都市ガスの合成メタンへの切り換え(Ⅹ)

火力発電

 政府は 「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、国内のガス事業分野では既存インフラを活用できる「合成メタン」を社会全体で活用することを想定している。また、水素バイオガスも適材適所で利用を進め、エネルギー全体の最適化をめざす。キーとなるのは、メタネーション技術である。

合成メタンの抱える課題

2050年のガス供給構想は

 沿岸部では、海外からカーボンニュートラル・メタンを輸入して「受入基地・都市ガス製造所」に備蓄する。また、再生可能エネルギーや原子力由来のCO2フリー水素を輸入して「受入基地・水素製造所」に備蓄し、一部は水素供給網へ、一部はメタネーション技術で合成メタンを製造し備蓄する。

 都市部では、備蓄されたカーボンニュートラル・メタン、CO2フリー水素を使いメタネーション技術で製造された合成メタンに加えて、地産のバイオガスを、既設の都市ガスシステムを使って利用する。

 地域では、その地域事情に合わせて、備蓄された液化カーボンニュートラル・メタンの輸送を受けて既設の都市ガスシステムを運用する場合、備蓄されたCO2フリー水素の輸送を受けて新設の水素導管網を運用する場合などに使い分けが進められる。

図28 「カーボンニュートラルチャレンジ2050」で示された2050年ガス供給の絵姿 出典:日本ガス協会

フランスのJupiter 1000プロジェクト

 世界的にもメタネーション実証事業が進んでいるとし、資源エネルギー庁は、事例として2018年からフランスのガス事業者が進めている「Jupiter1000プロジェクト」を取り上げている。再生可能エネルギーで製造した水素と、工業地帯などで発生したCO2を原料に、メタネーションで生成された合成メタンを使う。

 政府が推進している都市ガスの「天然ガス➡合成ガス」への転換と、類似した計画のため海外動向の代表として紹介しているのであろう。

図29 フランスの「Jupiter1000プロジェクト」 出典:第1回メタネーション推進官民協議会 CCR研究会説明資料

 フランスの送電事業社Rte、水電解のMcPhy、CO2回収のLLT、メタネーション技術のKHIMOD、ガス輸送事業社のGRTgaz、TEREGA、コンテナ輸送のCMA CGMなどが参画し、EU、フランスなどが共同で資金提供するプロジェクトである。

 2018年にEngieのグループ会社GRTgazが中心となり、メタネーションの産業用実証プロジェクトを開始した。2020年2月に水電解槽(1000kW)を完成し、得られたグリーン水素をGRTgazのLNGガスグリッドへ注入した。2022年6月にメタネーション装置が完成し、得られた合成メタンはCMA CGMが保有する28隻の合成メタン対応デュアルフューエルLNG燃料コンテナ船の燃料として使用する。2024年末までに合計44隻を就航させる。

図30 Jupiter1000のプロジェクト実施体 出典:資源エネルギー庁

LNG並みの製造コストは実現できるのか?

最大の課題は低コスト化

 現在のサバティエ反応メタネーションで合成メタンを製造する場合のコストは250円/Nm3であり、内訳は原料となるグリーン水素製造が75%、CO2回収などが8%、メタネーション設備費が17%である。
 合成メタンのコストの大部分をグリーン水素が占めており、水電解に要する再生可能エネルギーの電気料金が高いためである。そのため再生可能エネルギーが安価な海外での水素製造が必須条件としている。

 政府は、再生可能エネルギーの電力コストが最小となる製造適地の選定を進め、合成メタンの製造技術進展と大規模化などを進め、合成メタンの製造コスト(運搬費は保険料を含むCIF価格)を2030年に120円/Nm32050年に現在のLNG並みである50円/Nm3に引き下げることをめざしている。

 果たして、合成メタンの「コスト1/5化」は達成できるのであろうか?現在、様々な海外生産のプロジェクトで検討(FS、FEED)が進められているが、安価なグリーン水を製造できる国を探すことに尽きる。その調査結果が待たれるが、仮に見つかってもエネルギー源の海外依存の図式は従来と変わらない。

図31 合成メタン製造コストの低減イメージ(現在~2030年~2050年) 出典:経済産業省

液体合成燃料との違いについて

 現在、合成燃料のうちの液体合成燃料(SAF、合成メタノールなど)は、次世代の航空機・船舶・自動車など、高エネルギー密度が必要とされる大型移動体向けの利用が進められている。いずれも、現時点で電化」や「水素化」が困難であり、高コストでも液体合成燃料を使わざるを得ないと考えられるからである。

 また、「2050年カーボンニュートラル」に向けて、LNG火力発電所では水素燃料化製鉄所では水素還元製鉄の開発が進められている。移動体ではコンパクト化が問題となる水素貯蔵タンクが、陸上設置では大きな問題とならないためである。そのため、欧州では都市ガスの水素注入が進められている。

 ところで、ガス会社中心に進められている「都市ガス➡合成メタン添加➡合成メタン100%」構想では、従来の都市ガスインフラをそのまま使えるメリットがある。一方、欧州が進めている「都市ガス➡水素添加➡水素100%」構想では、従来都市ガスインフラの7割は使えるが、最終的に3割は水素ガス用に改修する必要がある。

 一方、燃やしてもCO2を排出しないグリーン水素に対して、合成メタンは燃やすとCO2を排出する。循環利用のためにはCO2を回収してメタネーションで合成メタンを製造する必要がある。グリーン水素よりも合成メタンのコストは必ず高くなるのである。

 「都市ガス➡合成メタン添加➡合成メタン100%」構想「都市ガス➡水素添加➡水素100%」構想については、どちらが良いのか?良く考えてみる必要がある。
 合成メタンの使用は、短期的には設備投資が不要であるが、長期的にはグリーン水素よりもコスト高となる燃料を使い続けることになる。高価な合成メタンは、家庭用・商業用には受け入れられず、電化への置き換わりが早い段階で進むであろう。

エネルギー自給率の向上に向けて

 日本のエネルギー自給率は12.6%(2022年)で、世界的にみても極めて低い。その原因は、化石燃料(石炭、天然ガス、石油)への依存度が72.7%(2022年)と高いのが原因である。これまで化石燃料は国内資源がないため、海外からの輸入に頼らざるを得ないとあきらめてきた。

 一方、水素は燃やしてもCO2を排出しないため究極のエネルギーと位置付けられているが、化石燃料の改質による水素は、常に安価な海外からの輸入が日本の国是のごとく常識となってきた。
 しかし、グリーン水素の原料は水(H2O)であり、問題は遅れている再生可能エネルギーの導入にある。再生可能エネルギー電力の普及と低コスト化が進めば、水電解で製造するグリーン水素の低コスト化も進む。

 同じことは合成メタンでもいえる。合成メタンの原料は水とCO2であり、国内に資源はないという言い訳は通用しない。問題は再生可能エネルギーが安価な海外での水素製造が必須条件としている点にある。合成燃料のは、原料調達を含めて国内で全て調達することが可能であり、自給率の向上に大きく寄与できる。

 日本の再生可能エネルギー電力のコストが高い理由として、地理的要因台風など災害対策高い建設コスト遅れた送電網遅れた蓄電システムなどがあげられる。
 そのため、日本の再生可能エネルギー占める割合は、総発電電力量の21.7%(2022年度)にすぎない。内訳は、太陽光が9.2%、水力が7.6%、バイオマスが3.7%、風力が0.9%、地熱が0.3%である。
 これまで政府は、再生可能エネルギーの導入を新電力任せとしてきたが、大手電力会社を含めた再エネ導入の推進が必要な段階にきている。

 

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