日本と韓国の造船メーカーを中心に、アンモニア燃料船の実現に向けた共同開発が鋭意進められている。日本郵船など4社は、2026年度にアンモニア燃料のアンモニア輸送船の実証航海を予定している。
アンモニア燃料はCO2を排出しない脱炭素燃料であるが、供給体制など本格的な実用化に向けての課題は多く、低コスト化を進めるなど経済的な成立性がキーとなる。
アンモニア燃料船/燃料供給船
アンモニア燃料船の実現には、エンジン開発で難燃性の①アンモニアの燃焼制御技術と②排気ガス中のNOx低減対策が必須である。また、③アンモニアの腐食性・毒性対策を施した燃料タンク・燃料供給システムの開発、④重油と比べて大きな燃料タンクが必要で、船体設計から見直す必要がある。
アンモニアは肥料用途などで既にサプライチェーンが存在するが、船舶燃料として大量の製造(輸入)・貯蔵・供給体制はこれからの課題である。アンモニアは激しい毒性を有するため、安全性を確保して社会的な認知を得ることが、アンモニア燃料船の社会実装・普及拡大につながる。
アンモニア燃焼エンジンは、ドイツのMANエナジー・ソリューションズ(MAN Energy Solutions)がアンモニア焚き2ストローク型と4ストローク型のエンジン開発を進めており、2024年までに大型外航船向け、2025年までに既存船向けに改造パッケージの実用化を目指している。
2020年4月、MANと日本の企業連合(今治造船、三井E&Sマシナリー、日本海事協会、伊藤忠エネクス、伊藤忠商事)はアンモニア燃料船の共同開発に合意し、2025年を目途にアンモニア燃料船の保有・運航や舶用アンモニア燃料の導入、燃料の供給設備も含めた統合型プロジェクトを展開する。
MANと三井E&Sマシナリーらが提供するデータを使い、今治造船が貯蔵タンクや燃料供給システムを搭載するアンモニア燃料船の開発、日本海事協会はアンモニア燃料船の安全性を評価する。伊藤忠エネクスは燃料の配給ネットワーク、伊藤忠商事はアンモニア燃料船を保有・運航する。
2021年11月、三菱造船、商船三井、名村造船所はアンモニアを燃料とする大型アンモニア輸送船の共同開発で合意した。現時点で、アンモニアは肥料原料としての利用が中心で海上輸送量も限定的なため、今後の海上輸送量の増大を目指している。
2022年7月、伊藤忠商事とロッテケミカルが水素・アンモニア分野での協業を発表した。①アンモニアの取引、②日本及び韓国市場でのアンモニアインフラ活用調査、③日本及び韓国でのアンモニア市場調査、④クリーンアンモニア生産設備への共同投資調査、⑤水素分野での協業可能性調査などを行う。
2021年10月、三井E&Sホールディングスは艦艇事業を三菱重工業に売却し、商船事業について常石造船が三井E&S造船を子会社にするなど造船業からの撤退を進め、2022年7月には船舶エンジンや、港湾クレーンを中期計画のコア事業とすると発表した。
既に、アンモニアや水素を燃料とするエンジン開発を進めており、アンモニア燃焼エンジンは2024年3月に完成する。また、同年3月には燃料電池駆動のゼロエミッションクレーンを市場投入し、東南アジアに加え、米国東海岸や欧州での事業拡大を進める。
2022年9月、日本郵船、ジャパンエンジンコーポレーション、IHI原動機、日本シップヤードの4社は、研究開発中の「アンモニア燃料を使った大型アンモニア運搬船」について日本海事協会から基本設計承認(AiP)を取得した。4社は2026年度の実証運航の実現を目指している。
現時点で、アンモニアを船舶用燃料として利用するための国際規則は存在しないため、4社はアンモニアを船舶用燃料として利用する際の安全性について、HAZID(安全性評価手法の一種)を通じてリスク評価を実施してAiPを取得している。
一方で、アンモニア燃料船の開発では、韓国の造船各社が積極的に進めている。
2020年7月、現代重工グループはアンモニア燃料船である総トン数:5万トン級のプロダクト船を、ドイツのMANエナジー・ソリューションズ、英国船級協会ロイド・レジスター(LR)と共同開発し、LRから基本承認(AiP)を取得した。2025年の商用化を目指している。
また、2021年9月には、排出ガス中のNOXを除去するアンモニア燃料供給システムのAiPを、韓国船級協会(KR)から取得した。
2022年7月、ベルギーのタンカー大手ユーロナブが、アンモニア燃料を使用する大型原油タンカー(VLCC)とスエズマックスタンカーの共同開発プログラムを、現代重工、LR、ノルウェー船級協会(DNV)と立ち上げている。
また、2020年9月、サムスン重工はアンモニア燃料船のアフラマックスタンカーでAiPを取得した。マレーシア海運大手のMISC、MAN、ノルウェーのヤラ・インターナショナルなどとアンモニア燃料船の共同開発を進め、独自のアンモニア燃料供給システムを開発し、2024年の商用化を目指している。
2021年3月、韓国船級協会(KR)、韓国の造船エンジニアリング企業のKMSとEMEC、シンガポール船社ナビゲイトは共同で、アンモニアと船舶用ディーゼル油(MGO:Marine Diesel Oil)の両方を燃料とする二元燃料機関を搭載するアンモニア燃料供給船を開発している。
日本郵船など4社は、2026年度にアンモニア燃料のアンモニア輸送船の実証航海を予定している。アンモニア燃料はCO2を排出しない脱炭素燃料であるが、供給体制など本格的な実用化に向けての課題は多いのが現状である。実用化には低コスト化を進めるなど経済的な成立性がキーとなる。
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