伸び悩む地熱発電の現状(Ⅴ)

再エネ

 1973年と1979年に起きた石油ショックを契機に、日本では石油代替エネルギーの開発が国家プロジェクトとして進められた。地熱発電もその一環で開発が推進されたが、ほかの再生可能エネルギーとは異なり、政府からの開発支援が1997年で途切れた。
 その結果、1997年に地熱発電の発電電力量はピークを示すが、その後の凋落ぶりは顕著である。地熱発電所の新設はわずかにとどまり、既設の地熱発電所の廃止・更新中止が続く。

国内地熱発電の導入状況

再生可能エネルギーの導入

 環境エネルギー政策研究所(ISEP)の調査によれば、固定価格買取制度(FIT)の追い風を受け、東日本大震災当時(2011年度)に比べると2021年度の太陽光発電の年間発電電力量は約18倍に増加し、天候などの影響を受ける太陽光発電と風力発電が総発電電力量に占める割合は10.4%に上昇した。

 一方、天候などの影響を受けにくい小水力発電、バイオマス発電についても年間発電電力量が占める割合は徐々に増加している。しかし、地熱発電は小規模設備の導入は進むが累積導入量は約50万kWでほとんど増加せず、2022年度の電電力量は3年連続30億kWhに留まり、総発電電力量の0.3%にすぎない。

 第6次エネルギー基本計画で掲げられた2030年度の再生可能エネルギーの達成目標は、36~38%(内訳、太陽光:14~16%、風力:5%、バイオマス:5%、地熱:1%、水力:11%)であり、目標達成にはほど遠く、地熱発電は期待の薄い再生可能エネルギーのようである。

図13 日本国内での自然エネルギーおよび原子力の発電量の割合のトレンド 出典:ISEP

1997年に途切れた地熱発電の開発

 1973年と1979年に起きた石油ショックを契機に、日本では石油代替エネルギーの開発が国家プロジェクトとして進められた。地熱発電もその一環で開発が推進されたが、ほかの再生可能エネルギーとは異なり、政府からの開発支援が1997年で途切れた。その経緯を、次に示す。

地熱発電の開発支援が途切れた経緯:
■1974~1992年「サンシャイン計画」、1993~2000年「ニューサンシャイン計画」の中で地熱発電の開発は推進され、発電設備容量の総計が約50万kWに達した。
■一方、1979年の米国スリーマイル島原発事故、1986年のチェルノブイリ原発電事故により、世界的に原発建設の低迷期に入るが、日本は国策として原子力発電所の建設が強力に推進された。
■1996年11月、大規模地熱発電所である九州電力の滝上発電所(2.75万kW)が稼働した。
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■1997年4月、石油価格が安定化し、原発建設が順調に進められたことから、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法(新エネ法)」において、従来型のフラッシュサイクル発電の地熱発電が促進対象から外された
■2003年4月、「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RSP:Renewables Portfolio Standard法)」の促進対象から大規模地熱発電所は除外され、併せて地熱発電の研究開発予算が大幅に縮小された。
*環境省による自然公園内での開発規制や温泉利権者からの反対が、地熱発電所の新設に急ブレーキを掛け続けた。
■2006年4月、八丁原はっちょうばる地熱発電所にバイナリーサイクル発電設備(出力:2000kW)が併設され、杉乃井ホテルに自家用の小規模地熱発電所(出力:1900kW)が建設されたが、小規模であるため総設備容量に大きな伸びを与えることはなかった。

 1997年に地熱発電の発電電力量はピークを示すが、その後の凋落ぶりは顕著である。地熱発電所の新設はわずかにとどまり、既設の地熱発電所の廃止・更新中止が続く様子がみてとれる。既設の地熱発電所の経年的な発電効率低下があきらかに生じている。

図14 日本の地熱発電の開発状況 (データ不明及び非公表分を除いて算定)  
出典:火力原子力発電技術協会

 一方、固定価格買取制度(FIT)の影響を受け、2017年頃から地熱発電の発電電力量も微増を始める。しかし、その多くは井戸の掘削を必要としない出力:1万kW未満の小規模バイナリーサイクル発電であり、総設備容量の増加には大きな影響を及ぼしていない。

 井戸の堀削を必要としない小規模のバイナリーサイクル発電は、温泉源の湯量低下や枯渇を危惧する必要がなく、建設工期が短いため、FITの後押しを受けて地元温泉事業者に受け入れられ、地産地消の分散電源として拡大する。

 大規模地熱発電所(出力:1万kW以上)の新設は、1997年を最後に途絶えた。その後、23年間の空白を置いて、山葵沢わさびざわ地熱発電所(出力:4.6199万kW)が2019年に営業運転を開始した。
 しかし、大規模地熱発電所を建設するには10年以上の期間を要するため、FITの支援を受けて本格的に地熱発電が稼働を始めるのはこれからである。 

図15 国内の地熱発電所の出力と運転開始時期F

既設地熱発電所の出力低下

 地熱発電電力量は、1997年をピークに年々減少傾向にある。火力原子力発電技術協会によると、国内の地熱発電電力量は2020年度に26.6億kWhで、1997年度の37.5億kWhから3割程度減少している。

 大規模地熱発電所14基の発電電力量(2013年度)の調査で、岩手県の松川地熱発電所が-35%、葛根田かっこんだ地熱発電所1号機が-66%、葛根田地熱発電所2号機が-52%、福島県の柳津西山やないづにしやま地熱発電所が-58%、鹿児島県の山川地熱発電所が-35%と、いずれも顕著な出力低下が報告されている。
 その結果、2017年に柳津西山地熱発電所は老朽化更新でタービンを入れ替え、定格出力を6.5万kWから3万kWに引き下げた。また、2022年10月に葛根田発電所1号機(出力:5万kW)は廃止された。

 この経年的な出力低下は、生産井自体の枯渇や、熱水中のシリカ(SiO2や炭酸カルシウム(CaCO3)が井戸や発電所の配管、タービン翼などの表面にスケールとして付着し、蒸気流路の狭窄きょうさくが生じたと考えられる。また、スケールのはく離片は、後段部品のエロージョンの原因となり老朽化が進む問題も起きている。

 生産井の枯渇に関しては、新しい生産井の探査と掘削が必要となる。そのため経済性の評価に基づいた長期計画の立案が必要となる。 
 一方、スケール対策に関しては、蒸気タービンの入口に水滴を噴霧するブレード・ウオッシング技術が開発されている。また、地熱水への硫酸注入によるシリカスケール付着防止策や、アルカリ剤と金属成分のマスク薬剤の間欠注入によるシリカスケール溶解策の有効性などが示されている。

図16 地熱発電所の要素部品で見られるシリカスケールの付着・堆積
出典:日本地熱学会誌

 政府が掲げる「2030年に総発電電力量に占める地熱発電の割合1%の高い目標をクリアするためには、大規模地熱発電所の新設だけに頼るのではなく、環境対策が整えられている既設の地熱発電所の経年的な発電電力量低下への対策と、老朽更新によるリパワリング(発電効率向上)が鍵を握る

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