伸び悩むバイオマス発電の現状(Ⅲ)

再エネ

 バイオマス発電は、バイオマス資源を燃料に変換する技術物理的、熱化学的、生物化学的変換)と、得られた燃料特性に合わせて発電する技術により行われている。発電技術は、FIT対象である「直接燃焼発電」、「バイオディーゼル発電」、「熱分解ガス化発電」、「メタン発酵ガス化発電」の実用化が進められている。

バイオマス発電とは(2)

バイオ燃料で発電する技術

 熱機関は大型で高出力ほど、発電効率は高くなる。同一の発電出力で比較すると、発電効率はディーゼルエンジン>ガスエンジン>ガスタービン>蒸気タービンの順に高い

 蒸気タービン発電システムではボイラを必要とし、スケール効果が大きいため大規模発電向きである。ガスタービン発電システムは燃焼ガスを直接タービン翼に吹き付けて回転力を得るため、蒸気タービンに比べて小規模でも、比較的高い発電効率が得られる。
 また、ガスタービンで発電した後、その高温排熱を回収して蒸気タービンを回転させる複合サイクル発電は、ガスタービン単体よりも10%程度高い発電効率が得られる。
 ガスを燃焼させて駆動するガスエンジンはコンパクトであるが、小規模でも高い発電効率が得られる。ディーゼルエンジンは、ガスエンジンよりも5%程度発電効率が高い。

 バイオマス発電では、以上のエンジン/タービンの特長を生かし、使用するバイオマス燃料との適合性と必要とされる電力量により選択されている。

 2013年5月、富士電機が下水処理施設の自家発電設備として、ガスエンジンに比べて40%ほど低コストの発電システムを開発している。メタンガス改質により水素を取り出し、リン酸型燃料電池により発電するもので、エンジン/タービンよりも発電効率が高く、低騒音である。

図5 各種エンジン/タービンの発電出力と発電効率の関係

 ところで、一般の火力発電プラントの建設単価が20~32万円/kW、年間の運転維持費25~30千円/kWであることを考慮すると、各種バイオマス発電の導入・普及には、FIT/FIPによる支援が不可欠である。
 特に、メタン発酵ガス化発電については、開発段階であるため、実証試験の優遇制度などが普及のためには必要である。

図6 代表的なバイオマス発電の建設単価と運転維持費 出典:日本機械学会誌、p.203, (2013.3).

 FITの対象である「直接燃焼発電」、「バイオディーゼル発電」、「熱分解ガス化発電」、「メタン発酵ガス化発電」について、それぞれの商用化の現状を示す。

直接燃焼発電(蒸気タービン)

 直接燃焼発電は、最も一般的なバイオマス発電である。バイオマスをボイラで燃やして蒸気を発生させて、得られた蒸気の圧力でタービンを回し、発電機で発電する。
 この直接燃焼発電は、バイオマス燃料のみをボイラで燃やす「専焼方式」と、既設の大規模石炭火力発電所でバイオマス燃料と石炭を混ぜて燃やす「混焼方式」に分けられる。

 専焼方式では、バイオマスを乾燥させて含水率を低減させ、粉砕設備を通した後に、循環流動層ボイラで燃やして蒸気を得る。そのため専用の乾燥・粉砕装置が必要で設備コストが高い。また、バイオマスの安定供給量が限られるため中小規模発電となり、発電効率が低い。

 一方、混焼方式では、バイオマス燃料の供給が不安定でも、石炭供給量を制御して安定発電が可能であり、発電効率も高い。また、既設の微粉炭機でバイオマスを混合粉砕することも可能で、設備コストを低減できる。ただし、バイオマス燃料の専用粉砕設備を使用しない場合は、一般に混焼率が1~3%に留まる。

 大規模石炭火力発電所のバイオマス混焼での発電効率は40%程度である。木質バイオマス専焼発電では中小規模のため10〜30%程度の発電効率であるが、コジェネレーション(熱電併給)により60〜80%の高い総合効率が得られ、排熱利用の重要性が認識されている。

図7 小型バイオマス発電プラント 出典:JFEテクノス

多くの新電力では、「バイオマス専焼発電」を稼働:
■2005年1月、住友商事と太平洋セメントの共同出資によるサミット明星パワーの糸魚川バイオマス発電所(出力:5万kW)は、木質バイオマスを主燃料(混焼率:70%、補助燃料は石炭)として稼働。
■2006年11月、エフオン日田の木質バイオマス発電所(出力:1.2万kW)は、含水率の高い非乾燥木を50~60%含む木質チップの専焼発電所を稼働。2006年10月、エフオン白河の木質バイオマス発電所(出力:1.15万kW)、2016年8月、エフオン豊後大野の木質バイオマス発電所(出力:1.8万kW)を稼働。
■2011年2月、住友共同電力、住友林業、フルハシEPOが川崎バイオマス発電を設立し、建築廃材等の木質チップを燃料とする循環流動層ボイラのバイオマス専焼発電所(出力:3.3万kW)を稼働。
■2013年7月、新電力中堅のイーレックスは、太平洋セメントから高知市の石炭火力発電所を買収・改造し、PKSを燃料としたイーレックス・ニューエナジー土佐発電所(出力:2.95万kW)を稼働。
■2015年3月、王子ホールディングスは未利用木材やPKSを燃料とし、宮崎県日南市の日南工場内、2016年1月北海道江別市に、出力:2.5万kWのバイオマス発電所を稼働。
■2017年10月、住友商事子会社のサミットエナジーは、愛知県半田市に木質チップやパーム椰子殻(PKS)を専焼する半田バイオマス発電所(出力:7.5万kW)を稼働。
■2021年7月、沖縄うるまニューエナジーがPKSや木質ペレットを専焼する中城バイオマス発電所(出力:4.9万kW)を稼働。イーレックス、トーヨーカネツ、東京ガスエンジニアリングソリューションズ、九電みらいエナジー、九電工、沖縄ガス、地元企業など5社が共同出資する。
■2022年4月、エイブルエナジー合同会社が運営する福島いわきバイオマス発電所(出力:11.2万kW)が稼働。燃料ペレットは北米から調達して4万トンを備蓄し、燃料消費は55トン/h、44万トン/年である。
■2023年12月、大阪ガスとレノバなどが共同出資する徳島津田バイオマス発電所(出力:7.48万kW)が稼働。木質ペレットとPKSを主燃料とするバイオマス専焼発電所である。

 一方、大手電力会社は、既存石炭火力発電所を使い、「バイオマス混焼発電」を進めている。
 中部電力の碧南火力発電所(総出力:410万kW)では木質バイオマスの混焼率3%、電源開発の松浦火力発電所(総出力:200万kW)では下水汚泥と廃食用油で製造したバイオソリッド燃料の混焼率1%、九州電力の苓北発電所(総出力:140万kW)では木質バイオマスの混焼率1%、常陸共同火力の勿来発電所(総出力:187.5万kW)では 木質ペレットの混焼率3%などである。

バイオディーゼル発電(ディーゼルエンジン)

 バイオディーゼル燃料(BDF:Bio Diesel Fuel)は、アルカリ触媒法、酵素法、酸触媒法などで製造される。特に、「アルカリ触媒法」が安価で完成度が高く、欧米の燃料品質規格をクリアして主流となった。
 すなわち、ひまわり油などの植物油や廃天ぷら油などの廃食用油を原料とし、メタノールとアルカリ触媒を加えてエステル交換し、脂肪酸メチルエステルに変換するFAME (Fatty Acid Methyl Ester)法である。

 BDFは、ディーゼル発電機(出力:2kW~5000kWまで幅広く商用化)の燃料に使うことで、高効率発電が可能である。軽油代替燃料として自動車用ディーゼルエンジンでも使用されており、通常の軽油と比較して硫黄酸化物(SO)や粒子状物質(PM)の排出が少ない低環境負荷燃料である。 

■2012年10月、外食企業プレナスは、埼玉県杉戸物流センターにBDF給油所「関東プレナスステーション」を完成し、関東エリア店舗への配送トラック20台にフライ油リサイクルシステムを稼働。国内には、バイオディーゼル混合燃料B5(BDF5%を軽油に混合)の品質規格がある。
 また、ステーションで使用する電力は、ディーゼル発電機(出力:6kW)をB100(BDF100%)で発電して供給する。B100は公認されていないが、自己責任で使うには問題ない
■2013年3月、使用済み天ぷら油を回収・リサイクルするアーブが、「再生可能エネルギー発電設備(バイオマス)」の認定を取得、2016年5月に群馬県、埼玉県、栃木県の一般家庭から廃食油を回収し、藤岡バイオマス発電所のディーゼル発電機(出力:145kW)で発電し、全量を東京電力に売電する。
■2023年2月、D-HOLDINGSは、家庭、飲食店、食品工場から集めた廃食用油由来のBDFを燃料とするバイオマス発電所「D-POWER津発電所」(三重県津市、出力:1920kW)の稼働を発表。廃食用油の年間使用量は最大2,500トンである。

熱分解ガス化発電(ガスタービン、ガスエンジン)

 バイオマスのガス化は、原料の木質バイオマスなどを熱分解炉に投入し、酸素、空気、水蒸気などで高温加熱が行われる。熱分解や部分酸化により、水素、一酸化炭素、メタンなどの気体燃料が生成されるほか、オイルなどの液体燃料や、木炭などの固体燃料も生成される。

 ガス化炉の形式で、「固定床形式」は構造が簡単で小規模でも低コスト化を実現し易いが、ガス化に長時間を要する。「流動層形式」は流動媒体の保有熱をバイオマスに均質に付与でき、ガス化が加速される。「噴流層形式」はバイオマスの含水率や大きさに制約があるが、高温処理によりタール含有量を低く抑えられる。
 また、熱分解ガス化と接触合成反応を組み合わせ、メタノール、フィッシャー・トロプシュ(FT)合成油、ジメチルエーテル(DME)など液体燃料の間接合成も行われている

 生成されるガス組成は原料やガス化条件で異なる。発電用に発熱量の高いガス組成が追究されており、発電効率の高いガスエンジンやガスタービンに使われている
 また、ガスタービン排熱で蒸気タービンも駆動させる高効率ガス化複合発電(BIGCC: Biomass-fueled Integrated Gasification Combined Cycle)も進められている。 

■2019年5月、北海道バイオマスエネルギーが、熱分解ガス化方式によるバイオマス発電所(出力:1996.5kW)を稼働。燃料は北海道産木材で、米国CPM製ペレタイザでペレット化し、ドイツ・ブルクハルト製CHPで熱分解により得られた可燃性ガス(CO、H2、CH4)を使いガスエンジンで発電する。
■2023年2月、二川工業製作所が設立した福島FKバイオマスパワーが、ネオナイトの協力でバイオマスガス化方式による小型発電事業を開始。同年4月から福島県須賀川市の須賀川バイオマス発電所(出力:220kW)を稼働し、東北電力ネットワークに売電(FITでの買取価格は44円/kWh)を開始。

メタン発酵ガス化発電(ガスエンジン、ガスタービン)

 メタン発酵ガス化は、下水汚泥や生ごみなどのバイオマスを微生物による嫌気性発酵で分解し、その過程で発生するメタンガス(CH4)を燃やして発電するシステムである。
 気体燃料のため様々な発電システムに使用できるが、熱分解ガス化発電に比べて発電規模は中小規模となる場合が多い。ガスエンジンや燃料電池による出力:1kW~数100kW級の高効率メタン発酵ガス化発電システムが開発されている。

 メタン発酵方式は、液状またはスラリー状バイオマスを利用する「湿式処理」と、固形バイオマスを利用する「乾式処理に区分される。湿式処理では水分調整でメタン発酵を阻害するアンモニア濃度を下げることができるが、乾式処理は最終的に処理排水が少ない利点がある。

 また、メタン発酵温度からは発酵槽を35℃前後に保持する「中温発酵」と、55℃前後に保持する「高温発酵」に区分される。高温発酵では発酵速度が速く短期間で効率的なメタン回収が可能で、発酵槽も小型化できるため、熱電併給化による発酵槽の加温が進められている。

 ただし、メタン発酵ガス化発電では脱硫プロセスによる硫黄分除去が不可欠で、メタン発酵プロセスで消化液や発酵残さが生じるため水処理または焼却処理される事例が多い。しかし、コスト削減のため、肥料として農地に戻し再資源化する取り組みも行われている。
 また、バイオガス中のメタン濃度は50~60%であるが、最近ではメタンガス収量を増やすため、数種類のバイオマス原料を組み合わせことも行われている。

■東京都下水道局、東京都下水道サービス、メタウォーターが、東京都下水道局東部スラッジプラントで下水汚泥ガス化発電の実証試験を実施し、2010年7月に「清瀬水再生センター」で、出力:15万kWの下水汚泥ガス化発電システムを稼働
■2015年3月、三菱化工機が汚泥発酵で発生したバイオガスを改質した「水素供給センター」を、福岡市中部水処理センターに開所。
■2015年4月、大阪ガスが大阪市西淀川区、福島区、住之江区、城東区の下水処理場にガスエンジンを設置すると発表。下水汚泥処理過程で発生するバイオガスを大阪市から購入して発電し、FITにより2017年度から20年間、関西電力への売電を行う。
■2022年3月、エア・ウォーター北海道と鹿島建設が、北海道河東郡鹿追町で家畜ふん尿処理施設である鹿追町環境保全センターからメタン発酵により生成されたバイオガスの供給を受け、水素の製造・販売を行う新会社「しかおい水素ファーム」の設立を発表
 水素製造設備能力は約70Nm3/hで、水素出荷設備(圧力:19.6MPa)、水素ステーション(圧力:70MPa燃料電池自動車用、35MPa燃料電池フォークリフト用)向けである。

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