再エネで注目ガスエンジン発電所

エネルギー

 再生可能エネルギーの導入拡大に対し、電力貯蔵システム系統連系による需給調整が十分に行えない現状において、電力の需給調整には火力発電が大きな役割を担っている。
 従来、自家発電や非常用電源などの分散型発電システムとして使われてきた大型ガスエンジンが、その優れた起動性と部分負荷運転でも高い発電効率を維持することから、電力の需給調整を目的とした導入が行われている。しかし、脱炭素社会への過渡的ステップであることを忘れてはならない。

火力発電システムの現状

 多くの熱機関の中で、一般に火力発電には外燃機関である蒸気タービンと、内燃機関であるガスタービンガスエンジンディーゼルエンジンが実用化されている。

 蒸気タービンによる火力発電システムはボイラを別置きとするため大規模設備となるが、スケール効果が大きく大規模集中型電源として多用されている。ガスタービンは燃焼ガスを直接タービン翼に吹き付けて回転力を得るため、蒸気タービンに比べてコンパクトで起動性能に優れている。

 事業用火力発電所には蒸気タービンのみによる石炭火力発電システムと、ガスタービンで発電した後、その高温排熱を利用して蒸気タービンを回転させる高効率のLNG焚ガスタービン・コンバインドサイクル発電システムが主に採用され、石油火力発電所は予備電源と位置付けられている。

 また、ガスタービン、ガスエンジン、ディーゼルエンジンは、自家発電や非常用電源などの分散型発電として使われてきた。天然・都市ガス焚ガスコージェネレーションシステムは、発電と同時に発生する熱を有効利用することで、70~85%の高い総合エネルギー効率を実現している。

図1 熱機関の形式分類

ガスエンジン発電の構成

 ガスタービンガスエンジンディーゼルエンジンは、いずれも内燃機関であり、その作動原理も、吸気・圧縮・燃焼(膨張)・排気という同じサイクルで作動する。しかし、その基本的運動はレシプロエンジンの往復運動に対して、ガスタービンは回転運動という大きな相違点がある。

 ガスエンジンは、シリンダー内部で燃料の爆発(膨張)を発生させ、その圧力でピストンを往復動させ、その往復動を回転エネルギーに変える。この基本動作は自動車のガソリンエンジンと同じであるが、供給される燃料は天然ガスや都市ガスなど気体である点が異なる。

図2 ガスエンジンの作動原理

 川崎重工業は、出力:5000~7800kW、発電効率49~51%の大型ガスエンジンをラインアップしている。2011年の初受注以降、180台以上の販売実績がある従来機をベースに、さらなる性能向上を図った最上位機種「KG-18-T」を、2020年6月に開発している。 

 「KG-18-T」出力は7800kW(50Hz)、7500kW(60Hz)で、新開発した2段過給システムの搭載により発電効率は51%と高く、NOx排出量は200ppm以下(O2=0%換算)に抑えている。
 また、起動指令後5分で最大出力に到達可能な優れた起動性を有し、部分負荷(20~100%)運転においても高い発電効率を維持し、電力網の需給調整力の向上に有効であるとしている。

図3 川崎重工業製ガスエンジン「KG-18-T」

 そのほか大型ガスエンジンは、三菱重工業が「MACHガスエンジン」で出力:3650~5750kWをラインアップしており、希薄燃焼でNOx排出量100ppm以下(O2=0%換算)を達成している。また、IHIは「ニイガタ ガスエンジンAG・AGSシリーズ」で出力:2000~6000kWをラインアップしている。

ガスエンジン発電の導入状況

海外のガスエンジン発電

 再生可能エネルギー導入が進むドイツにおいて、電力需要がピークとなる2017年1月中の電力需要と褐炭、石炭、ガス火力の発電状況を図4に示す。電力需要(赤線)と供給(風力+太陽光発電)の差を埋めるために、褐炭、石炭、ガス火力の発電電力量は大きく変動していることが分かる。

 最も低コストの褐炭火力がベースロードとなっているが低負荷時には部分負荷運転し、石炭火力は日間起動停止(DSS)と週末起動停止(WSS)、ガスエンジン(コジェネを除く)は短い周期でオンオフ運転を行い、それぞれの特性に合わせて柔軟性を発揮している。

 ここで注目されるのは各火力発電の使い分けである。特に、ガスエンジンを短い周期でオンオフ運転し、再生可能エネルギーの細かい出力変動に柔軟に対応している点である。

図4 2017年1月のドイツにおける需要と褐炭、石炭、ガスによる発電
出典:VGB ” Showcase Germany”, APPFベルリン会合資料

 米国では2010年代後半にガスエンジンの導入が急拡大し、テキサス州、カンザス州、カリフォルニア州など、再生可能エネルギーの導入が進む地域に集中的に設置された。
 EIA(米国エネルギー情報局)によると、レシプロエンジン発電所の規模は出力:0.5万kW未満が一般的であったが、2010年代後半には平均1.2万kWと大型化し、20万kWを超える発電所もある。

国内のガスエンジン発電

 2023年4月、東京ガスは合計30万kWのガスエンジン発電所の新設・取得に踏み出したことが公表された。30万kWは東京ガスが保有する火力発電所の約1割に相当する。

 東京ガスは、天然ガス焚のガスエンジン発電所(出力:約10万kW)を千葉県袖ケ浦市の発電所跡地に新設し、2024年度中の稼働を予定している。舶用・エネルギー機器大手、フィンランドのバルチラのガスエンジン(出力:1万kW)を10台程度購入する計画である。
 また、日本テクノの茂原パワーステーション(出力:約11万kW)と椎の森パワーステーション(約9万kW)を2022年に買収して運用を開始した。川崎重工業製ガスエンジンの既設発電所であり、上記の新設分と合わせて約30万kWのガスエンジン発電所を保有することになる。

 そのほか国内で、日本テクノは川崎重工業製ガスエンジン(出力:7800kW)を14基連ねた11万kWの発電所を千葉県袖ケ浦市、新潟県上越市、茨城県那珂市の3カ所に所有する。沖縄電力は、沖縄本島にガスエンジン発電所を建設中で、北海道ガス、静岡ガス、英国シェルの子会社も導入している。

需給調整に優れたガスエンジン

 100%負荷時の発電効率を比較すると、ガスタービン・コンバインドサイクルが52~57%と高く、ガスエンジン(レシプロエンジン)が45~47%、ガスタービン単体が35~39%である。発電効率のみを考えると、国内大手電力会社が導入を進めたガスタービン・コンバインドサイクル発電が優れている

 一方、火力発電所の需給調整力を比較するには、表2の①ホット起動時間、②最小負荷、③50%負荷時効率、④出力変化率(ランプレート)、⑤コールド起動時間が参考となる。①と⑤は短い方、②は低い方、③は高い方、④は速い方が需給調整の柔軟性が高いといえる。

ガスエンジンの特性:
①ホット起動時間と⑤コールド起動時間が短いため、ガスエンジンは起動から定格運転到達までの時間が短く、起動に要する費用も安い。また、完全停止後のコールド起動時間も圧倒的に短い。
②最小負荷が低く、③50%負荷時効率が低下しないため、低負荷運転が可能で出力調整幅が大きい。ガスエンジンを数台導入することで、数%の低負荷から定格負荷までの高速調整ができる。
■ガスエンジンの④出力変化率(ランプレート)は100%超と圧倒的に高く、1分以内に最小負荷から定格負荷まで高速調整ができる。すなわち、再エネの短時間変動への追従性が極めて高い。

表2 各種火力発電システムの柔軟性比較 出典:IRENA

ガスエンジン発電所の課題

 国内では、一般に石炭火力発電所はベースロードとして発電運転を行い、再生可能エネルギーによる大きな変動はガスタービン・コンバインドサイクル発電により対応し、今後、短時間での変動はガスエンジンで対応して需給調整を行うことが考えられる。

 しかし、ガスエンジンの抱える大きな課題で注目されているのはメタンスリップである。天然ガス燃料の主成分であるメタン(CH4)が燃え残り、大気中に放出される問題で、CH4の地球温暖化係数(GWP100)はCO2の28倍と高く、わずかな量でも環境上大きな問題となる。

 日立造船、商船三井、ヤンマーパワーテクノロジーは、NEDO支援を受けて2021年度から2026年度までの6年間でメタン酸化触媒エンジンの改良を組み合わせてLNG燃料船のメタンスリップ削減率70%以上の実現を目指している。開発された技術は、ガスエンジン発電所にも適用可能であろう。

 しかし、ガスエンジンの燃料として化石燃料(天然ガス、都市ガス)を使うかぎり、CO2排出をゼロとすることはできない。2022年3月、川崎重工業は大型ガスエンジン(出力:5000kW)で水素を体積比30%まで天然ガスと混焼する技術を開発し、水素専焼やアンモニア利用の研究開発も進めている。

 また、三菱重工エンジン&ターボチャージャも水素ガスエンジンの実用化開発を進めている。燃料多様化への対応力はレシプロエンジン(ガスエンジン、ディーゼルエンジン)の方が優れており、水素ガスタービンよりも早く実用化される可能性がある。

 再生可能エネルギーの導入拡大を実現するためには、太陽光・風力発電の出力変動対策は不可欠である。その需給調整には電力貯蔵システム、系統連系強化、グリーン燃料による火力発電が選択肢としてあげられる。いずれも経済性と実現時期が実現の可否を決めることになる。  

コメント

タイトルとURLをコピーしました