なぜ?再燃する宇宙太陽光発電(Ⅴ)

再エネ

 宇宙太陽光発電(SSPS)には、膨大な資金が必要となるのは必定である。日本だけでSSPS衛星を開発・運用することは困難であり、宇宙開発で先行する米国や欧州との国際協力が基本である。
 夢の核融合炉と同じで、実現するためには10年、20年先を見据えた研究開発が必須である。まだまだ長期間にわたる地道な努力と投資が必要なのである。今回を一過性のブームとしないために、コア技術の多用途展開を図る必要がある。無線給電技術は民生でも重要である。

宇宙太陽光発電が再燃する理由 

 夢の宇宙太陽光発電の課題は、そのデメリットへの対策である。特に、最大の課題は宇宙空間での巨大なSSPS設置に莫大な資金を要する。加えて、その運用・維持・補修・廃棄、ならびに環境アセスメントと安全対策など、2050年の実用化に向けて克服すべき技術課題は多い。

 一方、技術的な難易度にもかかわらず、この数年間に欧米中で研究プロジェクトが立ち上がり、”宇宙太陽光発電の再起動”と報道されている理由は、「宇宙への輸送コストの大幅な低減」「2050年のカーボンニュートラル実現」宇宙空間でのエネルギー供給ニーズ」があげられている。

宇宙への輸送コストの大幅な低減

 宇宙システム開発利用推進機構は、出力:100万kWのSSPSの総重量は約3万トンと試算。現状の国産H3ロケットは1基50億円で、低軌道への最大積載重量は4トンである。毎日1便のロケットでSSPS部品を打ち上げると7500日(約20年)を要し、打ち上げ費用は37.5兆円にのぼる。

 一方、米国スペースXが開発を進めている超大型ロケット「Starship(スターシップ)」では、1基1000万ドル(14億円)で、低軌道への最大積載重量は250トンである。毎日1便のスターシップでSSPS部品を打ち上げると120日で完了し、打ち上げ費用は12億ドル(1680億円)に収まる。一挙に、SSPSが現実味を帯びてくる。

 日本エネルギー経済研究所の試算では、出力:100万kWのSSPS構築コストは2兆3600億円。さらに低軌道から36,000kmまで運ぶ軌道間輸送は、今後の研究課題としている。スペースXなどの宇宙スタートアップの台頭で、ロケットの打ち上げ費用は大きく低下する可能性がある。

2050年のカーボンニュートラル実現

 2023年11月30日~12月13日、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)に、世界198カ国などが参加してUAEドバイで開催された。主題は、2015年のCOP21で採択されたパリ協定の目標「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」の進捗状況の評価である。

 初の実績評価(Global Stocktake)で、世界の気温上昇を1.5℃に抑える」という目標まで隔たりがあること、1.5℃目標に向けて行動と支援が必要であることが強調された。その結果、2030年までに再エネ発電容量を世界全体で3倍省エネ改善率を世界平均で2倍にするなどの取り組みが明記された。

 環境対策で世界をリードする欧州連合(EU)は、現在の延長では達成が難しいと公言しており、実現に向けた新技術の選択肢の1つとしてSSPSを位置付けている。COP28では、SSPSをテーマにしたパネルディスカッションが開催され、欧州宇宙機関(ESA)などが登壇した。

宇宙空間でのエネルギー供給のニーズ

 月面や宇宙空間でのエネルギー利用は、SSPS技術の派生展開として有望視されている。米国は2026年頃に宇宙飛行士を月面に送り込み、それを足がかりに基地建設に着手する計画で、中国もロシアと協力して月面基地の建設計画を発表している。各国の思惑は、経済的に、また軍事的にも様々である。

 月面に眠る資源開発や月面での経済活動の促進、また将来の有人火星探査や深宇宙探査における中継拠点としての役割も期待されている。月面で経済圏が形成されるためには、エネルギー確保は不可欠となる。宇宙太陽光発電の技術が確立できれば、月の上空で発電した電力を月面に送ることができる

 一方、宇宙空間で強力なエネルギービームを保有することは、軍事的にも大きな意味を持つことになる。対立する核保有国間における核抑止の考え方と同じで、対立する国家間の緊張が高まれば、競ってSSPS衛星を保有する可能性が高い。宇宙条約規制されてもSSPSの軌道兵器への転用は容易である。

 宇宙太陽光発電(SSPS)には、膨大な資金が必要となるのは必定である。日本だけでSSPS衛星を開発・運用することは困難であり、宇宙開発で先行する米国や欧州との国際協力が基本である。
 夢の核融合炉と同じで、実現のためには10年、20年先を見据えた研究開発が必須で、長期間にわたる地道な努力と投資が必要なのである。今回を一過性のブームとしないため、コア技術の多用途展開を図る必要がある。無線給電技術は民生でも重要である。

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