「2050カーボンニュートラル」の実現に向け、既設の大水力発電所の「経年的な発電効率の低下対策」と「老朽設備の更新によるリパワリング」は喫緊の課題である。大手電力会社を巻き込んだ新設・更新の長期計画の策定とその遂行は不可欠である。
一方、地産地消の分散電源として中小水力発電の期待度は高い。特に、小水力発電は研究開発段階にあるものも多く、固定価格買取制度による継続的な推進と支援が必要である。
水力発電の抱える問題
固定価格買取制度(FIT)による再生可能エネルギー導入の仕組みは徐々に出来上がったが、水力発電設備の累積導入量は頭打ちの状況にある。これはFITで推進している中小水力発電が出力:3万kW以下であり、水力発電の総設備容量:約5000万kWに比べて寡少なためである。
一方、重要な問題点は、水力発電設備の累積導入量が微増であるにも関わらず、近年の水力発電電力量が減少していることである。最近では、2015年の871億kWhをピークに、2022年は769億kWhまで減少しており、第6次エネルギー基本計画の目標値である1023~1034億kWhの達成が見通せない。
「なぜ水力発電の発電電力量は増えないのであろうか?」
この原因としてあげられるのが、「既設水力発電所の老朽化による出力低下」である。国内の大水力発電所(出力:5万kW以上、85発電所)の運転開始時期は1960~1980年に集中し、運転期間が40~60年を経過して老朽化している可能性は高い。すなわち、水車部品の腐食や土砂摩耗などによる水力性能の低下である。
短中期的な水力発電の推進策
水力発電所の出力を維持するためには、定期的な点検に基づく修理と部品交換が重要である。国内の大水力発電所(出力:5万kW以上、85発電所)は大手電力会社が保有しており、一部で老朽化更新とリパワリングが始まっているが、まだまだ十分とはいえない。
大水力発電所の新設の立地が少ない現状を考えると、2030年をめざした既存の大水力発電所の老朽化対策や設備更新が必須であり、国内の大水力発電所(出力:5万kW以上、85発電所)を対象とした「リパワリング」の義務化が発電電力量の向上には最も有効である。
ところで、大手電力会社の公表している再生可能エネルギーの開発目標はいずれも低いのが現状である。「2050カーボンニュートラル」に向けて、大型石炭火力発電所を保有する大手電力会社に対し、より高い再生可能エネルギーの導入を義務付ける必要がある。
長期的視野に立つ次世代水力発電の開発
大規模水力発電所(出力:5万kW以上)を新設するには、「10年以上の期間」と「多額の工事費用」を要する。大規模水力発電所の維持・管理にも、これまでに培ってきた技術に基づく長期計画とその遂行が不可欠である。そのため、大手電力会社などを巻き込む動きが必要である。
将来に向けて、電力貯蔵を必要としないベースロード電源として水力発電の期待度は高い。そのため、政府は国内での水力発電の開発に関して「投資に見合う十分な収益性を明確に示す」必要がある。これが明らかでなければ、開発に10年以上を要する水力発電への民間企業からの積極的な投資は望めない。
一方、2012年7月、出力:3万kW未満の中小水力発電を対象に、固定価格買取制度(FIT)が導入された。この制度は、2019年頃から注目を集めている。太陽光発電と風力発電のFIT買取価格の引き下げにより、中小水力発電では有利な条件で売電できるようになったためである。
将来に向け、地産地消の分散型電源として中小水力発電への期待度は高い。特に、小水力発電については未だ実証段階の域を出ていないため、FIT買取価格の引き下げは慎重に行う必要がある。
環境省が示す中小水力発電の導入ポテンシャルが普及レベルの目安と考えられる。すなわち、北海道電力(156万kW)、東北電力(498万kW)、東京電力(244万kW)、北陸電力(300万kW)、中部電力(312kW)、九州電力(107kW)である。まだまだ、水力発電に伸びる余地はある。
「2050カーボンニュートラル」の実現に向け、既設の大水力発電所の「経年的な発電効率の低下対策」と「老朽設備の更新によるリパワリング」は喫緊の課題である。
また、大水力発電所は電力貯蔵を必要としないベースロード電源として期待度が高く、大手電力会社を巻き込んだ新設・更新の長期計画の策定とその遂行は不可欠である。
一方、地産地消の分散電源として中小水力発電の期待度は高い。特に、小水力発電は研究開発段階にあるものも多く、固定価格買取制度による継続的な推進と支援が必要である。
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