世界の造船業界は中国のシェア(新造船受注量ベース)が2021年に45%、韓国が39%と圧倒的に強く、日本は12%に留まる。2000年代に入り、低価格競争で中国・韓国勢に敗れ、国内造船メーカーは事業規模の大幅縮小を進めた。三菱造船はエンジニアリング事業に力点を移している。
造船業界の動向
世界の造船業界では中国のシェア(新造船受注量ベース)が2021年に45%、韓国が39%と圧倒的に強く、日本は12%、その他4%である。2000年代に入り、低価格競争を展開する中国、韓国勢との競合に敗れ、国内の造船メーカーは事業規模の大幅縮小を余儀なくされた。
一方で、日本の国際海運企業の保有船腹量は世界の11%を占め、世界第2位である。日本郵船、商船三井、川崎汽船は船隊規模で世界10位以内に入り、国際海事機関(IMO)から温室効果ガス排出規制を直接に受け、ゼロエミッション船の開発を積極的に推進している
三菱造船の新展開
事業規模の縮小が進む中で、主要な国内造船メーカーはエンジニアリング事業に力点を移している。
2022年、三菱造船が新たに始めたエンジニアリング事業は、三菱造船性能推定&線図選定システム(MiPoLin:MITSUBISHI SHIPBUILDING POWER PREDICTION & LINES SELECTION)を核とした船舶の開発支援サービスである。
MiPoLinは、三菱重工業船型試験場において、100年以上に渡り蓄積された1200件以上の水槽試験データを利用して、船型創製とその性能推定が行えるWebベースのシステム。
顧客が計画船の主要項目(船種、概略寸法、排水量など)を入力し、船型設計データベースから計画船に近い船型を検索し、抵抗カーブ等の試験結果を比較・評価できる。選択した船型をベースに計画船の要項に合わせた船型の創生を行い、エンジン出力やプロペラ設計などの性能を推定できる。
関連する開発支援サービスとして、流体設計(CFD)による最適船型検討、船首バルブ最適化/省エネデバイスの設計、水槽試験の請負などをラインアップしている。
また、三菱造船は、重油燃料に対する硫黄酸化物(SOx)スクラバー、次世代船舶燃料のLNGガス供給システム、CCSU(CO2分離回収・貯留、利用)など環境技術で強みを有しており、今後、環境規制が厳しくなる状況下で、技術を持たないアジアの造船会社の囲い込みを目指している。
顧客は造船会社や海運会社を想定しており、需要が見込めるアジアを中心に売り込みを進めた結果、受注を実現している。
アナロジー
1990年代まで”ものづくり”で日本経済を牽引した造船業界であったが、価格競争で中国・韓国勢に敗れた。生き残りを賭けた三菱造船のエンジニアリング事業の成否は興味深い。
シミュレーション技術が未発達な時代、大型水槽試験による船体モデル試験は設計の最終確認として重要な位置付けであった。しかし、様々なシミュレーション技術が高度化した現在、大型モデル試験の出番は激減しており、高額な装置の維持・管理を含めた使い方が他業界においても参考になる。
航空機、自動車業界では大型風洞試験、土木建設、電機・機械業界では大型加振試験などなど。
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