石炭火力でのバイオマス混焼問題(Ⅰ)

再エネ

 現在、国内では「大型石炭火力発電所でのバイオマス混焼」が進められている。CO2排出量の削減対策も含めた電力安定供給のために重要な役割を果たしており、発電事業者の重要な収益源にもなっている。

 一方、海外先進国を中心に「脱石炭火力発電所」が進められており、国内外の環境NGOからは、日本が進める「大型石炭火力発電所でのバイオマス混焼」に関して否定的な意見が相次いでいる。

 なぜ石炭火力発電所でバイオマス混焼を行うのか?今後、バイオマス発電は、どのように展開するのか?環境NGOからの批判内容を明らかにして、バイオマス発電の未来を予測する。

石炭火力発電所でのバイオマス混焼の動き

 バイオマスは生物起源による有機物資源である。これを燃やして、従来の火力発電システムにより電力を得る。バイオマスは生産時にCO2を固定化しており、それを燃やすして発電することでCO2を発生するが、循環利用によりCO2の総量は増加しないため「カーボンニュートラル」が成立するとされる。

 そのため、バイオマス発電は地球温暖化対策に有効な再生可能エネルギーと位置付けられている。この点が、他の再生可能エネルギーと大きく異なる。ただし、循環利用のために燃やしたバイオマスに相当する分は、植林・栽培などで補うことが前提であることを忘れてはならない。

なぜ石炭火力発電所で混焼を行うのか?

  経済産業省によると、2020年度の国内の総発電電力量は1兆82億kWhに達する。その内、火力発電が占める割合は72.7%と高く、再稼働が進まない原子力発電は5.6%、固定価格買取制度(FIT)などで推進する再生可能エネルギーは21.7%に留まっている。
 依然としてCO2を排出する火力発電への依存度が高いのが国内の現状で、総発電電力量に占める割合は石炭火力発電は30.8%、LNG火力発電は33.7%、石油火力発電は8.2%である。

 一方、CO₂排出係数は、石炭火力発電が943g-CO₂/kWhと最も高く、石油火力発電が738g-CO₂/kWh、LNG火力発電が474g-CO₂/kWhである。そのため、2016年11月のパリ協定の発効後、欧米先進国を中心に始まったのが脱石炭火力発電所であり、国内でもCO2排出量の削減に向けた対策が必要となった。

 石炭火力発電所を保有する大手電力会社、鉄鋼・製紙会社などは、「石炭燃料の転換」「発電所の廃止」の2者択一を迫られることになる。現時点では、石炭火力発電所への「CO2回収・貯留(CCS)装置の設置」は経済的に成り立たないためである。

 多くの発電事業者が、固定価格買取制度(FIT)を利用した「バイオマス混焼」 を選択した。大規模な装置改造を伴わない石炭火力発電所のバイオマス混焼は、発電事業者がとりあえず対応できる有効なCO2排出量の削減方法で、バイオマス混焼分は20年間にわたり安定したFIT収益源となる。

図1 木質バイオマス17%の混焼を行うJERAの武豊発電所5号機
(出力:107万kW、超々臨界圧(USC)石炭火力) 出典:JERA

バイオマス混焼は非効率石炭火力発電所の延命策?

 2015年、経済産業省は「省エネ法」の見直しに際し、継続的なバイオマス活用により化石燃料消費の削減を促すため、バイオマス混焼を石炭による火力発電と位置付け、全体のエネルギー投入量からバイオマス分を差し引いて計算した発電効率の適用を示した。
 混焼率を上げるほど見掛け上の発電効率は上昇し、化石燃料消費(CO2排出量)を抑えることができる。

図2 バイオマス混焼による発電効率の評価方法について  出典:資源エネルギー庁

  既存の石炭火力発電所での一般的な木質バイオマスの混焼率は1~3%(熱量比)に留まっていたが、その後、粉砕した木くずを円筒状に固めて炭化処理した木質バイオマス燃料(トレファイドペレット、ブラックペレットなど)が市販され、専用ハンドリング設備を使わずに混焼率が最大30%にまで高められた。

 その結果、石炭火力発電所でのバイオマス混焼のFIT認定が急増した。2017年4月に改正FIT法が施行され大容量機(出力:2000kW以上)について、10月以降に32円/kWh➡21円/kWhと買取価格が引き下げられ、2020年4月に大容量機(1万kW以上)は入札方式に移行した。電気料金の高騰を防ぐためである。

 2020年3月、「エネルギー供給構造高度化法」で中間目標値が設定された。すなわち、年間販売電力量が5億kWh以上の電気事業者に対し、2030年度に非化石電源比率44%以上にする」という目標が定められた。電力事業者は非化石電源比率を引き上げる努力義務が生じたのである。

 加えて、2020年7月、経済産業省は国内石炭火力発電所の計140基を対象に、1990年代前半までに建設された114基の非効率発電所のうち100基程度を、2030年までに段階的に休廃止すると公表。非効率石炭火力発電とは、亜臨界圧(Sub-C、発電効率:38%以下)と超臨界圧(SC、発電効率:38~40%程度)を指す。

 当初、石炭火力発電所を有する発電事業者は、バイオマス混焼によりCO2排出量の削減を進めると共に、バイオマス混焼分をFITにより収益としていた。
 しかし、2020年に「エネルギー供給構造高度化法」「非効率石炭火力発電所の段階的な休廃止」の方針が出たことで、バイオマス混焼は混焼率を上げることによる見掛けの発電効率向上により、非効率石炭火力発電所(Sub-C、SC)の休廃止の対象からの回避に有効な手段となった。

改正省エネ法による非化石燃料への転換促進

 2023年4月施行の「改正省エネ法」では、法律名も「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」と変え、省エネ強化と共に、非化石燃料への転換促進を目的とした。
 特に、従来の「省エネ法」では、対象とするエネルギーは「化石由来エネルギー(燃料、熱、電気)」のみであったが、「改正省エネ法」では、非化石エネルギー(太陽光由来の電気、バイオマス、水素・アンモニアなど)も省エネの対象となった。 

 石炭火力発電は発電効率目標の強化(41%➡43%に引き上げ)などで、安定供給や地域実情に配慮しながら、非効率石炭火力のフェードアウト(kWh削減)と高効率化をめざし、非化石燃料への転換促進のためにバイオマス混焼への配慮措置と同様の発電効率の算定法がアンモニア・水素の混焼にも適用できるとした。

  まずは水素・アンモニアの需要を創出し、供給拡大や価格低下、インフラ整備を推進することが重要とし、化石燃料由来のグレーアンモニアとグレー水素も非化石エネルギーと定義。ただし、将来的には燃料の由来(クリーンかグリーン)に応じて評価に差を設けることを検討する。

図3 改正省エネ法による規制的措置(2021年4月9日)  出典:資源エネルギー庁

 2023年4月の「改正省エネ法」により、バイオマス混焼に加えてアンモニア・水素の混焼も見掛けの発電効率向上により、非効率石炭火力発電所の休廃止の回避に有効な手段となった。特に、非化石燃料への転換促進のためとして、化石燃料由来のグレーアンモニアとグレー水素の使用を認めたことは、今後も議論の的になる。

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