2023年12月、アラブ首長国連邦ドバイで開催されたCOP28で示された「再エネ2030年までに3倍」の目標は、再生可能エネルギー普及の追い風となるであろう。
しかし、新型コロナウイルス禍をきっかけとした世界的な供給網の混乱や資材価格の高騰に加え、米国中央銀行の利上げで資金調達コストが膨らんだことにより、洋上風力発電の採算割れによる開発計画の頓挫が起きている。果たして、日本の洋上風力はどうなるのか?
欧米における洋上風力の現状
2023年12月、アラブ首長国連邦ドバイで開催された国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、日本をはじめとする118か国が、世界全体の再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに3倍に相当する1万1000GW以上に増やし、エネルギー効率を2倍とする目標の誓約に署名した。
こうした状況を前提として、日本政府(環境省)は国内だけで3倍を目指すのではなく、世界で3倍にすることが必要であるとし、新興国のCO2排出量削減を日本が支援し、創出されたクレジットの一部を日本政府が取得する「2国間クレジット制度(JCM)」の普及を進める考えを示した。
一方、COP28事務局は、「今後10年間の気候危機に備え、緊急の行動と社会の全レベルでの支援が必要」と強調、温室効果ガス排出を抑えるためクリーンな発電の拡大を締約国に求めた。
具体的には、既存の石炭火力発電所の段階的削減や化石燃料の段階的な使用廃止の目標年設定が検討された。しかし、中国やインドなどの主要排出国、サウジアラビアなどの産油国の反対により、最終的に「エネルギーシステムの化石燃料からの脱却を図り、この10年で行動を加速させる」との内容で合意した。
世界の環境団体でつくる「気候行動ネットワーク」から、日本は脱炭素政策に後ろ向きな国に贈られる「化石賞」に選ばれた。4年連続の不名誉な受賞である。
日本は石炭火力発電所の新規建設の終了を表明したが、既存施設の廃止計画はなく、アンモニア混焼などをアジアに展開する取り組みを披露し、「グリーンウォッシュ(見せかけの環境対応)」と指摘された。「先進国は2030年に石炭火力廃止をめざしているが、日本は電源構成で19%を見込んでいる」との批判である。
今後も、日本には「再エネ2030年までに3倍」に向けての積極的な取組みと共に、実質的な脱石炭火力発電が求められるであろう。しかし、政府の対応は中途半端で煮え切らないのが現状である。
欧米の洋上風力の最新動向
洋上風力発電の開発は、風車の大型化、サプライチェーンの整備、セントラル方式の導入などで先行した欧州が実質的にけん引してきた。
2010年頃から競争入札により発電コストが顕著に下がり始め、2016年に落札された事業は10ユーロ/MWh(約16円/kWh)を下回り、その後、5ユーロ/MWh(約8円/kWh)前後まで低下し、一般の電力市場価格と同水準の落札が相次ぐようになった。
一方、2020年代に入り、徐々に風車メーカーの経営状況が悪化する。これに新型コロナ禍とロシアのウクライナ侵攻にともなうインフレが直撃した。最大手ドイツのシーメンス・ガメサは、品質問題も抱えて経営危機に陥り、オーステッドなどの開発事業者も風車価格上昇を受け入れざるを得ない状況となっている。
この時期に落札した開発事業者は、入札条件(買取価格)の変更なしで進めれば巨額の赤字を避けられず、中止・撤退の決断を迫られているのが現状である。
■2023年7月、スウェーデンの電力大手バッテンフォールは、英国の大型洋上風力プロジェクト「「Norfolk Boreas」(出力:140万kW)を停止すると発表した。
ロシアのウクライナ侵攻が資源価格を押し上げ、タービンやケーブルなどの製造コストや輸送費が上昇し、資材の調達計画に狂いが生じたのが原因。開発コストは最大で40%上がり、55億クローナ(約760億円)の減損計上に追い込まれた。
■2023年8月、ノルウェーのエクイノールと英国BPの共同体は、オーステッドとともに3か所の風力プロジェクトについて、落札時の電力販売価格の52%引上げを要請した。
「Empire Wind 1」(81.6万kW)は118.38→159.64ドル/kWh(NJ州)、 「Empire Wind 2」(126万kW)は107.50→177.84ドル/MWh(NJ州)、「Beacon Wind」(123万MW)は118.00→190.82ドル/MWh(MA州)である。引き上げ後の価格は円換算で24~28円/kWhとなり、条件変更できなければ契約を破棄する。
■2023年9月、英国政府の年1回の「再エネ入札」で、落札事業者は15年間、政府設定の上限価格の下で落札した固定価格で売電できるが、洋上風力の応札はゼロ件となった。
風車関連機器の価格が落札時と比較して約4割上昇しているにもかかわらず、英国政府が事業者からのコスト反映の要請に応えなかったのが理由である。
■2023年11月、デンマークの洋上風力大手オーステッドも、米国東部ニュージャージー州沖合で計画する「Ocean Wind 1, 2」(出力:110万kW、114.8万kW)プロジェクトからの撤退を発表。284億デンマーククローネ(約6000億円)の減損に、キャンセル料16億ドル(約2400億円)が加算される。
オーステッドが2事業を落札したのはインフレ前の2019年6月と2021年6月、その後の世界的な資材高騰で事業費用が落札時の価格と大きく乖離したことが原因である。
■2023年11月、オーステッドは、投資家の選定や電力購入などに関する政策が不透明なため、ベトナムにおける洋上風力発電の開発事業中止を発表した。
2022年、同共同企業体は計画投資省傘下の国家イノベーションセンターと、ベトナムでの洋上風力発電開発の協力覚書を締結した。総出力:2100万kW、総投資額:300億ドル(約4兆4000億円)。
■2024年1月、英BPとノルウェーの石油大手エクイノールは、米国ニューヨーク州沖で進める洋上風力発電プロジェクト「エンパイア・ウインド2」(総出力:126万kW)について、インフレや高金利の影響で開発事業費が想定より膨らんだため事業を中止すると発表。
欧州風力協会によると、欧州での2022年の風力発電投資額は約170億ユーロ(約2.7兆円)であったが、2021年の約410億ユーロから6割程度減り、2009年以降で最も低い水準に落ち込んだ。特に、洋上風力は前年の約166億ユーロから約4億ユーロに激減した。
米国は、2021年にバイデン政権が2030年までに洋上風力3000万kWの導入計画を打ち出した。政府設定の買取価格上限を上げなければ、欧州と同様に洋上風力事業の中止・撤退が始まる。しかし、電力の買取価格を引き上げれば、国民の電気料金を引き上げざるを得ない。
欧州に比べてサプライチェーン未整備の米国は、より大きな影響を受けている。しかし、現在起きている洋上風力発電の中止・撤退は過渡的な問題であり、今後、インフレ対応が進み、サプライチェーン重視の姿勢が浸透していく中で、混乱は収束するとの見方が一般的と考えられている。
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