水素とアンモニアにはそれぞれ異なる利点と課題があり、現時点でいずれが優位な燃料であるかの判断は難しい。ただし、いずれも燃料としての最大の課題は、低コスト化にある。
また、水素・アンモニア燃料船では実用化における技術課題も多い。水素(H2)は火炎温度が高く燃焼速度が速いため大気中燃焼ではNOxの発生量が多くなりやすく、アンモニア(NH3)も燃焼時にNOxが生成されるため、いずれも低NOx燃焼技術の開発が必要である。
さらに、水素・アンモニアいずれも燃料貯蔵・燃料供給システムの開発が実用化の鍵を握っており、並行して安全基準の策定などの整備が望まれる。
開発トレンドは?
一般に水素燃料については、FCEVと同様に高圧水素タンクを搭載した小型水素燃料船の実現の可能性が高いとみられている。すなわち、航続距離に関する要求の低い比較的小型の沿岸・内航船では水素タンク搭載の水素エンジン船が最も現実的と考えらる。
2021年9月、ヤンマーが開発した燃料電池推進船の動力は、水素を燃料とするトヨタ自動車のFCEV「MIRAI(ミライ)」に搭載されている燃料電池と、水素タンクを船舶用にマリナイズしたシステムが採用されている。
今後、2025年までの早期の実用化を目指し、燃料電池システムを複数台連結させることによる大容量パッケージを開発し、38フィート以上の大型艇にも搭載できるように開発を進める。
2015年10月、ツネイシホールディングス・グループのツネイシクラフト&ファシリティーズと神原汽船、およびベルギー海運大手のCMBの3社は、ジャパンハイドロを設立し、2021年6月に水素/軽油混焼エンジンを2基搭載した水素燃料旅客船「Hydro BINGO」(総トン数:19トン)を竣工した。
2021年8月には、水素エンジンを搭載した水素燃料船について、川崎重工業、ヤンマーパワーテクノロジー、ジャパンエンジンコーポレーションの3社が合弁会社HyEngを設立し、中大型船を対象に開発を進めている。
2023年1月、川崎重工業は大型船舶用の水素エンジン開発を発表した。NEDO支援で2023年度にジャパンエンジンコーポレーション本社工場で実証設備を作り、ヤンマーパワーテクノロジーなども参画し、2024年度に水素貯蔵~水素燃焼の試験を開始し、2027年度に大型液体水素運搬船に搭載する。
エンジン起動時には通常の船舶用エンジンと同じ低硫黄重油を使うが、航行時は水素のみを燃料とする低速・中速・中高速エンジンの開発と、水素供給システムの実証実験を進める。実証設備には水素エンジンのほか、水素の貯蔵タンクや配管などシステム全体を設置する。
一方で、アンモニア燃料については、船舶エンジン大手のドイツMAN Energy Solutions(MAN、マンエナジーソリューションズ)が、2024年頃までのアンモニアエンジンの実用化を目指している。
2020年4月、MANはアンモニアエンジンを搭載した船舶について、日本の企業連合(今治造船、三井E&Sマシナリー、日本海事協会、伊藤忠エネクス、伊藤忠商事)との共同開発で合意。船舶開発だけでなく、保有・運航、アンモニア燃料導入、燃料の供給設備も含めた統合型プロジェクトである。
ところで、水素とアンモニアにはそれぞれ異なる利点と課題があり、現時点でいずれが優位な燃料であるかの判断は難しい。ただし、いずれも燃料としての最大の課題は、低コスト化にある。
水素もアンモニアも燃焼時にCO2を排出しないが、化石燃料が原料の場合は製造過程でCO2が発生するため回収・貯留の必要がある。また、水を原料に再生可能エネルギーで電気分解により水素を製造し、窒素と反応させてアンモニアを合成する検討も行われているが、プロセスが高コストである。
また、水素・アンモニア燃料船では実用化における課題も多い。水素は火炎温度が高く燃焼速度が速いため大気中燃焼ではNOxの発生量が多くなりやすく、アンモニア(NH3)も燃焼時にNOxが生成されるため、いずれも低NOx燃焼技術の開発が必要である。
さらに、水素・アンモニアいずれも燃料貯蔵・燃料供給システムの開発が実用化の鍵を握っており、並行して安全基準の策定などの整備が望まれている。
電力・水素・アンモニア燃料の棲み分け
図2には、海運会社である日本郵船のイメージする2030年代の電力・水素・アンモニア燃料の棲み分けを示す。大型高出力のコンテナ船、貨物輸送船、RORO船などはアンモニア燃料船で、中型の観光船や一般貨物船は水素燃料電池推進船、小型船舶は電気推進船である。
図3には、エンジンメーカーヤマハHDの電力・水素・アンモニア燃料の棲み分けイメージを示す。大型の外航船はアンモニア燃料船、中型の内航船やオフショア船は水素燃焼船、小型の沿岸航行船は蓄電池か燃料電池の電気推進船である。中小型漁船は機械推進エンジンを搭載したバイオ燃料船である。
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