再生可能エネルギーの導入拡大に対応するため、様々な電力貯蔵システムの開発が進められている。中でも、秒単位の応答が可能な「リチウムイオン電池」と大電力貯蔵が可能な「揚水発電」が、既に商用化されており早急な普及拡大が望まれる。
一方、さらなる経済性の追求から、「LAES」、「CO2バッテリー」、「ヒートポンプ蓄熱蓄電」、「水素電力貯蔵」などの研究開発の加速が期待される。
電力貯蔵システムとは
電力貯蔵システムの分類
変動型再生可能エネルギーの出力変動調整のために、様々な「電力貯蔵システム」が開発されている。電力貯蔵システムは、蓄えるエネルギーの形態から「機械的」、「熱的」、「電気化学的」、「電気的」、「化学的」な電力貯蔵方式に分類される。

「機械的電力貯蔵システム」は、揚水発電(PSH:Pumped-Storage Hydroelectricity)が水の位置エネルギー、圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES:Compressed Air Energy Storage)と液化空気エネルギー貯蔵(LAES: Liquid Air Energy Storage)は空気の膨張エネルギー、はずみ車の回転エネルギーを使ったフライホイールなどが実用化されている。
最近では、液化CO2の膨張エネルギーを使ったCO2バッテリーの検証も始まっている。
「熱的電力貯蔵システム」では様々な蓄熱媒体が使われ、水蒸気、溶融塩、レンガ、コンクリートなどを利用した顕熱蓄熱は太陽熱発電などで実用化されている。夜間電力貯蔵で実用化された氷蓄熱は潜熱蓄熱の代表例で、物質の相変態時の潜熱を利用する。化学蓄熱は化学反応で生じる発熱反応と吸熱反応を利用する。
また、余剰電力でヒートポンプを使い熱と冷熱を作り、それらを蓄熱してランキンサイクルで発電するヒートポンプ蓄熱蓄電(PTES:Pumped Thermal Electricity Storage) の検討が進められている。
「電気化学的電力貯蔵システム」は鉛蓄電池に始まり、NAS電池、レドックスフロー電池などの二次電池による「定置型蓄電池」が実用化されている。最近では高エネルギー密度のリチウムイオン電池が実用化されている。電力貯蔵システムとしてコンパクトで電気的な応答性に優れている。
「電気的電力貯蔵システム」はキャパシタが電荷であり、超電導(SMES:Superconducting Magnetic Energy Storage)は電流による貯蔵方式である。システムの規模と放出エネルギー時間率の関係から、再生可能エネルギー(太陽光、風力)の出力変動調整用としては不向きである。
「化学的電力貯蔵システム」は、水の電気分解で水素製造したり、電気で中間貯蔵媒体の有機ケミカルハイドライド、アンモニアなどを合成して貯蔵する方式が実証されている。中でも、次世代の水素エネルギー社会を考慮した水素電力貯蔵が注目されている。
ところで、各種の「電力貯蔵システム」は、システムの規模と放出エネルギー時間率の区分で特徴付けられる。大規模発電所向けには揚水発電が実用化されているが、変電所・分散電源などへの併設に関しては、既開発のNAS電池やレドックスフロー電池に加えて、リチウムイオン電池の実用化が進められている。

大規模発電所向けには、大電力貯蔵が可能な「揚水発電」が実用化されている。余剰電力で下部調整池の水を上部調整池に汲み上げ、電力需要に応じて水を落としてポンプ水車で水力発電を行う仕組みである。
変電所・分散電源や中小規模発電所向けには、海外で「CAES」が実用化されている。ドイツの電力会社RWEでは、余剰電力で圧縮機を使い地下の岩盤内に、カナダのエネルギー開発企業ハイドロストアでは海中の風船内に圧縮空気を貯蔵し、電力需要に応じてガスタービン駆動に供給して発電する仕組みである。
「LAES」は極低温エネルギー貯蔵(CES)とも呼ばれ、CO2と水蒸気を除去した空気を-190℃まで冷却液化(体積で1/700程度)して断熱タンク内に貯留し、気化時の膨張エネルギーでタービンを駆動する。CAESよりコンパクトで、空気の相変化過程で生ずる冷熱と温熱を利用して全体のエネルギー変換効率を高められる。
中小規模発電所に分類される海外の集光型太陽熱発電所においては、集光で得られた太陽熱を「顕熱蓄熱(溶融塩蓄熱、コンクリート蓄熱など)」することで、出力平準化が行われている。
変電所・分散型電源向けの併設で、系統安定化と負荷平準化を目的に大型二次電池が実用化されている。当初、原子力発電所の夜間電力貯蔵を目的に開発された「NAS電池」が、使用実績が豊富な鉛蓄電池に比べてエネルギー密度が高くてコンパクトなため実用化された。
また、同じ目的でエネルギー密度は低いが稼働温度が低い「レドックスフロー電池」が開発され、低コスト化が進められた。現在、いずれも再生可能エネルギー電源向けとして実用化されている。
分散型電源向けの併設で、「水素電力貯蔵システム」の実証試験が行われている。余剰電力を使い水電解で水素製造(Power to Gas)し、必要な時に水素燃料電池で発電する仕組みである。
他のシステムに比べて月~季節と長期間にわたる電力貯蔵が可能であり、最近では洋上風力発電所と組み合わせた大規模システムの開発・実証が進められている。
一方、ニッケル水素電池とリチウムイオン電池は、ハイブリッド自動車(HV)、プラグイン・ハイブリッド自動車(PHV)、電気自動車(EV)の車載用蓄電池として実用化が進められたが、2011年3月の東北大震災を契機に、多くのメーカーが家庭用/業務用の定置用蓄電池として商品化している。
特に、低コスト化が進んだ「リチウムイオン電池」は高エネルギー密度で、稼働温度が低く、大電力充放電が可能なため、発電所向けに大規模電力貯蔵の実用化が進められている。
長期電力貯蔵システムの開発動向
2024年11月、経済産業省が主催する「第4回定置用蓄電システム普及拡大検討会」で、三菱総合研究所が「蓄電池以外のエネルギー貯蔵システム(LDES)の技術動向・課題整理」の調査結果を報告している。定置用蓄電池の普及拡大をめざす中で、蓄電池以外の電力貯蔵システムの開発動向を調査した。
調査の結果、実証支援が英国と米国、導入支援がオーストラリアとスペイン、税額控除がカナダなど、各国で支援の方法や対象となる技術は異なるが、長期電力貯蔵(LDES:Long Duration Energy Storage)システムの導入促進に向けた動きが世界的に拡大している。
既に、技術的に完成している「重量蓄電」、「CAES」、「LAES」は商業運転レベルにあるが、新しく提案されている「CO2バッテリー」、「岩石蓄熱」、「ヒートポンプ蓄熱蓄電(PTES)」、「水素電力貯蔵」などは実証試験レベルにあり、商用化は2020年代後半以降と想定されている。

現在商用化が進む「リチウムイオン電池」は秒単位の応答性に優れ、実用化されて久しい「揚水発電」は大規模電力貯蔵が可能である。これらを基準として各種LDES技術のベンチマークが行われている。
秒単位の応答性に関して、「重量蓄電」が中国において実証試験が行われているが、現時点では設置コスト(CAPEX、単位容量当たりの資本支出)が高価であり、今後の開発が期待されている。
中規模電力貯蔵に関しては、設置コストについて「CAES」の優位性が目を引く。「CAES」は国内立地に制限があるため、現在実証レベルにある「LAES」や「CO2バッテリー」が期待される。
好立地を有するドイツや米国ではCAESの大規模実証が進み、2020年代に入り中国、オーストラリアで大規模CAESの建設計画が進められている。
将来的には、設置コストの低減可能性が高い「ヒートポンプ蓄熱蓄電」や、水素社会とのマッチングに優れた「水素電力貯蔵」が期待されるため、今後も継続的な開発が望まれる。

2022年2月、三菱重工業は高砂製作所に水素発電実証設備「高砂水素パーク」の整備を発表。2023年をめざして既存実証拠点に水素製造装置(アルカリ水電解と高温水蒸気電解)と水素貯蔵設備を追設し、2025年の水素ガスタービン商用化に向け、1650℃級大型ガスタービンを用いて水素30%混焼発電を検証する。
2023年1月、広島ガスと住友重機械工業は、LAES商用実証の業務提携契約を締結。広島ガス廿日市工場敷地内に、住友重機械工業が「LAES商用実証プラント」を設置して実証運転を行う。
住友重機械工業が2020年2月に出資した英国ハイビューエンタープライズのLAES技術を活用した国内初の商用実証プラントで、空気を液化する冷却プロセスに廿日市工場のLNG冷熱を活用する。
2024年10月、日本ガイシは小牧事業所で生産する海外向け「NAS電池」を、ドイツBASFグループと共同開発した新型「NAS MODEL L24」に切り替える。出力低下を1%未満/年に抑え、トラックなどで運びやすいコンテナ型とした。国内でも新型電池の認可を得た後、2026年度中の販売開始をめざす。
既に、ドイツの水素製造会社HH2Eから受注しており、グリーン水素製造に使われる。台湾でも公営電力会社の台湾電力向けの受注が決まり、半導体企業の電力需要拡大に対応し再エネ普及に貢献する。
2024年11月、スタートアップのESREE Energyは、ヒートポンプ蓄熱蓄電(PTES)システムのパイロットプラント実証事業を広島県竹原市内で行うと公表。並行して、PTESの商用機の設置場所を探索する。
2024年12月、住友電気工業は、新潟県柏崎市が出資する地域新電力の柏崎あい・あーるエナジーにレドックスフロー型の蓄電池システム(出力:1MW、容量:8MWh)を納入した。系統網に直接接続され、小売電気事業者としての需給バランシング改善に用いる。
2025年1月、東芝エネルギーシステムズ、中部電力、新東海製紙、島田市は、「岩石蓄熱」商用化に向けた技術実証で連携協定を締結。島田市にある新東海製紙の工場に直方体蓄熱装置(4mH×11mL×4mW、蓄熱容量:10MWh、600℃程度)を設置して、2026年度に実証試験を行い、2027年度の商用化をめざす。
寿命が10〜15年とされる蓄電池と比べて、天然の岩石蓄熱は装置寿命も長く低コスト化が可能である。2019年にはドイツのシーメンスが複数の電力会社と大規模実証プラントを稼働させ、米国新興企業のロンド・エナジーはレンガを使う蓄熱システムの開発を進めている。
ただし、実用化に向けて蓄熱した岩石から温度や圧力を一定に保ち放熱を制御するのが難しく、電力への変換ロスは6〜7割に上るため、コンビナートや温水プールなどでの熱利用に有効。
再生可能エネルギーの導入拡大に対応するため、様々な電力貯蔵システムの開発が進められている。中でも、秒単位の応答が可能な「リチウムイオン電池」と大電力貯蔵が可能な「揚水発電」が、既に商用化されており早急な普及拡大が望まれる。
一方、さらなる経済性の追求から、「LAES」、「CO2バッテリー」、「ヒートポンプ蓄熱蓄電」、「水素電力貯蔵」などの研究開発の加速が期待される。
コメント