なぜ?再燃する宇宙太陽光発電(Ⅱ)

再エネ

 米国でのSSPS研究が下火となった1980年代以降、 京都大学がSSPS研究をリードし、1983年にロケットを使って宇宙空間でのマイクロ波送電に世界で初めて成功した。
 マイクロ波送電技術は離島や山中への送電手段としても有効で、電力会社でも研究が始められ、パナソニック、東芝、TDK、ペースパワーテクノロジーズ、米国オシアなどが参画している。
 無線給電により工場で稼働するセンサー、スマホやウエアラブル端末、ドローンなどの電池交換が不要になるため、IoTの生産設備への導入加速が狙いである。

日本の宇宙太陽光発電

マイクロ波による送電

 世界では唯一日本だけが、2014年4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」や、2013年1月に内閣の宇宙開発戦略本部が決定した「宇宙基本計画」にも掲げるなど、国の施策としてSSPSを推進している。

 米国でのSSPSの研究が下火になった1980年代以降、 日本では京都大学がSSPS研究をリードし、1983年にロケットを使って宇宙空間でのマイクロ波送電に世界で初めて成功した。また、2009年にはドローンで上空30mから地上の携帯電話へのマイクロ波送電を実施した。

 2014年11月、三菱電機(送電担当)、京都大学、宇宙システム開発利用推進機構、IHIエアロスペース(受電担当)は、宇宙から地上への送電を模擬した初の地上送電実験を開始。2015年3月、マイクロ波による1.8kWの送電実験に成功し、55m離れた場所で約340Wを受電した。

 2015年3月、三菱重工業が、10kWの電力のマイクロ波による500m離れた地上送電実験に成功した。今後、現在5~10%である送電・受電の効率を高め、電離層など宇宙空間特有の現象が与える影響、宇宙空間に設置する発電システムの低コスト化など多くの課題が示された。

 2021年8月、文部科学省と宇宙航空研究開発機構(JAXA)とは協力して、「宇宙太陽光発電システム」の実現に向け、2022年度から宇宙空間で太陽光パネルを展開する実証実験を開始すると発表した。
 2022年度に国際宇宙ステーションに物資を届ける新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)1号機に2m×4mの太陽光パネルを搭載して打ち上げ、2023年に展開する計画である。太陽光パネルは2030年代に30m×30m、2050年の実用化段階では約2.5km×2.5kmに大型化し、出力:100万kWを目指す計画である。

図2 新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」1号機でSSPSの宇宙空間での実証実験
出典:JAXA

 一方、マイクロ波の送受電に関しては、経済産業省と宇宙システム開発利用推進機構、IHIエアロスペース(送電担当)、三菱電機(受電担当)などが協力して、2023年までに発送電一体型の太陽光パネル(50cm四方)の開発と、垂直方向の長距離(1~5km)での送電実証を実施する計画である。 
 2024年第3四半期に、マイクロ波の送電アンテナパネルを航空機に搭載し、地上局から2GHz帯のパイロットビームを発信し、高度7kmから地上局の70cm四方の受信アンテナに向けてマイクロ波の照射実証を行う。 

 また、2025年、宇宙システム開発利用推進機構などによる無線送電実証衛星プロジェクト「OHISAMA(おひさま)」が実施。フェーズドアレイアンテナを搭載した高度450kmの低軌道衛星から、地上の受電アンテナ(2m×0.7m)に向け、出力1kWのマイクロ波を照射する計画である。

 マイクロ波送電技術は離島や山中への送電手段として有効で、電力会社も研究を始めており、パナソニック、東芝、TDK、ペースパワーテクノロジーズ、米国オシアなどが参画している。
 無線給電により工場で稼働するセンサー、スマホやウエアラブル端末、ドローンなどの電池交換が不要になるため、IoTの生産設備への導入をめざしている。

太陽光励起レーザー送電

 宇宙太陽光発電(SSPS)の最大の課題は、宇宙空間に打ち上げる太陽光パネルが巨大となる点にある。この課題について、大幅な小型発電システムの実現をNTTの宇宙環境エネルギー研究所がめざしている。
 すなわち、静止軌道の衛星に多数の集光ミラーと太陽光励起レーザーを搭載して太陽光を直接レーザー光に変換し、地上にレーザーを伝送して、地上の太陽光パネルで受けて電力に変換する方式である。

 このレーザー方式SSPS(L-SSPS)では、太陽光励起レーザーを使うことで、宇宙空間に直径数十m規模の集光ミラー、地上に直径数十m規模の太陽光パネルを設置することで、数MW級の電力が得られると試算している。すなわち、エネルギー密度の高いレーザーにより、システムの大幅な小型化をめざしている。

 2020年から研究を開始したNTTでは、「太陽光励起レーザー」、「高強度ビームエネルギー変換」、「長距離エネルギー伝送ビーム」の研究を進めている。

太陽光励起レーザー技術:
 太陽光をレーザー媒質に直接照射してレーザー発振を行う技術で、システムの小型・軽量化が可能。 幅広い波長スペクトルの太陽光を吸収し、(Nd、Cr)添加YAG単結晶と(Nd、Cr、Ce)添加YAG単結晶で、近赤外の波長1064nmのレーザ発振を確認したが、発振効率が低いため限界値20%をめざして開発中
高強度ビームエネルギー変換:
 宇宙から届く高強度のレーザービームを地上で電力に変換する光電変換素子の開発で、波長1064nmで高い変換効率を持つInGaAsP光電変換素子で27%を得たが、理論限界の50~60%をめざして開発中。また、レーザーの熱利用(水素やメタン製造など)も検討している。
長距離エネルギー伝送ビーム:
 レーザ光は伝搬するとともに回折によるビームの拡張が生じる。また、大気中を伝搬することで空気の渦によりビームの強度分布に揺らぎが生じる。そのため静止衛星から地上に向けて36000kmのビーム伝搬シミュレーションを行い、発振ビームや受光パネルの光学設計を進めている。

図3 太陽光励起レーザーを使う宇宙太陽光発電システム 出典:NTT

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