再エネ出力制御の問題(Ⅰ)

再エネ

 電力は需要と供給のバランスがとれないと周波数が乱れ、大規模停電につながる恐れがある。再生可能エネルギーの供給量が増えると、電力会社は火力発電の出力抑制などの対応をとるが、それでも十分に対応できない場合は、太陽光や風力による電源を送配電網から遮断(買い取らない)する。

 再エネ出力制御は、2018年に九州電力管内で離島以外では初めて行われた。その後、北海道、東北、中国、四国、沖縄電力管内でも実施された。2023年2月、東京電力は再生可能エネルギーで発電した電気の受け入れを一時停止する出力制御の検討を進め、政府はこれを了承した。

東京電力の再エネ出力制御の発表

 2022年、6月にしては異例の暑さ(異常気象)となり電力需要が増大した結果、政府は東京エリアへの「電力需給ひっ迫注意報」を6月26日発令したことは記憶に新しい。
 その後、6月30日に注意報は解除された。政府は需要面では家庭や企業から幅広く節電協力が得られたことに加え、供給面では太陽光発電の発電量が増えたこと揚水発電の活用他電力各社からの融通、さらに運転を停止していた千葉県の火力発電所が再稼働したことなどをあげている。

 ところが、2023年2月、東京電力HDは太陽光や風力など再エネで発電した電気の受け入れを一時停止する「再エネ出力制御」を行うと報じられた。企業向けの電力需要が減る5月の大型連休中に実施する可能性があり、経済産業省の有識者会議に報告されて具体的な実施方法などの協議が行われた。

 この再エネ出力制御とは太陽光や風力による電源を送配電網から遮断することであり、電力会社は再生可能エネルギー発電事業者から買電しないことを意味している。したがって、発電事業者は自家消費できる分以外の再生可能エネルギーを捨てることになる。

 出力制御は電力会社が発電事業者に依頼して実施する。東京電力は輪番制のルールに従い、2023年度は設備規模が大きい太陽光発電事業者から出力制御を依頼し、2024年度以降は、それ以外の事業者から出力制御を依頼する方針で、経済産業省の有識者会議で了承された。

 2022年6月に東京エリアで電力供給が足らないために「電力ひっ迫注意報」が出されたのに、なぜ2023年5月には再エネ出力制御(送配電網から遮断)を行う可能性があるのか?いったい何が起きているのかを考えてみよう。

常態化する再エネ出力制御

 資源エネルギー庁の系統ワーキンググループ(WG)では、再生可能エネルギー発電事業者他に向けて、再エネ出力制御の長期見通しに関する送配電事業者による試算結果を公表してきた。

 再エネ出力制御は、2018年に九州電力管内で離島以外では初めて行われた。その後、北海道、東北、中国、四国、沖縄電力管内でも実施された。(再エネ出力制御率[%]=変動再エネ出力制御量[kWh]÷(変動再エネ出力制御量[kWh]+変動再エネ発電量[kWh])×100

 2022年には、北海道(実施5日間、出力制御率:0.03%)、東北(15日間、0.36%)、中国(12日間、0.16%)、四国(12日間、0.58%)、九州(68日、3%)、沖縄エリア(3日、0.3%)で出力制御が行われた。いずれも太陽光・風力発電の導入が進むエリアで、出力制御が常態化している。

 2023年3月、資源エネルギー庁は再エネ出力制御の長期見通しで、2031年度時点の再エネ導入量を想定した出力制御の試算結果を公表した。一定の前提条件に基づく試算であるが、北海道(出力制御率:53.6%)、東北(54.2%)、中国(25.5%)、九州(26%)で高い値が見込まれている。
 また、東京(3.4%)、中部(2.8%)、北陸(4.2%)、関西(3.8%)、四国(2.8%)、沖縄(0.87%)と低い値ではあるが、国内全域で出力制御が起きるとしている。

九州電力の再エネ出力制御

 2018年10月13日に起きた九州電力の再エネ出力制御の状況について詳しく見てみよう。当日の再エネ出力制御は、九州全体で約24000件の太陽光発電契約のうち、熊本を除く6県の9759件(出力計:43万kW)が対象となった。

 具体的には、週末でオフィスや工場などの電力需要が828万kWに減る見込みの中で、好天のために太陽光発電による電力量が1293万kWに達した。196万kWを中国電力などに送電し、226万kWを揚水発電や蓄電池で貯蔵したが、43万kWが余剰となった。
 そのため、需給バランスが崩れて大規模停電につながる可能性が高いと判断し、九州電力は出力制御を決定したのである。また、同様の状況が起きる可能性が高いとして中国電力、東北電力、沖縄電力も出力制御の準備を進めた。

図1 九州電力が公表した10月13日土曜日の需給見通し(出所:九州電力)

 再生可能エネルギーの導入に際して出力変動が問題となることは、2012年7月の固定価格買取制度(FIT)の開始以前から周知のことである。エネルギー貯蔵システム(揚水発電や蓄電池など)により制御して電力系統へ流す電力量を調整することで、余剰電力を無駄なく使うことが出来る。
 しかし、このエネルギー貯蔵システムの実用化には設備の立地制約があり、安全性確保に多額の投資が必要で、設置には長期間を必要とする。政府と電力会社は、この対策を先送りしてFITで再生可能エネルギーの導入を推進した結果、再エネ出力制御に至ったのである。

図2 再エネ出力制御における優先給電ルールに基づく対応 
出典:資源エネルギー庁

 今回、九州電力は需給バランスを保つために、図2に示す国の優先給電ルールに基づいて出力制御を実施し、④太陽光・風力発電の一時停止に至ったことを報告している。

政府の再エネ出力制御の抑制対策

 その後、経済産業省は再エネ出力制御を減らす対策案として、以下の①~④を示している。

①本州と九州をつなぐ関門連系線の送電量を、計画通りに2018度末までに再生可能エネルギーの送電量を現行の105万kWから135万kWに増設する。
②出力制限を要請する前に、バイオマスや火力発電所の発電量(一部の事業者ではこの水準が80~55%にとどまる)を50%まで下げることを要請する。
③再生可能エネルギーの発電事業者に手動制御(前日の16時に制御量を決定)から自動制御(2時間前の決定)の切替えを促し、予測に応じて柔軟に調整する。
④出力制御で発生した損失は事後に調整し、中小規模の事業者間で損失が均等になるようにする。

 以上の対策と称する内容は、再エネ出力制御を問題であると認識し、積極的に減らすものとは思えない。すなわち、①は既に予算決定済み、②は何故、今回は出来なかったのか?、③は大規模事業者は既に導入済み、④は出力制御有りきの対応で対策にはなっていない。

 太陽光・風力発電の導入を加速し、出力制御を減らすためには、発電事業者に補償金を支払うなどの基本的な対策が必要で、何よりも、エネルギー貯蔵システムの導入加速の取り組みが必須である。対策が不十分のため、九州エリアの再エネ導入は頭打ちとなり、出力制御率も改善されていない。

図3 九州エリアにおける再エネ出力制御の実施状況(2023年3月時点)出典:資源エネルギー庁

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