なぜか伸びない水力発電(Ⅶ)

再エネ

 2012年7月に導入された固定価格買取制度(FIT)では、中小水力発電の買取価格が従来の3倍近くに設定されたことで、自家発電用の水力発電所を保有する企業が売電用水力発電所に大幅改修する動きが始まった。

 一方、小水力発電システムは、設備導入コストに比べて売電収入を十分に得られない場合がある。特に、低落差・少流水量の場合には発電量が不安定になり、長期の採算性に大きな影響を及ぼす。そのため、低落差・少流水量でも安定して発電できる各種の水力発電システムが開発が進められている。

国内における水力発電の開発動向

大水力発電所向けの技術開発

 多くの水力発電所は山間部などの交通が不便な立地であるため、無人運転による電力供給が行われ、熟練作業者による定期的な保守・点検で維持管理されている。近年、既設水力発電所のデジタル技術の活用による「遠隔監視」や「予兆診断」の導入「保守・点検業務のスマート化」が進められている。

  2022年3月、日立三菱水力と日立製作所、日立産機システムは、岩手県企業局の水力発電所「四十四田発電所(1967年稼働、出力:1.51万kW)」の保守・点検業務について、IoTやAI技術、現場メーターデータセンシングなどデジタル技術を活用したスマート化実証(第1フェーズ)を完了したと発表。
 2022年度には、保守・点検業務の実際の運用における安全性・信頼性の担保や、日立グループのノウハウの横展開(第2フェーズ)を実施した。2023年度以降に得られた成果を、国内外の水力発電所へ展開する。

 2023年12月、中部電力とTSUNAGUツナグ Community Analytics(TCA)は、AIを活用して水力発電所の最適発電計画の策定を支援するシステムを開発した。ダムへの雨水流入量の予測精度を高め、最適発電計画で運用することで、年間2%程度(水系全体で最大約3,000万kWh/年)の増電が期待できる。
 両社は、2024年度中の飛騨川水系での本格運用を皮切りに、他水系においても本システムの導入を進め、CO2を排出しない水力発電の発電電力量の増強に取り組むとしている。

中小水力発電事業への参入

 2012年7月に導入された固定価格買取制度(FIT)では、中小水力発電の買取価格が従来の3倍近くに設定された。そのため、自家発電用の水力発電所を保有する企業が、売電用に大幅改修する動きが始まり、異業種分野からの中小水力発電事業への参入表明も相次いだ。

■2013年6月、昭和電工(現レゾナック)東長原事業所は、会津若松市の水力発電所「湯野上発電所(1937年稼働、出力:7200kW)の大幅改修を発表。改修費用は、FIT買取価格増により数年で回収できる。
■2015年4月、王子ホールディングスと伊藤忠エネクスは、電力小売り事業参入のため「王子伊藤忠エネクス電力販売」を設立、王子製紙保有の10カ所の水力発電所で更新を進める。
■2017年11月、大和ハウス工業は中小水力発電に進出することを表明。東芝、坂本土木と合弁で「DTS飛騨水力発電」を設立し、飛騨市宮川町に水力発電所(出力:2000kW)を建設して売電を開始。大和ハウス工業は、既に太陽光や風力発電所を運営して売電を行っている。
■2019年1月、清水建設は中小水力発電事業への参入を表明、2030年までに国内10カ所程度で発電所(合計出力:1万kW)の開発を発表した。
■2019年8月、チッソの事業子会社JNCは、熊本県上益城郡の流れ込み式水力発電所である「目丸めまる発電所(出力:5700kW)」の水車・発電機を更新し、認可取水量を変えずに出力:5900kWへ増強した。
■2019年12月、王子製紙は、苫小牧工場の水力発電設備(出力:1.9万kW)を設備更新し、売電事業を始めると発表した。 
■2021年8月、旭化成は、宮崎県高千穂町の「水ヶ崎発電所(1950年稼働、1.8万kW)」の大規模改修を発表。水車・発電機の更新で1.9万kWに増強し、2022年10月に工事開始、2025年4月の稼働をめざす。
 同社は五ケ瀬川流域で9カ所の水力発電所、合計出力:5.638万kWを保有。いずれも稼働から70年以上経過しており、大規模改修が必要で6カ所目の更新である。
■2022年7月、イビデンエンジニアリングが、大垣市の「上石津時かみいしづとき水力発電所(1976年廃止、出力:153kW)」の再生を発表。水路流れ込み式で約6億円で建物や発電機などを一新し、2024年4月の稼働をめざす。

図16 大規模改修が行われている旭化成の水ケ崎発電所(宮崎県高千穂町)

小水力発電システムの開発動向

 小水力発電システムは1機当たりの発電量が少なく、設備導入コストに比べて売電収入を十分に得られない場合がある。特に、低落差・少流水量の場合には発電量が不安定になり、長期の採算性に大きな影響を及ぼす。そのため、低落差・少流水量でも安定して発電できる各種の水力発電システムが開発されている。
 実証試験を終えて一部で商品化が始められているが、本格的な適用はこれからである。

図17 代表的な小水力発電システム
閉鎖型小水力発電システム

 明電舎は、小水力可変速発電システム」を開発した。永久磁石式発電機(PMG)をコンバータ(CNV)制御することで、クロスフロー水車の落差変動に合わせて回転速度を変化させ、高効率運転を可能とした。

 川崎エンジニアリングは、「発電機一体型リング水車」を開発した。ガイドベーンで水流を水車(ランナ)に導き、永久磁石を埋め込んだランナが水流により回転して発電する。ランナと発電機を一体構造としてコンパクト化を実現し、既設の狭い配管スペースにも設置を可能とした。

 イームル工業は、「水中タービン発電機(出力:40~60kW)」をスウェーデンのポンプメーカーから独占ライセンスを取得して製造。水車と発電機を一体化して縦パイプ内に吊り下げた状態で設置する。2014年5月には、明電舎と連携し、可変速発電技術を組み込んだ小水力発電機を展開している。

 ダイキン工業は、上水道の水流エネルギーで発電する「管水路用マイクロ水力発電システム」を開発。発電機とコントローラーを一体化し、配管に接続した水車の上部に配置する縦型構造である。2022年7月、新潟県上越市にある柿崎川浄水場で、落差34.7mを利用した発電事業をスタートしている。

 三相電機とアシアティック・ジャパンは、「小型水力発電ポンプ」を共同開発。ダイキン工業と同様、ポンプを水流で逆方向に回転させて発電を行うインライン型ポンプ逆転式発電機である。出力:200W(有効落差:10~12m、流量:0.005m3/s)から、750W(有効落差:18.5~21m、流量:0.0075m3/s)をラインアップしている。

 デンヨーは、「超小型マイクロ水力発電装置」を商品化した。クロスフロー水車と永久磁石発電機の一体構造で、有効落差:26m、最大流量:0.04m³/sで、最大出力:5kWを実現した。専用インバータを組み合わせ、流量が変化しても出力周波数と電圧を一定に保持し、24時間の安定供給を可能としている。

 東北小水力発電と秋田県産業技術センターは、「管路用チューブラ式プロペラ小水力発電機」を商品化した。固定プロペラとしてランナの回転数を変化させる可変速制御を行い、低コスト・高効率を実現。有効落差:10~30m、流量:0.02~0.04 m³/sで、出力:3~200kWに対応している。

 合同産業とリコーは、上水道施設を利用したマイクロ水力発電事業の開始を、2021年6月に発表。プロペラ水車の外側に磁石を設置し、その外側にコイルを設置する水車・発電機一体構造である。山梨県大月市に東部地域広域水道企業団施設内小水力発電所(出力:19.8kW、有効落差:55m)を開設した。

開放型小水力発電システム

 JAG シーベルは、「流水式小水力発電装置」を商品化した。農業用水路などの開放型水路での利用が可能で、クロスフロー垂直2軸型水車構造を採用し、高出力を実現。流量:0.2m³/s~40m³/s、有効落差:0.9~2.8mで、定格出力:0.4~44kWを基本パッケージ化している。

 篠田は、「重力渦水式小水力発電システム」を商品化。オーストリア人の開発によるもので、回転タンク底部の排水孔から、流水を排水する際に出来る渦力を利用してランナを回転させる。低流量・低落差の小川や開放型水路に適し、有効落差:0.7~2m、流量:0.05~20 m³/sで、最大出力:10kW程度である。

 軸受製造大手のNTNは、農業・工業用水路に設置しやすい「NTNマイクロ水車」を商品化した。流水でプロペラを回し、連動する上部発電機で発電するシンプルな構成で、翼径:60cm、90cm、120cmの3モデルで、流速:2m/sの場合に出力:0.4kW、1 kW、2kWである。

 協和コンサルタンツは、落差:1mの水路でも発電可能な「相反転方式落差型小水力発電装置」を開発した。落差:1m、使用水量:0.15 m³/sで出力:450Wである。相反転方式とは、発電機の磁石と共に磁石の外側にあるコイルも同時に逆回転させて発電効率を向上させる。

 THKは、垂直軸水流型の「小型水流発電装置」を開発した。小型風車で使われている垂直軸揚力型水車で用水路のように少ない水流量・水位差に適し、ペットボトルなどのゴミが流れてきても素通りするため、メンテナンスが容易である。

 日本工営は、らせん水車を用いた「小水力発電システム」を商品化している。落差:1.0~5.0m、流量:0.5~2.5m3/sへの対応が可能で、2019年4月に、岩手県一関市の農業用水路を活用した八幡沢発電所で運転を開始。らせん水車は低落差での発電が可能で、ゴミなどが詰まりにくく、メンテナンスが容易である。

 リコーは、少水量でも発電可能な「ピコ水力発電システム」のレンタルサービス「LIFE PARTS」を、2022年3月に開始すると発表。設置する場所や目的に応じたオーダーメイドで、3Dプリンタで製造した独自形状のプロペラはウィングレット構造のらせん羽根を利用し、工場排水や用水路などでの利用を想定している。

 スタートアップのバンブーケミカル研究所は、水量に応じて発電効率の高い位置に水車位置が自動で変わる小水力発電装置を開発した。主に農業用水路での利用を見込み、出力:5〜6kWで、大雨で水量が極端に増えた場合は水車が装置の最上部に退避する機構を取り入れた。

水没型小水力発電システム

 東芝は、「超小型水車発電システム」を商品化した。落差を利用せずに水の流れを利用して発電する方式で、大規模な土木工事が不要で、ランナとランナ周囲のフローガイド、ランナに直結された永久磁石発電機を一体構造とし、支柱で上方から支持する。流量:3m/sで、定格出力:3kWである。

 古河電工グループのKANZACCは、「水流型マイクロ水力発電機」を開発した。スクリュー直動型で出力:0.5kWである。水路に沈めるだけで設置が可能で、管入口にゴミ詰まり防止用網を設けている。現在は、製造・販売を中止している。

コメント

タイトルとURLをコピーしました