進む太陽光発電の”設置義務化”(Ⅱ)

再エネ

 東京都は太陽光発電”設置義務化”の新制度の対象を中小新築建物とし、設置義務者は住宅を注文する個人(施主)ではなく建物供給事業者であるとし、2030年度に200万kW以上を目指して太陽光発電の設置義務化を推進する。
 しかし、何の対策も施さなければ、安価な中国製太陽光パネルに国内住宅向け市場も席捲され、エネルギー安全保障上のリスクを背負う。また、東京電力が太陽光発電の出力変動を100%調整できず、再エネ出力制御が多発することで、再エネ導入の拡大を損なう可能性もある。

太陽光発電”設置義務化”の問題点

中国製太陽光パネルの大量導入

 現在、都内の建築物総数約225万棟のうち、太陽光発電設備の設置は9.5486万棟(4.2%)に留まる。東京都は本制度による太陽光発電導入量として4万kW/年程度の導入を見込み、大規模建築物や既存建物も含めて2030年度には200万kW以上へ増加させることを目指している。

 一方、2023年3月、経済産業省は2023年度の電力供給の余力を示す予備率をまとめ、東京電力管内の予備率は7月に3%と「電力需給逼迫注意報」の発令基準となる5%を下回る見通しを示した。東京都の太陽光発電の大量導入が進めば、電力不足を助ける一助となろう。

 しかし、国内の太陽光パネルメーカーは安価な中国勢にシェアを奪われ、高価格でも売れる国内住宅向けに販売をシフトして生産規模を縮小したが、価格が一層高くなる悪循環に陥り、三菱電機・パナソニック・ソーラーフロンティアの大手メーカーが生産から撤退した経緯がある。

 何の対策も施さなければ、安価な中国製太陽光パネルに国内住宅向け市場も席捲されるであろう。米中対立を背景に、中国一国への過度な太陽光パネル依存は、供給遮断などのエネルギー安全保障上のリスクを背負う。京セラなど国内生産を継続している太陽光パネルメーカーの支援が急務である。

再エネ出力制御率の増大対策

 2023年3月、東京電力はエリア内において、太陽光発電等の再エネ電源を中心とした発電設備の連系量が増加しており、今後必要に応じて需要と供給のバランスの維持を目的とした再エネ出力制御(系統からの遮断)を実施する可能性を表明し、政府はこれを了承した。

 東京電力は、2022年9月時点で太陽光発電1795万kW、風力発電43万kWの接続量を保有している。5月連休などで電力需要が低下した時に、晴天で太陽パネルがピーク発電すると、その出力変動を火力発電の出力制御揚水発電の電力貯蔵では調整できず、再エネ出力制御(一時停止)が行われる。

 東京電力管内のルールでは、住宅用太陽光発電(出力10kW未満)は、当面の間、出力制御の実施対象外である。しかし、2030年度に200万kW以上に増加した場合、再エネ出力制御(一時停止)率が高まるのは明らかであり、住宅用太陽光発電の対象外は保証されるものではない。

 何よりも重要なのは、東京電力が太陽光発電の出力変動を100%調整できずに再エネ出力制御を行う状況が続けば、再エネ導入拡大に支障が生じることである。東京電力が出来ないのであれば、家庭用太陽光発電の設置義務化と並行して、住宅用蓄電池の設置推進を図る必要がある。 

 他の自治体においても太陽光発電設備の設置義務化が進み、今後、さらに拡大することが予想されるため再エネ出力制御(一時停止)率は益々高まる再エネの出力変動を火力発電の出力変動で調整する現状から脱却し、真の脱炭素社会を実現するためには家庭用蓄電池の設置は必須となる。

様々な住宅用蓄電設備の導入ケース

 重大な問題を抱えるものの、住宅用太陽電池の導入は脱炭素社会の構築には有効な施策である。住宅用太陽光発電”設置義務化”ばかりが先行してPRされているが、地方自治体はV2Hシステムを含む住宅用蓄電池設備の導入に関しても、堂々とPRを進めるべきである。

住宅用太陽光発電設備と蓄電設備の経済性

住宅用太陽光発電設備の導入

 東京都は一定の前提条件のもとで、住宅に太陽光発電設備を設置した場合の経済性を試算している。

試算条件
4kW設置の初期費用:98万円
現行の補助制度:10万円/kW
売電単価:17円/kWh(FIT制度10年間)、8.5円/kWh(11~30年)税込
電気料金:33円/kWh(2022年5月実績)税抜

 一般に太陽光パネルの寿命は20~30年といわれており、30年間で119万円(補助金ありでは159万円)のメリット、20年間で45万円(補助金ありでは85万円)のメリットが得られる試算結果である。また、初期費用98万円の回収期間は10年間(補助金ありでは6年)程度である。

 一方、東京電力グループが提供しているサービス「エネカリ/エネカリプラス」では、初期費用ゼロ円で自宅に太陽光発電を導入できるプランを提供している。

住宅用蓄電設備の導入

 一方、住宅用蓄電設備を設置した場合の経済性についても試算が行われている。

試算条件
蓄電池設置の初期費用:平均13.7万円/kWh
平均的な住宅用蓄電池容量:7~8kWh
設置工事費:約35万円
現行の補助金:3.7万円/kWh(国のDER補助金)+10万円/kWh(東京都、最大80万円)

 一般的な容量(7~8kWh)の住宅用蓄電設備を設置するには、130~140万円が必要となる。国と自治体からの補助金は96~110万円であるから、実質30~34万円の初期費用が必要となる。ただし、補助金には予算枠や付帯条件などがあり、十分な事前検討が必要である。

住宅用太陽光発電+蓄電設備の場合

 上記から、住宅用太陽光発電+蓄電設備の導入では、30年間で85~89万円(補助金ありでは125~129万円)のメリット、20年間で11~15万円(補助金ありでは51~55万円)のメリットが得られる。

 太陽光発電設備の単独導入に比べて蓄電装置の導入分だけ経済的メリットが減少するが、一方で、電気代が安くなる可能性があり、夜間・災害時に電気が使えるなどのメリットが出てくる

住宅用太陽光発電+蓄電設備の導入メリット

 蓄電設備を導入すれば、太陽光発電した電力を貯めて何時でも自家消費することが可能になる。固定価格買取(FIT)制度の買取価格は2022年度は17円/kWh(税込)に対し、2022年5月の実績電気料金は33円/kWh(税抜)であり、売電するよりも自家消費の方が電気代が安くなる可能性がある。

 さらに、固定価格買取(FIT)制度の買取価格は毎年下がる傾向にあり、一方、最近では燃料費の高騰により電気料金は上昇傾向にあるため、ますます差額は広がる傾向にある

 一方、災害などで停電した時のために、太陽光発電には売電しない「自立運転」モードがある。しかし、太陽光発電は太陽が出ている時しか発電できない。住宅用太陽光発電+蓄電設備の「自立運転」モードでは、夜間・災害時にも電気が使え、電気が余った時にも蓄電設備が活用できる。

BEV/PHEVを蓄電池として使う場合のメリット

 BEV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)を住宅につなぎ、停車中に蓄電池として活用する方法もある。これはV2H(Vehicle to Home)システムと呼ばれる。安価な夜間電力でEV/PHEVに充電し、その電気を昼間に家庭で利用すれば電気代の節約が可能である。

 太陽光発電を設置している場合は、その余剰電力をEV/PHEVに充電し、夜間に家庭へ給電することも可能である。一般にEVやPHEVの蓄電池は大容量であるため、災害などの停電時には非常用電源として数日間の対応も可である。

 多くのV2Hシステムでは、一般的な200V充電用コンセント(3kW)に対し、最大2倍(6kW)の速度で充電できる倍速充電機能を有するため、BEV/PHEVの充電時間を短縮することが可能である。

図2 BEV/PHEVの電力を手軽に賢く使うV2Hのデモンストレーション

試算条件
V2H機器の初期費用:約50~100万円
設置工事費:約30~40万円
現行の補助金:(国のCEV補助金)機器購入費の1/2(上限75万円)、工事費上限40万円
       (地方自治体の補助金)併用できる場合とできない場合がある。

 設置するV2Hシステムにより異なるが、機器の本体価格は約50万円~100万円で、30〜40万円の工事費が加算され、初期費用として80~140万円が必要である。国の補助金は1/2、工事費上限40万円が獲得できると、実質25~50万円の初期費用が必要となる。地方自治体分が併用できれば、さらに減額。

 また、東京電力グループが提供しているサービス「エネカリ/エネカリプラス」では、工事費を含む初期費用ゼロ円で自宅にV2Hシステムを導入できるプランも提供している。

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