地熱発電
伸び悩む地熱発電の現状
多くの再生可能エネルギーが伸びる中で、1996年以降、地熱発電の累積導入量は約55万kWとほぼ一定で、2021年度の総発電電力量に占める割合は0.3%に留まっている。国内の地熱発電ポテンシャルは2300万kWと高いが、自然環境維持とのバランスの問題で遅々として開発が進まない。
地熱発電電力量は1997年をピークに年々減少し、7割程度になっている。これは生産井からの蒸気量の減少が主原因とみられ、腐食などによる機器の経年劣化も影響を及ぼしている。地熱発電所の新設に注目が集まっているが、短期的には設備更新や老朽化対策への政府支援が重要である。
地熱発電は運転開始までに探査と掘削に長期間を要し、環境アセスメントを加えて10年以上(平均14年)が必要である。太陽光発電の1年、バイオマス発電の5年、風力発電の8年に比べて明らかに長期間である。そのため、大規模地熱発電所の新設は、長期的視野に立つ計画と遂行が不可欠である。
また、地熱発電では井戸を掘るのに1本当たりの掘削費は5億円を超し、日本での掘削成功率は3割程度とされる。そのため地熱発電の建設単価は100万円/kWと、風力発電の20万円/kW、太陽光発電の37万円/kW、原子力発電の45万円/kWに比べ高価である。
地熱発電の強み
一方、地熱発電は燃料を必要とせず、昼夜・天候を問わずに24時間の安定な発電運転が可能である。そのため設備利用率は57%と高く、風力発電の約21%、太陽光発電の約14%と比べても優れており、地域のベースロード電源として期待されている。
また、地熱発電はタービン発電機を国内で調達することが可能な純国産エネルギーであり、エネルギー自給率にも貢献する。再生可能エネルギーの中では発電コストが9.2~11.6円/kWhと安く、小規模にも関わらず大規模なLNG火力発電の10.7円/kWhとほぼ同等である。
特に、世界の地熱発電設備の日本製シェアは69%であり、三菱重工業(25%)、東芝(24%)、富士電機(20%)が製造している。技術レベルが高いのに国内の地熱発電開発が進まなかった原因は、地熱発電に関する長期的な展望を見誤ったためである。
今後の導入拡大に向けて
政府は2030年までに総出力:150万kWの目標を掲げるが、中小規模のバイナリー・サイクル地熱発電所を地産地消の分散電源として拡大させることが必要。既設の大規模地熱発電所は、経年的な発電効率の低下対策と、老朽化更新によるリパワリングの推進が喫緊の課題である。
2017年3月、NEDOが風力・地熱発電の導入に関する手続期間を半減できる前倒環境調査を公表。これにより3~4年を要した環境アセスメンを2年以内に短縮できるとした。しかし、地熱資源調査の効率化と精度向上、さらなる環境アセスメント期間の短縮が求められている。
大規模地熱発電の新規開発を推進するために、政府は地熱発電に関して投資に見合う収益を改めて明示する必要がある。2022年度からは再エネの補助制度「FIP」が導入されたが、電力会社が固定価格で買い取る「FIT」とは異なり、先々のコスト試算が難しいのが現状である。
政府による規制緩和が進められているが、掘削を伴う大規模地熱発電所の開発には地元温泉事業者や自然保護団体等から反対の声が上がる。これは井戸堀削や建造物設置による自然・環境・景観の破壊や、温泉源の湯量低下・枯渇等を危惧するためであり、政府の積極的な介入が不可欠である。
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