再エネ出力制御の問題(Ⅱ)

再エネ

 九州電力は事前に再エネ出力制御が起きることを十分に予測していたのである。そのため、九州電力は再生可能エネルギー発電事業者の多くと、出力制御をしても補償しないという電力会社に有利な条件の契約を交わし、他の大手電力会社もこれに追随した。
 しかし、再エネ出力制御を抑制するための抜本的な対策を施さずに、短期的な優先供給ルールの設定で満足したため、再エネ出力制御の常態化再生可能エネルギー導入の頭打ちを招いた。

事前に予測された再エネ出力制御

 少し、過去を振り返ってみよう。

環境エネルギー政策研究所による報告

 2018年10月13日、離島を除いて国内で初めて、九州電力が太陽光発電事業者の発電所を一時停止させる出力制御を広域で実施したが、九州電力は事前に再エネ出力制御が起きることを予測できた。

 2018年5月3日、環境エネルギー政策研究所から深刻な事態として報告が出されていた。
 すなわち、九州電力でピーク時(12時台)に太陽光発電が全電力需要の81.3%に達し、再エネ全体の比率では最大96%に達した。また、四国電力ではピーク時(10~12時)に太陽光発電が全電力需要の72.9%に達し、再エネ全体の比率では最大101.8%と100%超えを記録した。

 そのため、九州電力は再エネ発電事業者の多くと、出力制御の契約を交わしている。すなわち、再エネ出力が対処可能な範囲を超えると九州電力が判断した場合は、年間で最大30日は電力を系統へ接続しない再エネ出力制御をしても補償しないという電力会社に有利な条件である。

 同様の問題は、再エネ導入に積極的なドイツ、スペイン、英国など欧州でも抱えおり、実際に出力制御を経験している。対策として、欧州では広範囲の国・地域間での電力融通が実施されているが、併せて電力貯蔵システムの開発による安定化が検討されている。

さらに、過去を振り返ってみよう。

太陽光バブルによる受入中断

 2014年9月24日、九州電力が一般住宅用(出力:10kW未満)の太陽光発電を除く再エネの系統への接続申込の回答を保留すると発表した。これに同調して北海道電力、東北電力、四国電力、沖縄電力も、再エネの受入を一時中断した。

 固定価格買取制度(FIT)により、非住宅用太陽光発電の買取価格が異常に高く設定されたために、「太陽光バブル」が生じた時である。季節と天候により発電量が左右される不安定な太陽光発電の申し込み容量が急増し、系統接続して安定送電することが困難と各電力会社が明確に認識した。

 その後、非住宅用太陽光発電の発電量を制限する制度の拡大や、太陽光発電の買取価格低減などが進められ、各電力会社は受入再開を表明した。九州電力が実際に再エネ出力制御を実施する約4年前のことである。再エネ出力制御は事前に予測されていたのもに関わらず、対策が遅れたといえる。

優先給電ルールとは?

 電力の需給バランスを保ち広域で停電が起きるのを回避するため、発電量が需要量を上回る場合には、発電量を調整する必要がある。どういう順番や考え方で発電量と需要量を一致させていくのかを決めているのが、資源エネルギー庁による「優先給電ルール」である。

 このルールに基づく出力制御の順番は電源特性に合わせて決められ、①火力の出力制御、揚水の活用(余った電気を利用した水のくみ上げ)→②連系線を使った他地域への送電→③バイオマスの出力制御→④太陽光・風力の制御→⑤水力・原子力・地熱の出力制御の順が指定されている。

 現状、太陽光・風力など不安定な電源対策は、①火力の出力制御、揚水の活用により実施している。本来は揚水発電と連系線利用で対応できれば問題ないが設備容量が足りないとして、安価なLNG火力(発電単価:13.7円/kWh)を使い、効率の悪い出力調整運転で対応している。

 出力制御の順番については、発電コストの高い③バイオマス専焼29.7円/kWh、④太陽光24.3円/kWh、陸上風力21.9円/kWhの順に停止し、安価な⑤一般水力11円/kWh、原子力10.1円/kWh、地熱19.2円/kWhは温存して、電気料金の上昇を抑えている。(2014年時点の発電コスト参照)

 資源エネルギー庁では再エネ出力制御はやむを得ない場合の対策ではなく、再エネ導入に役立つ対応であるとして次の表記を示すが、長期的には再エネ導入の壁となることを認識する必要がある

 この出力制御のルールは、再エネを導入する際のルールとして位置づけられ、発電事業者にもあらかじめ知らされています。しかし裏を返せば、自然条件によって発電量が変動するという難しさのある太陽光・風力発電でも、万が一発電しすぎた場合には出力制御をおこなうことができるという安全弁があるおかげで、安心して電力網への接続量を増やすことができるのです。接続量が増加した結果、再エネの発電量は、たとえ出力制御がおこなわれる時間帯が生じたとしても、1年を通した全体としてみれば、増加することになります。つまり、出力制御は、再エネ導入に役立つ対応なのです。

2018-09-07 資源エネルギー庁
再エネの発電量を抑える「出力制御」、より多くの再エネを導入するために

エネルギー貯蔵と系統連系の必要性

 第6次エネルギー基本計画で掲げた2030年度の電源構成では、再生可能エネルギー比率36~38%を目標とし、そのうち太陽光と風力の合計である変動性再生可能エネルギー(VRE:Variable Renewable Energy)比率だけで19~21%を計画している。

 国際エネルギー機関(IEA)では、電源構成のVRE比率が20%を超えると系統運用が不安定になり、大規模なエネルギー貯蔵設備が必要になると分析している。
 日本のVRE比率は2021年時点で平均9.5%であるが、地域によっては高い値を示している。そのため、再エネ出力抑制により太陽光・風力の投資収益性が下がり、普及の阻害要因となっている。揚水発電のような大規模な電力貯蔵システムや連系線を使った他地域への送電が必須である。

 図3には、各電力会社の太陽光+風力導入量利用可能とする揚水発電+連系線利用量、その出力比を示す。出力比は1.0に近いほど、太陽光・風力発電の電力を揚水発電や連系線利用により対応できるため再エネ出力制御は起きにくい。しかし、そのためには設備投資が膨大となる。

 東京電力は太陽光+風力導入量がダントツに多いが、揚水発電もダントツに多いため、出力比は0.6と高い。北海道電力と四国電力は連系線利用も期待できるため、出力比は0.61と0.59と高い。
 一方、東北電力は揚水発電が少なく、連系線利用を含めても出力比は0.22に留まる。九州電力は太陽光+風力導入量が多く、揚水発電と連系線利用を含めても出力比は0.29に留まる。中部電力も太陽光+風力導入量が多く、揚水発電のみの対応で出力比は0.34に留まる。出力比の地域差は極めて大きい。

図3 電力会社の変動再エネ導入量と揚水発電(連系線活用を含む)の出力比較(2022年9月) 
出典:資源エネルギー庁

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