伸び悩む地熱発電の現状(Ⅶ)

再エネ

 EGSは魅力的な発電システムであるが技術課題も多い。大深度のボーリング技術、高圧水による高温岩体への割れ目の導入、地中での水漏れ対策など実用化に向けて技術的なハードルは高い。実際に多くの問題に直面しているが、海外では長期的視野に立ち開発を継続している。

次世代地熱発電の開発

 従来型の地熱発電では、天然に存在する地熱貯留層の200~300℃の熱水・蒸気を利用しており、井戸の地下深度は1.5~2km程度である。
 天然の熱水や蒸気が乏しい場合には、地下深度が2~4km程度で高温岩体(温度が200℃程度以上)を熱源とする高温岩体地熱発電(HDR:Hot Dry Rock geothermal)と、その概念を広げた強化地熱発電(EGS:Enhanced Geothermal Systems)による次世代地熱発電システムの試みが、海外で活発化している。

 1990年代以降、高温岩体発電も含めたより広い視野からの地熱利用の技術開発が、強化地熱発電(EGS)の呼び名で各国で進められている。乾燥した高温岩体だけでなく、水が存在しても地熱貯留層を作るほど十分な水がない場合や、200℃を超えなくても地下深部(深さ10km程度まで)が高温の場合を対象としている。 

 EGSの概念の導入により、地熱資源量は飛躍的に増加する。NEDOの公表によると、日本では地表から2km以内に存在する地熱発電の資源量は約2370万kWと見積もられている。さらに、地表2~3kmまでを含めると2900万kW程度、5kmまで広げると1億kW超ともいわれている。

図18 EGS(Enhanced Geothermal Systems)の諸類型の現状と課題 出典:資源エネルギー庁

高温岩体地熱発電

図19 高温岩体発電の仕組み

 高温岩体発電はシェールガス採掘に用いられる水圧破砕法で、高温岩体まで深さ2~4km程度のボーリング抗を掘り、水が漏れないようにして高圧ポンプで加圧して割れ目を発生させる。その割れ目に高圧水を注入して高温岩体中に人工貯留層を設け、生産井を掘削し、得られる熱水・蒸気によりタービンで発電する。利用後の熱水や蒸気は、注入井から再び地熱貯留層へ送り込む。

 従来の地熱発電では発電規模や発電所の立地が自然条件に大きく制約されたが、高温岩体発電では人工的に地熱貯留層の大きさを設計し、循環する水の管理が可能であるため、地熱発電所の建設の自由度が飛躍的に拡大する。また、地元温泉などへの影響も低く抑えることが可能と考えられている。

 高温岩体発電の考え方は、1970年に米国ロスアラモス国立研究所が提唱したもので、1992年にニューメキシコ州フェントヒルで発電実験を終了するまで、先駆的な研究開発が進められた。
 少し遅れてドイツ、フランスでも高温岩体発電の実験が開始された。日本では1985年からNEDOが山形県の肘折ひじおり実験場で、1989年から電力中央研究所が秋田県の雄勝おかつ実験場で開発プロジェクトを進めてきたが、2002年にプロジェクトが終了し、国内での高温岩体発電の開発は停止した。

 2006年12月、高圧水による高温岩体の割れ導入に伴う地震発生により、スイスのバーゼルで進められていたEGS開発が中止。2009年には米国エネルギー省の支援を受けたカリフォルニア州ガイザースでのEGS開発では、大深度のボーリングに失敗して実験場を放棄している。
 また、2009年にはオーストラリア南部のクーパーベイズンで進められていたEGS開発で、制御不能の蒸気噴出が発生し中断された。しかし、これら各国においてEGS開発は未だに継続されている。これは国レベルで将来の分散型エネルギーに、地熱発電を位置付けているからである。

 EGSは魅力的な発電システムであるが技術課題も多い。大深度のボーリング技術、高圧水による高温岩体への割れ目の導入、地中での水漏れ対策など実用化に向けて技術的なハードルは高い。実際に多くの問題に直面しているが、海外では長期的視野に立ち開発を継続している。
 一方、日本では原子力発電を強力に推進する中で、政府の地熱発電への開発支援が1997年で途切れた。残念ながら、高温岩体発電の開発も停止した。
 その後、約20年を経過して、ようやく日本でもEGS開発が始まった。しかし、海外では日本が開発を停止している間もESG開発を継続し、高温岩体発電では商用化レベルに達している。

  2022年6月、東京電力リニューアブルパワーと三井石油開発は、新たな熱回収技術を適用した地熱発電事業を共同で検討すると発表。地下の高温岩体層に熱回収ループを形成し、地上から水などを循環させることで、地下の熱のみを回収して発電を行う計画である。
 従来型地熱発電では必要条件である地下の透水性(水の通り道となる亀裂部)を必要とせず、調査期間と開発までのリードタイムを短縮でき、地下から蒸気・熱水を汲み上げないため環境負荷を軽減できる。今後、調査対象候補地域を選定し、早ければ2025年にも調査に着手する。

 2022年10月に中部電力2024年2月に鹿島建設が、スタートアップのカナダのEavor Technologies(エバーテクノロジーズ)への出資を発表。エバーテクノロジーズは、高温岩体に液体を循環させて熱を回収する「Eavor-Loop」を開発し、クローズドループ式の地熱発電システムの開発を進めている。
 ドイツ・バイエルン州で進めている地熱発電・地域熱供給プロジェクトでは、地下約5kmにループを設置し、内部に水を循環させて地中熱を効率的に取り出し、地上でバイナリー発電や地域熱供給を行う計画。2024年10月に一部運転開始する。 

図 20 エバーテクノロジーズのクローズドループ地熱発電 出典: 中部電力

 2023年6月、三井物産は、三井石油開発が米国石油大手シェブロンの子会社と連携し、北海道ニセコ町などで環境負荷の小さい次世代地熱発電「アドバンスト・クローズドループ」に着手すると発表。2025年まで地中熱交換の実証試験を行い、2030年ごろに出力:1万kW以上の商業運転をめざす。
 パイプで地下層に水を注入して地熱を回収し、パイプで汲み上げる方式である。環境影響が少ないため地域住民などの理解を得やすく、運転開始までの期間も数年単位で短縮できる。

 2023年11月、スタートアップの米国Fervo Energy(ファーボエナジー)が開発した商業発電所1号機(出力:3500kW)が運転を開始。電力は出資するグーグルのネバダ州のデータセンターに供給されている。
 ファーボエナジーのEGS型地熱発電所は高温岩体発電で、深度2km程度まで垂直ボーリングを行い、そこから水圧破砕により岩盤に水平の割れ目を造り、2本のボーリング孔を繋いで熱水を循環させる。注入井から入った水は、高温の人工貯留層を通過し、約200℃に加熱され生産井に戻る。
 現在、ファーボ・エナジーはユタ州ビーバー郡にEGS型地熱発電所「ケープステーション」(出力:40万kW)を建設中である。

図20 米国ユタ州で建設中の次世代地熱プロジェクト「ケープステーション」
出典:Fervo energy

超臨界地熱発電

 最近、350~400℃以上の温度条件である深さ2km以上の領域が地熱フロンティアとして注目されている。水の臨界点(気液の相転移点)は374℃、22MPaであり、熱水は液体で気体でもない超臨界状態にある。
 蒸気条件から抽出エネルギーが従来の5倍程度に増大する。超臨界状態では岩石と流体の化学反応が極端に弱く、岩石も脆性領域から延性領域に入るため誘発地震が低減される期待がある。

 アイスランドのクラブラ地熱発電所の掘削プロジェクト(IDDP:Iceland Deep Drilling Project)では、掘により450℃の超臨界地熱資源の存在が確認されている。また、米国やニュージーランドなど従来型の地熱を積極利用する国も研究を進める
 経済産業省は2018年度から、地下約4~5kmの超臨界水を利用する地熱発電システムに関する東北大学、東京大学、九州大学の研究を支援し、2050年頃の実用化をめざすと発表。実現可能性調査、試掘のための詳細事前検討、試掘、試掘結果の検証と実証実験への事前検討、実証試験が行われる。

 2021年8月、大成建設がCO2(臨界点は374℃、7.4MPa)を熱媒体としたクローズドループ式地熱発電の技術開発を発表。CO2を回収して地中埋設するCCS技術を応用し、深さ2~3kmの地盤にCO2を注入して高温・高圧の超臨界状態になったCO2をタービンに供給して発電し、排出されたCO2は冷却して再び発電に使う。
 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の支援を受け、地熱技術開発と共同で5年間の技術開発や適地の選定を行い、2026年度に現場実証を始め、2036年以降の事業開始をめざしている。

図21 CO2クローズドループ地熱発電の概念図 出典;大林組

 2023年6月、NEDOは2024年度にも「超臨界地熱発電」の開発に向け、井戸の掘削を始める。従来の地熱発電より深い地下3〜5km程度に存在する地熱(400〜500℃)を利用し、出力は十数万kWをめざす。
 NEDOは2021年度から岩手県、秋田県、大分県の計4カ所で資源量の調査を実施している。2024年度には地質構造を調べる構造試錐井こうぞうしすいせいの掘削に入るが、圧力が高く腐食性も増すため数年かけて実施する。その後、熱源を調べる調査井ちょうさせいに移り、実際に流体を噴出させて量などを確認する。
 日本は2021年に策定したグリーン成長戦略で、2050年ごろに世界に先駆けて商用化をめざすとしている。 

コメント

タイトルとURLをコピーしました