遅れたメタノール燃料船への対応(Ⅱ)

船舶

 メタノール燃料は、デンマーク海運大手でコンテナ船世界2位のAPモラー・マースクを中心に導入が進められており、既に世界で主要な約130か所の港での供給が可能である。
 しかし、国内ではメタノール燃料のバンカリング(船舶への燃料供給)が遅れており、供給地点は限られているのが現状である。

メタノール燃料の供給

 2022年10月、三井物産は、APモラー・マースクのグループ会社Maersk Oil Trading(MOT)、アメリカ船級協会、Mitsui & Co. Energy Trading Singapore と共に、シンガポール港で船舶向けメタノール燃料の供給事業の共同検討を行うことに合意した。2023年にShip to Ship方式によるメタノール燃料の供給をめざす。

 2023年6月、APモラー・マースク はメタノールに対応した初のコンテナ船の航行に向けて燃料を確保したと公表した。オランダのOCIグローバルが米国工場から供給する計画で、韓国南東部の蔚山うるさんからデンマークの首都コペンハーゲンまでの航行にバイオメタノール燃料を使用する。

 2023年11月、APモラー・マースクは、「グリーン・メタノール」の長期供給契約を中国の風力発電大手金風科技(ゴールドウィンド)の子会社と締結した。内モンゴル自治区のプラントでグリーン・メタノールを生産し、2026年から50万トン/年の供給を行う。

 2023年12月、APモラー・マースク、横浜市、三菱ガス化学は、「グリーン・メタノール」の供給拠点を、横浜港に整備するための覚書を締結した。
 2024年4月には韓国の現代重工業で建造された1万6000TEU型(20フィートコンテナ1万6000個相当を積める)コンテナ船「アストリッド・マースク」が横浜港に寄港した。

 2024年4月、APモラー・マースクは、メタノール燃料船「アストリッド・マースク」が上海・陽山港に停泊し、上海国際港湾グループ(SIPG)との提携により、中国初となる貨物輸送とグリーン・メタノールのバンカリングを行ったことを発表した。

図1 メタノール燃料船「アストリッド・マースク」が上海・陽山港でグリーンメタノール・バンカリングを実施
出典:APモラー・マースク
 

 2024年6月、三菱ガス化学は、トヨフジ海運が新造するメタノール燃料船である国内自動車運搬船2隻への燃料供給を公表した。2027年の同船竣工をめざし、グループ会社の国華産業が既存の国内メタノール輸送船を活用して直接燃料補給(バンカリング)を行う計画である。

メタノール燃料船の建造

 APモラー・マースクのメタノール燃料船の建造発注が先行しており、国内でもメタノール燃料船の建造に向けて動きが活発化している。

 2022年11月、APモラー・マースクは、メタノール燃料の貨物船を6隻追加導入すると発表。韓国の現代重工業が2025年までに建造する。今回の発注分も含め、これまでメタノール燃料船を約20隻発注した。発注したのは約1万7000TEU型(20フィートコンテナ1万7000個相当を積める)の外航船である。

 2023年1月、商船三井が運航するメタノールと重油の2元燃料に対応したメタノール輸送船「Cypress Sun(サイプレス サン」の竣工式が、韓国の現代尾浦造船で行われた。大阪船舶から商船三井が用船し、カナダのWaterfront Shipping Company Limited(WFS)に長期貸船される。
 商船三井は、世界最大級のメタノール輸送船隊19隻を運航しており、内、メタノールを燃料として活用できる2元燃料船は2016年から保有しており5隻を運航することになる。

 2023年6月、APモラー・マースクは、メタノール燃料対応の「2元燃料エンジン」を搭載する9000TEU型の中型コンテナ船6隻を発注した。中国の揚子江船業集団が2026年から2027年3月までに建造する。
 同社は2021年以来、メタノール燃料対応のコンテナ船を発注しており、今回の6隻の追加により、同社が発注したメタノール燃料対応船は合計25隻になり、既存の保有船舶を順次入れ替える計画である。

 2023年10月、常石造船は、メタノール燃料の5900TEU型コンテナ運搬船を4隻受注した。「KAMSARMAX AEROLINE」、「TESS66 AEROLINE」に次ぐ、メタノール燃料船の受注であり、コンテナ運搬船では初となる。
 主機には三井E&S製のメタノール焚き2元燃料エンジン「MAN B&W 6G80ME-C10.5-LGIM-EGRTC」を搭載し、補機も現代重工製のメタノール燃料焚き発電機 「HiMSEN engine(8H32DF-LM)」。また、大容量の陸電供給システムも対応可能で、停泊中は発電機を停止する。

 2024年5月、NSユナイテッド海運は、日本シップヤード、今治造船、ジャパン マリンユナイテッドとの4社間で、メタノール2元燃料大型ばら積み貨物船の複数隻建造のMOUを締結。2027年以降の竣工である。
 国内外の鉄鋼原料輸送用で、全長:約299.99m、幅:約50m、深さ:25m、積載重量:20万9000トンの次世代環境対応船である。

 2024年6月、トヨタ自動車子会社のトヨフジ海運は、メタノール燃料の自動車運搬船2隻の2027年度導入を発表。三菱造船と建造契約を結び、内航船として運用する。新導入船は自動車を2300台を運べるサイズで、従来よりも積載量が1割増える。将来的には「グリーン・メタノール」の利用も視野に入れる。
 脱炭素化では供給網全体のCO2排出量削減が重要で、輸送量の増加輸送燃料切り替えで車1台当たりのCO2排出量を20%減らせる。トヨタ自動車はライフサイクルでのCO2排出量を、2030年に2019年比で30%削減する目標を掲げている。一方、外航船はLNG燃料船の採用を進め、2025年に2隻を導入する。

 2024年7月、商船三井内航は、田渕海運、新居浜海運とメタノール燃料船を共同保有し、三菱商事の貨物を輸送する内航船「第一めた丸」(570総トン数)の命名・進水式を、村上秀造船グループのカナサシ重工で行った。2024年12月より、国内メタノール輸送に従事する。
 主機関に阪神内燃機工業製のメタノール焚き舶用低速4サイクルエンジン「LA28MRG」1基を搭載し、全長:65.5m、幅:10m、喫水:4.38mで、航海速力:11.15ノット(約20.6km/h)以上、積載容積:1230m3である。 

図2 国内初のメタノール燃料船「第一めた丸」 進水式の様子 
出典:商船三井内航

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