浮体式太陽光発電の現状(Ⅱ)

再エネ

 国内では、2017年頃から農業用ため池や貯水池を対象に、浮体式太陽光発電の開発が進められてきた。同様に、世界でもオランダ、タイ、ブラジル、ロシア、シンガポール、中国、インドネシアなどで、浮体式(フロート式)太陽光発電システムの導入が進められている
 海外では水力発電所のダム湖で最大20万kW級の浮体式太陽光発電所が稼働しており、一部では洋上太陽光発電所の設置も始まっている。

海外の浮体式太陽光発電の動向

 2021年3月、米国の国立再生可能エネルギー研究所(NREL)のレポートの記述「世界で稼働中のダム式水力発電所のダム湖に水上メガソーラーを設置すれば、世界の年間電力消費量の約48%を確保できる。」に関し、国際環境経済研究所は、水力発電と浮体式太陽光発電の組み合わせの有効性を評価した。

 メリットは、既設の水力発電所用の送電線が利用できる。また、ダム式水力発電所は晴天の多い乾期に発電量が下がり、雨期には上がるため、水力発電と浮体式太陽光発電とは相互補完的に稼働できる。特に、揚水発電と浮体式太陽光発電の組み合わせは、新電源として興味深い。

オランダ

 2018年2月、大規模な陸上設置が難しいオランダで、浮体式洋上太陽光発電所の建設計画が発表された。3カ年計画で、スタートアップ企業Oceans of Energy、エネルギー研究センター(ECN)、ユトレヒト大学など、オランダの6企業と研究機関が参加する。
 ユトレヒト大学では、北海に面した南ホラント州スヘフェニンゲンから15kmの海上に発電システムのプロトタイプを設置し、エネルギー生産量などの調査を実施する。

タイ

 2019年3月、国営タイ発電公社(EGAT)は、2037年までに水力発電ダム9ヶ所に合計16の浮体式太陽光発電所を設置すると発表した。16ヶ所のうち出力:30万kW級が5ヶ所あり、完成すると総出力:270万kWとなる。

 最初のプロジェクトはタイ南東の「シリントーン・ダム」案件(出力:4.5万kW)で、建設コストは20億バーツ(約85億円)と試算し、営業運転開始は2020年である。タイ政府は、2037年までに全発電設備容量の27%を再生可能エネルギーとする目標を掲げている。 

ブラジル

 2020年2月、フランスのエネルギー大手Engie傘下のエンジニアリング会社Tractebelは、ブラジル国営電力会社Eletrobras FurnasのBatalha(バタラハ)水力発電所(出力:5.22万kW)向けに、浮体式太陽光発電所(UFVs)I、II、III(総出力:3万kW)の基本設計を行い、一部の稼働を始めた。

 また、ブラジルでは、2016年からバイーア州のSobradinho(ソブラディーニョ)水力発電所(出力:17.5万kW)でも、浮体式太陽光発電所(出力:1000kW)を開所しており、将来的に5000kWまで拡大される予定である。

ロシア

 2020年9月、水力発電メーカーRushydro(ルシドロ)と太陽光発電メーカーHevelは、極東アムール地方にあるルシドロ所有のNizhne-Bureyskaya(ニジネ・ブレイスカヤ)水力発電所(出力:32万kW)のダム湖に、浮体式太陽光発電所(出力:125kW)の設置を完了した。発電所設備向けの電力として使われている。
 140枚のヘテロ接合型太陽電池パネルが、ポンツーン型フロートに搭載された。パネル面積は474m2で、10列のPVモジュールで構成され、それぞれ14枚のパネルが15°の傾斜角度で取り付けられた。浮体式モジュールには特別な接続方式が採用され、数mの水位差と波浪に耐えるように設計された。

シンガポール

 2021年3月、シンガポールの太陽光発電事業会社Sunseapグループによる浮体式洋上太陽光発電所(出力:5000kW)のジョホール海峡への設置が完了した。3万個超のフロート上に、1万3312枚の太陽光パネル、40台のインバーターが搭載され、約600万kWhの発電を見込んでいる。
 気象条件の変化や波による上下変動に耐えるために係留システムにより安定性を確保し、海水腐食や海生生物の付着防止対策など洋上特有の課題も考慮してる。

図3 シンガポールでSunseapが設置した浮体式太陽光発電所
出典:Asian Scientist

中国

 2017年4月、中国の大手パワーコンディショナ・メーカーの陽光電源(Sungrow Power Supply)が、安徽省淮南市で浮体式水上メガソーラー(出力:7万kW)を稼働した。石炭の露天掘跡地にできた水深4~10mの巨大な水たまりの有効利用で、太陽光パネル16万6000枚を設置し、運転年限は最大25年とした。

 2017年12月、中国長江三峡集団(China Three Gorges)が、安徽省で浮体式水上メガソーラー(出力:15万kW)の建設を発表した。ダム湖に設置したもので、総工費1億5,100万ドルで、2018年5月に稼働した。

 2023年11月、中国初の半潜水型の浮体式洋上太陽光発電プラットフォーム(出力:400kW)が、山東省煙台市の沖合で稼働した。発電プラットフォームは4個の浮体が四角形に配置され、波高:6.5m、風速:34m/s、潮位差:4.6mの条件範囲内の海域で設置された。
 この半潜水型の設備はモデルプロジェクトであり、中国の洋上太陽光発電の開発条件を満たした海域面積は71万km2あり、試算では総出力:7000万kWを超える。

 2023年12月、中国長江三峡集団は、安徽省阜陽市南部で阜陽浮体式太陽光発電所(出力:65万kW)が系統接続したと発表。0.867km2の石炭の露天掘り跡地の遊休水面に、約120万枚の太陽光パネルが設置された。平均発電量は約7億kWh/年で、標準石炭消費を約22万トン/年、CO2排出を約58万トン/年削減する。

インドネシア

 2023年11月、インドネシア西ジャワ州チラタダムで、中国企業が建設した浮体式のチラタダム太陽光発電所(出力:19.2万kW)が送電を開始した。約2.5km2の水面に13列の太陽光パネルが並ぶ。
 インドネシア国営電力会社(PLN)とアラブ首長国連邦(UAE)の国営再生可能エネルギー大手マスダールが共同で開発し、中国インフラ大手の中国電力建設集団傘下の華東勘測設計研究院が設置した。

図4 インドネシアで稼働した浮体式太陽光発電所  出典:新華社

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