なぜか伸びない水力発電(Ⅰ)

再エネ

 国内における水力発電所の立地を考えた場合、新たにダムなどの大規模な土木工事を伴わない中小水力発電は、風力や太陽光と同様に設備を導入しやすい。国土交通省は2013年、河川環境や河川使用者に影響が出ないことを条件に、水力発電所の新設や増強に必要な取水量を増やす手続きを簡素化した。

 中長期指針となる第6次エネルギー基本計画では、総発電電力量に占める水力発電の割合を11%とし、設備の老朽化を念頭に置き、「既存設備のリプレース等による最適化・高効率化や発電利用されていない既存ダムなどへの発電機の設置などを進め、発電電力量の増加を図る」と明記した。しかし、水力発電は伸びない!

水力発電所に関する最近の報道

 再生可能エネルギーは、「2050カーボンニュートラル」の実現に不可欠といわれている。しかし、風力発電や太陽光発電に比べて、どうしたことか?「水力発電」に関するインパクトのあるニュースは少ない

水力発電所の廃止・計画中止

 最近、水力発電所の廃止・計画中止に関する報道は多くはない。廃止案件は、いずれも老朽化した小規模水力発電所である。計画中止案件で安全上の原因はやむをえないが、政府による水力発電への積極的な財政支援が不足しているケースもある。

■2018年3月、四国電力は、徳島県三好市の水力発電所「白川発電所(1922年稼働、出力:400kW)」の廃止を発表。取水ダム周辺で発生した地すべりの影響で保安確保のため、2008年12月から取水および
発電を停止していた。
■2022年3月、東北電力は2022年度の離島電源計画で、新潟県佐渡島に「ひかり、の、ちから栗野江くりのえ」の太陽光発電所を計上し、設備の経年化が進んでいる佐渡島の両津火力発電所4号機および4カ所の水力発電所の段階的廃止を発表した。
■2023年3月、東北電力は、須賀川市の小規模水力発電所「前田川発電所(1906年稼働、出力:250kW)」の廃止を発表。2019年の台風19号で浸水被害を受けて停止していた。
■2023年4月、関西電力は、岐阜県飛驒市で2025年2月の稼働を目指していた水力発電所「新打保発電所(出力:4940kW)」の新設工事の中止を発表。建設予定地を調査したところ土砂層が想定より多く、工事中の安全確保ができないと判断した。同水系の「新坂上発電所(4300kW)」計画は継続中。
■2023年11月、山形県企業局は、2030年の運転開始をめざしていた小国町綱木箱口の水力発電所(出力:4100kW)の建設中止を発表。3km上流の明沢みょうざわ川から取水する計画であるが、導水路トンネルや水圧管の整備に要する資材高騰で事業費が約80億円➡約130億円に膨らみ、採算確保できないと判断した。

水力発電所の新設・更新

 新設の大規模水力発電所で最も新しいのは、岐阜県西部を流れる揖斐川いびがわの上流に建設された中部電力の「徳山水力発電所1号機(出力:13.9万kW)」で、2016年3月に運転を開始した。2014年5月に稼働していた2号機と合わせた総出力は16.4万kWである。その後、国内では大規模水力発電所は稼働していない。

図1 ロックフィル式徳山ダムの直下に建設された「徳山水力発電所」 出典:水資源機構

 出力:5万kW以上の大規模水力発電所を新設するには、「10年以上の期間」「多額の工事費用」を要する。そのため「全更新を行う新設」に比べて、既設の水力発電設備の「電気設備と水圧鉄管の更新」が圧倒的に多いのが現状である。 
 また、既設の水力発電所の大規模改修では、工事期間中の発電は中止される。そのため工事規模にもよるが、数年~10年程度の単位で発電電力量の低下が生じる。

■2017年9月、東北電力は、新潟県阿賀町の水力発電所「鹿瀬発電所(1928年稼働、出力:4.95万kW)」の大規模改修を2011年から進めて運転を再開した。6基の水車式発電機を発電効率が高い立軸バルブ水車2基に置き換え、出力を5.42万kWに増強した。
■2018年4月、関西電力は岐阜県飛騨市の「下小鳥しもことりダム」に、「下小鳥維持流量発電所(出力:480kW)」の建設を発表。ダム下流の景観保全や、河川環境維持のために放流している河川維持流量を利用する発電所で、2021年11月の営業運転を計画していたが、その後の状況は不明。
■2019年8月、九州電力は、甲佐発電所(1951年稼働、出力:3900kW)の高経年化対策と、新導水路トンネル増設で使用水量が増加し、出力を7200kWに増強して営業運転を開始。
■2019年8月、北陸電力は、水力発電所「称名川第二発電所(1960年稼働、出力:8100kW)」の水車・発電機の老朽化更新による性能向上で、出力:8400kWへ増強。
■2022年4月、北陸電力グループの黒部川電力は、新潟県糸魚川市水力発電所「新姫川第六発電所(出力:2.79万kW)」の運転を開始した。姫川第六発電所の取水設備を有効活用し、導水路や水槽、水圧管路、放水路、放水口などを新設した。
■2022年4月、山形県企業局の水力発電所が運転開始から60年前後を経過し、老朽化更新が始まる。朝日町の「朝日川第一発電所(1958年稼働、出力:8900kW)」は、総事業費約52億円で建て替えて9300kWに増強。同局が保有する県内14カ所の水力発電所のリニューアル第一号である。
 その他、1956年稼働の鶴岡市の「倉沢発電所」と、1970年稼働の大蔵村の「肘折発電所」でも、老朽化による建て替えを計画、一方、小国町では新たな水力発電所の建設を計画。
■2022年11月、東北自然エネルギーは、2016年6月に工事を開始した「玉川第二水力発電所(出力:1.46万kW)」の運転を開始既設の玉川発電所からの放流水と新たに設けた取水堰からの取水を利用する。
■2023年1月、中部電力と中部電力ミライズ、米国のアプライドマテリアルズ、マイクロン、スカイワークスなど6社でコンソーシアムを形成し、選定した既設水力発電所を改修、増加した発電電力量分を含めて販売する取り組みを開始。第1弾は中部電力「大井川水力発電所1号機(出力:6.82万kW)」の改修に適用する。
■2023年2月、九電みらいエナジーが、九州電力の地熱発電5カ所(出力:21万kW)・水力発電136カ所(129万kW)の同社への移管を発表。従来の太陽光・風力・バイオマス発電を合せて国内最大級の再生可能エネルギー発電事業者(約160万kW)となり、2030年の再エネ開発目標500万kWをめざす。
 九州では大量の電力を要する半導体製造工場やデータセンターの建設・計画が相次ぎ、世界的な脱炭素化の中で再生可能エネルギー電力を安定供給し、需要をつかむねらい。
■2023年4月、電源開発は、新潟県魚沼市の「末沢発電所(1958年稼働、出力:1500kW)」のリパワリング工事(水車・発電機等主要設備の一括更新工事)の開始を発表。自社開発の新型水車を導入して出力を2200kWに増強し、2024年11月の運転開始をめざす。
■2023年7月、九州電力は、大分県由布市の野畑のばたけ発電所(1936年稼働、出力:3800kW)の高経年化対策で、2021年から水圧管路並びに水車発電機の取替等の更新工事を進め、運転を再開した。
■2023年9月、関西電力は、水力発電所「黒部川第二発電所(1936年稼働、総出力:7.27万kW)」の更新工事が1~3号機まで全て完了したと発表。2014年から更新を始めていた。
■2023年10月、電源開発は、7件目となる高知県安芸郡北川村の「長山発電所1,2号機(1960年稼働、総出力:37,000kW)」のリパワリング工事(水車・発電機等主要設備の一括更新工事)を開始。総発電出力を3万9500kWに増強し、2024年に2号機、2025年度に1号機を運転開始。
■2023年10月、中部電力は、長野県飯田市と阿智村の清内路せいないじ水力発電所」の建設工事を完了し、運転を開始した。出力:5630kWの新設の流れ込み式水力発電所で、2018年5月に着工していた。            

図2 電更新工事で出力を4%増やした関西電力の「黒部川第二発電所」o

 大規模・中規模水力発電所(出力:1万kW以上)の老朽化更新には「多額の工事費用」を要する。中部電力の始めたユーザー参加型の再生可能エネルギーの拡大モデルは、特筆される。しかし、参加した企業の大半が外国企業であり、国内企業の再生可能エネルギー拡大への投資意欲は低いのが課題である。

図3 ユーザー参加型の再エネ拡大を始めた中部電力の「大井川発電所(静岡県川根本町)」

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