政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現」に向け、グローバルなサプライチェーン構築は不可欠である。そのため、東京ガス、大阪ガス、東邦ガスなどを中心に商社が加わり、合成メタン(e-メタン)のサプライチェーン構築に向けたプロジェクトが国内外で進み始められている。
合成メタンのサプライチェーン構築プロジェクト
米国キャメロンプロジェクト
東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、三菱商事、センプラ・インフラストラクチャーなどが参画するプロジェクトで、米国ルイジアナ州のキャメロンLNG液化・輸出基地の近傍で合成メタンを製造し、三菱商事が液化権益を保有する同基地で液化し、LNGとして2030年に13万トン/年を日本へ輸出する計画である。
2022年11月、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、三菱商事は、米国テキサス州・ルイジアナ州における合成メタンの製造、キャメロンLNG基地およびLNG船・受入基地等の既存LNGサプライチェーンを活用した合成メタンの液化・輸送、2030年の日本への合成メタン導入に向けた共同で詳細検討を開始した。
2030年の日本への輸出開始時点で合成メタンの製造規模は13万トン/年を目標として掲げてり、これは東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの都市ガス需要合計(現在の実績値)の1%に相当する。
2024年1月、最も先行する合成メタンのサプライチェーン構築はキャメロンプロジェクトと報じられた。既に、FSを完了し、現在はプラント建設地や原材料の調達手段・調達先などを検討するプレFEED段階で、今後、2024年度中に基本設計(FEED)を進め、2025年度の最終投資決定(FID)をめざす。
同基地周辺にはCO2パイプラインや水素パイプラインが整備されており、特定のCO2排出源に頼ることなくリスク分散が可能である。立ち上げ時の原料は、グリーン水素とブルー水素の両方を対象とする複数の製造プロジェクト構想があり、自前の水素製造に加えて外部調達も選択肢としている。
2023年8月から、キャメロンLNG基地の操業主体であるセンプラ・インフラストラクチャーも参画。同社はキャメロンLNG基地等の建設・操業を通じて米国政府の許認可業務に精通し、合成メタンのCO2排出量評価などに関する米国エネルギー省(DOE)との折衝などで重要な役割を担う。
豪州ガス田プロジェクト
石油・ガス・LNG開発大手のサントス、東京ガス、大阪ガス、東邦ガスなどが参画するプロジェクトで、2030年以降に合成メタンを約13万トン/年(都市ガス約1.8億Nm3/年)以上を日本へ輸出する。
2024年8月、東京ガス、大阪ガス、東邦ガスは、サントスの子会社サントスベンチャーズと、合成メタンの製造・輸出に向けたサプライチェーンの詳細検討を始めた。
豪州中東部クーパー堆積盆地のムーンバで、ガス田から得られるCO2と、太陽光・陸上風力発電設備を建設してグリーン水素を製造してメタネーションを行う。CO2は、豪州東部からのパイプライン調達も検討する。
製造された合成メタンは、既設の天然ガスパイプラインで豪州北部のダーウィンLNG基地や東部のグラッドストーンLNG基地まで輸送し、LNG運搬船で日本へ輸出する。経済産業省の補助金を活用し、2024年度中に詳細検討を終え、投資の可否を決定する。
合成メタン約13万トンの内訳は、東京ガス6万トン、大阪ガス4万トン、東邦ガス3万トンの見通しで、各社の年間の都市ガス需要の1%に相当する。大阪ガスはサントスと豪州東部でも同様の合成メタン製造・輸出の詳細検討を実施しており、今回の案件と並行で進める。
国際企業連合「e-NG Coalition」の発足
2024年3月、都市ガスの脱炭素化を進めるため、合成燃料(e―メタン)の普及に取り組む国際団体「e-NG Coalition(イーエヌジーコーリション)」が発足した。
ベルギーのツリー・エナジー・ソリューションズ(TES)が代表幹事、フランスのエンジー、トタルエナジーズ、米国センプラ・グループ、日本の東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、三菱商事の計8社が創設メンバー。CO2排出を相殺する仕組みや品質を担保する制度など、国際ルールの整備を促して早期の普及をめざす。
設立を主導したTESは、2020年の会社設立から3年間で、米国、カナダ、中東などで合成メタンの生産計画を進めている。2028年頃から供給を開始し、2030年に100万トン、2035年に500万トンをめざす。
ドイツ北部の港湾都市ヴィルヘルムスハーフェンに建設中の合成メタンの供給基地「グリーン・エネルギー・ハブ」は、145haと東京ドーム約32個分の広さで、最大1000万トンを受け入れる。世界中からLNG船で合成メタンを運び入れて、ガス化して欧州各地にパイプラインで供給する。
合成メタン普及に向けた課題の一つに、CO2削減量の計上に関する国際ルールが未整備な点があげられる。合成メタンの生産に伴うCO2削減量を、生産国から投資・輸入国の日本に環境価値として移さなければ、日本の脱炭素の実績として計上できない。
ルールは現状、当事国の間で協議することになっている。今後、イーエヌジーコーリションが国際ルールの標準化に動けば大きな勢力になる可能性がある。
英国シェルFSプロジェクト
メタネーション、水素、バイオメタン、CCUSなど、さまざまな脱炭素領域における事業化の検討を東京ガスとシェルで行い、新たな脱炭素化ソリューションの実現可能性を調査する。なお、メタネーションに関しては、大阪ガスを含めて連携して検討を進める。
2022年6月、東京ガス、大阪ガスは、英国シェルエナジーの子会社で脱炭素関連事業を手掛けるシェル・イースタン・ペトロリアム(SEP)と、メタネーションによる合成メタンのサプライチェーン構築に向け共同検討を開始した。合成メタンの開発・導入の実現可能性調査や海外での大規模実証について検討する。
2023年5年、大阪ガスは、シェル・シンガポールと、CCSバリューチェーン構築の共同検討を開始する。国内の鉄鋼・セメント・化学産業の工場などから排出されるCO2を集めて液化した後、アジア太平洋地域の貯留地まで船舶輸送し、地中に圧入・貯留することを想定したCCSバリューチェーン全体の事業性評価である。
米国トールグラスFSプロジェクト
大阪ガス、トールグラス、グリーンプレーンズなどが参画するFSプロジェクトで、米国中西部でバイオマス由来のCO2とグリーン水素により製造した合成メタンを、フリーポートLNG基地より出荷し、2030年に最大20万トン/年を日本に輸入する。
2022年12月、大阪ガス100%子会社のOsaka Gas USA Corporationは、天然ガスパイプライン等のエネルギーインフラを運営するTallgrass MLP Operations(トールグラス)、バイオエタノールプラントを運営するGreen Plains(グリーンプレーンズ)と、合成メタンを製造する事業の実現可能調査(FS)を開始した。
2024年11月、米国で約1000億円を投じて、米中西部ネブラスカ州か西部ワイオミング州に天然ガス改質水素を原料とする製造設備を整備すると発表した。
グリーンプレーンズのバイオエタノールプラントから回収するバイオマス由来のCO2を原料に、2030年までに最大20万トン/年の合成メタンを製造し、同社が出資する南部テキサス州のフリーポートLNG基地にパイプラインで送り、液化してLNG船で大阪府や兵庫県内の都市ガス供給拠点まで輸送する。
製造時に排出するCO2は回収して地下に貯留する。割高な再エネ電力の利用を避け、e-メタンの調達コストを従来のLNGと同等の水準まで近づけるのが狙いである。将来的には、再生可能エネルギーを用いたグリーン水素の利用の可能性も視野に入れている。
マレーシア・ペトロナスFSプロジェクト
マレーシアの国営石油会社ペトロナス、住友商事、東京ガスなどが参画する可能性調査(FS)プロジェクトで、2030年以降に合成メタンを約6万トン/年を日本への輸出をめざす。
2021年11月、マレーシアの国営石油会社 Petroliam Nasional Berhad(ペトロナス)、住友商事、東京ガスは、マレーシアにおいて再生可能エネルギー由来のグリーン水素とCO2のメタネーションにより合成メタンを製造し、日本に輸出するサプライチェーン構築の可能性調査を共同で開始した。
マレーシアは水力発電が豊富で、安価にグリーン水素を製造することが可能である。世界的なLNG供給会社であるペトロナスの石油・ガスプラントから排出されるCO2の回収、天然ガスの液化プラント、LNG運搬船などを有効利用できる。また、地理的に日本に近いことも輸送上の利点である。
大阪・関西万博会場でのバイオメタネーション実証
大阪ガス、大阪市、大阪広域環境施設組合、地球環境産業技術研究機構(RITE)、エア・ウォーター、ライフコーポレーションなどが参画する環境省プロジェクトで、2025年4月から大阪・関西万博会場内で実証を行う。
大阪・関西万博の会場内で発生する生ごみを発酵させたバイオガス中に含まれるCO2に加え、RITEが直接空気回収(DAC)実証装置、エア・ウォーターが会場内の消費機器の排ガスからCO2回収し、再生可能エネルギー由来のグリーン水素から、メタネーション装置(製造能力:7Nm3/h)によりの合成メタンを製造する。
製造した合成メタンは迎賓館厨房やガスコージェネレーション設備など、会場内の都市ガス消費機器で利用し、万博会場内でのカーボンリサイクルを実現する。
2022年4月から、グリーン水素とバイオガス中のCO2を原料としてバイオ・メタネーションで製造された合成メタンを配管輸送し、都市ガス消費機器で利用する実証事業を進めてきた。また、2024年5月には、大阪市此花区の舞洲ごみ焼却工場の敷地内にSOEC型メタネーション実証設備を設置して実証を開始した。
INPEX長岡鉱場でのメタネーション実証
2021年に始まったINPEX、大阪ガス、名古屋大学、千代田化工建設などが参画するNEDOプロジェクトで、新潟県長岡市の油ガス田から発生する随伴CO2と再生可能エネルギー由来のグリーン水素を原料とした合成メタンの製造を2025年度から開始し、2026年度までにINPEXの都市ガス導管へ注入する。
INPEXは、2017年から長岡鉱場で合成メタンの製造(製造能力:8Nm3/h)の基盤技術開発を進め、完成後の操業を担う。2023年6月には、NEDOの助成事業のもと、千代田化工建設とEPC契約を締結し、家庭用1万戸分に相当する400Nm3/hの試験設備の建設を開始した。
この試験設備は、メタネーション、原料供給及びユーティリティーの設備等で構成され、INPEX長岡鉱場(新潟県長岡市)越路原プラントに接続される。
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