なぜ?再燃する宇宙太陽光発電(Ⅳ)

再エネ

 2022年11月、ESAはSSPSの実現可能性を本格的に調査するプロジェクト「SOLARIS(ソラリス)」をスタートさせた。また、2021年には英国を拠点とするエネルギー、宇宙、材料、製造の研究・企業連合「Space Energy Initiative」が設立され、「CASSIOPeiA」計画が推進されている。
 中国では宇宙技術研究院(CAST:Chinese Academy of Space Technology)を中心に、SSPS研究が推進されている。

欧州での宇宙太陽光発電

 2021年7月、EUは「2050年カーボンニュートラル達成」を発表し、欧州宇宙機関(ESA)がSSPSの事前調査を行った。その結果、「GW級の発電所は非常に大きな挑戦だが、2040年までに実現できる可能性があり、経済的な分析から2050年までに40〜50カ所、最大200カ所のSSPSの需要がEU内にある」としている。 
 ロードマップには、2026〜2030年に出力:1MW〜10MWのデモシステム、2031〜2035年に100MWのパイロットシステム、そして2036〜2040年には数GWのSSPSを構築する野心的な目標を掲げている。

 2020年9月、欧州宇宙機関(ESA)は、地上および月面でのSSPSに関する新アイデアを募集。また、2022年には、加盟国に対してSSPS試験プログラムへの出資を募集した。

 2022年11月、ESAはSSPSの実現可能性を本格的に調査するプロジェクト「SOLARIS(ソラリス)」をスタートさせた。SOLARISでは、100億円程度の予算で、2026年の開発プログラムの始動に向け、技術・経済的な側面からの実現可能性や安全性、環境への影響などの評価に2025年末まで取り組む。 

 2023年4月、ESAはSSPSの商用利用が可能か判断するため、Arthur D. LittleとThales Alenia Space Italyとそれぞれ契約した。約2年半かけて「SOLARIS」で、両社の提案などを検討していく計画である。

 一方、ドイツのベンチャー企業Deployables Cubedはカリフォルニア工科大学と連携し、SSPS のキューブサット技術実証ミッション「Powersat」の開発を進め、2021年4月にNASAのキューブサット打ち上げ構想(CubeSat Launch Initiative)の14のミッションの一つに選定された。2022年~2025年に打上げ予定である。

英国の宇宙太陽光発電

 2021年10月、英国は「2050年Net-Zero(ネット・ゼロ)戦略」を打ち出しており、期待される発電方法の1つに、宇宙太陽光発電システム(SSPS)があげられている。

 2020年9月、英国宇宙庁(UKSA)とビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は、1年間をかけてSSPSの実現可能性と経済性の調査検討をFrazer-Nash Consultancyに委託。
 その後、調査に加わったInternational Electric Company (IECL)を中心に、CASSIOPeiA(Constant Aperture, Solid-State, Integrated, Orbital Phased Array)というSSPSモデルの開発が始められた。

 2021年には英国を拠点とするエネルギー、宇宙、材料、製造の研究・企業連合「Space Energy Initiative」が設立され、「CASSIOPeiA」計画が推進されている。
 Space Energy Initiativeは、2039年に200万kWの電力供給をめざす「太陽発電衛星(SPS:Solar Power Satellite」のプロトタイプ打ち上げ2043年に完全運用をめざす

 「CASSIOPeiA」の基本的なコンセプトは、円錐形形の曲率を持つ一次および二次反射鏡使った集光システムで太陽光を効率良く集め、中央部の高集光型太陽光パネル(H-CPV)と送電アンテナ(直径:1.7km)によりマイクロ波ビームステアリングを行い、受電アンテナ(直径:5km)で受電して200万kWの電力を供給する。

 2023年1月、サウジアラビアとSSPSへの共同出資の可能性を含めた協力関係について協議を開始した。
 英国Space Solar と、サウジアラビアが建設中のNEOM(スマートシティ・イノベーション、世界クラスの技術、データ・インテリジェンスを取り入れた新都市)とのコラボレーションにより、両国が各々今後数年間にSSPSの開発に多額の投資を行う可能性がある。

中国の宇宙太陽光発電

  中国では宇宙技術研究院(CAST:Chinese Academy of Space Technology)を中心にSSPS研究を進めている。2000 年代に入り、CAST が政府に「Necessity and Feasibility Study Report of SSPS」のレポートを提出し、研究が本格的に始まった。
 2015年にはSSPSの開発ロードマップを策定し、2022年には小規模な発電実験を実施し、2030年頃には1000kW規模まで発電量を上げ、2050年に100万kWの商用システム運用を開始とする目標を掲げている。

 2019年から、CASTは重慶市璧山区人民政府、重慶大学と共同で、重慶に「高出力無線エネルギー伝送研究施設」の建設を開始しており、2022年7月の完成予定である。一方で、マルチロータリージョイント SPS(MR-SPS)などの概念設計を進めている。
 また、CASTは電波暗室内において、送電アンテナ(1.2m×1.2m)から30m離れた受電アンテナ(2m×2m)へ900Wのマイクロ波を伝送し、ビーム制御精度0.44°以上、変換効率 49%以上を達成した。2020年、重慶大学は、屋外で5.8GHz、448Wのマイクロ波の60m伝送に成功した。

 また、2018年、西安科技大学では「SSPSデモンストレーション・実証実験システム棟」の建設を開始、2022年に完成した。2030年代には商用発電能力を備える基地を建設する計画。また、SSPS OMEGA(Orb-Shape Membrane Energy Gathering Array)の概念設計を進めている。 

 一方、2022年1月、中国国家自然科学基金委員会(NSFC)が、超大型(km スケール)宇宙構造物(宇宙船)に関する調査研究を開始した。軌道上に構築する大型構造物の例としてSSPSを掲げ、それを建設する技術を緊急課題として実現可能性を調査する計画である。
 2021年7月、静止軌道上に宇宙太陽光発電システムを建設するため「長征9号」を利用すると公表した。「長征9号」は2030年の打ち上げをめざして開発中で、重量:約878トン、全長:約57m、高度約2000kmの低軌道で140~150トン、月遷移軌道に上げるには50~53トンまで積載可能。
 総重量約1万トンのシステム組み立てには、100機以上の長征9号が必要だとしている

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