普及率1%に達した定置用燃料電池(Ⅰ)

火力発電

 国内で1970代に始まった燃料電池の研究開発成果は、約30年を経た2009年5月に、世界に先駆けた固体高分子型燃料電池(PEFC)型「エネファーム」の一般発売の開始として実を結んだ。

 2024 年1月、PEFC型とSOFC型「エネファーム」の累計販売台数が、50万台を突破したと報じられた。一般販売開始後に15年をかけて累積販売台数が50万台を突破したのである。しかし、国内の一般世帯総数4885万世帯(2020年)に対する普及率は1%に留まる。本当に、導入は順調に進んでいるのであろうか?

定置用燃料電池の開発経緯

 国内では1970年代から、エネルギーに関する国家プロジェクトの「サンシャイン計画」(1974~1992年)「ムーンライト計画」(1978~1992年)「ニューサンシャイン計画」(1993~2002年)が実施され、太陽光発電、風力発電、燃料電池など様々なエネルギーシステムの開発が進められた。

 燃料電池に関して国内では、1990年代にリン酸型燃料電池(PAFC:Phosphoric Acid Fuel Cell)の中規模産業用オンサイト発電装置(出力:100~200kW、発電効率:40%)を、富士電機と東芝が商品化した。しかし、ガスエンジンやディーゼルエンジンに比べて高価なため、政府補助金が消滅すると共に大幅縮小した。

 1991年には、東京電力五井火力発電所内に設置された大規模リン酸型燃料電池プラント(出力:1.1万kW、東芝製〉が定格運転に成功した。しかし、実証運転段階で故障が相次ぎ撤退したこともあり、以後、国内では大規模燃料電池プラントの商用化は検討されていない

 2000年代に入ると、燃料電池自動車の公道上での実証運転が始まり、2002年10月には本田技研工業が「FCX」、同年12月にはトヨタ自動車が「FCHV」を、国内と米国でリース販売を開始した。

 一方、定置用燃料電池は、2005年に家庭用燃料電池「エネファーム」の大規模実証が始まり、実証機が首相官邸や全国各地の住宅に導入されデータ収集が行われ、2009年5月、世界に先駆けて固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)型「エネファーム」の一般発売が開始された。
 また、2011年10月には、固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)型「エネファームtype S」が市販された。

 エネファームは、2019年3月に発表された「水素・燃料電池戦略ロードマップ」、2021年10月に発表された「第6次エネルギー基本計画」で、さらなる導入拡大を進めることが言及されているが、政府は業務・産業用燃料電池も加えて、引き続き導入支援を行うとしている。

表1 水素・燃料電池戦略ロードマップのアクションプランのポイント 

 そのため、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、水素社会の実現に向けた技術開発の方向性を明らかにし、産学官が長期的視野を共有して技術開発に取り組むために、2005年から「燃料電池・水素技術開発ロードマップ」を公開している。
 直近では、2023年2月に「定置用燃料電池」、2024年3月に「FCV・HDV用燃料電池」のロードマップを策定し、現在は「水電解」分野のロードマップ策定のため技術課題を整理している。

家庭用燃料電池の技術開発ロードマップ

 2019年3月発表の「水素・燃料電池戦略ロードマップ」と、直近の技術開発ロードマップを比較すると、エネファーム普及台数が大きく下方修正されているが、他は寡少修正に留まる。
 すなわち、2030年頃までの普及台数は530万台→300万台に修正された。この目標を実現するため、発電効率は(LHV、40~55%以上→40~60%以上)、耐久性は15年、システム価格は5年で投資回収が可能な50万円台→50万円以下をめざし、大幅な小型化や設置簡素化による集合住宅への普及を進めるとした。

 特に、2030年以降には金属支持型SOFCによる耐久性の向上や、プロトン伝導セラミック燃料電池(PCFC)オフガスリサイクルSOFCによる超高効率化に加え、燃料多様化への対応をめざすとした。

表2 定置用燃料電池技術開発ロードマップ(家庭用燃料電池))2023年2月公開 出典:NEDO

業務・産業用燃料電池の技術開発ロードマップ

 2017 年以降に、PEFC(数kW~100kW級)、SOFC(数kW級、数10kW級、250kW級)の業務・産業用燃料電池が市場導入されたが、ガスエンジンなどに比べて初期導入コストと運用メリットでの優位性が低く、普及拡大には継続的な低コスト化が不可欠との共通認識が広がった。
 そのためロードマップには、2030年頃からの分散型電源としての自律的な普及拡大をめざし、高効率・高速生産を実現する革新的生産技術による低コスト化と、燃料多様化を進めると記された。

 加えて、発電を主としながら、余剰電力で水素製造する「可逆的固体酸化物形燃料電池(rSOC)システム」(リバーシブルSOCシステム)の実用化、 SOFCの排ガスや燃料改質の際に発生するCO2を回収する「CO2分離回収型燃料電池」の実用化をめざすと記された。

 一方、新たに2030年以降の普及拡大をめざす中容量ハイブリッドシステム(数100kW~数MW級)、2040年以降の普及拡大をめざす大容量コンバインドシステム(数10MW以上)が、2016年6月策定の経済産業省「次世代火力発電に係る技術ロードマップ」に基づいて記載された。

 2030年の性能目標は、中容量ハイブリッドシステムで発電効率60%以上、耐久年数:15年、システム価格:30万円/kW以下とし、大容量のガスタービン燃料電池複合発電(GTFC、発電効率:63%)と石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC、55%)は共に耐久年数:15年、システム単価は量産後従来機並みと設定された。

表3 定置用燃料電池技術開発ロードマップ(業務・産業用燃料電池))2023年2月公開 出典:NEDO

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