普及率1%に達した定置用燃料電池(Ⅵ)

火力発電

 再生可能エネルギー水素は、風力発電や太陽光発電のような大きな出力変動を水素製造・貯蔵で平準化したり、遠隔地の発電所から送電を行い需要地で水素を製造・発電するなどエネルギー輸送対策としても有効である。現在、低コスト化をめざして国内外で実証試験が進められている。

水素電力貯蔵システムの開発

水素電力貯蔵とは?

 電力と比べて、水素は大規模かつ長期の貯蔵が可能であり、電力のような送電ロス問題も無視できる。この特性を利用して、電力を水素に置き換えて貯蔵する水素電力貯蔵システム(Hydrogen power storage system)の開発が進められている。海外では幾つかの水素電力貯蔵システムが実用化されている。

■カナダのブリティッシュ・コロンビア州ベラクーラでは、「HARP(Hydrogen Assisted Renewable Power System)」プロジェクトが進められている。年間雨量の変動に起因する水力発電の出力変動を平準化するため、余剰電力による水電解で得た水素をタンク貯蔵し、需要に応じて燃料電池で発電・供給している。
■ドイツのブランデンブルク州プレンツラウでは、風力発電の余剰電力による水電解で得た水素をタンク貯蔵し、需要に応じてバイオガスと混ぜてコージェネレーションプラントに送り、電気と熱に変換して利用している。また、貯蔵された水素の余剰分は燃料電池車(FCEV)用にベルリンに搬送されている。

 水素電力貯蔵システムは、水素製造プロセス、水素貯蔵プロセス、水素発電プロセスを組み合わせたシステム(例えば、アルカリ水電解/高圧水素タンク/PEFC)であり、実証段階からより高効率なシステム(例えば、SOFC/高圧水素タンク/SOEC)の研究開発まで、様々な組み合わせの開発が検討されている。

表4 水素電力貯蔵システムの構成要素

 二次電池と水素電力貯蔵について、体積エネルギー密度と質量エネルギー密度の関係を対数グラフで示すが、二次電池ではNaS電池とリチウムイオン電池が高いエネルギー密度を有している。しかし、これらの二次電池に比べて水素貯蔵プロセスは、より多くのエネルギーをコンパクトに貯蔵できることが分かる。
 また、水素貯蔵プロセスの種類によってもエネルギー密度に大きな差が生じ、高圧水素タンクに比べて有機ハイドライドと、液体水素が高いエネルギー密度を有していることも分かる。

図14 二次電池と水素電力貯蔵のエネルギー貯蔵密度の比較

 政府は2021年4月から電力需給調整市場の創設を始めており、2024年度から最終段階となる周波数を瞬時に調整する一次調整力の売買を始めると発表した。これにより送配電事業者の要請で電力需給の調整に貢献すると、その事業者から対価を得られる仕組みが完成した。

 経済産業省は再生可能エネルギー発電量の出力制御を減らす対策として、①蓄電池の活用、②火力発電所の出力抑制、③送電網の強化などをあげており、水素製造による電力貯蔵は②に該当する。
 2022年4月以降、東京電力HDは水素の製造装置を電力の送配電網と連結し、再生可能エネルギーの出力調整を水素製造量の増減で調整することを公表している。

燃料電池を使ったシステムの開発動向

 2015年4月、川崎市と東芝は水素電力貯蔵ステム(容量:350kWh)を、川崎市内臨海部の川崎市港湾振興会館(川崎マリエン)および東扇島中公園に設置し、実証試験を開始した。
 この自立型エネルギー供給システム「H2One(エイチツーワン)」は、太陽光パネル(出力:30kW)、水電解装置(製造量:1Nm3/h)、水素貯蔵タンク(容量:270m3)、純水素型PEFC(出力:30kW)とリチウムイオン電池で構成され、災害時の非常用電源システムとして商品化された。

 2016年3月、水素吸蔵合金を貯蔵タンクとした「H2One」は、長崎県佐世保市のハウステンボス敷地内の「変なホテル」、2016年4月、横浜市港湾局の横浜港流通センター、2017年4月、川崎市のJR東日本武蔵溝ノ口駅と山口県周南市地方卸売市場、2018年3月、楽天生命パーク宮城に設置された。

 2018年8月、福井県敦賀市と東芝エネルギーシステムズは、水素サプライチェーン構築の基本協定を締結した。2019年10月、再生可能エネルギーによる水素電力貯蔵システム「H2One」と、毎日FCV8台分の水素を供給できる水素ステーションで構成される「H2Oneマルチステーション」が開設された。

図15 川崎市と東芝が川崎市臨海部の公共施設「川崎マリエン」に設置した「H2One」

 2016年6月、山梨県とパナソニックは、甲府の県施設「ゆめソーラー館やまなし」の屋根に設置した太陽光パネルで発電し、水電解装置により水素を製造して貯蔵し、必要に応じて純水素型燃料電池(出力:700W)で発電する実証試験を開始。2018年6月には、新たに開発した純水素燃料電池(5kW×3台)を増設した。

 2017年6月、清水建設と産業技術総合研究所は、建物付帯型水素エネルギー利用システム「Hydro Q-BiC」を開発し、福島再生可能エネルギー研究所(FREA)内で実証運転を始めた。
 2022年7月、トヨタ系の自動車販売会社などでつくるユーグループは、本社ビル「プリズムビル」の改修に合せて、清水建設が開発した水素エネルギー利用システム「Hydro Q-BiC」を導入した。
 太陽光発電(出力:20kW)を使い高分子型水電解装置により水素を製造し、水素吸蔵合金タンク(450Nm3、蓄電容量ベース:674kWh)、東芝製純水素型燃料電池(出力:100kW)、リチウムイオン電池を利用して、ビルのピークカットや非常時電源として活用する。

図16 清水建設がFREA内に建設した建物付帯型水素エネルギー利用システム

 2018年6月、トヨタ自動車とセブン-イレブン・ジャパンは、水素電力貯蔵システムを組み込んだ新しいコンビニ店舗の実現をめざすと発表した。
 2019年から太陽光発電システム、水電解装置、水素ステーション、小型トラック、PEFC(出力:10kW)、ハイブリッド車の使用済み蓄電池を再利用した蓄電システムを導入し、非常時に店舗への給電機能付き充電器などを順次設置し、店舗のエネルギー需要に合わせ、これらの機器を統合制御するBEMSを導入する。

 2024年4月、日本特殊陶業は水素製造と燃料電池による発電を1台の装置で可能にする「リバーシブルSOCシステム」を開発した。水を電気分解して水素を生成する固体酸化物形電解セル(SOEC)と、水素と酸素から電気を生成する固体酸化物形燃料電池(SOFC)の動作を切り替えられる。2025年度中の製品化をめざす。
 SOEC作動温度は700~750℃、AC100V電源で水素製造量は最大0.9Nm3/h、SOFC発電能力は最大740Wである。SOEC/SOFCの切り換えには最大1hを要し、往復変換効率は31%と低い

図17 水素製造と発電が可能な小型リバーシブルSOCシステム 出典:日本特殊陶業

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