再エネ出力制御の問題(Ⅴ)

再エネ

 2023年2月、蓄電池に注目した蓄電設備の導入は、高コストのために短期間での増設は困難であることに気付いた政府は、既存の揚水発電所活用への支援策を打ち出している。しかし、具体的な動きは未だ報告されていない。今後の揚水発電所の更新や新設に期待したい。

 一方、高効率で短期周波数の調整に優れた可変速揚水発電機が注目されているが、全揚水発電所の17%程度に過ぎない。早急に既設の定速揚水発電機を可変速揚水発電に改修して設備稼働率を上げ、真の再生可能エネルギー拡大を目指す必要がある。

揚水発電所の稼働状況

揚水発電とは?

 一般に揚水発電には、回転方向を変えることでポンプにも水車にも使えるポンプ水車が採用される。
 原理は、導水路の下部調整池側に水力発電所(ポンプ水車)を配置し、必要な時に上部調整池から下部調整池に水を流下させてポンプ水車で発電する。余剰電力が生じた時に、下部調整池から上部調整池にポンプ水車を逆回転させて水をくみ上げる(揚水を行う)。

図7 必要な時(昼)に下部調整池に水を流して発電する揚水発電所 
(出典:電気事業連合会)

 1970年代以降に原子力発電所が増加すると、出力変動運転の苦手な原子力発電所の夜間の余剰電力を貯蔵する目的で、電力系統に連系して一定の回転速度で運転する定速揚水発電機の設置が進められた。

 2011年の東日本大震災以降、再生可能エネルギーの固定価格買取 (FIT) 制度の導入で、出力変動の顕著な太陽光・風力発電が急増したために、その対策として揚水発電の利用が増加している。特に、昼間に太陽光発電の電力を利用して揚水を行い、夜(点灯帯)に発電する機会が急増している。
 また、揚水発電は起動停止に要する時間が数分と短いため、他の発電所や送電線の事故や不測の事態により電力需要ひっ迫が生じた場合に、緊急に発電することも重要な役目である。 

低い設備稼働率

 資源エネルギー庁によれば国内には44カ所の揚水発電所があり、総計で最大出力: 2755.75万kWである。2022年3月時点での国内の主な電力会社が保有する揚水発電所の最大出力、発電量、設備稼働率を図8に示す。【設備稼働率(%)=発電量(kWh)/最大出力(kW)/8760(h) 

 休止中を除く揚水発電所は総最大出力:約2300万kWで、東京電力HDを筆頭に関西電力、中部電力、九州電力の順に最大出力が大きい。しかし、設備稼働率は最も高い九州電力でも7.5%で、東京電力は6.4%、関西電力は2.9%、中部電力は3.7%、東北電力は2.6%と低い。

 揚水発電の設備稼働率は低く、明らかに有効利用が行われているとは言い難い。この理由の一つに揚水発電のサイクル効率(50~80%)があげられる。蓄電池充放電のサイクル効率(75~90%)に比べると、揚水時のエネルギーロスが20~50%と大きいのである。

 今後の揚水発電の増設については、2023年以降に北海道電力の京極発電所20万kW、東京電力の葛野川発電所40万kW、神流川発電所188万kWが予定されている。しかし、真の再エネ導入拡大を目指すのであれば、さらなる揚水発電の増設も望まれるが、維持・更新と設備稼働率向上が現実解であろう。 

図8 電力会社の揚水発電の最大出力、発電量、設備稼働率の比較(2022年3月)
出典:資源エネルギー庁の電力調査統計表

 図9には、2022年9月時点における主要電力会社の再エネ導入量(太陽光+風力導入量、自社発電分と管轄地域の発電分を含む)と再エネ出力制御の長期見通しの算定に用いられた各電力会社が示す評価出力(揚水発電+蓄電池+連系線活用)、ならびに出力比(評価出力/再エネ導入量)を示す。

 再エネ導入量東京電力(内太陽光発電は98%)がトップで、続いて九州電力(95%)、中部電力(97%)、東北電力(80%)、関西電力(98%)、中国電力(95%)の順であり、国内の総再エネ導入量(最大出力:7266kW)の内、太陽光発電は93%を占めている

 評価出力は、揚水発電は補修作業・計画外停止による1台停止を考慮した出力、蓄電設備の出力(導入は北海道1.5万kW、東北4万kW、九州5万kW)、連系線活用の出力(北海道58万kW、東北162.3万kW、北陸115万kW、中国150万kW、四国180万kW、九州124.4万kW)の合計である。

 出力比(評価出力/再エネ導入量)が高いほど、再エネの出力変動を吸収できるレベルが高い。図9から、再エネ出力制御対策が進む北海道電力、東京電力、北陸電力、関西電力、四国電力に比べて東北電力、中部電力、九州電力、沖縄電力は対策遅れが見える。

図9 電力会社の変動再エネ導入量と安定供給可能な電源出力の比較(2022年9月) 
出典:資源エネルギー庁

再エネ用の揚水発電所は?

進まない揚水発電所の維持・更新

 2023年1月、九州電力は再生可能エネルギーを有効活用するため、揚水発電所を新設する方針を固めたと報じられた。投資額は数千億円規模で、2023年から宮崎・大分を中心に候補地を選定し、10年以内の運転開始を目指す内容であった。しかし、九州電力は正式決定には至っていないと表明した。

 2023年2月、経済産業省は揚水発電所の維持や更新を支援すると公表したが、その後、電力会社などの具体的な動きは報告されていない。今後の揚水発電所の更新や新設に期待したい。

定速揚水発電機と可変速揚水発電機

 ところで、原子力発電所の夜間電力貯蔵に比べて、出力変動の顕著な太陽光発電所や風力発電所の電力貯蔵では、同じ電力貯蔵であっても状況は大きく異なる
 すなわち、九州電力では太陽光発電の大量導入により、周波数が短期で大きく乱れる現が多発している。四国・中国・東北・北海道電力でも同様な状況にあり、発電時のみ周波数調整が可能な定速揚水発電機では十分な対応が困難で、各電力会社は火力発電所の待機運転で対応している。

 そのため、短期周波数の調整に優れた可変速揚水発電機が注目されている。
 定速揚水発電機では、発電運転時には電力系統への出力を定格出力の数十%まで調整することができるが、揚水運転時には電力系統から発電電動機への入力を調整することができない。可変速揚水発電機では、発電運転時だけでなく揚水運転時でも自動周波数制御装置により周波数調整ができる。

 しかし、国内の可変速揚水発電所は総最大出力:392万kW(停止中を除く)で、全揚水発電所の17%程度に過ぎない。各電力会社の保有量と保有率は、北海道(60万kW、75%)、東京(70万kW、9%)、関西(112万kW、23%)、九州(120万kW、52%)、電源開発(30万kW、6%)である。
 その他の電力会社は、可変速揚水発電所を保有していない。 

図10 従来型揚水発電システムと1990年に実用化された可変速揚水発電システム 
出典:東芝技術資料

可変速揚水発電所への改修

 現在、揚水発電には太陽光発電や風力発電の「出力変動の吸収」に加えて「短期周波数の調整機能」が求められている。これらが実現できれば「再エネ出力制御を抑制」し、「火力発電所の待機運転停止することが可能となる。

 可変速揚水発電は、系統安定化に大きな役割を果たす。実際に、可変速揚水発電の保有率の高い北海道電力(保有率:75%)と九州電力(保有率:52%)に比べて、保有しない東北電力、中部電力、中国電力と関西電力(保有率:23%)の設備稼働率は低いことが、図8からも明らかである。

 今後、原子力発電の再稼働に向けて温存している定速揚水発電を、早い段階で電力系統の瞬間的な電力調整も可能で高効率な可変速揚水発電に改修して設備稼働率を上げ、真の再生可能エネルギー拡大を目指す必要がある。

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