洋上風力発電の現状(Ⅲ)

再エネ

 第一弾のFIT公募で、秋田県沖と千葉沖の3海域案件を落札したのは全て三菱商事連合で、他社に比べて大幅に安い供給価格を設定した。その結果、ヴェスタスは日本での工場建設を中止シーメンス・ガメサは次回公募の見送りを表明した。入札で負けたヴェスタス、シーメンスが拠点戦略を変える可能性が高い。

 第二弾のFIP公募で、秋田県八峰町・能代市沖の4海域案件を落札したのは、伊藤忠商事、三井物産、住友商事の企業連合である。落札価格は3円/kWh以下が提示されたため、公募を中断して行われた政府によるルールの見直し(早期の運転開始)が勝敗に大きな影響を与えた。ただし、1海域案件のみ再入札となった。

促進区域における洋上風力の現状

長崎県五島市沖

 2021年6月、経済産業省と国土交通省は、長崎県五島市沖で洋上風力を担う事業者の公募結果を公表した。応募したのは「五島フローティングウィンドファーム合同会社」の1社で、FITにより売電価格は36円/kWh、20年間にわたり九州電力送配電に売電する。事業者は最大30年間にわたり海域を占有できる。

 五島市沖洋上風力発電事業では、戸田建設、ENEOS、大阪ガス、INPEX、関西電力、中部電力が参画する「五島フローティングウィンドファーム合同会社」により、浮体式・ハイブリッドスパー式の日立製作所製ダウンウィンド型2100kW風車8基(総出力:1.68万kW)を設置し、2024年1月の商業運転を予定していた。
 しかし、製作中の浮体構造部に不具合が発見されたことで工事工程が遅延し、運転開始時期を2026年1月に延期した。先行きが危ぶまれる。

図5 五島市沖に建設される浮体式洋上風力 出典:五島市

秋田県沖と千葉沖の3海域

 2021年12月、第一弾として経済産業省と国土交通省は秋田県沖と千葉県沖の3海域で洋上風力を担う事業者の公募結果を発表した。3海域の案件を落札したのは全て三菱商事連合で、米国GE製の着床式大型風車(出力:1.26万kW)を採用する。事業者は最大30年間にわたり海域を占有できる。

秋田県能代市・三種町・男鹿市沖は三菱商事、三菱商事エナジーソリューションズ、中部電力子会社シーテックで構成する共同事業体「秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド」が、GE製1.26万kW風車38基(総出力:47.88万kW)を計画し、2028年12月の運転開始をめざす。FIT価格は13.26円/kWh
秋田県由利本荘市沖は三菱商事、三菱商事エナジーソリューションズ、中部電力子会社シーテック、ウェンティ・ジャパンで構成する共同事業体「秋田由利本荘オフショアウィンド」が、GE製1.26万kW風車65基(総出力:81.9万kW)を計画し、2030年12月の運転開始をめざす。FIT価格は11.99円/kWh
千葉県銚子市沖は三菱商事、三菱商事エナジーソリューションズ、中部電力子会社シーテックで構成する共同事業体「千葉銚子オフショアウィンド」が、GE製1.26万kW風車31基(総出力:39.06万kW)を計画し、2028年9月の運転開始をめざす。FIT価格は16.49円/kWh

 三菱商事は2012年頃から、オランダのエネルギー企業エネコと欧州での洋上風力開発に携わり、2020年3月には中部電力と共同でエネコを5000億円で買収した。
 一方、2023年3月、欧州勢に洋上風力で先行されていたGEは、出力:1.7~1.8万kWの世界最大級の洋上風車を日本市場へ投入し、洋上風力発電で成長が見込める日本市場で巻き返しを進めている。

 これまで改正港湾法に基づいて導入された着床式洋上風力発電は、FITによる買取価格が2021年度は32円/kWhが適用された。しかし、再エネ海域利用法に基づいて導入するプロジェクトには、FIT価格の決定および事業者の選定には入札制度が導入され、上限価格が29円/kWhに設定された。

 三菱商事連合は能代市沖で13.26円/kWh、由利本荘市沖で11.99円/kWh、難工事が予想された千葉県銚子市沖で16.49円/kWhと2番手以下より約3割安い入札価格で落札した。大手電力会社が20年間買い取るが、潜在的な売電先にはアマゾン、NTTアノードエナジー、キリンHDが上がっている。

 三菱商事連合の入札価格は、これまでのFIT売電価格に比べて破格の安値での受注であった。欧米で起きている中止・撤退の二の舞を踏むことにならないか?救いはGEが風車基幹部品を東芝京浜事業所で共同生産することで、東芝は風車製造体制を2024~2025年に整備する。
 日本の洋上風力導入の試金石となるプロジェクトである。政府は、変電所や電線などの製品、運用・保守などの産業全体で、2040年までに国内調達比率を6割にする目標を掲げている。しかし、昨春からの円安傾向とインフレ基調から、さらに輸入比率を下げて低コスト化を進める必要がある。

 秋田県沖と千葉県沖の3海域案件を落札したのは全て三菱商事連合で、他社に比べて大幅に安い供給価格を設定した。その結果、ヴェスタスは日本での工場建設を中止シーメンスガメサは次回公募の見送りを表明した。入札で負けたヴェスタス、シーメンスが拠点戦略を変える可能性が高い。

 世界風力会議(GWEC)予測では、中国を除くアジアの2022~2031年の洋上風力導入量(シェア)は、日本が578万kW(16%)程度で、台湾は1407万kW(38%)韓国は745万kW(20%)、ベトナムは691万kW(19%)、インドが300万kW(8%)である。日本のシェアは決して高くはない。 

秋田県沖・新潟県沖・長崎県沖の4海域

 2021年9月、第二弾として、再エネ海域利用法に基づき「秋田県八峰町及び能代市沖」は促進区域に指定され、2021年12月に公募を開始。しかし、2022年3月、突然、公募の実施スケジュールと審査基準の見直しが発表された。公募は実質的に中断されるという異例の事態である。

 政府は、「今般のウクライナ情勢を踏まえ、エネルギー安全保障の面から再生可能エネルギー導入を加速する必要がある。特に、洋上風力発電は、2021年12月に公表した3海域での公募結果により、太陽光発電などと競争可能な低コストの大規模電源であることが証明された。」ためと発表した。

 公募の中断という異例の事態は、日本風力開発からの受託収賄の疑いで逮捕された秋本真利衆議院議員の発言により引き起こされた
 すなわち、2022年2月17日の衆議院予算委員会分科会で、第一弾の入札で圧倒的に低い入札価格を示した「三菱商事グループ」が3海域のプロジェクトを全て落札したことを受け、第2ラウンドの公募では入札の評価基準を見直し、運転開始時期の早さに重点を置くよう求めた。
 一議員の愚かな行為により、公正であるはずの公募の途中に異例のルール変更が行われたのである。国内外の事業者に向けて、日本が信頼を大きく損なった政府の責任は大きい。

 2022年12月、再エネ海域利用法に基づき、促進区域である「秋田県八峰町及び能代市沖(35.6万kW)」、「秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖(33.6万kW)」、「新潟県村上市及び胎内市沖(70万kW)」、「長崎県西海市江島沖(42.4万kW)」の公募が再開され、2023年6月まで応募を受け付けるとした。 

 公募で導入された新ルールとは:
事業者を選定する際、評価点240点満点の中に「事業計画の迅速性」20点が新たに加わった。その他に「売電単価」120点、「電力安定供給」20点、「運転開始までの事業計画」15点、「事業実施体制・実績」「資金・収支計画」「周辺航路、漁業などとの協調・共生」「地域経済への波及効果」「国内経済への波及効果」「関係行政機関の長などとの調整能力」に各10点、「運転開始以降の事業計画」5点が配分された。
1事業体が大半の対象海域を落札しないよう、1事業体あたりの発電・送電容量の上限を合計100万kWとし、超えた場合は新たな落札ができない。ただし、今回の4海域公募のみの制限条項とした。
対象の4海域すべてにFIPを適用。海底への固定がモノパイル方式の秋田、新潟3海域の入札上限価格を19円/kWh、ジャケット方式の長崎県沖を29円/kWhに設定。再エネ賦課金が発生しない「ゼロプレミアム水準」を3円/kWh、それ以下の価格点を満点(120点)とした。

注釈)FIP制度では、再エネ発電事業者が自ら売り先を見つける必要がある。JEPX(日本卸電力取引所)スポット市場に売電した場合、落札価格より市場価格が安ければ、その差額分をプレミアムとして事業者が受け取れる。このプレミアムは国民負担となるが、3円以下で応札した場合はプレミアムを受け取れない。

 政府は1事業体による日本市場独占のリスクを避け、複数の事業体が日本に拠点工場を設置してアジア市場を開拓する構想を描いている。そのためには日本を拠点とするメリットを演出する必要がある。日本市場規模の拡大、税制優遇、設置補助金、拠点工場の設置支援、部品供給、メンテ支援など。。

 2023年12月、2021年12月に続く第二弾として、経済産業省と国土交通省は、国が指定した秋田県沖、新潟県沖、長崎県沖の3海域について洋上風力を担う事業者の公募結果を発表した。

秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖は、JERA、伊藤忠商事、東北電力、Jパワーの企業連合により、デンマーク・ヴェスタス製のモノパイル方式1.5万kW風車21基(総出力:31.5万kW)で、2028年6月の運転開始をめざす。落札価格:3円/kWh
新潟県村上市・胎内市沖は、三井物産、大阪ガス、RWE Offshore Wind Japan 村上胎内の企業連合により、米国GE製のモノパイル方式1.8万kW風車38基(総出力:68.4万kW)で、2029年6月の運転開始をめざす。落札価格:3円/kWh
長崎県西海市江島沖は、住友商事、東京電力リニューアブルパワー(RP)の企業連合により、デンマーク・ヴェスタス製のジャケット方式1.5万kW風車28基(総出力:42万kW)で、2029年8月の運転開始をめざす。落札価格:22.18円/kWh
秋田県八峰町・能代市沖は、最も評価の高かった事業者の港湾利用が重複したため、計画の再提出を待って、2024年3月に落札者を公表する。

 入札価格は3円/kWh以下を提示すれば、一律で価格点が満点になるため各社で差が付かず、第二弾の公募の勝敗は、公募を中断して行われた政府によるルールの見直し(早期の運転開始)が大きな影響を与えた。欧米の洋上風力事業を鑑みると、落札価格:3円/kWh以下は異常に安い
 落札した事業者はFIPで販売手法を自由に選べる。特定の大口顧客に直接販売するコーポレートPPA(電力購入契約)を使えば、3円/kWhより高く売ることも可能である。すなわち、新ルールでは特定の大口顧客を見つけられる事業者のみが、落札できたのである。

青森県沖と山形県沖

 2023年8月、第三弾として、政府は洋上風力を実施する促進区域として新たに青森県の日本海と側南部沖(60万kW)と、山形県遊佐町沖(45万kW)の両県沖を追加した。2024年早々に入札の受け付けが始まる。 

その他の洋上風力プロジェクト

 2019年11月、コスモエネルギーHDは風力子会社のコスモエコパワーが、北海道江差町などの檜山管内沖の水深200mまでに最大125基の風車を設置する計画(総出力:100万kW)を発表した。発電所は浮体式と着床式の双方を採用する計画である。

 2022年1月、ノルウェー石油大手のエクイノールが北海道沖に浮体式洋上風力発電所(総出力:400万kW)を2030年代に建設すると発表した。エクイノールは性能などの基本仕様を決定し、日本企業(主に造船会社)が製造を担当し、北海道の4海域でそれぞれ100万kW程度の発電所を稼働させる計画である。 

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