普及率1%に達した定置用燃料電池(Ⅳ)

火力発電

 2010年代入り、国内の定置型燃料電池の開発は、家庭用「エネファーム」から業務・産業用燃料電池へと移行する。すなわち、マンションや工場向けが商品化されると共に、分散電源として燃料電池発電所の設置が始まり、スマートグリッドの中心的な構成要素として期待されている。

国家プロジェクトによるSOFCの開発

NEDOプロジェクト「SOFC実用化推進技術開発」

 2013~2017年、NEDOプロジェクト「SOFC実用化推進技術開発」が推進され、2015年から業務・産業用燃料電池の平板積層型SOFCが、デンソー(出力:5kW)、京セラ(2.8kW)、日立造船(20kW)、三浦工業(4.2kW)、ブラザー工業(4.4kW)から市販された。

 2017年6月、セル製造メーカーであった京セラが、エネファームtype S向け700Wセルスタックを4個搭載した業務用SOFC(出力:約3kW、発電効率:52%、総合効率:90%)を商品化し、同年7月から東京ガスや大阪ガスなどの供給エリアで発売を開始した。

 2018年2月、ブラザー工業は純水素燃料用PEFC「BFC4-5000-DC380V」(出力:4.4kW)の販売を開始。72時間連続運転が可能な発電安定性を有し、非常用電源などのBCP対策(事業継続対策)に有用である。
 「気液分離+水素循環システム」により、セルスタックから水と共に排出される水素オフガスを回収してセルスタックに再供給する。そのため同サイズの燃料電池と比較して2倍の電流量が得られ、長期運転による電圧降下が少なく、急な電力需要の増減に対応する高い負荷追従性を実現している。

 2019年8月、日本特殊陶業が主体で日本ガイシ、TOTO、ノリタケカンパニーリミテドと平板積層型SOFCの研究開発の共同出資会社「森村SOFCテクノロジー」を設立し、2021年4月、業務・産業用SOFCセルスタックの本格量産を始め、日立造船などに供給を進め、2025年から家庭用SOFCセルスタックの供給も開始する。

 2021年5月、日立造船は中小工場や介護施設向けのSOFC市場(出力:20kW以上、発電効率:52%超)への参入を公表した。平板積層型SOFCスタックは、森村SOFCテクノロジーからの供給を受ける。
 2017年7月、大阪府バッテリー戦略研究センターと協力してORIST和泉センターに設置して、4000h以上の連続運転、2018年3月、大阪市建設局管理施設の「咲くやこの花館」設備棟前などで実証実験を進めてきた。

図12 咲くやこの花館の設備棟前に設置した日立造船のSOFC 出典:NEDO

 2023年5月、デンソーは愛知県西尾市の西尾製作所で、太陽光発電(出力:60kW)と蓄電池(出力:70kW、容量:73kWh)、EV搭載の蓄電池、同社が開発した都市ガス型SOFC(4.5kW、発電効率:65%)を組み合わせ、効率的なエネルギー管理を行う実証実験を開始した。得られた成果はデンソー福島に導入する。

 2024年3月、東京ガスと三浦工業は、共同開発したSOFCシステム「FC-6M」(出力:5.8kW、発電効率:63%)の商品化に合意。2020年4月から進めてきた実証試験で耐久性や信頼性の検証を終え、2024年10月より三浦工業から販売を開始する。森村SOFCテクノロジー製のセルスタックを使用する。
 排熱利用なしでも省エネルギーやCO2排出量削減に貢献可能なモノジェネレーションシステムで、今後、バイオガス、水素、合成メタン(e-メタン)への対応検討も進める。

内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム」での燃料電池開発

 2014~2018年、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」のエネルギーキャリアで、京都大学、ノリタケカンパニーリミテド、IHI、日本触媒、豊田自動織機、三井化学、トクヤマがアンモニアを直接燃料として使用するSOFCスタック(出力:1kW級)の開発に成功した。
 アンモニア(NH3)を気体で供給し、700~900℃に加熱した電極に触れると窒素と水素に分解し、空気中の酸素と水素が反応して発電する。発電効率は50%を超え、1000hの連続運転に成功した。

 2018年5月、IHIはアンモニアを燃料として直接供給するSOFCシステム(出力:1kW級)で発電に成功した。改質機を使わない点が特長で、今後、大型SOFCシステム(出力:数10~数100kW)を開発し、業務・産業用として2020年代前半の市場投入をめざす。

 2023年11月、アイシンと東北大学は、NEDOプログラムでアンモニア型SOFCの高効率発電に関する研究開発を進め、現在開発中の純水素SOFCシステムの技術を活用しながら、同程度の高効率発電をめざして開発を進め、2027年度に自社工場・事業所で実証実験開始することを発表した。

 エネファームの販売台数が伸びない理由は、高い「初期費用」と「メンテナス費用」である。この対策が十分に行われないまま、新たな国家プロジェクトとして業務・産業用燃料電池の開発を進めた。その結果、国内の業務・産業用燃料電池メーカーは乱立の状況にある。
 欧米では家庭用燃料電池よりも業務・産業用燃料電池が先行しているが、世界的に見ても稼働している業務・産業用燃料電池は多くはない。果たして、何社が生き残るのであろうか?

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