政府方針の「2050年カーボンニュートラルの実現」を受け、「ゼロカーボンシティ宣言」を行う自治体が、相次いで太陽光発電”設置義務化”を表明している。今後、他の自治体からも再エネ利用促進の実施目標が発信されるが、太陽光発電の設置、断熱・省エネなどが取り上げられるであろう。
東京都は太陽光発電”設置義務化”の新制度の対象を中小新築建物、設置義務者は住宅を注文する個人(施主)ではなく建物供給事業者であるとし、2030年度に200万kW以上を目指して太陽光発電の設置義務化を推進する。東京電力の電力需要ひっ迫の一助となるが、問題もある。
改正地球温暖化対策推進法(改正温対法)
2022年4月、地球温暖化対策推進法の一部改正法である「改正地球温暖化対策推進法」(改正温対法)が施行された。改正温対法の主なポイントは次の3点であり、太陽光発電”設置義務化”は(2)に該当する。
(1)「2050年カーボンニュートラルの実現」を基本理念として法律に明記
条文には「我が国における2050年までの脱炭素社会の実現を旨として、国民・国・地方公共団体・事業者・民間の団体等の密接な連携の下に行われなければならないものとする」と記された。
(2)地方公共団体実行計画に再エネ利用促進などの実施目標を設定
従来法でも、地方公共団体に再エネ利用促進などを求める実行計画制度を定めていたが、実施目標の設定は定められていない。今回の改正では、都道府県・政令市・中核市の実行計画に、実施目標の追加を定め、再エネ利用促進などの実効性向上を図る。
(3)企業の温室効果ガス排出量情報のオープンデータ化
改正温対法では、企業の温室効果ガス排出量報告を原則デジタル化し、排出量情報の公表に要する時間短縮を図り、手続き不要で閲覧可能とし、企業の脱炭素化の取り組みを透明性高く可視化する。
ゼロカーボンシティ宣言を行う多くの自治体
改正温対法を受けて、環境省では「ゼロカーボンシティ実現に向けた地域の気候変動対策基盤整備事業」により、ゼロカーボンシティ宣言を行う自治体を支援することになっている。
2023年2月末時点で、2050年 二酸化炭素(CO2)排出の実質ゼロを表明している 自治体は、東京都・京都市・横浜市を始めとする871自治体(45都道府県、510市、21特別区、252町、43村)にのぼり、表明している自治体の総人口は約1億2,455万人に達する。
■京都府・市は、2050年までに「温室効果ガス排出量実質ゼロ」の実現を目指し、中期目標として2030年までに温室効果ガス排出量を2013年度と比べ46%以上削減を掲げている。
2020年12月、「京都府再生可能エネルギーの導入等の促進に関する条例」により、延べ床面積2000m2以上の建物を対象に、太陽光発電などの再エネ設備の設置を義務化した。2021年4月からは、延べ床面積300m2以上の建物を対象にすると義務化を拡大した。
■群馬県は、2050 年に向けた『ぐんま5つのゼロ宣言』実現条例の規定に基づき、2022年6月に「群馬県地球温暖化対策指針(排出量削減計画・再生可能エネルギー導入編)」を公表した。これにより、延べ床面積2000m2以上の建物に太陽光発電などの再エネ設備の設置を義務付けた。
■東京都は、エネルギーの大消費地の責務として、「2050年ゼロエミッション東京」の実現に向け、「2030年カーボンハーフ」(2000年比で温室効果ガス排出量50%削減、エネルギー消費量50%削減、再エネ電力使用割合50%程度)を表明している。
都内CO2排出量の7割超が建物でのエネルギー使用に起因する。都は「環境確保条例」を改正し、新築建物の年間着工棟数の98%を占める中小規模建築物を対象に「建築物環境報告書制度」を新設した。代表的な施策が、2025年4月からの太陽光発電の設置義務化である。(詳細は後記)
■川崎市議会は、2030年度末までにCO2排出量を2013年度比で50%削減する目標を掲げ、条例の改正により家庭からの排出量抑制を進めるため、2025年4月から戸建て住宅を含む新築建物への太陽光発電設置義務化を始める。
延べ床面積2000m2未満の新築建築物の場合、住宅メーカーなどの事業者、延べ床面積2000m2以上の新築・増築建築物はデベロッパーなどの建築主に設置義務を課す。戸建ての場合、日当たりの悪い住宅や設置が難しい狭小住宅については除外するなど全戸を対象とはしない。
政府方針の「2050年カーボンニュートラルの実現」を受け、ゼロカーボンシティ宣言を行う自治体が、相次いで太陽光発電”設置義務化”を表明している。今後、他の自治体からも再エネ利用促進の実施目標が発信されるが、太陽光発電の設置、断熱・省エネなどが同様に取り上げられるであろう。
東京都の太陽光発電”設置義務化”とは?
2025年4月から始まる東京都の太陽光発電”設置義務化”について、もう少し詳しく見てみよう。
新制度「建築物環境報告書制度」の対象
中小規模建築物とは延床面積が2000m2未満のビルや住宅(マンション・戸建)で、都内の年間着工棟数の 98%(約49,000棟)を占めている。新築が対象で、既存住宅等の増築や大規模修繕・リフォームは対象外、2000m2以上の大規模建築物は、既に「建築物環境計画書制度」で義務化済みである。
太陽光発電の設置義務対象者
太陽光発電の設置義務者は、住宅を注文する個人(施主)ではなく、都内において年間に延床面積の合計で2万m2以上供給する建物供給事業者が義務対象者(特定供給事業者)である。約50社が該当し、年間新築棟数のうち約53%をカバーする。知事から承認を受けた事業者も制度に参加できる。
新制度の「建築物環境報告書制度」は2025年4月に施行される予定で、2022年12月の都条例改正から2年程度の周知期間が設けられる。制度対象事業者に対して、1年間で供給する住宅等について一定量以上の再エネ設備の設置が求められる。
事業者、施主・購入者に求められること
再エネ設備とは、太陽光発電だけでなく、太陽熱利用や地中熱利用も含まれる。特定供給事業者は、施主・購入者に対して環境性能について説明する義務があり、施主・購入者は特定供給事業者からの説明を聞き、建物の環境配慮について理解して必要に応じて措置を講じ、環境への負担軽減に努める。
ZEV充電設備の整備基準を新設
東京都は2030年までに乗用車の新車販売台数に占めるゼロエミッション車(ZEV)比率50%の目標を設定しており、普及を後押ししている。(ZEV:電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、燃料電池自動車(FCEV))
新制度の「建築物環境報告書制度」では、ZEVの充電設備の整備基準も導入した。戸建住宅については、充電設備の設置は任意であるが、充電設備用配管等の整備を義務化する。ZEV充電設備の整備や断熱・省エネ性能設備の整備についても、義務化の対象は特定供給事業者である。
一般家庭でBEV/PHEVを導入する場合、太陽光発電とBEV/PHEVの大容量蓄電池を組み合わせることで多くのメリットが生じる。そのための布石である。
ところで問題は無いのか?
以上のように、東京都は太陽光発電”設置義務化”の新制度の対象を中小新築建物とし、設置義務者は住宅を注文する個人(施主)ではなく建物供給事業者とし、2030年度に太陽光発電200万kW以上を目指している。このトレンドは他の自治体にも波及し、一般家庭でも太陽光発電は拡大するであろう。
温暖化対策などの大義名分は良しとして、東京電力の電力需要ひっ迫の一助にはなる。しかし、何の対策も施さずに太陽光発電”設置義務化”の新制度を進めて良いものであろうか?また、ZEVの充電設備の整備基準を導入するメリットは?さらに問題点を深堀りしてみる必要がある。
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