ブルーカーボンによるCO2の固定(Ⅰ)

火力発電

 2009年10月に国連環境計画(UNEP)の報告書で、大気中から海洋生態系に取り込まれたCO2「ブルーカーボン」と命名された。ブルーカーボンの活用は、海の豊かな生態系を育成するだけでなく、「グリーンカーボン」と共に、大気中のCO2を捕捉して吸収する「ネガティブエミッション技術」の一つとして有効である。

ブルーカーボンとは?

ブルーカーボンとグリーンカーボン

 2009年10月に国連環境計画(UNEP)の報告書において、大気中から海洋生態系に取り込まれたCO2「ブルーカーボン」と命名された。これは森林などの陸域生態系に取り込まれたCO2「グリーンカーボン」と呼ばれることに対比して付けられた名称である。
 このブルーカーボンを捕捉して貯留する海洋生態系は、「ブルーカーボン生態系」と呼ばれる。

ブルーカーボン生態系
■ 海草藻場うみくさもば:アマモ、スガモなど、主に温帯~熱帯の静穏な砂浜、干潟沖合の潮下帯ちょうかたいに分布
■ 海藻藻場うみももば:コンブ、ワカメ、主に寒帯の沿岸域の潮間帯から水深数十mの岩礁海岸に分布
■ 湿地・干潟ひがた:海岸部に砂や泥が堆積し勾配がゆるやかな潮間帯ちょうかんたいで、水没~干出かんしゅつを繰り返す
■ マングローブ林:熱帯・亜熱帯の河川水と海水が混じり合う汽水域で砂~泥質の環境に分布
  (国内では鹿児島県以南の海岸に分布)                    出典:国土交通省

 植物プランクトン、海草や海藻などの植物は、光合成によって海水中のCO2を有機物として固定する。そのため、海水中のCO2濃度が減少し、大気から海水へCO2が吸収・貯留される。
 特に注目されるのは、海洋面積の0.5%以下にすぎない沿岸浅海域が、海洋全体のCO2貯留ポテンシャルの80%近くを占める点である。また、沿岸浅域の単位面積当たりのCO2の吸収速度は、森林生態系に比べて5~10倍も高いことから、ブルーカーボンが注目されている。

 日本は国土は小さいため陸域生態系でのCO2貯留ポテンシャルには限界があるが、海岸線の長さと海洋面積はともに世界6位であり、ブルーカーボンを手掛ける余地は大きい。 

 ところで、森林は長期的に木としてCO2を貯留するが、海洋生態系ではCO2の貯留のメカニズムが異なる。海草や海藻は光合成により大気中のCO2を吸収するが、短期間で枯れてしまうためである。
 光合成によって海草や海藻などの海洋生態系に有機物として固定されたCO2の多くは枯れて大気中に放出されるが、枯れた後に海底に堆積物として長期間貯留される分がある。また、海藻の成長過程において生成された難溶解性有機物は、外洋に運ばれて海中や海底に長期間貯留される。 

図1 炭素循環のイメージ 出典:国土交通省

海洋におけるネガティブエミッション技術

 ネガティブエミッション技術(NETs)は、大気中のCO2を回収・吸収し、貯留・固定化することで、現状よりも大気中に含まれるCO2濃度を下げる(負にする)ための技術である。
 ブルーカーボン生態系が保有するCO2の吸収・貯留の能力を、人為的に加速・増大させる取り組みも、ネガティブエミッション技術といえる。

海洋生態系を利用したネガティブエミッション技術
■沿岸ブルーカーボン生態系利用:CO2の吸収・貯留の能力が高い生態系の新たな創出
■外洋大型藻類の養殖:高い成長速度の大型藻類の養殖と、深海へのCO2の輸送貯留
■鉄分散布による海洋肥沃化:外洋域への鉄分散布による植物プランクトン成長促進
■海洋深層水の人工湧昇:栄養分に富む深層海水の汲み上げによる生態系の成長促進
■微生物ポンプ:植物プランクトンが生成した有機物を微生物により難分解化させる 
 等など                                 出典:産業技術総合研究所

 なお、記載された技術が全て実現可能ではなく、海洋肥沃化などは現状では国際条約によって実施が規制・禁止されている技術で、将来展開が期待される。

 また、ブルーカーボン以外のネガティブエミッション技術として、海洋がCO2を吸収・貯留する物理化学的な性質・能力を利用する技術で、海洋隔離・海底貯留、アルカリ化、再生可能エネルギーによる電気化学反応によるCO2固定などの検討も行われている。

図2 海洋における主なネガティブエミッション技術の概要 出典:産業技術総合研究所

国内のブルーカーボンの取り組み

 国内のブルーカーボン生態系は、海草藻場(620㎢)、海藻藻場(1720㎢)、塩性湿地(470㎢)、マングローブ林(30㎢)であり、CO2吸収量は合計で132~404万トンCO2/年と推定されている。最大の海藻藻場は、天然藻場が主たる算定対象である。

 従来、日本は温室効果ガスインベントリに海域は含めておらず、湿地ガイドラインによる沿岸湿地の算定を行なってこなかった。そのため、2017年に学識経験者及び関係団体等で構成される「ブルーカーボン研究会」が設立され、ブルーカーボン生態系によるCO2吸収量の推計について研究が始まった。

 2019年、国土交通省港湾局海洋・環境課を中心に「ブルーカーボン生態系の活用に向けた取組の推進~地球温暖化防止に貢献するブルーカーボンの役割に関する検討会の設置~」が行われ、ブルーカーボンをCO2吸収源として活用していくための具体的な検討が進められた。

 2020年7月、国土交通省認可法人のジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が設立され、ブルーカーボン生態系とその他の沿岸域・海洋における気候変動対策への取組みを加速すため、ブルーカーボンクレジット化に向けた制度設計が行われた。

 2024年4月、環境省は、2022年度の温室効果ガス排出・吸収量は、約10億8500万トンCO2で、2021年度比で2.3%(約2510万トン)の減少、2013年度比では22.9%(約3億2210万トン)の減少を国連に報告した。特に、ブルーカーボンについて合計約35万トンの値を報告したことが特筆される。
 ブルーカーボンは、2021年度のマングローブ林による吸収量の算定・報告に加え、国土交通省(面積データ)、農林水産省(藻場タイプ別の吸収係数)との連携により、世界で初めて海草・海藻藻場の吸収量を合わせて算定・報告した。今後は、塩性湿地・干潟の算定についても検討していくとした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました