幹線やローカル線で非電化区間が遠距離の場合には燃料電池電動車が有効である。 

燃料電池電動車(FCET)

 ディーゼル・エンジンの代わりに燃料電池を電力供給源とするのが燃料電池電動車(FCET:Fuel Cell Electric Train)である。燃料電池と燃料タンク、蓄電池、電動機、制御装置で構成され、減速時に発生した回生電力を蓄電池に貯めて再利用する。

 燃料電池は水素と酸素の化学反応により直接的に発電が行われるため、エネルギー変換効率に優れるとともに、CO2排出量の大幅削減が可能である。また、ディーゼル・エンジンがなくなるため低騒音化が可能で、メンテナンスの負担軽減が期待できる。

 2018年9月、ドイツ・ハノーバー近郊の地域鉄道路線で、車両上に燃料電池と水素タンクを搭載した燃料電池鉄道が世界初の営業運転を開始している。
 14編成のうち2編成が燃料電池車両であり、最高時速:140km/h、走行距離:100kmとディーゼル気動車と同等である。車両価格は10~20%程度高目であるが、10年前後で回収できるとしている。

 2018年9月、トヨタ自動車とJR東日本は水素を利用した鉄道と自動車のモビリティ連携を軸とした包括的な業務連携で基本合意している。
 JR東日本が進める品川開発プロジェクトにおける水素ステーションの整備、鉄道に接続する地域交通などへのFCEVとFCバス導入など、水素エネルギーの普及促進に取り組む。また、大量の水素を搭載する移動体の安全性、燃料電池電動車の開発・導入に向けた諸課題の解決などを進める。

 20020年10月、JR東日本はトヨタ自動車・日立製作所と共同で、燃料電池電動車を開発している。 
 「FV-E991系」の2車両1編成を対象に、燃料電池(PEFC、出力:180kW)は2号車の床下に、屋根上には充填圧力:70MPaに対応するCFRP製の水素タンク(容積:51L×20本)を搭載する。

 リチウムイオン電池(容量:25kWh×2台)と電力変換装置を1号車の床下に設置し、主電動機や補助電源装置にエネルギーを供給する。最高速度:100km/h、加速度:2.3km/h/sで、蓄電池は制動時の回生電力を回収するとととも、主電動機の負荷電力が小さい場合に燃料電池から充電を受ける。

 2022年2月、JR東日本は燃料電池電動車「FV-E991系」(愛称HYBARI)を公開し、実証試験(南武線川崎~登戸間と南武線支線(浜川崎~尻手間)、鶴見線)を開始すると公表した。2030年までの実用化を目指し、ローカル線の一部で運行しているディーゼル気動車を燃料電池電動車に置き換える。

図7 燃料電池電動車『HYBARI』

 2022年5月、JR東日本とENEOSは燃料電池電動車の実用化に向けて水素ステーションの設置に乗り出すと発表した。JR東日本は「HYBARI」の実証試験を進めており、70MPaの高圧水素充填を行なう設備を、鶴見線の終点・扇町駅に設けてENEOSが水素供給を行う。

 今後、燃料電池電動車の実用化のためには、水素供給体制をつくる必要がある。ENEOSはバスやトラックなど自動車向けの水素ステーションを全国47カ所に持つが、電車用ステーション設置をJR東日本と進める。駅周辺に拠点を設置するほか、JR東日本の鉄道向け火力発電所にもENEOSが水素を供給する。

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