合成メタンは、再生可能エネルギーによる①グリーン水素の製造、工場や発電所から②CO2を回収貯留して原料とし、③メタネーション技術で合成される。この①②③の観点から、大手商社が様々な活動を進めている。
一方で、大手商社では合成メタンだけでなく、バイオメタンや合成燃料(e-fuel)の導入に向けて幅広い活動も進めている。
合成メタン導入に関する商社の動き
三井物産
2022年2月、天然ガスなどに多く含まれるメタンからクリーン水素を製造する次世代技術を開発するカナダブリティッシュコロンビア州の「EKONA Power」へ出資した。
EKONAは、メタン熱分解と呼ばれるメタンから水素と固体炭素を取り出す技術を開発しており、従来の水蒸気改質による水素製造技術と同程度の製造コストに抑えながら、CO2排出量の削減を実現している。
2023年8月、米国で再生可能天然ガス(RNG:Renewable Natural Gas)の生産・販売を手掛けるTerreva Renewables(テレヴァ・リニューアブルズ)へ33.3%を出資した。現在、テレヴァは北米の5か所のごみ埋め立て地から発生するメタンガスを精製し、RNGを生産して販売している。
2024年3月、東京ガスと米国産バイオメタンの取引で合意。米国ごみ埋め立て地から発生するバイオガスを精製し、メタン濃度を高めたバイオメタン約4万m3をLNG化し、東京ガス扇島LNG基地に納入した。
バイオマス燃料使用に伴うCO2排出は「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」上の算出対象外であり、海外産バイオメタン活用による実質的な温室効果ガスの削減である。
三菱商事
2022年11月、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、三菱商事は、合成燃料事業の検討を開始。再生可能エネルギー水素と工場などから出たCO2から、メタネーション技術で合成メタンを製造し、三菱商事が参画する米国ルイジアナ州のLNG製造基地キャメロンの近郊でLNGに混入する。
2030年に3社の都市ガス販売量の1%に相当する13万トン/年を日本に輸入する計画で、政府支援を得て、2025年度に着工し、2029年度の操業をめざす。(詳細は、後述するキャメロン・プロジェクトを参照)
2023年8月、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、三菱商事にSempra Infrastructure Partners LP(センプラ・インフラストラクチャー)が加わり、合成メタンを米国メキシコ湾岸で製造・液化し、国際的に輸送するサプライチェーン確立に向けた共同検討の基本合意書を締結した。2030年の日本への輸出開始をめざす。
2024年4月、米国で大気中のCO2直接回収技術(DAC)のプロジェクトに参画する。ルイジアナ州でシェルUSガス&パワー、ルイジアナ州立大学、ヒューストン大学と実証を進め、DAC技術を持つ企業への出資も検討する。2020年代後半の商業化をめざし、回収したCO2の一部は合成メタン事業などの原料に活用する。
丸紅
2023年3月、米国で再生可能燃料事業を行うGreen Rock Energy Partnerとの共同開発会社が運営するインディアナ州レイノルズのBio Town Biogasが、乳牛排せつ物由来のバイオメタン生産・販売事業を開始。
近隣の提携酪農家から排せつ物を集荷して嫌気性消化によりバイオガス化し、精製してバイオメタンを生産し、圧縮天然ガス(CNG)車向けの燃料として供給する。従来、大気中に放出されていたメタン放出を抑制できるため、米国制度の環境クレジットの獲得をめざす。
2023年3月、ポルトガルのガス配送でシェア7割超のFloene(丸紅と東邦ガス共同で22.5%出資)を通じ、太陽光発電で地元企業が製造したグリーン水素を、Floeneが新設した水素配送パイプライン経由で既存の天然ガス配送ネットワークに注入する実証事業を開始、2年間で最大20%まで水素注入率を高める。
ポルトガル国家水素戦略は、2030年にガス配送ネットワークへ10~15%の水素注入を目標としている。
2023年8月、丸紅が出資する液化天然ガス事業の合弁会社PERU LNG (ペルーLNG)は、大阪ガスと共に、ペルーでのグリーン水素とCO2を原料として合成メタンを製造する事業の詳細検討を開始した。
この検討では、再生可能エネルギーによる水素製造、プロジェクトサイトとなるペルーLNGの液化基地で回収するCO2など原料調達の条件協議や、プラントの仕様検討、詳細な事業性の算定を行う。2025年に投資意思決定を行い、2030年の合成メタンの製造・販売をめざす。
住友商事
2021年11月、マレーシアの国営石油会社Petroliam Nasional Berhad、住友商事、東京ガスは、マレーシアで再生可能エネルギー由来のグリーン水素とCO2を原料にメタネーション技術でカーボンニュートラルメタンを合成し、日本に導入するサプライチェーン構築の事業可能性調査を共同で開始した。
2023年1月、住友商事グループはノルウェーEquinor Venturesと、米国スタートアップSyzygy(シジジー)が米国RTIインターナショナルと進める光触媒技術を用いたサステナブル燃料製造プロジェクトに参画する。
シジジーの最先端技術で、メタンとCO2からCOと水素の混合ガスを製造し、RTIインターナショナルの設備でジェット燃料、ディーゼル、ガソリンの代替になるSAFやメタノールなどの低炭素燃料を製造する。原料にバイオメタンを使用することで、より低炭素の燃料製造もめざす。
2024年3月、住友商事と東京ガスは、英国ITM Powerが開発したMW級の固体高分子型水電解装置を東京ガス横浜テクノステーション内に設置し、2024年6月より実証試験を開始する。得られた水素は、熱利用の脱炭素化、合成メタンの製造、電源のゼロエミッション化などに使う。
伊藤忠商事
2023年8月、伊藤忠商事、日本製鉄、太平洋セメント、三菱重工業、伊藤忠石油開発、INPEX、大成建設は、共同で日本海側東北地方CCS事業構想についてJOGMECプロジェクトとして調査を開始した。
調査では、2030年度までに具体的なCCSバリューチェーン事業を稼働させることを念頭に、日本製鉄と太平洋セメントの特定工場から分離・回収したCO2を、貯留適地候補に船舶を用いて輸送・貯留することを想定し、技術課題の抽出、経済性や社会的受容性の問題などを明らかにする。
2024年2月、伊藤忠商事、HIF Global の100%子会社のHIF Asia Pacific Pty、JFEスチール、商船三井の4社は、①国内でのCO2の回収、②豪州への船舶輸送、③豪州での合成燃料「e-fuel」の製造・貯蔵、④豪州からのe-fuel輸出を含めたサプライチェーン構築に関する事業化調査の実施で合意した。
2024年8月、子会社の伊藤忠セラテックは、合成メタン向けに開発した新触媒の販売を本格化。瀬戸市の工場で数十億円を投じ、2025年度に生産棟を増設して量産化する。新触媒はアルミナにルテニウムを担持させ、350℃と低めで化学反応を促進し、CO2の合成メタンへの変換効率は約90%に高まる。
伊藤忠セラテックは水電解で水素を生成する新触媒も開発済みで、同年6月には伊藤忠商事が北九州市で水素の供給拠点整備などの調査を開始している。
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