なぜ?再燃する宇宙太陽光発電(Ⅰ)

再エネ

  「夢の発電」といわれながら、これまで何度もブームが到来している宇宙太陽光発電(SSPS:Space Solar Power Systems)が、ここにきて世界的に“再起動”していると報じられた。
 日本が長年にわたり研究開発をリードしてきたが、ここ数年、欧米などで1億ドル(約140億円)規模の予算をかけた大規模研究開発プロジェクトが複数開始されている。一例として2022年11月、欧州宇宙機関(ESA)はSSPSの実現可能性を本格的に調査するプロジェクト「SOLARIS(ソラリス)」をスタートさせている。

宇宙太陽光発電とは?

 宇宙太陽光発電システム(SSPS:Space solar power system)は、1968年に米国Peter Glaserにより提唱された。地上36000kmの静止軌道上に巨大な太陽光パネル浮かべ、発電した電力をマイクロ波または赤外線レーザー光に変換して地上に送り、地上で電力に再変換して利用する。

宇宙システム開発利用推進機構のSSPSイメージ
①原発1基分に相当する100万kWの電力を得るため、2.5×2.375 km四方の巨大な太陽光パネルを搭載した衛星を静止軌道に打ち上げ発電する。衛星の重さは約3万トンにもなる。
②得られた直流電力を半導体でマイクロ波に変換し、送電アンテナで地上に送る。マイクロ波の周波数は大気の影響を受けない電波の窓(1GHz〜10GHz)の5.8GHzなどを用いる。
③地上(海上を含む)にはアンテナと整流回路(マイクロ波-電力変換回路)が一体となった直径4kmの「レクテナ」を配置し、マイクロ波を直流電力に変換し、それを交流電力に変換して商用電力網に伝送する。

図1 マイクロ波方式のSSPSのイメージ 出典:文部科学省及び経済産業省

SSPSのメリットとデメリット

SSPSのメリット:
■高度約36000kmの静止衛星軌道では、太陽光パネルは90%以上の時間帯で発電可能で、天候の影響も受けにくく、年間を通じて24時間の安定した電力供給が可能である。
■上記に加え、大気による光の散乱や吸収がないため地上の約1.4倍の強度の太陽光を利用できるため、地上設置型の太陽光パネルと比べて発電量は5~10倍になる
■マイクロ波は雲を通り抜けるため、送電線のない需要地へもピンポイントで安定な電力供給が可能である。ただし、マイクロ波の受電装置が必要である。
■太陽光パネルが宇宙空間に設置されるため、地上設置で問題となる台風や地震などの自然災害の影響を受にくく、地政学的なリスクによる電力価格高騰なども起きにくい。

SSPSのデメリット:
■宇宙空間に巨大な太陽光パネルと送信レーダーを設置するため、輸送・設置に莫大な資金を投じる必要があり、低コスト化が実現の鍵となる。現時点での見通しは立っていない。
■軌道上での太陽光パネルなどの長期間の運用・維持・補修・廃棄は今後の課題である。特に、スペースデブリによる損傷対策は、安価な検査・補修方法を開発する必要がある。
■高出力のマイクロ波やレーザーを地球に向けて発信することになるため、生物を含む地球環境への影響評価テロ防止対策を明らかにする必要がある。

マイクロ波送電とレーザー送電

 マイクロ波に対してレーザー光は、波長が4~5桁ほど短いためにビームの広がり角が小さく、長距離を伝送させやすく、発信/受信装置やシステムを小型化しやすい特徴がある。

マイクロ波送電では「電波の窓(1G~10GHz)」と呼ばれる周波数帯、例えば5.8GHzが用いられ雨や雲など大気の影響を受けない。また、フェーズドアレイアンテナでビーム方向を電気的に制御できエネルギー密度もレーザー送電に比べて低いことから安全性が高い。
 しかし、マイクロ波送電では、宇宙に送電アンテナ、地上には受電アンテナと巨大な設備が必要である。
■一方、レーザー送電に用いる近赤外光は、雨や雲など大気の影響を大きく受けて透過率が異なる。また、レーザービームの照射方向を制御するためには機械的な精密制御が不可欠で、エネルギー密度が高いために安全管理には十分な注意が必要とされる。
 しかし、レーザー送電ではエネルギー密度く、指向性が強いビームのためにシステムがコンパクトである。

 現在、マイクロ波送電が宇宙太陽光発電(SSPS)の主流となっている。そのため、レーザー送電による宇宙太陽光発電は、レーザー方式SSPS(L-SSPS)と呼ばれ区別されてがいる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました