欧米で起きている洋上風力の中止・撤退は、洋上風力発電を再生可能エネルギー拡大の切り札と位置付けている日本でも起きることは容易に予測できる。既に、国内の風車メーカー(三菱重工業、日立製作所など)は撤退しており、サプライチェーンの構築もこれからの日本である。
一方、昨春から進んでいる円安に加えて、インフレの終焉も見通せない状態が継続している。果たして、計画通りに洋上風力発電の導入が進むのであろうか?国内動向を、少し振り返ってみよう。
国内の洋上風力の動向
港湾部への設置
固定価格買取制度(FIT)での買取価格は、洋上風力では2014年に36円/kWと高めに設定され、補助金上乗せ方式(FIP)でも2022年まで着床式29円/kW、2024年まで浮体式36円/kWと優遇される。そのため建設が比較的容易な港湾区域内で洋上風力プロジェクトが進められ、一部で商業運転が始まった。
秋田洋上風力発電は、2022年12月能代港に20基、2023年1月秋田港に13基設置されたヴェスタス製4200kW風車の着床式・モノパイル式洋上風力発電所(総出力:14万kW)の商業運転を開始。発電した電力は、FITにより36円/kWhで20年間にわたり東北電力ネットワークに売電する。
2024年1月、合同会社グリーンパワー石狩は、北海道石狩湾新港の港湾区域内(約500ha)にシーメンス・ガメサ製8000kW風車14基を設置した着床式・ジャケット式の石狩湾新港洋上風力発電所(総出力:11.2万kW)の商業運転を開始した。FITにより36円/kWhで20年間にわたり北海道電力ネットワークに売電する。
また、風力の出力変動を制御するため、サムスンSDI製リチウムイオン電池を採用した大規模蓄電池システム(出力:10万kW、容量:18万kWh)を陸上に併設した。風車本体以外の多くの部品を日本国内で調達し、政府目標の2040年までの国内調達比率60%を達成した。
2022年12月 ひびきウィンドエナジーは北九州市響灘沖に計画される「北九州響灘洋上風力発電事業」の各種工事の契約締結を発表した。ヴェスタス 製9600kW風車を設置した大規模ウィンドファーム(25基、総出力:24万kW)で、2022年末に着工、2025年度の稼働を予定している。
発電した電力は、FITにより36円/kWhで20年間にわたり九州電力送配電に売電する。
2022年3月、ウィンド・パワー・エナジー、東京ガス、日本風力エネルギーは、茨城県鹿島港南側の港湾区域内で計画している着床式洋上風力発電事業(総出力:16万kW)の運転開始を、2026年に前倒しすると発表した。海岸線から600~1500m沖合に出力:8000kWの大型風車19基を設置する。
その他、むつ小川原港洋上風力開発が、青森県上北郡六ヶ所村むつ小川原港で、洋上ウィンドファーム(総出力:8万kW)を計画しているが、現時点で環境アセスメントの段階から大きな進捗はない。
以上のように、港湾における洋上着床式については2023年に25.2万kWが商業運転を開始した。今後、予定通りに開発が進められても、2030年までに累計出力で65万kW程度に留まる。
洋上風力の導入促進策
政府は風力発電について、2030年までに総出力:1000万kW、2040年までに3000万〜4500万kWの目標を掲げ、未だ導入事例の少ない洋上風力を対象に導入促進策を施した。
すなわち、2019年12月に長崎県五島市沖、2020年7月に秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖、2021年9月に秋田県八峰町及び能代市沖、「田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖、新潟県村上市及び胎内市沖、長崎県西海市江島沖を導入促進区域に指定した。
■洋上風力利用促進法
2016年5月、国土交通省が管轄する「港湾法」の改正案を公布し、2016年7月に施行された改正港湾法で、自治体が管理する港湾内の洋上風力発電の事業者公募手続きを定めた。一方で、2017年3月、経済産業省は事業者向けに事業計画策定ガイドラインを作成した。
2018年3月、一般海域において洋上風力発電の導入を促進するため「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(洋上風力利用促進法)案」が閣議決定された。
内閣総理大臣が基本方針を策定し、関係者を構成員とする協議会などの意見を聴取した上で促進区域を指定する。さらに促進区域内の海域占用などに係る計画の認定制度を創設する。
2018年12月、「再エネ海域利用法(海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律)」が公布され、国土交通省と経済産業省の共同所管となる「洋上風力促進WG」が立ち上げられ、実際の運用に関する検討が始められた。
2019年4月、「再エネ海域利用法」が施行された。促進区域として、同年12月に長崎県五島市沖、2020年7月に秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖が指定された。選定された事業者はFITによる認定を受け、最大30年間の海域占用が認められる。
2020年6月、経済産業省と国土交通省が長崎県五島市沖の洋上風力発電事業の公募を開始した。参加資格を国内法人とし、公募前調査の事前同意の実施や事業活動を所管官庁が監督するなど、日本領海内の海洋情報が外国に流出しないよう監視を強化する方針を示した。
2020年11月、再エネ海域利用法に基づき、「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖(北側・南側)」、「千葉県銚子市沖」の公募を開始した。
2021年9月、再エネ海域利用法に基づき、新たに「秋田県八峰町及び能代市沖」、「秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖」、「新潟県村上市及び胎内市沖」、「長崎県西海市江島沖」を海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域に指定した。
2022年12月、再エネ海域利用法に基づき、「秋田県八峰町及び能代市沖」、「秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖」、「新潟県村上市及び胎内市沖」、「長崎県西海市江島沖」の公募占用指針を定め公募を開始した。
■洋上風力導入の支援策
一方、国土交通省は浮体式洋上風力発電設備の安全ガイドライン作りと、国際標準化に向けて国際電気標準会議(IEC)対応を進めた。浮体式は津波や高潮などを前提に設計されるため災害にも強いが、「浮体式洋上風力発電施設技術基準」では過去の最大レベルの地震・津波を考慮するよう求めた。
2019年4月、NEDOは浮体式洋上風力発電施設の設計を進める上で必要なガイドライン、技術的解決策を体系的にまとめた「浮体式洋上風力発電技術ガイドブック」を公開した。
2022年1月、環境省は洋上風力を計画する事業者の負担軽減のため、環境アセスメントに必要な一部調査の代行を始めると表明した。第1弾として2022年4月以降に、山形県遊佐町沖で生態系を調査して、環境アセスメントに必要な項目のデータベースを事業者に提供する。
同海域で想定される発電能力は45万kWであり、渡り鳥や大型哺乳類などの生態系の調査を代行することで、運転開始を1~2年早めて2030年までの運転開始を見込んでいる。
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