NGO/NPO団体の気候ネットワークは、「次世代石炭火力発電(IGCC)が、今後 10 年で石炭火力発電の国際的な成長の主要な役割を果たすことはないだろう」と報告している。
また、英国のシンクタンクのTransitionZeroは、日本が推進するアンモニア混焼や石炭ベースの石炭ガス化複合発電(IGCC)によるCO2排出量の削減効果は寡少であり、再生可能エネルギー発電よりも高コストのため、脱炭素化の解決策としては適切でないと報告している。
次世代火力発電システムへの批評
気候ネットワークのレポート(2016年11月4日)
地球温暖化防止を目指して活動するNGO/NPO団体の気候ネットワークからは、次世代火力発電システムである石炭ガス化複合発電(IGCC)に関して、以下の内容のレポートが発信されている。
石炭ガス化複合発電(IGCC) は石炭をガス化し、生成ガスをガスタービン燃料として使う。石炭を直接ボイラで燃焼する石炭火力発電(発電効率:約38%)に比べ、コンバインドサイクル化により発電効率:45~50%まで向上する。通常の石炭火力発電よりも、約20%のCO₂削減が可能とされている。
しかし、IGCC は建設コストが高く、米国情報庁の試算によれば IGCC 発電所(出力:100万kW 級)の建設には44億ドルが必要で、通常の石炭火力発電所よりも35%ほど割高とされている。
IGCC では石炭ガス化後にCO2の燃焼前回収方式が適用可能で、燃焼後回収方式の石炭火力発電所に比べてCCS 設備を備えることは比較的容易である。しかし、CCS設備を付帯した IGCC 発電所の発電コストは、風力発電やメガソーラーの約2倍にも上ると報告されている。
1990 年代にIGCCの実証試験が始められたが、技術的な難易度が高く、発電所の建設・運転において多くのトラブルに直面し、世界中で運転中のIGCCは8基に留まる。その結果、国際エネルギー機関(IEA)は、「多数の IGCC 事業が発表されたが、その進展には失敗した」と発表している 。
本レポートでは「IGCC 発電所が、今後 10 年で石炭火力発電の国際的な成長の主要な役割を果たすことはないだろう」と締めくくった。世界石炭協会は、IGCC発電所よりも効率は低いが、設備コストの安い超臨界圧石炭火力発電所が、今後も主流であり続けるだろうと見ている。
一方で、世界石炭協会は、2015~2025 年に、中国とアメリカにおいてIGCC発電所が大幅に増加するという見通しを示している。多くの専門家は、アジアにおける計画が IGCC 発電技術の最後のチャンスだと見ている。
加えて、IGCCに関する各国の事例が示されている。
米国
2000年代初頭に合計2000万kWのIGCC発電所が提案されたが、2007~2009年に多くの事業計画が廃止された。シェールガス産業の隆盛でガス価格が下落し、IGCCが価格競争力を失った結果である。
■インディアナ州にある世界初の商業規模の IGCC 発電所は、2013年6月に運転を開始した。20億ドルと見積もられた建設費は、遅延等により35億ドルに跳ね上がり、発電所は運転開始以来、激しい地元の反対を受け、技術的課題にも悩まされ続けている。
■ミシシッピ州にあるサザン・カンパニーのIGCC発電所(出力:58万kW)は、世界初の商業規模の CCS 付き IGCC として提案された。この事業は、当初予算 22 億ドルであったが、現在66.6 億ドルにまで上昇して建設中である。
■テキサス州にあるテキサスクリーンエネルギー事業(TCEP)では、CCS 付きの IGCC が計画され、2014 年 6 月の運転開始見込みであったが、計画段階で止まっている。事業費は当初の 19 億ドルから 39 億ドルへと倍増した。
スペイン
■スペインの The Elcogás Puertollano 発電所(出力:30万kW)は、欧州委員会の資金供与も受け1997年に運転を開始した。運転開始初期から10年間に、発電所は多数の技術的な問題に直面し、設計に6000以上の修正が加えられた。
その後、2014年7月に、1億9000万ユーロの負債を抱えて閉鎖許可を申請し、発電所は 2016年1月に閉鎖された。
中国
公表データによれば、現在2基の IGCC発電所が稼働しており、さらに10基のIGCC発電所の計画がある。しかし、最近、中国政府は15 地域で石炭火力発電所の建設を延期している。他地域でも石炭火力発電所の認証の取り消しを行っており、これらの発電所が何基建設されるのかは不明である。
■ポリジェネレーション発電所では、化学薬品製造を中心にしたガス化プロセスが主体で、一部に発電も統合して行う。
■グリーンジェン石炭火力発電所(出力:25万kW)は、中国初の大規模なIGCC発電所である。この発電所は80万kWの出力アップと、CCS設備の付帯計画が進められている。
韓国
■ソウルから約100マイル南西にIGCC 発電所を建設中であるが、2015 年4月に韓国の会見監査理事会は、発電所が当初期待されていた効率と排出削減を達成できないと警告を発表している。
■2015年12月、セマングム工業研究地域に、新たにIGCC発電所(出力:100万kW)の建設方針を発表した。建設の米国パートナーはサザン・カンパニーである。
英国の研究機関「TransitionZero」の分析(2022年2月15日)
2022年2月、電力部門・重工業部門のゼロカーボンへの移行を後押しする英国のシンクタンクであるTransitionZeroは、日本の石炭火力発電政策に関する報告書を公表した。
レポートでは、日本が推進するアンモニア混焼や石炭ベースの石炭ガス化複合発電(IGCC)によるCO2排出量の削減効果は寡少であり、再生可能エネルギー発電よりも高コストのため、脱炭素化の解決策としては適切でないと締めくくった。
太陽光発電と陸上風力発電に電力貯蔵を加えた経済性は、2030年までに全てのクリーンコールやCCS対策なしの石炭火力発電を上回り、カーボンプライシングにより今後の加速が見込まれる。日本は潜在的な経済力が存在する洋上風力発電に対する投資へと、戦略を転換することを提言している。
アンモニア混焼
同シンクタンクの分析では、現時点で天然ガスを原料とするグレーアンモニアのコストは石炭の4倍、再生可能エネルギー電力で製造されるグリーンアンモニアのコストは石炭の15倍と高いため、国内の電力会社は安価な海外からの輸入に頼らざるを得ず、エネルギー安全保障問題がさらに深刻化する。
また、現時点で技術的に可能な混焼率20%では、単位発電量あたりのCO2排出量がLNG焚コンバインド・サイクル発電の2倍程度、混焼率50%でようやくLNG焚コンバインド・サイクル発電と同程度となる。アンモニア混焼によるCO2排出量の削減効果は寡少で、法外なコスト増になると試算している。
CCSはクリーンコール技術の中で唯一CO2排出量削減の技術であるが、日本の限られた貯蔵能力を考慮すると、CCSは石炭火力発電を維持するための持続可能な解決策とはならず、日本の貯留容量が10年で尽きる可能性があるとしている。
石炭ガス化複合発電(IGCC)
IGCCにはわずかな便益しかなく、同レポートでは「失敗に終わった実験」の例として挙げられている。過去のIGCCプロジェクトでは建設コストが予期した経費の倍に膨張し、脱炭素化のためにはCCS設備の付帯が必須であるため、明らかに高コストとなる。
レポートの主旨は、脱炭素化の観点から日本が推進している「アンモニア混焼」、「石炭ガス化発電(IGCC)」は、いずれも経済的に再生可能エネルギー発電には及ばず、単に石炭火力発電の延命に過ぎないとの指摘である。
特に、IGCCに関しては1990年代に引いた路線を延々と進めてきたが、鍵となるのはCO2を分離回収するCCS設備のコスト評価である。欧米では積極的な再生可能エネルギー発電の導入・拡大により、発電単価が石炭火力発電並みに低下してきている。
現状の火力発電の開発戦略は、CCS設備の導入を考慮に入れて再考すべき時期にきている。
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