CO2回収貯留とその有効利用(Ⅵ)

火力発電

 国際エネルギー機関(IEA)によると、直接に空気からCO2を回収するDAC設備はスイス、カナダ、米国など世界で18カ所に設置されており、CO2回収量は約1000トン/年である。2050年の温暖化ガス排出量を実質ゼロにするには、2030年に6000万トン/年のCO2を回収する必要があるとしている。

直接空気回収技術(DAC) 

 火力発電所などの大規模なCO2発生源からのCCS技術とは一線を画し、大気中に400ppm(0.04%)程度しか含まれない希薄なCO2の直接空気回収技術(DAC:Direct Air Capture)が注目を集めている

 国際エネルギー機関(IEA)によると、既に、DAC設備はスイス、カナダ、米国など世界で18カ所に設置され稼働しており、CO2回収量は約1000トン/年程度である。2050年の温暖化ガス排出量を実質ゼロにするには、2030年に6000万トン/年のCO2を回収する必要があるとしている。

欧米で進むDACの動向 

 2019年6月、米国エクソンモービルはスタートアップのグローバル・サーモスタットとの提携を発表した。アミン系吸収材とハニカムセラミック「モノリス」を組み合わせた多孔質カーボンスポンジを利用したDAC装置を商品化し、吸着されたCO2は低温蒸気(85-100℃)で分離・回収する。

 2021年にDAC装置(0.4万トン/年)を稼働したスイスのスタートアップのクライムワークスは、2022年6月、アイスランドでDACプラント(3.6万トン/年)の建設に着工。運転には隣接の地熱発電所の電力を使い、2023~2024年の稼働を目指す。2050年までに10億トン/年の目標を掲げている。
 アミン系吸収材とγ- Al2O3やゼオライトを組み合わせた多孔質固体にCO2を吸着させる物理吸着法を採用し、回収したCO2は水と混ぜて地下で岩石と一体化させる。2030年に数百万トン/年規模が実現できれば、250~350ドル/トンで回収可能とし、長期的には100~200ドル/トンを目標としている。

 2022年5月、米国は、国内4カ所に拠点を設け、5年間で補助金35億ドルをDAC事業投じる方針を表明した。100万トン/年以上のCO2を吸収するプロジェクトが対象で、事業化調査やプラントの設計などの費用の一部を補助する。

 2022年8月、米国オキシデンタル・ペトロリアムと子会社ワンポイントファイブは、テキサス州に世界最大のDACプラント(最大50万トン/年)の建設を発表した。2024年後半の稼働を予定し、100万トン/年まで拡張可能。回収コストは300ドル/トン以上で、量産化で150ドル/トン以下を目指す。
 水酸化カリウム溶液(KOH)でCO2を回収する方法を開発しており、カナダのスタートアップのカーボン・エンジニアリングとも協力し、最大100万トン/年のDACプラントを、2035年までに70基建設する計画で、需要があれば最大135基を建設するとしている。 

国内のDAC開発動向

 2021年2年、IHIは、そうまIHIグリーンエネルギーセンターで、開発したDACにより100%濃度のCO2回収に成功し、4月から植物工場での実証に入ると発表。また、太陽光発電で生成した水素でメタネーション実証装置(製造能力:12m3/h)によるグリーンメタンの合成実証も行う。
 アミン溶液へ球体基材を浸し、引き上げて乾燥させた固化CO2吸収材を使い、ブロワーで空気を吸い込みCO2を吸着させる。CO2の分離・回収時には加熱する。

 2021年12月、川崎重工業は固体吸着法によるDAC装置を実用化し、回収後のCO2貯蔵技術と組み合わせた商品化を発表した。5㎏/日の実証試験を進め、2025年に500~1000kg/日に高め、ビルや商業施設などでの設置を目指している。
 凹凸が多く表面積が大きい粒状物質の表面に特殊な溶液を塗り、大気と接触させてCO2を吸着させ、その後に60℃程度の低温蒸気で加熱してCO2を分離・回収する。

 2022年4月、三井物産はDACの事業化に乗り出すことを発表した。英国スタートアップ企業とDAC技術の共同調査などで包括提携を締結した。 

 2022年9月、三菱重工エンジニアリングはRITEと共同で、DAC試験装置(数kg/日)を開発した。今後、CO2固体吸収材の評価を進めて、2020年代後半にパイロットスケールのDAC試験装置の設計と経済性評価を実施する。

 2022年11月、日本ガイシは、プラント大手とDAC設備(数百~数千トン/年)を建設し2025年に実証試験を開始すると発表。自動車排ガス浄化用セラミックス「ハニセラム」内部に固体吸着剤を塗布、ファンで空気を送りCO2を吸着させたハニセラムを100℃程度に加熱し、CO2を分離・回収する。

国内におけるDACの研究開発
■2019年から名古屋大学発スタートアップのSyncMOFは、約20社の工場で金属有機構造体(MOF)を使ったCO2回収の実証試験を進めている。MOFは狙った気体だけを大量に吸着する性質があり、アミン溶液を使う方法に比べてコストを1/10にできる。
■2020年1月、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所とナノメンブレンは、高分子分離膜によりCO2を分離する膜分離法の開発を進めている。2022年2月には、双日と厚さ約30nmの薄膜でCO2を分離する技術の社会実装に向けた覚書を締結した
■2022年2月、三菱瓦斯化学・神戸学院大学はアミン化合物を吸収剤にしたDAC実証試験と吸収剤開発の共同研究を発表した。メタキシレンジアミン(MXDA)用いると、大気中の水分の影響を受けずCO2のみを吸収できるため、CO2脱離時の効率を大幅に改善できるとしている。
■2022年5月、東邦ガスは名古屋大学などとLNGの未利用冷熱を活用するDAC試験装置(1トン/年)を2024年度までに試作し、2029年度に大型プラントの稼働を目指す。CO2吸収液体をLNGでー140℃以下に冷却してCO2を固化、常温で復温・気化させ高圧CO2を直接回収する。

DACの課題

 大気中のCO2濃度は工場や発電所の排ガス中の濃度の約1/300と低いため、DACによる回収コストは300~600ドル/トンと排ガスからの回収コストの5~10倍とされる。一方、温暖化ガス排出量の取引価格(先物)は近年上昇しているが、EUではCO2換算で80ユーロ/トン(約70ドル/トン)前後である。

 現時点で欧米ではDACの普及に関して補助金などによる支援を行っているが、持続可能なDACシステムとするための課題は、DAC設備の高効率化低コスト化である。現在は、米国で100万トン/年の大規模DACプラントの建設が始まっており、量産化効果に期待が集まっている。

 一方、DACで回収したCO2の利用法にも注目が集まっている。高付加価値な化学品や燃料、鉱物が製造できれば、DACシステムとしての普及が進む可能性がある。

 2021年設立されたカリフォルニア工科大学のスピンオフ企業キャプチュラは、地球表面の70%を占める海洋を活用する直接海洋回収技術(DOC:Direct Ocean Capture)を使い、大気中のCO2を低コストで除去する施設の建設を目指している。
 海水は大気からCO2を吸収するため、ろ過した海水をプラント内に引き込み、再生可能エネルギーを使って海水を電気分解してCO2を除去・貯留する。

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