ベロブスカイト型太陽電池の問題点?(Ⅲ)

再エネ

 開発段階で日本が先行した次世代太陽電池のペロブスカイト型太陽電池(PSC)であるが、量産への投資に消極的な日本企業を尻目に中国企業が量産工場を相次いで稼働させている。シリコン系太陽電池の二の舞を演じて、日本は同じ失敗を繰り返すことになるのか? 

海外メーカーのPSC事業化動向

欧州メーカーの動向

ポーランドのサウレテクノロジーズ

 2021年6月、日本のHISが出資するポーランドのSaule Technologies(サウレ・テクノロジー)が、PSCの商業生産の開始を発表した。ブロツワフの工場で、屋内使用のIoT端末向け製品の量産化をめざしている。インクジェット印刷プロセスを開発して、フィルム基材型で変換効率:10.5%(面積:15.74cm2)を実現した。
 コロナ禍で量産は遅れたが、2023年内に少量ではあるが商用化を開始し、生産能力:100MWの量産ライン設置をめざしている。2018年12月から、長崎ハウステンボスの「変なホテル」でも展示PRを始めた。

 商業生産開始と同時に、筆頭株主のポーランド太陽電池設置・サービス大手のコロンブスエナジー、欧州不動産管理大手のMVGMと業務提携契約を締結し、将来的に欧州や日本に拠点を置くとしている。

図8  長崎ハウステンボス「変なホテル」でのPSCの展示風景

英国のオックスフォード・フォトボルテックス

 Oxford Photovoltaics(オックスフォード・フォトボルテック)は、2010年に設立。2020年にシリコン系太陽電池とのタンデム型PSCで29.52%の変換効率(1㎝角のセル)を実現し、2021年7月にドイツのブランデンブルク工場をアップグレードしてタンデムセル(変換効率:26.8%、166mm角)の製造ライン構築を発表した。
 2024年から本格的な量産を開始し、100MW規模の量産ライン設置をめざしている。Equinor(エクイノール)、Legal and General Capital Legal の他、General Capital、Goldwind、Meyer-Burgerなどからも出資を受けている。最初のターゲット市場は、住宅用屋上設置の太陽電池である。

 また、Fraunhofer ISEと共同で、実用サイズ(1.68m²)の両面発電型PSC/Siタンデムモジュールで変換効率:25%を達成し、出力:421Wを実現した。導電性接着剤を使用したセルの相互接続や、低温封止プロセスなど量産に適用可能な技術を開発している。

中国メーカーの動向

 中国はPSC量産で先行している。スタートアップ企業を中心に、2023年にも100MW規模の量産を開始し、
2024年内に1GW規模の大面積セルの生産体制を整備する動きが出ている。シリコン系太陽電池で圧倒的なシェアを獲得した中国メーカー大手は、高い変換効率が得られるタンデム型PSC開発に注力している。

中国の大正微納科技(DaZheng Micro-Nano Technology)

 2012年に設立した。2020年にガラス基材型で変換効率:21%(3mm角セル)実現し、2022年7月、江蘇省でPSC大型パネルの量産を開始したフィルム基材型のフレキシブルモジュールの製造を進めており、パナソニックや富士フィルムなど多数の日系メーカーと提携している。

 2023年7月、100MW規模の生産ライン構築に向けた調印式を開催し、大量生産に向けて動き始めた。2024年1月、モジュール寸法は0.7m×1.2mに達し、耐久性は10年程度、変換効率:13~15%である。工場の雨よけで電動キックボードに給電する実証実験を行っており、2024年中に市販を開始する。

中国の仁爍光能(Renshine Solar)

 2021年12月に設立した南京大学発のスタートアップ企業。2022年末にPSCを2層積層したオールPSC積層型セル(面積0.0489cm²)で変換効率:29.1%を達成した。2023年2月には年産10MW規模の開発ラインの運用を開始し、研究室内では変換効率:30%以上を実現した。

 2024年3月、複数の中国大手投資機関から数億元(数十億円超)を調達し、2023年4月に150MW規模の生産工場建設に着工し、2024年1月には竣工して操業を開始した。同工場では、2024年中に1.2m×0.6mのPSCモジュ-ル(変換効率:20%)を量産する計画である。

中国のGCL Perovskite

 太陽光パネルメーカー大手GCLの子会社で、2019年に設立した。2021年に100MW規模の量産ラインを建設して、2×1mのPSCモジュールの生産を開始した。変換効率:18%を達成し、2024年には蘇州市崑山ハイテク工業団地ラインに100億円を投資して、生産能力を2GWに引き上げる計画を発表した。

 また、PSC/Siタンデムの開発も進めており、40×60cmのタンデムモジュールで変換効率:26.3%を実現している。今後、2.4×1.2mサイズのタンデムモジュールで変換効率:27%をめざす。

 開発段階で日本が先行した次世代太陽電池のペロブスカイト型太陽電池(PSC)であるが、量産への投資に消極的な日本企業を尻目に中国企業が量産工場を相次いで稼働させている。シリコン系太陽電池の二の舞を演じて、日本は同じ失敗を繰り返すことになるのか? 
 政府は研究開発段階の支援のみならず、企業における事業推進段階においても十分な指導と支援を行い、世界で通用する大企業を育成する必要がある。1企業だけの損得勘定に任せれば、リスク回避によりPSCについても、早期の縮小・撤退が待っている。

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