ベロブスカイト型太陽電池の問題点?(Ⅰ)

再エネ

 最近、シリコン系太陽電池の変換効率20%を超えたことで、ペロブスカイト型太陽電池(PSC:Perovskite Solar Cell)への関心が急速に高まり、世界中で研究開発が進められている。安価なシリコン系太陽電池で世界を席捲している中国メーカーは、再びPSCでも量産化で先行する気配が見えてきた。

ベロブスカイト型太陽電池(PSC)とは

PSCの特性

 PSCとは、2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授らが発表した太陽電池の一種で、色素増感型太陽電池の光増感剤の代わりに、ペロブスカイト型結晶構造の有機無機混合材料(ヨウ化鉛メチルアンモニウム: (CH3NH3)PbI3を採用している。

図1 ベロブスカイト型結晶構造とPSC断面組織

 PSCは、フィルムなどの上に薄く塗布して製造できる。そのため光透過性があり、従来のシリコン系太陽電池に比べて重さが1/10程度と軽量で、量産化が進めばコストが1/2程度に下がると期待されている。
 可撓性のあるフィルム基材に塗布した場合は、太陽電池として折り曲げが可能で、軽量であるために従来は設置が困難であった耐荷重の低い工場屋根や、湾曲した壁面にも設置できる。
 また、雨天時や室内の弱い光でも発電できる。主原料であるヨウ素(I)は日本が世界2位の生産国で、エネルギーセキュリティ面からも優れ、シリコン系太陽電池に比べて製造・運搬時のCO2排出量が少ない。

 しかし、PSCはホール輸送層、光電変換層、電子輸送層に有機無機混合材料を使用するため、水分、酸素、光による劣化が問題で、屋外設置の場合は5〜10年程度の寿命で、シリコン系太陽電池の半分以下とされており、 今後の鍵を握るPSCの耐久性を高める研究開発が進められている。

図2 ベロブスカイト型太陽電池セルの層構造の一例

 ITO-PEN(インジウム−スズ酸化物付ポリエチレンナフタレート)の導電性プラスチックフィルムの間に、ホール輸送層に導電性プラスチックのポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とカーボンブラックの複合材料層、光電変換層にベロブスカイト層、電子輸送に酸化チタン(TiO2)を挟み込む構造が、ベロブスカイト型太陽電池の作り方で紹介されている。

PSCの耐久性向上に関する最近の研究開発:
■2023年12月、岡山大学は、PSCの寿命を2〜3倍に延ばせる技術を開発。光電変換層に有機化合物のベンゾフェノンを加え、ベロブスカイト結晶を大きく成長させることで電子の流れを良くし、変換効率と共に耐久性の向上を実現した。2030年頃の実用化をめざしている。
■2024年2月、名古屋大学とレゾナックはPSCの寿命を2〜4倍に延ばす技術を開発電子輸送層に着目してフラーレンに酸素原子などを導入して劣化を抑え、耐久性を約20年に伸ばすことに成功した。2027年頃の実用化をめざしている。
 カナダのトロント大学などは、光電変換層とホール輸送層を強力につなぐため、新たに有機化合物を加えて耐久性を向上している。温度85℃、湿度65%の環境で実験を行い、1500時間後も変換効率は約20%と当初の9割を維持した。有機化合物を加えないと400時間後に80%未満に低下する。

PSCの分類

 現在、国内では積水化学工業を始め、パナソニックHD、東芝、アイシン、カネカ、スタートアップのエネコートテクノロジーなどが、2024年以降の事業化をめざして研究開発を加速している。

 開発メーカーの多くはフィルム基材型PSCの開発を進めており、アイシンとパナソニックは耐久性に優れるガラス基材型での開発を進めている。また、シリコン系太陽電池を基材とするタンデム型については、高い総合変換効率が期待できるため東芝が検討を進めており、パナソニックも検討を表明している。

表1 PSC開発を進めている代表的な国内メーカーの開発現状

 京都大学発スタートアップ企業の「エネコートテクノロジーズ」とは:
 2019年からIoTセンサーに搭載するPSCモジュールのサンプル出荷を開始。ミニモジュール(75mm角)では変換効率20%超、G2サイズ(360×465mm)でも18%前後を実現しており、パイロットラインを整備済みで、2024年中に量産プロセスを確立するとしている。
 2022年にはマクニカと共同でPSC搭載のCO2センサー端末を開発し、2023年に東京都と実証事業に関する協定を締結した。現在、第2本庁舎でPSC搭載のIoTセンサーの実証試験を進めている。
 また、トヨタ自動車と共同で車載用PVの開発に着手したほか、三井不動産レジデンシャルとマンションでの実証試験を予定。2024年春から、日揮と共同で北海道の物流施設でも実証試験を開始する。

 台湾の鴻海精密工業の子会社であるシャープもPSC開発を進めている。フィルム基材型で大面積化した用途と、シリコン系太陽電池に積層して変換効率を高めるタンデム型の開発を並行して進めている。
 大面積化では、ガラス基材型でG4サイズ(880×660mm)のシースルー型PSCモジュール(出力:20W)を試作。また、2026年にはフィルム基材型で変換効率20%程度のフレキシブルモジュールの開発、タンデム型では、2026年までにPSC/シリコン系太陽電池で30%超の変換効率をめざしている。

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